HOMEインタビュー 弁護士資格を有する元テレビ朝日アナウンサー/法務部長 西脇亨輔さんが歩んだキャリアの道

弁護士資格を有する元テレビ朝日アナウンサー/法務部長 西脇亨輔さんが歩んだキャリアの道

服部真由子

2024/01/16(最終更新日:2024/01/17)


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元テレビ朝日アナウンサーで、法務部長をつとめた西脇亨輔さんは、2023年11月に28年間の「サラリーマン」生活を終えて、西脇亨輔法律事務所を開業。今後は弁護士業のみならず、法律の知識やマスメディアでの経験を生かしたジャーナリストとしての活躍が期待されています。

また、国際政治学者を相手取り、最高裁まで争い勝訴した「本人訴訟裁判」の記録『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎・刊)を上梓した著者としても知られています。

子ども時代からの夢を胸に抱きながら、弁護士資格をもつ報道アナウンサーとして社会に出るという類まれなキャリアを歩んできた西脇さんにお話をうかがいました。

取材は2023年10月に実施しました。前後編にわけて公開します(本記事は前編、後編はこちらから)。

報道アナウンサーから法務部長へ

現在は弁護士として活躍する西脇さん

ーー西脇さんは弁護士資格のある元アナウンサー。これはめずらしいご経歴ですね。

西脇:僕の経歴って、とにかく変わっているかもしれません(笑)。法律を学ぼうと進学して、在学中の1992年に司法試験に合格しました。大学を卒業して、最高裁判所司法研修所に入所(47期)したんですが、司法修習の期間にテレビ業界へと進路を変えて、1995年にテレビ朝日にアナウンサーとして入社しました。

そこから『やじうまワイド』『ニュースステーション』『スーパーモーニング』などの情報・報道番組を12年間担当しました。後輩アナウンサーとの結婚を機に、2007年から法務部に異動して、現在(2023年10月)の部長職に至る……。こんな感じでしょうか。

ーー法律を学ぼうとお考えになったきっかけはありますか?

西脇:「法律家になりたい」と、最初に思ったのは小学生のときでした。個性的な先生がいらっしゃって、小学校で「模擬裁判」という授業があったんです。

新聞の事件記事を切り抜いて、読む。それから検察官・裁判官・弁護士それぞれの役に生徒が分かれて、その事件を題材にした模擬裁判を行うんです。検察官役がとても楽しかった。

先生に「どうやったら検察官になれますか?」と聞いたら「とにかく勉強をして、大学へ進学しなさい」と。その言葉だけでとにかく勉強をしましたね。

ーー検察官ではなく、弁護士を選んだ理由は?

西脇:仕事として考えたときに、海外で活躍する「国際弁護士」がカッコよく見えました。

とはいえ、司法試験に合格しても司法修習を終えないと弁護士にも検察官にもなれませんし、検察官・裁判官・弁護士それぞれインターンのように経験するなかで、どの仕事に就くかを考えていき、弁護士の道が見えてきました。

一匹狼からマネジメント職へ

アナウンサー時代の西脇さん

ーーしかし、その後アナウンサーになられて、現在(2023年10月)は……

西脇:テレビ朝日の法務部長をつとめています。慣れないことが多いですね。

ーー慣れないこと、ですか?

西脇:部下を持つことが、初めてなんです。弁護士、アナウンサー職は「職人芸」の世界です。だから、部下として働いたことや、若い人を教育したり、リードしたりといった経験があまりないんです。

ーーなるほど!

西脇:「背中から学べ」とでもいうのでしょうか。アナウンサー研修が一応はあるんですが、やはり実地で経験することが大切です。

番組では、先輩も後輩もなく……ひとりなんですね。新人であっても「ひとりの出演者」としてイーブンな関係です。もちろん、放送や収録が終われば「良かったよ」「ここは直そうか」とフィードバックを先輩からいただくことはあります。

ーー弁護士としてはいかがですか?

西脇:弁護士も法廷に立てば、ひとりです。司法修習が終われば、組織やグループのなかで、後進を育成するようなシステムはありません。どちらかというと「一匹狼」に近いですね。

ーー法務部では、部長の下に役職が設けられているのですか?

西脇:テレビ朝日の法務部には、いわゆる「課長」や「係長」のような中間層の役職はありません。

法務部に所属する前に所属したアナウンス部はいわゆる「体育会系」で、上下関係や先輩後輩はきっちりあります。しかし、部長などの管理部門は最近はアナウンサー出身ではなく、別の視点からアナウンス部員の活躍の場を考えるというかたちでマネジメントし、その下で1人ひとりの部員が頑張っていると思います。

自分が経験した職種や業務も踏まえて今回の書籍の『孤闘』での闘いは……まさに、一匹狼の極限でしたね(笑)。

「荒波に揉まれる自分」を伝えた書籍

ーー『孤闘』は西脇さんが訴えを起こすところから、判決に至るまでがとても細かくていねいに記されていました。まるで西脇さんと一緒に闘っているような気持ちが生まれると同時に、法律などの知識がない私でも裁判の様子がよくわかりました。

西脇:訴訟や裁判について「わからない」という方は多いと思います。法律文書のように書くと「難しいことが書かれていてとっつきにくい」本になってしまう。

でも僕は、この訴えを起こしてから、まるで荒波にずっともまれているような経験をしました。その「旅の過程」と、そこで自分が感じたことを、読者の心や気持ちにそのまま、ダイレクトに届けたかった。そのためには「わかりにくさ」をなくさなければならないと、そこはとにかく頑張りました。

それから、僕はそれまで自分から裁判を起こした経験はなかったんです。だから「はじめての自分の裁判体験記」です(笑)。カッコ悪いところも下手をうった様子も正直にレポートとして残していきました。

『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎・刊)

ーー西脇さんのお人柄とあわせて「時代の空気」もきちんと描かれている1冊でした。国選弁護人(※)としてのご経験も書かれていますね?

西脇:まっすぐに「弁護士の道」を歩まれた方と違って、弁護士としての経歴は主に法務部の所属になってからです。また弁護士としての社会貢献活動のひとつとして、法務部員としての業務のほかに国選弁護士として活動して多くを学びました。

この本では「3年8カ月」の裁判の記録をつまびらかにするだけでなく、裁判がどんなものなのかをお伝えしたいという想いから、僕の「当事者」としての気持ちも記録しました。

報道で裁判を伝える記事はせいぜい2~3行の言葉のことが多い。でもその事件1つひとつに当事者の人生がある。その「隠れているもの」を伝えることもテーマでした。

国選弁護人とは

刑事事件の被疑者(勾留された人)や被告人(起訴された人)が、自分で弁護人を付ける財産を持っていない場合などに、国が費用を負担して付ける弁護人が「国選弁護人」と呼ばれます。刑事事件のために設けられた制度なので、離婚や相続などの民事訴訟には、国選弁護制度はありません。

ーー裁判や法律は、扱う言葉からして難しいという印象があります。

西脇:新聞やニュースで裁判が報じられるとき、とても無味乾燥な印象があると思います。

しかし、民事でも刑事でも裁判には「感情の高ぶり」、やるせなさや怒りなど「はち切れそうな感情」が詰まっています。そのぶつかり合いこそが裁判なんですが、普段の報道では伝えきれないものです。

ーー弁護士を代理人としない「本人訴訟」というかたちで訴えを起こされましたが、これは一般的なことなのでしょうか。

西脇:本人訴訟を選ぶ人は一定数いらっしゃいますが、僕は周りから「やるべきではない」とアドバイスされました。

法律の知識があっても、なくても「自分で自分の手術をする」ようなもの。自分が受けた傷や痛いところに塩を塗りながら、たとえようのない痛みに耐えて、裁判を闘うことになります。感情的な言動は裁判ではマイナスになりますし、強い感情に揺らがない、流されないようにするのは、とても大変でした。

(インタビュー前編・了)

続く後編は1月17日(水)18時に公開。西脇さんのキャリアの岐路で現れた、さまざまな選択肢について、方向転換をするときにどんな想いが生まれ、決断をされたのか、詳しくお話をうかがいました。

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