新規事業戦略を立てる際や、事業戦略を見直す際に行う「競合調査」。市場で勝ち残っていくためには競合他社を深く知り、差別化を図ることが大切です。
本記事では、そんな「競合調査」のやり方を解説。市場調査との違いや、競合調査を実施する際のコツやポイントもご紹介します。データ分析に使えるフレームワークもピックアップしているので、ぜひ参考にしてみてください。
- 競合調査と市場調査の違い
- 競合調査を実施するための基本ステップ
- 競合調査で調査するべき項目とは?
競合調査とは
競合調査とは、名前の通り、同じ業界内で競合するライバル企業の商品やサービスについて、さまざまな側面から行う調査のことです。自社の競争優位性を高め、売上向上やシェアの拡大を狙うには、競合調査により商品やサービスを比較し、自社の強みと弱みを把握・改善していく必要があります。
競合調査により得た情報は、自社のマーケティング戦略に生かすことができる他、隠れた競合企業の発見にも繋がります。
競合調査と市場調査の違い
競合調査と混同されがちなのが「市場調査」です。言葉は似ていますが両者は調査対象や実施目的が異なります。
競合調査が競合他社と自社の商品・サービスを比較するのに対して、市場調査は名前の通り市場を調査します。そのため、マーケットリサーチとも呼ばれます。
競合調査は、競合他社との比較により強みと弱みを把握したうえで競合他社と差別化するためのマーケティング戦略を考えることが目的です。一方、市場調査は市場全体の動向や、消費者のニーズを把握するために実施されます。調査で得られた情報は、新商品の開発や改善に生かされます。
競合調査を行う目的・メリット
競合調査を行うメリットは複数あります。1つ目が、他社の製品・サービスと比較した自社の強みと弱みを把握できることです。同時に競合他社の強みと弱みも把握できるので、差別化を図るための戦略も立てやすくなります。
2つ目は、今後競合となる可能性のある企業を早期発見できることです。その企業が成長したときに備えて自社のシェア拡大や独自性の発揮など、事前に対策を行うことができます。
競合他社より優位なポジションを確保するためには、広範囲での競合調査を行い、自社の強みと弱みを把握しておくことが重要です。
競合調査のやり方・流れ
闇雲に競合調査を行っても、有益な比較検討はできません。競合調査には、目的の明確化から調査対象の選定、仮説立案、データ収集、比較分析まで基本的な流れがあります。一連の流れに沿って実施しましょう。
- STEP1.競合調査を行う目的・ゴールを明確にする
- STEP2.調査する競合をピックアップする
- STEP3.仮説を立てる
- STEP4.データを集める
- SETP5.仮説とデータの分析を行う
STEP1.競合調査を行う目的・ゴールを明確にする
競合調査を行う前にまず決めておきたいのが、実施目的とゴールの明確化です。
目的なく調査を進めてしまうと調べる項目が多くなるうえ、検討するべき情報も多くなってしまいます。競合調査により得られた情報を有効活用できず、かけた時間とコストが無駄になってしまうことも。
ビジネスモデルの改善・再考、事業戦略の立案など具体的な目的とゴールを定めてから、競合調査を進めましょう。
STEP2.調査する競合をピックアップする
目的が決まった後は、調査する競合をピックアップします。最低でも3〜5社ほどベンチマークするのが基本です。同様の商品・サービスを取り扱っていることに加えて、同じ市場を共有しているかという観点からも競合他社を洗い出すことができます。
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業界トップの企業
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同価格で商品を展開している企業
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マーケティング戦略が似ている企業
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安価で高品質な商品を展開している企業
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シェア率が低い企業
片っ端から調査するとなると時間がかかりすぎてしまいます。上記のポイントを意識して調査対象を絞りましょう。
STEP3.仮説を立てる
3〜5社ほどベンチマークする企業を決めた後は、データ収集の前に仮説を立てます。実際にデータを収集し、分析を行うのはここで立てた仮説を検証するためです。
仮説を立てるには、まず自社の強みと弱みを洗い出します。そのうえで「◯◯なのは、◯◯だからだ」という形で仮説を立てます。
仮説があることで調査するべき内容がより明確になり、効率良く調査ができます。
STEP4.データを集める
次に、仮説に基づいて競合調査を行います。データの収集方法はさまざまです。競合他社のホームページや公開している情報をリサーチしたり、直接訪問したりする収集方法が一般的です。ほかにも、アンケート調査や企業をよく知る人へのヒアリングなどが挙げられます。
SETP5.仮説とデータの分析を行う
必要なデータを収集したら、データ分析と仮説検証を行います。ここまでの調査から分析までの一連の流れを「実査」と呼びます。
データ分析による答えを照らし合わせることで、仮説が正しかったのかが明らかになります。仮説が誤っていた場合にはその要因を洗い出し、新たな仮説を立ててから再度競合調査を行います。
実査は繰り返し行いましょう。戦略の正しい方向性や誤ってしまった要因が明らかになるため、より有効な事業戦略を立てる際の判断材料にもなります。
競合調査を行うときのテンプレート・項目
競合調査は無闇に行うものではなく、調査すべき基本項目が大体決まっています。テンプレート化しておくとさまざまな調査時に汎用できて便利です。5つの基本項目と調査時のポイントを解説します。
ビジネスモデル・マネタイズ方法
ビジネスモデルとは、収益を上げる仕組みのことです。マネタイズは、収益を上げる方法のことを指します。ビジネスモデル・マネタイズ方法の項目では、主に以下のポイントを調査します。
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事業規模
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経営方針
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商品展開
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顧客層
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集客方法
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販売・サービス経路
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マーケティング戦略
自社のビジネスモデルやマネタイズ方法に近い企業をリストアップし、7項目を調査・分析しましょう。
商材の内容
商材の内容を調査する場合は、主に以下のポイントを調査します。
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価格帯
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商品・サービスの種類
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接客対応
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アフターサービス
自社商品やサービスと項目ごとに比較するのではなく、包括的に比較分析することが大切です。実施調査や覆面調査、アンケート調査などの方法が考えられます。
Webサイト・Webマーケティング手法や販売戦略
自社のWebサイト・Webマーケティング手法や販売戦略を見直す際は、競合他社のサイトやマーケティング手法を調査・分析しましょう。主に、以下の項目をチェックします。
<Webサイト・Webマーケティング手法>
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サイトのUI/UX
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コンテンツの量と質
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購入や問い合わせのしやすさ
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ターゲットの属性
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使っている画像や動画の量と質
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サイトと連携しているSNSの種類
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広告の有無
現代において、ユーザーが使いやすいWebサイトの制作は必須事項となっています。使いやすくわかりやすいWebサイトを作ることができれば、売上や利益にも繋がります。Webサイトでの売上が高い競合他社を調査し、サイト制作時の参考としましょう。
<販売戦略>
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販売方法
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販売実績
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業界シェア
販売戦略は売上に直結する部分なので、比較分析は詳細に行いましょう。徹底した比較分析により、期待した成果が出ない原因が見つかる可能性があります。
人事戦略
人事戦略とは、組織の生産性を高めるための人事分野における戦略のことです。人材の採用・育成・配置・定着・給与体系など、人事業務の改善を行うことを目的に戦略が立てられます。自社の人事制度を見直す際は、以下の項目をチェックしましょう。
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従業員の人数・割合
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雇用形態
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給与体系
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福利厚生
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採用方法
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人生体制
競合他社のWebサイトに掲載されている採用ページをチェックしたり、採用人事担当者のインタビュー記事を探したりと、多くはないものの調査方法はいくつかあります。人事戦略のノウハウはあまり出回っていないので、さまざまな調査方法を実施しましょう。
商流
商流とは、ビジネスの流れのことです。商品の企画・開発・販売・アフターサービスまでの一連の流れを指します。自社の商流の改善を検討している場合に調査したい項目です。
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業務委託時の契約
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受注・発注の方法
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トラブル発生時の規定
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改修の必要がある場合の分担
参考になるのは、商流がテンプレート化している競合他社です。商流が定型化している企業は利益率が高い傾向にあるので、その視点で調査分析を行うのもひとつの方法です。
競合調査に使えるフレームワーク
効率的かつ客観的に競合調査をするには、フレームワークを使うのが一般的。数あるマーケティング戦略の分析手法のなかでも、基本的かつ使いやすいフレームワークをご紹介します。
SWOT分析
「SWOT分析」は、既存事業の現状把握に使えるフレームワークです。「Strength」「Weakness」「Opportunity」「Threat」の4点を洗い出すことから、その頭文字を取って「SWOT(スウォット)」と呼ばれています。
SWOT分析では、内部環境を「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」、外部環境を「Opportunity(機会)」「Threat(脅威)」と、それぞれマイナス要因とプラス要因のカテゴリに書き出した後、クロス分析を行います。
4つの要素を整理し、分析することで既存事業の改善点が見つかります。競合と比較した際の自社の優位性や将来的なリスクなどを把握することも可能です。
バリューチェーン分析
「バリューチェーン分析」は、自社の事業活動を工程ごとに分析するフレームワークです。バリューチェーンは日本語に訳すと「価値連鎖」という意味を持ちます。事業活動を価値創造のための一連の流れと捉える考え方のことで、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーター氏が提唱した概念です。
バリューチェーン分析では、既存事業を主活動と支援活動の2つに分け、各工程でどのような価値を創造しているかを分析します。バリューチェーン分析を活用すると自社の強みと弱みを把握できるほか、無駄なコストの削減や経営資源の適切な分配が可能になります。
5フォース分析
「5フォース分析」は、自社事業の戦略を策定する際に活用されているフレームワークです。アメリカの経営学者であるマイケル・ポーター氏が提唱した概念のひとつとして知られています。
「フォース」は「force」のことで、日本語で「脅威」を意味します。5フォース分析では、既存競合他社・売り手の交渉力・買い手の交渉力・代替品・新規参入の5つの要素を分析し、自社の脅威を把握します。同時に業界内での自社の強みや課題発見も期待できます。
3C分析
「3C分析」は、市場環境を分析する際に使われているフレームワークです。数あるフレームワークのなかでもよく知られており、マーケティング分野において基本的な分析手法です。
3C分析のCは「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」の3つから頭文字を取っています。顧客と競合は外部環境、自社は内部環境と分類でき、この両面から事実に基づいた分析を行うことで、自社の優位性を確保した事業計画やマーケティング戦略を立てられるようになります。
4P・4C分析
4P分析と4C分析は、どちらもマーケティングの分析手法です。
4Pは「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通)」「Promotion(販促)」の単語から頭文字を取っています。どのような製品をどのような価格で、どのように提供し、どのように販促するのか、4つの視点から考えることで、マーケティング戦略の立案が可能になります。
一方、4C分析は顧客視点でマーケティング戦略を考えるときに使われるフレームワークです。4Cは「Customer Value(顧客価値)」「Cost(顧客コスト)」「Convenience(利便性)」「Communication(コミュニケーション)」から頭文字を取っています。
4P分析が自社視点であるのに対して、4C分析は顧客視点なのが特徴。市場が成熟しサービスが豊富な現代で自社製品の優位性を確保するには、4P分析と4C分析のマーケティングミックスにより、利益の最大化を目指す必要があります。
ポジショニングマップ
「ポジショニングマップ」は、縦軸と横軸の2軸を策定した4象限マトリクスを用いて、自社製品の競合優位性を明確化する目的で使われるフレームワークです。業界での自社のポジションをマップで視覚的に把握できます。
ポジショニングマップを作成する際は「KBF比較表」を用います。KBFとは購買決定要因のことで、消費者が購入を決定する場合に重視しているポイントです。インタビューやアンケートを実施してKBFを洗い出し、競合他社と自社を「・◯・△・×」の記号で評価します。自社商品の隠れた優位性や魅力を見つけるのに役立つフレームワークです。
競合調査をするときの注意点
社内で競合調査を実施する際に、注意しなければならないポイントが2つあります。この注意点を理解したうえで、競合調査を進めましょう。
不正競争防止法など違法となる手段で行わない
不正競争防止法とは、公正な競争を妨げるような行為を規制することを目的とした法律のことです。例えば、自社の機密情報が競合先に流出したり、特徴的なデザインの他社製品を模倣して流通させたり、実際とは異なるデータを提示して商品を販売したりなど、さまざまなケースが不正競争防止法に違反します。
競合調査は競合の情報をなんらかの方法で収集し、分析を行います。内部の機密情報を違法に取得すると実刑判決が下る可能性もあります。手段には十分に注意し、違法とならない方法で競合調査を行いましょう。
時間的・金銭的なコストがかかる
競合調査は、時間的・金銭的なコストがかかるのが注意点。分析を行うには業界内のさまざまな情報を収集し、それを元に仮説を立てなければなりません。調査にはある程度の時間を要するうえ、それらを行う人材も確保しなければならず、人材コストもかかります。
市場は変化が激しいため、競合調査は定期的に行う必要があります。競合調査を行う人材と時間の確保ができるのであれば社内で実施しても良いですが、継続して行うのが難しい状態なのであれば、かけたコストと時間が無駄になってしまう可能性も考えられることは留意しておきましょう。
競合調査をするときのコツやポイント
競合調査は自社と競合の差別化を図り、市場でのシェアを獲得・拡大するために必要な工程です。時間やコストをかけて実施するため、高い成果が求められます。コツやポイントをおさえて、自社にとって有益となる競合調査を行いましょう。
ポイント1.実施目的を明確にし、必要な調査内容とゴールを決めてから行う
競合調査を行うときの1つ目のポイントは、実施目的を明確にし、必要な調査内容とゴールを決めてから行うことです。
競合調査に限ったことではありませんが、調査実施前には必ず目的を明確にする必要があります。目的に応じて、必要な調査内容やゴールが定まります。調査した内容を何に役立てるのかを具体化させておかなければ、競合他社に対して有効な打ち手・対策を行うことはできません。
競合調査においては、ビジネスモデルの改善や商流の見直し、戦略の改善などが実施目的として挙げられます。そのほかにも、コーポレートサイトの改善や顧客満足度の向上という目的も考えられます。
ポイント2.定期的に行う
競合調査を行うときの2つ目のポイントは、定期的に行うことです。
競合調査は単発ではなく、定期的に実施することを前提として行うものです。市場は常に変化し続けているため、一度した競合調査による分析の見直しが求められるケースは珍しくありません。定期的に実施できるリソースを確保したうえで、競合調査を始めましょう。
ポイント3.競合調査の専門家に依頼するのも方法
競合調査を行うときの3つ目のポイントは、競合調査の専門家に依頼することも方法のひとつということです。
もし社内リソースを確保できない場合は、外注するのもひとつの選択肢です。その分、コストはかかりますが、競合調査を専門とした調査機関や調査専門会社であれば、ある程度しっかりとした成果を期待できます。コストをかければ定期的に依頼もできるので、変化する市場に対応した戦略や対策を打ち出せます。
競合調査を依頼するときの料金の目安
競合調査を外部に依頼するときの料金の目安は、調査代行会社が50〜100万円以上、コンサルティング会社が数十万〜数百万円です。
調査代行会社は主に、市場調査・覆面調査・ネットリサーチなどを通して競合調査を行います。そのため比較的コストをおさえて依頼ができます。
一方、コンサルティング会社の場合は、マーケティングや経営のコンサルタントを行う一環として、競合調査を行います。競合調査のみは断られるケースが多いため、コンサルティングと共に調査を依頼する必要があります。その分費用がかかります。
「調査」のみで終わらないよう、競合調査の目的を明確にしたうえで実施しよう
- 事業戦略の見直しや再考をする際に競合調査は必須事項
- 競合調査の基本の流れをおさえておくことで、有益な調査が行える
- データ分析にはマーケティングのフレームワークを活用しよう
競合調査で一番避けたい失敗は「調査」のみで終わってしまうことです。そうした失敗をしないようにするには、実施目的とゴールの明確化が大切。競合調査は時間もコストもかかる作業です。
ただ実施するのではなく、なぜ調査が必要なのか、そして調査結果を何に役立てたいのかを明確にしたうえで、有益な競合調査を行いましょう。
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