総合建設業の鹿島建設株式会社は、2023年12月21日にカナダのエネルギー会社であるEavor Technologies Inc.(エバーテクノロジーズ、以下Eavor社)に出資しました。
Eavor社は地熱技術を開発しており、地熱発電事業のゲームチェンジャー(※1)と成り得る期待があるといいます。
※1:ゲームチェンジャーとは、従来とは全く異なる視点や価値観をもって、市場に大変革を起こすような企業や人、その製品・サービスのことを指します。
地熱発電の課題
日本の国土には多くの火山帯があり、地熱資源量は世界第3位の規模を有しています。地熱発電は発電時のCO2の排出量がほぼゼロで、ほかの再生可能エネルギーと異なり、天候に左右されず安定的に発電できるといわれています。また、発電に使用した熱水をハウス栽培の温度調節に利用できるなどのメリットもあるそうです。
今後のエネルギー源として期待されていますが、一方で課題もあります。
地熱発電の掘削にかかるコストは、深さ2,000メートルの坑井1本で通常数億円規模となるといわれており、地熱発電所建設にかかるコストの約3割を占めている状況です。再生可能エネルギーの発電方式のなかでも、特に導入コストが大きいといえます。
そのほかにも、資源の調査や環境アセスメント(※2)、掘削の成功率、機材面など多角的な課題も抱えています。
また、地熱発電所が稼働できたとしても、エネルギー源として使用される温泉水の影響で、時間の経過とともに配管が腐食したり、蒸気の量が減少したりするため、メンテナンスが必要です。
温泉水の中には、さまざまなミネラルが含まれているため、水分が蒸発するとミネラル分が残留し、発電設備に付着します。この付着物を「スケール」と呼び、地熱発電所の稼働後はスケール除去にコストがかかります。除去時は発電所を止める必要があるため、電力の継続的な供給や停止による収益の悪化などの問題もあります。
※2:環境アセスメントとは、事業を実施するにあたり、環境にどのような影響を及ぼすかを調査、予測、評価を行い、その結果を公表。国民や地方公共団体などから意見を聞いて、より良い事業計画を練るための制度のことを指します。
クローズドループ方式とは
Eavor社の「Eavor-Loop」の特徴は、クローズドループ方式の地熱発電を採用していることにあるといいます。
クローズドループ方式は、地熱発電に用いられる技術の1つで、地上から液体をパイプなどを通じて地下に送り、地熱によって熱した後に地上に戻して、発電する方法です。
従来の地熱発電では地熱貯留層を探し当てられないリスクがありますが、クローズドループ方式では、高温の岩盤層に液体を循環させて地下岩盤の熱を回収するため、そのリスクがなくなるといいます。また、熱水や蒸気を必要としないため、火山域以外でも適用が可能であり、スケールによるメンテナンスの問題も解消でき、地熱の開発可能域が広がるそうです。
水蒸気・熱水を採取しないため、温泉が無い場所でも地熱開発ができることから、温泉業者との競合をさけることが可能。そのため、地熱を利用することで温泉資源への影響を心配する地元の声にも対応でき、関係者間のスムーズな合意形成が期待されているといいます。
<参照>
地熱発電事業のゲームチェンジャーと成り得るカナダのスタートアップ企業に出資
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