2023年、それまで人口数が世界1位だった中国を抜いて、14億2,800万人(見込み)になったインド。
経済成長率も高く、IMF(国際通貨基金)の分析によると他の先進国・発展途上国を上回って2024年、2025年とも6.5%アップすると予測されています(2024年のアメリカ合衆国は2.1%、中国は4.6%)。
Googleやスターバックス コーヒー、シャネル、マイクロソフトなどといったグローバル企業のトップにインド出身者が就いており、世界経済における存在感を年々増してきました。
U-NOTE編集部は、200社を超える日本企業のインド進出をサポートしてきたコンサルティング企業Global Japan AAP Consulting Private Limited代表の田中啓介さんに対し、日本企業がインドに進出するうえで考えるべきことについて、お話を聞きました(全3回中2回目。第1回はこちら)。
インドに進出するとき、考えることは?
―――欧米企業がすでに数多くインドに進出しているようですが、日本は遅い方ですか?
世界におけるインド進出を見るとIT機器やソフトウェア・サービス業界において欧米企業が先行しているのではないかと思います。アジア地域で見ると、これまで日本企業の進出先は、どうしても中国、タイ、ベトナムなど東南アジア地域が先行していました。
自動車を中心とした製造業のインド進出において日本が遅れているとは、まったく思いませんが、全体で見ると海外進出先や投資先としての優先順位として、インドが後回しになってきたことが実態だと思います。
―――日本がインドに打って出ようとするとき、まずどこから考えれば良いでしょうか?
10数億人の人口を持つ、すごく大きな国を相手にするような感覚だと思うんですけど、実態としては、インドのどの都市・地域に進出するか、ターゲットを絞ることがすごく大事だと思っていまして。
よく「インドはEUみたいな国だ」と言われます。通貨は一緒ですが、州によって法律も、言語、文化も違います。
「EUに進出します」という企業がないのと同じように、「インドに進出します」というよりは、州単位で見た方が良いです。
たとえば、タミル・ナドゥ州だけでも8,000万人近い人口です。どこに自社のターゲット層がいて、そこの人たちはどういうキャラクターなのか、その人たちとチームとなって事業を作っていくには、どういう戦略が必要か。局所的に始めるといっても、とても大きな規模です。
「インド市場」をターゲットにしないにしても、そこに住む人たちと事業をやっていくことになるので、例えば、チェンナイやバンガロール、グルガオンなどに住んでいる人たちとどういうチームを作って、どういう事業をやっていくのかを考えることが1番最初に持つべきマインドセットかと思います。
あと、中小企業は(大企業と比較して)体力が少ないなかで、「赤字で何年耐えられるか」という話は海外進出する時に絶対上がってくる論点です。
他の国と比べたときに、インドの場合は黒字化するまでの期間が長くなりがちなんですよね。
その背景には、インドという巨大な国を相手にしたときに、地域性や文化、考え方、言語的な障壁も含めて、人や企業が適応していくなかで、インド市場に対して深く理解をしたり、もしくはインド人やインド企業がどういう期待値とかニーズを持っているのかを正確に把握したりすることに、とても時間がかかるからだと思うんです。
それに加えて、バックオフィスやコンプライアンス面(の整備)も進めていかないといけないので、ものすごく時間もコストもかかります。それを見据えて、どういう事業計画を描くのかは、とても重要なポイントだと思います。
いきなり積極的に投資をして、3年で回収する前提で事業企画を練っても、実際には7年かかったというような企業は恐らく多いことでしょう。
中小企業の企業体力を考えたときに、チャレンジングで積極的な事業計画を描くよりは、すごく保守的に5年、7年でも赤字で耐えられる事業計画を作らなくてはいけません。
いきなり大がかりな事業投資をするというよりは、なるべく小さく、時間をかけて、コストを抑えながら準備を進めていき、柔軟に事業計画を変更していくことがすごく重要だと思います。
―――日本が進出するうえで、どの分野、どの領域だと強いのでしょうか。
日本企業の製造業は引き続き強いと思います。
今まではインドに、日本企業の技術力を最大限生かせる市場が整っていなかった側面があると思うんですね。
たとえば、「(日本企業の製品ならではの)かゆいところに手が届く多機能に(対して)、そんなにお金をかけたくない、必要最低限の機能だけで十分」だと考えるインドの消費者と、日系メーカーの製品には、ギャップがありました。
ただ、所得も高くなってきているなかで、今後、高機能・高価格帯の商品も売れる市場に育っていく可能性があります。
消費者のニーズに敏感に応えていく製造技術とか品質管理における日本企業の強みは、大きく生かせると思います。
たとえば、自動車や、インド国内ですごく市場が成長している空調機器、エアコン関係ですね。2022年に日本を抜いて世界第3位の販売台数となったインドの自動車市場では、これまでの安い小型車から多目的スポーツ車(SUV)に乗り換える人が増えていて、平均購入価格は100万ルピー(約180万円)を超えているそうです。
空調機器市場でいうと、インド全体のなかでエアコンの普及率はまだ5%程度で、エアコンがある家庭は本当に少ないんです。あっても小さなウィンドウ型エアコンです。
なので、まさにインド国内シェアトップのダイキンさんはいま、チェンナイ近郊に第3工場を作っていますし、その他空調機器メーカーも、工場を建設中で生産拡大を進めているところです。
こういった2桁成長を示す業界、製造業全体にも言えるかもしれないですけど、日本企業のそういった技術は引き続き必要とされるんじゃないかなとは思います。
インド進出にあたってのリスク管理は
―――インド進出にあたってのリスク管理についても相談が来るとうかがいました。
弊社の領域では、日本の常識が通用しない経理や人事労務、さまざなコンプライアンス対応などの相談を受けます。
たとえば、頻繁に税制・法律が変わったり、税務訴訟に発展して訴訟が長期化したりします。
企業としては極めて「白」に近いことをやってるにもかかわらず、「黒」だと言われて訴訟になるケースはすごく多いんです。
日本の場合、税務訴訟になると多くは税務署が勝つんですが、インドではむしろ逆で企業側が勝つケースが多いです。
ただ、結果的に納税者が(裁判に)勝つまでに2年、3年かかると、弁護士費用、余計な労力やコストがかかってしまう。
労務管理も、州によって労働法が違いますし、インド人のキャラクターも異なります。
労務問題に発展しないように、ルールの整備とあわせて、経営者が従業員とどのような労使関係をつくっていくのかが、ものすごく重要ですし、そのためにはインド人をちゃんと深く理解しないと難しいですね。
―――進出して痛い目を見る企業も少なくない?
従業員が辞めた後に訴訟を起こして訴えるようなケースもよく聞きます。インド企業と合弁会社をつくるときも、合弁先と揉めると、最悪の場合、(相手が)警察と結託して、日本人の取締役がなぜか突然拘束されるという事例も起きています。
もちろん媚びへつらう必要はなく、毅然とした態度で対応をすれば良いのですが、日本式を押しつけず、郷に入れば郷に従えが大切で。やっぱり現地人のネットワークって僕らより強いし、警察と組まれてしまうと、どうしようもないところもあります。
一番重要な土台としても、従業員や取引先と、なるべく訴訟にならないような関係性を築くための日々のコミュニケーションとか信頼関係をつくることは、リスク管理の上ではすごく重要です。
―――そういったリスクがあっても、日本企業がインドに進出する意義は大きいですか?
大きいと思いますね。
インドは、世界にこれだけ(大きな)インパクトを与えているので、インド人を知ることは、これからのグローバル社会で生き残っていくために、とても重要だと思います。
たとえば、インド人と組んでアメリカに進出する企業も出てきています。要は、世界進出するためにインド人の力を借りるということです。こういったことも、重要な戦略の1つになってきます。
市場を見るのか、人材を見るのか、グローバル組織を作るための目線で見るのか、多面的にインドを見ていく視点が必要になってくると思います。
Global Japan AAP Consulitingについて
会計事務所を母体とした独立系インド進出支援コンサルティング会社。
インドに進出するための市場調査から拠点設立・事業の立ち上げフェーズに特化した経理・人材採用・人事労務・法務を中心としたバックオフィス業務の代行・アドバイザリーサービスを提供しています。
2014年12月に南インド・チェンナイで創業。ベンガルール、ハイデラバード、グルガオン、スリシティを含むインド国内5州5拠点に事務所が置かれています。
代表の田中さんは、米国公認会計士試験合格者で、2023年度のJETRO中小企業海外展開支援プラットフォーム・コーディネーターも務めています。
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