マーケティング分野でよく耳にする「インサイト」。洞察や見識などの意味を持つ単語ですが、マーケティングにおいては潜在意識や隠れた心理を意味する言葉として用いられています。
市場が成熟し、さまざまな特徴を持つ商品を購入できる現代では、消費者のインサイトを理解したマーケティング戦略が商品の売れ行きを左右します。本記事では、マーケティング分野の「インサイト」について基本を解説。顧客インサイトを掴むための調査方法や3つのポイントについてもご紹介します。
- インサイトとニーズの違いとは?
- インサイトを掴んだマーケティングの成功事例
- インサイトを掴むための5つの調査方法
インサイトとは
インサイトとは、人の深層心理にある本当の欲求や動機、つまり潜在意識のことを指すマーケティング用語です。人が意識できる部分は顕在意識、人が意識できない部分を潜在意識と呼び、人の意識の90%以上は潜在意識であると言われています。
インサイトは、マーケティング分野では顧客インサイトや消費者インサイトなどとも呼ばれます。購買行動の根底にはインサイトがあり、売れる商品を生み出し競合他社と差別化を図るには、そうした消費者インサイトを把握・理解する必要があります。
マーケティング戦略でインサイトが重視されている背景
マーケティング戦略でインサイトが重視されている背景には、市場に出回っている商品が多く、機能や品質をアピールするだけでは消費者の購買意欲を高める効果を期待できないことが関係しています。
市場が成熟した現代では、手頃な価格ながら高品質な商品が溢れています。商品が均質化されているため、消費者はどの商品を選んでも自身のニーズを簡単に満たすことができます。
消費者インサイトを深堀し、消費者自身も気づいていない欲求に答えることで、新たな需要を開拓することが可能。インサイトは、成熟した市場において自社のポジションを強化するために重要な要素です。
インサイトを掴んだマーケティング事例
消費者インサイトを掴み、ヒット商品を生み出すには何をしたら良いのでしょうか。参考となる、インサイトを掴んだマーケティング事例を3つご紹介します。
健康志向だけでなくプレミアム感を打ち出したカップラーメン
従来、若者が食べるジャンクフードという印象が強かったカップラーメン。日清食品がシニア向けとして作った新商品「カップヌードル リッチ」シリーズは、発売7ヶ月で販売累計1400万食を記録し、瞬く間にヒット商品となりました。
シニア向けの商品と言えば、最初に思いつくのは健康志向の商品です。日清食品は今までにも健康志向の商品を数多く発売してきましたが、どれもヒットにはいたりませんでした。シニアは何を求めているのか。60代以上の消費者にインタビューを重ねることで見えてきたのが、揚げ物を好むシニアの姿でした。
こうして、健康志向でありながら欲求のままに食を楽しむシニア像に、彼らが好む「リッチ」というキーワードを組み合わせて生まれたのが「カップヌードル リッチ」シリーズ。ステレオタイプの決めつけをやめ、ターゲットのニーズをしっかりと掴むことでヒット商品を生み出したマーケティングの好事例です。
参考:日清食品「カップヌードル初の高価格設定で新たな市場を開拓 「カップヌードル リッチ」 が発売7カ月で販売累計1,400万食を突破!」
参考:高級カップ麺はいかにしてシニアのハートと胃袋を掴んだか
「おひとりさま」を気後れさせない店舗設計
おひとりさまでも入りやすい定食チェーンとして知られる大戸屋。2017年に創業60周年を迎えた老舗のチェーン店です。今でこそ、年齢や性別を問わず1人でも楽しめる定食チェーンとして知られていますが、2000年代初期はまだ「定食屋=男性」というイメージが強く、女性は入りにくいと言われていました。
大戸屋はそういった女性やおひとりさまのインサイトに着目し、意図的に2階や地下に店舗を構えるマーケティング戦略を実施。これにより人の目線を気にせず利用しやすい定食屋として女性やおひとりさまからの人気を獲得しました。
参考:マネーポストWEB「大戸屋が愛される理由 野菜メニュー豊富で女性客を意識」
汚れ落ちだけでなく匂いに注目した洗剤
洗剤や石鹸などの製品を展開する株式会社LIONは、主婦のインサイトから衣料用洗剤「トップ ナノックス」を開発。2010年1月に発売してから半年で約1400万個を売り上げるヒット商品となりました。
株式会社LIONの開発担当者は、2007年から定期的に洗濯に対する強いこだわりを持つ主婦を集めてグループインタビューを実施していました。グループインタビューはアンケートの回答ではわからないインサイトを調べる方法として非常に有効です。その調査により同社は、消費者が洗剤に求める機能や特徴が変化していることを突き止めました。
定期的な調査を行うことで消費者の変化をうまく捉えた、マーケティングの好事例です。
参考:日経XTECH「第5回 定性調査で引き出した主婦の「コンパクト」「におい取り」欲求」
インサイトとニーズの違い
「インサイト」と「ニーズ」は同じ意味で使われることの多い言葉ですが、実は意味が異なります。
インサイトは日本語で「洞察」「見識」などの意味を持ちます。マーケティングにおいては、消費者の隠された心理や潜在意識を表す言葉として使われます。消費者自身も気づいていない動機や本音を意味する際に使われる言葉です。
一方、ニーズは日本語で「需要」「欲求」「必要」などの意味を持ちます。インサイトが潜在意識であるならば、ニーズは顕在意識。消費者は自身のニーズに気づいており、インタビューやアンケートで明確に回答することができます。
インサイトもニーズもマーケティング戦略を策定するうえでは大切な要素のひとつです。しかし、消費者の顕在化した意見だけを商品開発に取り入れても、なかなか大きな成果は出せません。インサイトとニーズの両方を把握する必要があります。
インサイトを掴むための調査方法
消費者のインサイトを掴むにはどのような調査方法があるのでしょうか。分析を行うには、定量・定性の両方の情報を収集することが大切です。インサイトを掴むのに活用できる調査方法を5つご紹介します。
アンケート・インタビュー調査
インサイトを掴むための調査方法のひとつとして、アンケートやインタビュー調査があげられます。アンケートは定量的なデータを、インタビューは定性的なデータを集めるのに便利です。
インタビュー調査は、個人インタビューとグループインタビューの2種類があります。特にグループインタビューは周りに合わせた発言をしやすい傾向にあります。表面的なインタビューにならないように、調査対象者の本音を引き出せるようなインタビュー内容を意識しましょう。
ソーシャルリスニング
ソーシャルリスニングは、X(旧Twitter)やInstagram・FacebookなどのSNSに投稿されている消費者の声を調査し、インサイトを掴む方法です。ハッシュタグ検索やキーワード検索を利用して、特定の商品やブランドに対する消費者の本音や意見を収集します。
ソーシャルリスニングにより消費者のリアルな声を集め、投稿の傾向を分析することで消費者インサイトの手がかりをつかめます。
フレームワーク
インサイトを掴むためにフレームワークを活用するのもおすすめです。よく使われているフレームワークには「カスタマージャーニーマップ」や「共感マップ」などがあります。
カスタマージャーニーマップは、消費者の購買プロセスを可視化する際に使われるフレームワークです。一方、共感マップは消費者が置かれている状況や思考を図でまとめる際に使われるフレームワークです。
ユーザー行動の観察
インサイトを掴むには、ユーザーの行動を観察することも大切です。オンラインでの行動観察と、オフラインでの行動観察の2種類があります。
オンラインでの行動観察は、UI・UXテストが一般的です。オフラインでの行動観察は、実際に店舗に足を運び消費者の買い物の様子を観察したり、ターゲット層である消費者の日常生活や行動を観察したりする方法があげられます。
オンライン・オフラインのどちらも消費者の行動の理由を考えながら観察を行うことで、消費者も気づいていない潜在意識を見つける手がかりを得られます。
コラージュエクササイズ
コラージュエクササイズは、消費者の潜在的な欲求を把握するのに役立つインサイト調査方法です。関連する数百枚の写真を用意し、与えたテーマに近いイメージの写真を選んでコラージュを作ってもらいます。複雑化・多様化している消費者行動の分析や潜在意識を探るのに役立ちます。
インサイトを掴むときの3つのポイント
インサイトは分析者の視点や分析方法に依存する傾向があります。誰でもインサイトを掴めるように、情報収集や調査、分析時のポイントを押さえておきましょう。
- ポイント1.目新しい革新的なものではなく、小さな因果関係を見つける
- ポイント2.複数の調査方法を組み合わせて検討する
- ポイント3.分析ツールを活用する
ポイント1.目新しい革新的なものではなく、小さな因果関係を見つける
インサイトを掴むときの1つ目のポイントは、目新しい革新的なものではなく、小さな因果関係を見つけることです。
消費者インサイトは小さな因果関係の先に存在します。大切なのは、調査を行った際に気づいた矛盾や葛藤、ふとした行動に着目して理由を深堀することです。
革新的なインサイトを見つけようと探してしまうと、目の前に現れている小さなインサイトを見つけられなくなってしまいます。固定概念は捨てて、小さな違和感や気づきを大切にしましょう。
ポイント2.複数の調査方法を組み合わせて検討する
インサイトを掴むときの2つ目のポイントは、複数の調査方法を組み合わせて検討することです。
インサイトを掴むための調査はいくつかの方法を組み合わせましょう。1つの方法だけでは情報に偏りが出てしまいます。
例えば、アンケートやインタビューは本音を聞けているようで、深層心理は表面化しにくい特徴があります。行動観察と組み合わせることで、消費者の意見と行動の間に生じるギャップに気づくことができ、そこから消費者インサイトを見つけ出せます。
ポイント3.分析ツールを活用する
インサイトを掴むときの3つ目のポイントは、分析ツールを活用することです。収集した情報量が膨大な場合、手動では分析に時間がかかりすぎてしまいます。人によって分析結果の偏りも発生してしまいます。
分析ツールを使うと作業を効率化できます。具体的には、アクセス分析ツール、カスタマーデータプラットフォーム(CDP)、プライベートデータマネジメントプラットフォーム(プライベートDMP)などがあります。
顧客インサイトを掴んでマーケティング戦略を検討しよう
- 新たな需要を作り出すためマーケティング戦略にインサイトを盛り込もう
- インサイトは潜在意識、ニーズは顕在意識という違いがある
- インサイトを掴むための調査は複数の方法を組み合わせよう
顧客インサイトを得るには、調査と分析にある程度の時間を要します。時間はかかるものの、消費者の潜在意識を深堀し、深層心理にある欲求を把握することができれば、ヒット商品の企画開発も期待できます。顧客インサイトを掴み、本当の欲求を満たすことのできるマーケティング戦略を検討してみてください。
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