HOMECareer Runners 減り続ける貯金、正規より多いインターン…… 上海で起業し苦難を乗り越えてきた「匠新」代表・田中年一さんが大事にしてきた考えとは

減り続ける貯金、正規より多いインターン…… 上海で起業し苦難を乗り越えてきた「匠新」代表・田中年一さんが大事にしてきた考えとは

菓子翔太

2024/01/26(最終更新日:2024/01/26)


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中国・上海及び深センと東京に拠点を置き、日本と中国の企業に対してコンサルティングサービスなどを展開する会社「匠新(ジャンシン)」の代表を務める田中年一さん。

社外の知識やアイデア、技術などを取り入れ、新たな製品やサービス、ビジネスモデルなどを創造する“オープンイノベーション”を図り、企業や自治体、研究機関などが連携するエコシステムの構築を推進しています。

U-NOTE編集部は、田中さんが大学卒業後にITエンジニア、公認会計士を務めたのち、匠新を立ち上げるまでを聞きました(全4回中4回目)。

第1回「中国のベンチャー企業にとって日本市場が魅力的なワケとは 日中の“オープンイノベーション”を推進するコンサルティング企業「匠新」代表・田中年一さんインタビュー(1)

第2回「中国ユニコーン企業がAIとEコマースに強いワケとは 日中の“オープンイノベーション”を推進するコンサルティング企業「匠新」代表・田中年一さんインタビュー(2)

第3回「日本にスタートアップ企業が少ないワケ、これからの起業家に必要なマインドは? 日中の“オープンイノベーション”を推進するコンサルティング企業「匠新」代表・田中年一さんインタビュー(3)

航空宇宙専攻からITエンジニア、米国公認会計士へ

―――田中さんが大学を卒業された後、今に至るまでをお伺いしたいです。

大学を卒業したのが1999年。大学の専攻は航空宇宙でした。

もともと子供のときに宇宙という未知な世界に関心があり、また宇宙飛行士になんとなくも関心があって憧れてですね、それで大学の専攻では航空宇宙を選びました。

大学の同期も半分ぐらいはJAXA(宇宙航空研究開発機構)に行くんですが、4年生になって、60歳になるまで40年ぐらい宇宙の世界にどっぷり浸かって、他の世界を全く知らずに人生の大半を過ごすと思いということがふと怖くなってしまって、それで(その道を)考え直しました。

もっと社会を広く見ていきたいなと考えて、理系でも幅広くやれるITエンジニアを新卒の仕事として選びました。

お客さんは金融機関や事業会社が多かったです。お金とか経済の動きは大学生のときにほとんど勉強してこなかったのですが、そういう知識がないとお客さんとまともに話せない、あるいは、その業務への理解もなかなか進みません。

また、会社が外資系というのもあって英語力も鍛えたいとも思い、社会人2年目くらいのときに米国公認会計士の資格取得の学校に通い始めました。週末に講義を週末受け、平日の夜に週2でに仕事を終えた後に受け受験仲間と集まって勉強をするという生活でした。

合格したのが社会人4年目で、合格後に転職して2002年から2013年までの12年間、会計事務所のデロイトトーマツで働きました。

(会社に)入るときに海外での経験を持ちたいなと。(行くなら)アメリカか中国だと思っていました。

中国については、もともと大学のときに選んでいた第2外国語が中国語だったこと、2000年以降中国の存在感がどんどん大きくなっていったこともあって、中国で活躍したい人を募集していたので応募しました。

ただ、入社時の面談で「まずは日本で経験を積んだ方が田中さんのためにも良いだろう」ということで、2002年から2005年は東京で、通常の日本の会計士と同じ実務をやっていました。上海に赴任したのは2005年からです。

(上海では)日本と中国にまたがるとの国境を超えたIPO(Initial Public Offeringの略称。証券取引所に上場していない企業が、新しい株の発行や売り出しを行って上場すること)や税務会計監査など、いろいろな業務に携わってきました。

それから東京に戻って会計監査業務を1年間務めた後、2010年から2013年は、デロイトトーマツのなかでM&A(Mergers and Acquisitionsの略称。企業の合併・買収のこと)を行うグループ会社があったのでり、そちらで日本の大企業が中国、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパの会社を買収する際のアドバイザー業務に深く関わっていました。

チャレンジするか否か……

そういった経験を踏まえて2013年、当時36歳だったんですけども、やりたいことは宇宙じゃなければ何なのかは結局見つからなくて。

ただ、子供も1〜2歳ぐらいの時で、自分が40歳になり子供が小学校に入ると、なかなか新しいことにチャレンジするのは、やりづらくなるだろうと。

デロイトトーマツで会計士の業務に携わっていた際には高い評価もいただいていたので、その道でずっと行くことも、もちろん選択肢の1つとして考えてはいました。

でも、チャレンジせずに一生を終えると、きっと後悔するだろうなと。チャレンジして失敗したとしても、会計士としての資格も実務経験もあったので、やり直そうと思えばきっとやり直せるだろうし、それよりも後から後悔だけはしたくないと思い、独立を決意しました。

独立してからの最初の2年間はいろいろと模索し、その模索の中で自分の価値を1番発揮できて、(他人と)1番差別化できることは何かを、いろいろと思考錯誤した結果、日中間で大企業とベンチャー企業とのオープンイノベーションによる事業共創を推進する事業にたどり着き、2015年に「匠新」を立ち上げました。

起業⇒軌道に乗せるまでの苦労は

私が非常に感銘を受けたスティーブ・ジョブスの「Connecting the dots(点をつなげる)」という話があります。

「自分が過去にやってきたことが、いつかつながっていく」という話なんですが、自分がそれまでに築いてきたのは、ITエンジニアとしての経験や、特に日本と中国をまたがるようなベンチャー企業のIPO、大企業のM&A・投資、多言語環境におけるマネジメントでした。

あと、学生時代から自分が生きがいを感じてきたことは“人と人とつなげていくこと、異文化・異世代をつなげていくこと“ということです。

これらをつなげ、いろいろ軌道修正をしていく先にあったのが、いまの「匠新」です。独立するにあたっては、自分がやりたいことと、自分がこれまでやってきたこと、ちゃんと周りからもニーズがあること。これが重なる真ん中を探していきました。

加えて、立ち上げた後になって非常に大事だなと思ったのは、周りが応援してくれることです。

日本と中国の新しいあり方を探求しながら、私自身もメンバーも、それをやっていくことが日本のためにも中国のためにもなると信じながら業務に携わっています。

そこに共感してくれる人も多くて。応援してくれる人たちが、僕らのことをいろんな人に紹介してくれたり、いろんなお仕事をくださったりして、さらに発展、成長につながっていく。

(そこから、)周りが応援してくれることも非常に大事だと思うようになりました。

―――異国の地である中国で起業されて、軌道に乗せるところまでかなり苦労されたと思います。

今は15人ぐらいの規模になっているんですが、最初は、(弊社の理念に)共感して一緒にやれるメンバーを集めようとしても、なかなかできませんでした。

学生のインターンが正規メンバーよりも多く、業務なりイベントなりをなんとかこなしている状態でした。色々な実績を重ねていって、「私も一緒にやりたい」というメンバーも増えて
いったのは、設立3年目ぐらいからです。

もう1つ苦労したのは、最初はなかなか売り上げが上がらずに、自分の貯金がどんどん減っていったことです。

もちろんメンバーに対しては毎月給料を払わなきゃいけないので、自分の持っているお金から払っていました。

サラリーマンであればお金は増えることしかなかったので非常に心が痛みました。途中からだんだん麻痺してきて、また楽になったんですけど。

田中さんの今後の目標

―――今後の夢は何でしょうか。

今、僕らは、日本と中国におけるエコシステム(複数の企業が商品開発や事業活動などで連携して相乗効果を生み出していく構造)の構築を進めていますが、まだまだ規模としては小さいので、日本とシリコンバレーの関係ぐらい大きな規模や交流機会をつくりたいと思っています。

日本の事業会社から出資を募り、シリコンバレーのスタートアップへの投資を実行して、現地企業と日本企業との間の事業連携を推進するようなベンチャーキャピタルがいくつかあり、投資された規模の累計は、数千億円ぐらいの規模になります。

中国と日本との間には、そういったことがほぼないので、我々がベンチャーキャピタルとしての機能を持って、日本の企業から出資を募って、中国現地で投資をしていくことで、日本と中国とのエコシステム構築をより加速させていきたいです。

地理的に言えば、シリコンバレーよりも近い中国(とのエコシステム)はもっともっと今よりも大きい規模であるべきなので、いろいろな要望がありますが、それが1つです。

加えて、今やっている主な事業内容は、お客さんから何かご要望いただいて、その要望に合わせてコンサルティングとして実行サービスを提供するという受託事業なので、事業構造的に不安定な部分があります。

今後会社をより安定的に成長させていくために、お客さんからの要望に応じての受託ではなく、自社としてのプロダクトを持っていきたいですね。今まさにそういったプロダクトを社内でゼロイチで立ち上げているものがあり、年内には事業の形にできればと思っています。

(了)

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