出張中の移動時間は、業務時間に含まれるのか疑問の方も多いでしょう。長距離の場合や、海外に出張の場合などは長時間の移動になりがちです。
出張中の移動時間は基本的に労働時間にならず、残業代もつきません。ただし、移動中に業務命令があった場合は別です。
本記事では出張中の移動時間の扱い方について紹介。移動時間が労働時間に含まれるかどうかを具体的なケース付きで解説します。
- 出張中の移動時間が労働時間になるケース、ならないケース
- 移動手段で考える、出張中の移動時間
- 出張に関するよくある質問
出張中の労働時間の扱い方
出張中の労働時間は、所定労働時間を勤務したものとみなす「みなし労働時間」が適用されます。たとえば所定労働時間が8時間なら、出張での移動にともない実際の勤務時間が10時間になったとしても、8時間労働したものとして扱うのです。
出張中の労働時間の扱いは、労働基準法第38条の2に定められています。
第三十八条の二 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
出張先で業務をする時間はもちろん、出張先への移動や帰社時にも、使用者の指揮命令下にあると考えられています。そのため原則として、出張中の移動時間も労働時間に含まれます。
出張の移動時間は基本的に労働時間にならない
出張先での労働時間にはみなし労働時間が適用されます。出張先への移動や出張先からの帰社にともない所定労働時間を超えた場合でも、所定労働時間で勤務したものとみなすのです。
そのたまえ、事故や遅延などのアクシデントで出張の移動時間が当初のスケジュールよりも長くなった場合、基本的に労働時間には含みません。
出張の移動中は基本的に自由に行動できます。たとえば電車やバスで移動するなら本を読んだり睡眠を取ったりできるでしょう。車を運転している場合も、業務に取り組むわけではありません。最近はBluetooth付きのカーナビを搭載した社用車が増え、スマホをつないで好きな音声を聴いたり耳学したりすることもできます。
移動中に業務をする必要がないなら、このような「半ば余暇」の時間を過ごすのもいいかもしれません。
移動中に業務命令があれば、残業代がつく
出張の移動時間は、原則として労働時間に含まれません。しかし、移動中に業務命令があった場合は労働時間に含まれます。この場合、所定労働時間を超えて労働した分の残業代が支払われます。
具体的なケースごとに、残業代がつくのかつかないのかを考えてみましょう。
- 電話やメールで連絡を取った時間は労働時間に含まれますが、このような連絡業務はすぐに終わります。連絡業務が少しあるくらいでは、残業代はつかないでしょう。ただし、移動中にテレアポやSNSのDMを使った営業活動をし続けるような場合、残業代がつくと考えられます。
- これらの業務は労働時間に含まれるうえ、ある程度の時間がかかります。所定労働時間を超えた分の残業代がつく可能性が高いです。
- 実際に指示があったのか、すぐに対応したのかどうかという問題もありますが、待機態勢でいなさいという業務命令が下っていると考えられます。移動にともない所定労働時間を超えた場合、その分の残業代がつくと考えられます。
- 自らの意思でする残業、いわゆるサービス残業は基本的に労働時間とみなされません。しかし、業務量が多い場合やスケジュールがタイトな場合など、自主的に残業せざるを得ないこともあります。この場合、「黙示的指示」があったとみなされ、残業代を支払わなければなりません。
出張前に上司からほかの仕事を相当数振り分けられ、出張先で必要な資料の作成や打ち合わせの準備を事前に済ませられなかったような場合は、残業代がつく可能性が高いです。
出張に関する規定を確認しておこう
出張中の移動時間や労働時間、日当の有無・金額など、出張に関する規定は会社ごとにルールが定められています。
あらかじめ出張先への移動にかかる時間を確認し、所定労働時間を大きく越えそうなら、上司や人事に相談してみることをおすすめします。移動の時間や手段、ルートなどを明確にしておけば、移動時間を有意義に使えるでしょう。
日当の確認も大切です。日当は出張中の食費、実質的な残業や移動中の拘束時間への補填として支給されるお金です。日当がもらえることを知っていれば、実際の拘束時間がみなし労働時間を多少越えたとしても気持ちを納得させやすいでしょう。
関連記事:出張に日当はつく?日当の相場金額・税金など、設定時の注意点をまとめて解説
移動手段で変わる移動時間の考え方
出張中の移動時間の考え方は、移動手段で変わります。公共交通機関を利用するのか、社用車で移動するのかのケースを検討してみましょう。
公共交通機関を利用する場合、基本的に労働時間にならない
公共交通機関を利用する場合、基本的に移動時間は労働時間になりません。バスや電車などは自分で運転する必要がなく、ただ乗っているだけでいいからです。移動中の時間を自由に使えるため、労働時間とみなされません。
ただし、すでに紹介しているように移動中に業務命令があった場合は別です。
社用車で移動する場合は「単なる移動かどうか」が重要
社用車で移動する場合、「単なる移動かどうか」が重要です。ここでいう「単なる移動」とは、出張先に移動するためだけの移動のことです。自分で運転するとしても、移動中は業務をせず自由に過ごせると考えられています。
ただし、運転そのものが業務になるような場合は別です。たとえば取引先に商品を届けたり、ほかの従業員を乗せて運転手として運転する場合などは、労働時間として認められることが多いです。
出張に関するよくある質問
出張中の移動時間が労働時間に含まれるのかは、業務命令があったのかどうかが判断のポイントになると紹介しました。最後に、出張に関するよくある質問に答えます。
出張中に休日がある場合は?
出張中に休日がある場合、休日に移動する場合も、業務命令がなければ労働日としてカウントされません。たとえば出張先での予定が月曜日の朝に入っていて、休日である日曜日に出発・移動した場合も、移動時間は労働時間になりません。
長距離や海外の場合も労働時間にならない?
長距離の移動や出張先が海外など、移動時間が長い場合も業務命令がなければ労働時間には含まれません。そのため、残業代もつきません。
ただし、このようなケースでは相応の日当が付くことも多いです。
出張中の事故は労災になる?
出張中の事故は基本的に労災になります。業務命令のない移動中の事故であっても、業務を遂行するために仕事をしているとみなされるためです。
ただし、出張先で個人的に遊びに出かけているときや泥酔して転倒したなどの場合は私的行為により事故を招いたとみなされ、労災と認められません。
出張時の宿泊先でもらった商品券はどうすればいい?
出張時の宿泊先でクオカードや商品券などをもらえることがあります。これは実質的な宿泊代の値引きともいえ、受領した場合、実際の宿泊代よりも高い金額を会社に請求することになります。
このケースの判断は難しいです。出張旅費規程で商品券や金券の取扱について定められている場合は、規定に則り処理しなければなりません。しかし、実際は黙認されるケースが多く、これらの受領が問題になることはあまりありません。
ただ、わずかな金額の商品券や金券のために懲戒処分を受けることになっては悔やんでも悔やみきれないでしょう。会社に相談することをおすすめします。
出張の移動時間は原則として労働時間にならない
- 出張の移動時間は基本的に労働時間にならず、残業代もつかない
- 移動中に業務命令があった場合は労働時間とみなされる
- 出張の前に出張に関する規定を確認しておこう
出張中はみなし労働時間が適用され、移動時間は基本的に労働時間に含まれません。実際の労働時間が所定労働時間を超えた場合、残業代が支払われるかどうかは、業務命令の有無によって異なります。
出張の前に、出張に関する規定を確認しておきましょう。残業代はつかなくても、日当はつくことが多いです。日当の有無や金額がわかっていれば、出張中の移動時間が長くても納得ができるかもしれません。
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