「文章が書けないという理由だけで、自分の夢をあきらめざるを得ない人がいる」
そう語ってくれたのは、ウェブ小論文塾代表として、日々小論文の添削・指導をおこなっている今道琢也さんです。
小論文試験は、公務員をはじめとして、マスコミや医療関係など多くの業界で実施されています。興味のある業界だったとしても、小論文という言葉を聞いただけで、試験から目をそむけたくなる人はいないでしょうか。
今回は、2018年の発売からいまも小論文対策本として人気を博しているという『落とされない小論文』の著者である今道琢也さんに、小論文試験を前向きにとらえる方法や、いますぐ実践可能な書くときのコツをお聞きしました。
小論文試験だけでしか測れない能力がある
―――はじめに、小論文試験をおこなう企業が、どのような意図で小論文を課しているのかを教えてください。
今道琢也さん(以下、今道さん):企業や団体により意図はさまざまですが、共通していえるのは「人間の総合的な知力を測る」ことです。
総合的な能力のひとつとして、テーマに対して自分で考え、分析する「思考力」が挙げられます。ほかに、文章として論理的にまとめて違和感のない日本語にする「論述力」なども、小論文だからこそ測れる能力といえますね。
くわえて、時事知識をもっているかどうかも計ることができます。たとえば、少子高齢化のような社会問題について論ずる場合、そもそも少子化とは何で、高齢化とはどういうことなのかがわからなければ書き進めることができません。
さらに、結論に至った過程もチェックできます。これは、文章で表現する小論文試験ならではの特徴です。マルかバツを記入する選択問題だけだと、答えを導き出すまでのプロセスまではわかりませんよね。
以上のように、人間の総合的な知力を評価するため、小論文試験を実施していると考えられます。
―――実際には、どのような業界が小論文試験を出しているのでしょうか?
今道さん:地方・国家公務員をはじめとして、マスコミ(出版・テレビ・新聞など)や医療関係(看護師・理学療法士など)は昔から小論文試験を良く出しています。
そのほかの一般企業でも、小論文試験を取り入れているところは多くあります。小論文試験を毎年実施している業界があるのは、やはり「文章力を見たい」ということが理由のひとつでしょう。
たとえば、公務員は、行政通達や予算案などの公文書を扱う人たちですよね。公務員は、誰が読んでも誤解がなく、的確な日本語で文章を書く力が求められます。
このほか、記事や原稿を書く機会の多い、新聞社・出版社・テレビ局などの仕事も、文章力は必須ですから、その観点で小論文を重視しているといえますね。
小論文は勉強すれば誰でも上達する
―――今道さんが、小論文試験の対策を重要視する理由を教えてください。
今道さん:「文章が書けない」という理由だけで、自分の夢をあきらめざるを得ない人がいるんです。世の中には、自分がどうしても行きたい企業・業界があっても、小論文試験で落ちてしまう人がいます。
たとえば、警察官や消防士は公務員ですから、必ずと言っていいほど小論文試験があります。つまり、文章力がなければ、他の面でいくらアピールできても不合格になることがあるのです。
文章を書く力さえあれば、試験を突破できたはずなのに、小論文が壁となってしまい、そのまま夢をあきらめてしまうケースが実際にあるんですよね。
書けないという理由だけで自分の未来を閉ざさないためにも、小論文の勉強は大切だと考えています。
―――小論文と聞いただけで、苦手意識をもつ人がたくさんいます。なにか、前向きにとらえる方法はないのでしょうか?
今道さん:苦手意識をもっている人には、文章は勉強すれば誰でも上達することを伝えたいです。
私の生徒のなかでも、1回目の指導ではまったく文章として成り立っていなかった人が、2、3回の指導で合格水準へ達するケースがあります。苦手だった小論文が、むしろライバルに差を付けやすい科目に変わったんですよね。
自分は文章が苦手だとあきらめてしまうのではなく、まずは学んでみてください。コツをつかんで上達することがわかれば、小論文試験を前向きにとらえられると思います。
―――小論文の勉強は、エントリーシートや履歴書を書くときにも役立ちますか?
今道さん:はい、間違いなく役立ちます。文章の基本は、ES(エントリーシート)や履歴書を書くときでも変わりません。さらに、会社に入ってからも、メールや企画書の作成など、小論文の勉強で培った力を発揮できる機会は毎日のようにあります。
ほかにも、昇進試験がある企業だと、小論文が試験項目に含まれるケースはかなり多いんですよね。実際に私の塾へは昇進試験対策の問い合わせがもっとも多いです。社員としてどんなに実績があっても、小論文が書けないと昇進できないというケースもあります。
つまり、小論文の勉強は、就職試験を受けるためだけではなく、その後の人生にすべて役立っていくといえますね。逆に考えれば、いま文章を書くことを苦手なままにしていると、社会人として、ずっと損をしてしまうことになります。
後編では、実際に小論文試験を学ぶ第1歩をどのようにすればいいのかや、書くときに最低限意識しておきたいコツについてお聞きします。
インタビュイープロフィール
今道琢也
ウェブ小論文塾代表
1975年生まれ
高校時代に独学で小論文の書き方をマスターし、以後、小論文関連試験を次々に突破。大阪大学文学部(論文試験あり・当時)に現役合格。
翌春に再受験し、京都大学文学部(論文試験あり・当時)並びに慶應義塾大学文学部(小論文試験あり)に合格。
卒業後は、NHK(論文試験あり)にアナウンサーとして採用される。在職中に編成局長特賞、放送局長賞などを受賞。15年の勤務を経て独立し、ウェブ小論文塾を開講する。ていねいで的確な指導は、受講生からの圧倒的な支持を得ているという。
現在も『落とされない小論文』(ダイヤモンド社)をはじめとして、試験合格に近づくノウハウを凝縮した書籍を多数執筆している。
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