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フェミニストで会社員の笛美さんが、広告業界の「モヤモヤ」と裏側を語る【前編】

Honoka Yamasaki

2024/01/18(最終更新日:2024/01/18)


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電車やタクシー、街中など、至るところに散りばめられている広告。電通の「2022年 日本の広告費」によると、2022年における日本の広告費は過去最高の7兆円※超えであることがわかりました。

今後も私たちに影響を与えるであろう広告業界の一端を担う笛美さん。普段は一会社員として広告制作に携わるかたわら、フェミニスト(女性の権利運動から始まり、性別による差別を解消するための運動や主張「フェミニズム」の立場に立つ人)としてSNS上で発信しています。

消費者の価値観や行動を左右するといっても過言ではない広告の裏側とは何でしょうか。また、女性として広告業界で働く笛美さんが感じる「モヤモヤ」を打ち明けてくれました。

「“ふつう”に仕事して結婚して子どもを産むと思っていた」入社前後のギャップは?

ーーー笛美さんの活動内容を教えてください。

普段は広告業界で制作系の仕事をしながら、SNS上でフェミニズムや社会問題について発信しています。

初期はテレビやラジオのCM、といったオールドメディアをメインにやっていましたが、現在はデジタルやソーシャル系の制作を担当しています。

ーーー広告業界に入ったきっかけはありますか?

幼少期の90年代はテレビ全盛期だったのでテレビが身近にあったのですが、テレビCMで映し出される都心がキラキラしていて。

そんな都心の文化に憧れを抱き、ミーハーな気持ちで都内にある広告代理店に入社しました。この業界に入って約15年目になります。

ーーー入社前と入社後の広告業界におけるイメージのギャップはありましたか?

入社前は、女性がバリバリ働いて活躍できる業界だと思っていたので、仕事でうまくいかない人は甘えや逃げであり、私は結婚して子どもを産んだとしても絶対に働き続ける。そう思っていましたが、入社後にその考えは変わりました。日本では、第一子出産後に女性が離職する確率は半数以上という統計が出ています。

私の職場でも出産のタイミングで女性社員が辞めてしまうなど、パワーダウンすることが多いので、若い世代と男性しか生き残れない。男性がどんどん偉くなっていく現実を目の当たりにしました。

出典:内閣府男女共同参画局「第1子出産前後の女性の継続就業率」及び出産・育児と女性の就業状況について

広告業界ひいては社会に立ちはだかる女性の障壁

ーーー就活中は違和感なく選考を進めていたのでしょうか?

会社にもよりますが私の場合、面接官から結婚や出産、パートナーについて質問されることは珍しいことではありませんでした。。

ですが、面接なのに仕事の質問には触れられず、プライベートなことを聞かれることについて、そのときは違和感を抱くことがなくて。

ーーー入社してから気づいたと。

そうですね。入社当初は憧れの業界にやっとたどりつけたというプライドがあったので、そこで成功すること以外考えられませんでした。しかし、実際には広告業界は男社会で、「女性は子育てをし、男性は働く」という価値観が充満しているんです。

独身の女性として過ごすと「女ではない」「モテない」というキャラにされることを感じたり、私は「女として男性から選ばれなければならないけれど、仕事やキャリアで成功するためにはあきらめなければならない」というジレンマに苦しめられていました。
 
ただ、家父長制(男性相続における家族制度において、一家の主人である男性が支配権をもつこと)にもとづく価値観に違和感を抱き始めたのは、入社後、インターンシップで某F国に滞在していたときです。

「女性の独り身は惨めだよ」「お前もそろそろ結婚しないとやばいよ」のような、日本で言われた女性軽視的な発言をF国で聞くことはほとんどありませんでした。その違いを感じたとき、初めて「あれ、おかしいぞ?」と思い、フェミニズムについて調べるようになりました。

日本と海外の広告の違い

ーーー先ほどヨーロッパに滞在していたとおっしゃっていましたが、海外と日本の広告における違いはありますか?

国にもよりますが、日本の広告に1番近いと思うのは韓国かな。広告の量が多く、タレントをキャスティングし、ニコパチ(タレントがPRしたい商品を顔の横に寄せてニコッとした笑顔で撮影すること)といった表現が特徴です。

欧米では特に屋外広告で顕著なのですが、メディアとして売られている広告枠が日本ほど多くない印象があるので、そもそも広告の数が少なく、タレントを起用することも少ない印象があります。

出演者1つとっても、年代や人種も多様ですし、障がいをもつ人など、さまざまな人が登場します。対して日本の広告は、学生や若い女性がメインに映し出されることが多く、特にシニア女性はあまり目にしません。「若さ」「可愛さ」「弱さ」「無垢さ」のような要素が重視されやすいと思います。

ーーー具体的な各国の広告表現の特徴を教えてください。

広告規制の基準が各国で異なりますが、ヨーロッパではセンシティブな表現を含む広告は表示されません。

広告表現を研究している小林美香さんの著書『ジェンダー目線の広告観察』にも書いてあったのですが、英国では性別にもとづく有害なステレオタイプを助長するような広告は禁止されたようで、倫理的に問題があるとされた場合は警告されるらしいんですよ。

日本ではエロ漫画の広告を公共の場で目にしますが、私は1人で見るようなコンテンツを、誰もが目にすることのできる空間に出すのはおかしいと思っていて。日本は公共の空間における考えがまだ停滞しているように感じます。

広告業界に入りたい人へ

ーーー笛美さんが広告を制作する際に気をつけていることはありますか?

マーケティングとして消費者に刺さるか、クライアントの意向に沿っているかは常に考えています。

あとは、ジェンダーバイアスを助長するような表現は避け、たとえば子育てをするシーンがあれば女性だけではなく男性も、可能であれば異性愛カップルだけでなくセクシュアルマイノリティのカップルも起用したい。

ターゲットにもよりますが、幅広い属性がターゲットとなる商品などでは、取り残される人がいないよう、「男らしい」「女らしい」といった言葉を使わないなど、表現上の偏りをなくすよう意識しています。

あとは、広告に登場するタレントの人権が損なわれるような見せ方はしないよう、お客様だけでなく制作側にも配慮が必要です。ただ、現状の日本ではそれが必ずしもできるというわけではないので、難しいですね……。

ーーー今後、広告業界はよくなると思いますか?

広告業界自体が権威主義的で、権力をもった年長男性が決定権を握る構造があるので、すぐに流れが変わることはないと思っています。

会社にいる上層部の男性たちは、私のようなフェミニストが職場にいるなんて知らないと思いますが、意見をもつ女性がいることを身近に感じられたら少しは変わるかもしれません。なので、自分なりにできることを見つけて行動していきたいです。

ーーー広告業界を目指す就活生へアドバイスをください。

私の著書『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』には、この業界の実態について書いてあるので、入社前とのギャップをなくすという意味でもぜひ読んでいただきたいです。

ただ、絶望を感じる必要はありません。私みたいな人は社内にいると思うので、孤立せず同じような意見をもつ人たちと手を繋いでほしいなと。あとは、上の人たちは尊敬できる部分や経験はあるけれど、必ずしも正しいわけではないので、すべてを聞く必要はありません。

社会は私たちが作るものなので、その人たちに合わせるというよりは、少し距離をとって繋がっているくらいがいいのかなと。私はもともと自分の120%を捧げて仕事に専念していましたが、今は半分くらいの力で仕事と関わることで、自分を守ることができています。

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