循環型社会の樹立・社会課題の解決を目指し、大学を休学してまで起業した若者がいるーー。
こう聞いて、最初に浮かぶ感想はなんでしょうか。筆者は「意識高い(※)な……」でした。
※向上心を高く持ち、日々努力している気質があること
が、その張本人で、株式会社StockBase代表(神奈川県横浜市)の関芳実さん(24歳)は自身について、「謙遜しているわけじゃなく、本当に(意識が)低い学生だったんですよ」といいます。
そんな関さんが、なぜ起業家の道を進むことになったのか。
U-NOTE編集部は、株式会社StockBaseの取り組みも含めて、お話を聞きました。
大量の食品が捨てられている現状
災害が起きたときの緊急の食料として備えておく「災害備蓄食」。ただ、備蓄食の入れ替えに伴い、不要となったものが大量に廃棄されていることはご存じでしょうか。「食品ロス」や環境に悪影響を引き起こすことから問題視されています。
その状況を改善するため、株式会社StockBaseが立ち上げたのが“寄付先マッチングプラットフォーム”です。
これは、インターネットを通して、自社で不要となった災害備蓄食や売れ残り在庫、ノベルティーグッズを抱えている企業と、それらがほしいフードバンクや子ども食堂などといった食料支援団体をマッチングさせるというもの。
企業は賞味期限が近づいた備蓄品や余ったノベルティーを捨てずに効率的かつ低コストに入れ替えられるという一方、受け取り団体としても、要支援者に配る食料などを無料で手に入れることができ、両者にとってwin-winな仕組みとなっています。
StockBaseは、災害備蓄品を提供したい企業側から、同プラットフォームの利用料金とマッチング手数料を受け取ることで利益を得ているそうです。
きっかけはボランティア
この事業を関さんが思いつき、起業するきっかけとなったのは、大学の教授で誘われて参加することとなったボランティア。
そこでは、企業が営業用として配っているものの、余って使われることなく廃棄されてしまっているカレンダーを高齢者施設に配送する取り組みをしていました。
「企業で不要とされたものでも、社会で必要な人がいるかもしれない」。
ボランティア活動のなかで、そう感じた関さん。ちょうどビジネスモデルを競うコンテストへの出場がカリキュラムに入っている授業を受けており、ボランティアでの経験をもとにチームでアイデアを練り始めました。
ボランティアではカレンダーを配りましたが、それだと季節性が高く、ビジネスとしては不適。そのため、ほかに余っているものがないか企業へのヒアリングを始めます。
最初に話を聞きにいったのは、六本木ヒルズなどを手がける森ビル株式会社。そのヒアリングでStockBaseにつながるヒントを見つけました。
「六本木ヒルズは、災害時に港区民が逃げ込めることをコンセプトに立てている会社ビルなので、災害備蓄食を数多く置いていました。
(そこで、企業が)備蓄食の出口に困っていることに気づいたんです」。
企業で不要となってしまった災害備蓄食を支援団体に届けたら、ビジネスモデルとして成り立つのではないか。
関さんは友人とともにそのアイデアでコンテストに出場すると、見事入賞を果たしました。
就活→起業へ!
ただ、そこまでいっても学生時代の活動で終わってしまう人も多いもの。なぜ、そこで関さんは起業という道を選んだのでしょうか。
「1番は現場の声を聞いていたことがポイントかなと思っています。企業だけではなく、フードバンクなど食糧支援をしている人たちのところにも行っていたんですよ。
ちょうどコロナ禍(で経済的に厳しい状況)だったこともあって、SOSを出している支援希望者がたくさんいました。
同じ社会のなかで、たくさん食品があまっているのに、ちゃんと(必要な場所に)届いていないことへの矛盾を感じて。
『目の前にある課題を自分たちのサービスで解決したい、ほかにやっているところがないから自分たちでやりたい』と思ったのが(起業の)きっかけです」。
「社会に必要だ」と思っていた自身の考えが、コンテストで入賞したことで第三者からも社会的意義があると認めてもらったことも後押しになりました。
当時、大学3年生だった関さんは就職活動もしていたそうです。しかし、休学することで、もし失敗したとしても、卒業せずに就活などを再び行える道を残した状態で起業することを決めました。
キラキラしていたわけじゃない
SDGsへの貢献を目指して起業するとなると、“意識が高い人”と思われることもあります。
ただ、関さん自身は、かつてはSDGs(持続可能な開発目標)に関する知識もなく、
「『学生のときすごかったんでしょ、優秀だったんでしょ』と言われますけど違います。バイトやサークル(活動)をしている普通の大学生でした」
と断言。
「自分のいまの生きがいはStockBaseと感じたからやっているだけで。
やりたいことを考えたときに頭で考えても見つからなくて、心躍ることをするようにしています。『好きかも』とか『楽しい』と感じることをやる。
『やりたいことを見つけなきゃ』ではなくて、心の変化を繊細に感じ取っていきたいと思っています」
と話します。
そんな関さんが大学や高校の授業、起業したい人が集まるセミナーに呼ばれて自身の話をすると、
「自分でもできるのかなと思った」「起業を身近に感じました」
というコメントをもらうこともあるんだとか。
「『意識が高くなくても起業している人はいる』と話すことで、固定概念を崩しに行っているところもあります」
3月14日(木)公開の後編「「起業したい!」……でも何から始めれば良い? “普通の大学生"だった関芳実さんが70社と契約する企業を作り上げるまで【インタビュー後編】」では、起業を決めたものの、何から始めたらいいのかが分からなかった関さんが、いかにして、大企業と取引するほどの会社を作り上げたのか、その道筋を聞いていきます。
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