「コンビニに無意識に通ってしまうことで大切なものを失うことがある」ーー心理カウンセラーで、時短家事コンサルタントの下河内優子(しもかわちゆうこ)さんはそう語ります。
流行や消費者の細かなニーズにこたえ、さまざまな商品を豊富に取り揃えたコンビニエンスストア。24時間365日営業している生活に根ざした小売店でありながら、ATMを備え、公共料金の支払いやマルチコピー機でのチケット販売、コピーや写真印刷、宅配便受付、ネット通販などで購入した商品を受け取る……コンビニで、できることは枚挙に暇(いとま)がありません。
多くの人が利用する便利なお店を使うことで、いったい何が失われるのでしょうか?
本記事は前後編の前編。後編はこちらから。
主体的な行動が取れなくなる?
ーー時短家事などのコンサルティングで「コンビニに通ってはいけない」とお話をされるとうかがいました。なぜコンビニに通ってはいけないのでしょうか?
下河内:通ってはダメ、とは言いませんよ(笑)。「今日はコンビニで、あのオリジナル商品を買おう」とか、意識的に選んだ行動なら、悪いことではもちろんありません。コンビニは本当に便利です。だからこそ、多くの人が、コンビニに立ち寄る理由や目的がはっきりしていない。意思や計画性を持ってコンビニに行くことが少ないのです。
ーーざっくりしたイメージで、「お昼に食べるものを買う」くらいで寄っているかもしれません。
下河内:「何を食べるか」「いつ、どこに何を買いに行くか」など行動の選び方は普段の思考につながっています。
‟なんとなく”コンビニに通うと、自分で主体的に計画を立てて、意思を持って行動する力を養えなくなってしまいます。コンビニだけではなく、世の中には魅惑的なキャッチフレーズをつけた商品があふれています。
そのなかから本当に自分の必要なものを取捨選択して、たったひとつ「これ」というものを取り込む、または「必要ない」と遮断することが大切なんです。
その力を鍛えないと、会社での働き方であれば、上司に言われたことはこなせるけれども、自ら提案していくような主体的な行動が取れなくなります。
モノがあふれて思考停止してしまう悪循環
ーー失うものは、決断力や行動力。日常の何気ない行動が、取捨選択のトレーニングだということですね。
下河内:目的をもたずに無意識に立ち寄っていたとしても、きちんとその理由を自問自答すると、何かしらの理由があるはずです。
もし、暇つぶしだとしたら「何か習いごとに挑戦しよう」、話題を求めているのであれば「本や雑誌を読んでみよう」と、行動を変えていくことができます。
ーーなんとなくスマホを見ていてあっという間に時間が経ってしまうことも同じですか?
下河内:スマホをダラダラ見ても大丈夫(笑)。「15分休憩しよう、その間はスマホを見る」と決めてとった行動であれば何も悪くありません。
たとえば、100均も楽しいですよね。安くて、そこそこいいものが大量に並んでいます。どれも天才的なキャッチコピーに彩られています。「何に使いたいのか」、目的意識を持っていないと、うっかり不要なモノまで買ってしまい、家のなかはモノだらけになってしまう。
ーーうーん……。耳が痛くなってきました。
下河内:わかりますよ!(笑)。モノが多いと、視界に入るものが増えます。モノも「情報」なんです。家が情報であふれると選択肢が増え、人は混乱して疲れてしまう。そうして思考停止に陥って、物事を深く考えることから逃げてしまうことになります。
そうすると、主体的な行動が取れなくなり、人から言われたことをやる、与えられたものを受け取ることが楽になって、ついつい流されてしまうんです。モノを見ると、思い出すものが何かしらありませんか?
無意識と向き合って、自分を取り戻す
ーーたしかに旅先で手に入れたモノをみて、場所やその旅行を思い出したりします。
下河内:心理学にもとづいてお話すると、潜在意識と呼ばれる無意識の領域にこれまでの体験やそれに伴う感情が全て記憶されているといわれています。
モノを見ると、潜在意識から記憶が、感情とともによみがえるんです。良い思い出が定着しているモノを見たら、良い気分になるし、嫌な思い出ならば……。
意識していなくても影響は受けています。負の感情はインパクトが強いので、だんだん自己否定や、自己肯定感を下げていく方向に意識が向かいます。
不要な行動やモノを見直していくときに、どんなものを大切にしているのか、自分の価値観がわかってきます。行動やモノから、喜びや嫌な気持ちをどんなときに感じているのかも見えてくるんです。そこから、ポジティブなものを選んでいき、不要なモノや感情を片づけていくことで、自分自身を1つひとつ取り戻すことができます。
ーーそれができれば良いのですが……。難しそうです。
下河内:できますよ。わたし自身、もともとは時間の使い方が上手なタイプではありません。それに、面倒くさいことが大嫌いです。
時短家事コンサルタントとして、「時短をするためには不要なモノをまずは手放すことが大事。まずは『捨て活』に取り組みましょう」とお伝えしております。
「捨て活」では、ご自身と徹底的に向き合って、自己対話をしていただきます。そうすると、取捨選択の能力や決断力が鍛えられます。
「捨て活」に参加される方は、最初のうちは「これ、捨てていいんですか」って質問するんです。「捨てたらダメっていうのは誰ですか」と逆に聞くと「誰もいません」とおっしゃる。捨てられない人の特徴のひとつですね、無意識で思い込みにとらわれています。
最終的に自分のなかにしか、基準はありません。それなのに、自分で決めていいことを「決めてはいけない」とか「怒られるんじゃないか」と感じて思考停止している場合も多いようです。
まずモノを減らしてお部屋を片づけていく。その過程で自分の大切にしている価値観がハッキリしてくるので、どんどん主体的な行動を選択できるようになって仕事や時間、さらにお金の使い方が上手になって、みなさんポジティブに変わっていきます。
(前編・了)
「金融系OL」として会社勤めを27年間経験されたという下河内さん。就職当時のご自身を振り返って「言われたことはやりますけど……みたいな感じ」だった、とおっしゃいます。
会社員でありながら、複業として時短家事や捨て活のコンサルタントをされた実績から、現在はパラレルキャリア推進委員会の関西支部長をつとめています。続く後編は、下河内さんのご経歴や、複業についてお話をうかがいました。
インタビュイープロフィール
下河内優子(しもかわちゆうこ)
日本メンタルヘルス協会公認心理カウンセラー、時短家事コンサルタント
パラレルキャリア推進委員会・関西支部長
オンライン片づけ朝活コミュニティ「毎朝10分片づけクラブ」主宰
2021年9月に27年勤めた大手金融系企業を退社し、現在に至る。
時間の使い方を変えるために、時間の使い方と時短の要である片づけを体感覚で学ぶ‟大人のクラブ活動”の場「毎朝10分片づけクラブ」は、毎月21日間5:30からオンラインで開催。2020年5月の開始以来、のべ1,500人以上が参加しています。
著書に『「時間がない」が「やりたいことができる!」に変わる時短家事の始め方』
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