『ポケットに冒険をつめこんで』『量産型リコ-もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』『こむぎの満腹記』ーー。2023年に放映され、話題となったこれらのドラマを生み出したのは、企画プロデューサー・脚本家・クリエイティブディレクターである畑中翔太さんです。
つい誰かと共有したくなる、心が弾むような作品を世に出し続ける畑中翔太さんに、若者ならではの企画を立てるメリットや、周囲を巻き込む力を持ったクオリティーの高いアイデアを創出する方法についてお聞きしました。
若者ならではの“特権”はお客様目線で企画を考えられること
―――はじめに、若者が企画を立てるメリットを教えてください。
学生や社会人になってから年数の浅い若者は、まだまだ「お客さん側の視点」をもっているところにメリットがあると思います。
社会人経験を積み上げてくると、どうしても「作り手側の目線」でしか物事をとらえられなくなってくるんですよね。消費者の気持ちを理解しながら、プロの立場で企画を打ち出せることは、若者がもつ唯一の特権です。
実際に私も、プロの集まる現場で、若者が「リアルな意見」を言ってくれることを望んでいます。企画を仕掛ける側だけで盛り上がっているときに「別にそこまで求めていない」と、ハッとするようなことを言われると嬉しくなります。
若者であるいまこそ、先輩や上司とは違った視点でアイデアを出すチャンスととらえてみてください。
―――人生経験の少ない若者が企画を考えるときは、どのようにするべきなのでしょうか?
まだ企画を仕掛ける側に回った経験がなく、アイデアを湧かせるヒントも少ないという人は、流行っているものに対して疑問をもってみることをおすすめします。
具体的には、ただ面白いだけで終わらず「なぜ流行っているのか?」を自分なりに考えてみることが大切です。トレンドに対して疑問をもち続け、面白さの共通性を見いだせれば、新しいアイデアが浮かんできます。
ほかにも、自分が「なぜこのSNSの書き込みを拡散したいと思ったのか」など、つい行動してしまった理由を分析できると、経験などに関係なく、人を動かせる企画が思い付くかもしれません。
ポケットモンスターを題材にしたドラマ『ポケットに冒険をつめこんで』も、「ポケモンのゲームってなんでこんなに楽しいんだっけ?」と考えて企画を作りました。
ゲームに夢中だった自分の子ども時代を思い返してみると、ポケモンは周りの存在があってはじめて成立していることに気付いたんです。みんなでわざわざ集まってプレイしたり、育てたモンスターを見せ合ったりすることに、ポケモンの本質を感じたんですよね。
実際のドラマでは、ポケモンを通して人がつながり、登場人物が成長や進化をとげていくストーリーを描くことに成功しました。
流行っているものや自分が興味をもったものには、若者がいますぐ吸収できる企画のヒントがあふれているといえますね。
クオリティーの高い企画を出すときに突破するべき2つの壁
―――若者が企画を出すときに、意識しておいた方がいいことはありますか?
とにかく企画を出し続けることですね。与えられた仕事をこなしているだけでは、自主的にアイデアを生み出せない体質になってしまうかもしれません。
企画は、数をこなすたびに自分の引き出しが増えるため、若いうちから面白いことを探し続けることが大切です。企画を出し続ければ、新しい発想にいきなり挑戦するベテランよりも、質の高いアイデアを素早く生み出せる人材になれると思います。
―――企画を出すにあたり、注意しなければならないことがあれば教えてください
先ほど企画は数をこなすことが大切と言いましたが、ただアイデアを出せばいいわけではありません。提案先であるチームや上司の時間を奪わないためにも、企画を絞ってから出すことが求められます。
洗練された企画を出したいときは、自分の頭の中にある“2枚の壁”を突破したアイデアだけを提出する方法が有効です。
1枚目の壁では、とにかく自分が面白いと感じた企画をどんどん通してください。2枚目の壁で、1枚目で通した企画をドライにみて、本当に出すべきかを判断します。
自分の考えた企画は面白く感じますし、通したい気持ちが強くなっている状態なので、2枚目の壁で冷静に対処しましょう。「世間的には面白くない」「これでは周りが動かない」などの思考を経て、なお魅力的だと感じたものを企画として出すようにしてみてください。
2枚の壁は、鍛えれば高速で頭のなかを巡ってくれます。私もいまでは、相談されたその場でアイデアの良し悪しを判断し、質の高い企画を出せるようになりました。
企画によって通り過ぎていく景色の見え方が変わる
―――企画を考えるときに、畑中さんが大切にしていることを教えてください。
企画を考えるときには「人の気持ちや行動を変える」アイデアかどうかを大切にしています。
企画の面白いところは、見せ方ひとつで物事の印象を変えられるところです。私が企画した『絶メシ(絶滅してしまうかもしれない絶品メシ)』も、ちょっと入りづらい歴史ある地元の飲食店の魅力はそのままに、「この先なくなってしまうかもしれない」という希少性をメッセージにすることで、その見せ方の工夫をしただけなんですよね。
絶メシでは、地域に根づいたお店がなくなるとわかってから大切さに気付くのではなく、なくなってしまう前に足を運んでもらうような仕組みづくりに成功しました。
普段は通り過ぎてしまうようなものでも、見せ方によって人の気持ちや行動に変化を与えられるのは、企画ならではの醍醐味ですね。
後編では、若者がいますぐ企画を考えたくなるようなアドバイスや、実際にアイデアをチームや上司に納得してもらうためのコツをお聞きしています。
インタビュイープロフィール
畑中翔太
1984年生まれ。中央大学法学部卒業。
2008年博報堂入社後、博報堂ケトルに参加。2021年dea inc.を設立。
現在ではコンテンツスタジオ「BABEL LABEL」にも所属。
クリエーターオブザイヤー2018メダリスト、カンヌライオンズ審査員。
これまでに国内外にて200を超えるクリエイティブアワードを受賞。
最近では、静岡市「静岡市プラモデル化計画」Pairs「本命ならペアーズ」湖池屋「この男、ピュアにつき。」などのクリエイティブディレクションとともに、ドラマ『ポケットに冒険をつめこんで』『量産型リコ-もう1人のプラモ女子の人生組み立て記-』『こむぎの満腹記』など、多数のコンテンツの企画・プロデュース・脚本を務める。
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