新規顧客の開拓と同時並行で実施したいのが、購入を決定した顧客に対して関連商品を提案する「クロスセル」です。顧客単価を上げる営業手法として知られていますが、クロスセルを成功させるにはいくつか押さえておきたいポイントがあります。
本記事では、そんな「クロスセル」について解説。関連用語であるアップセルやダウンセルとの違いから、クロスセル施策の事例まで基本的な知識をご紹介します。
- クロスセルのメリットとは?
- クロスセル施策を実施する際に役立つフレームワーク「LWP分析」
- クロスセル戦略を成功に導く7つのポイントを解説
クロスセルとは
「クロスセル」とはマーケティング用語のひとつで、製品の購入を検討している顧客に対して関連する製品を提案し、まとめて購入してもらう営業手法のことです。新規の顧客を開拓せず客単価をあげることで利益を向上させられるのが特徴です。
例えば、飲食店で料理の注文時に「飲み物もいかがですか?」と声をかけたり、スマホの購入時にWi-Fi回線の契約をセットで提案したりなど、実はクロスセルは日常的によく使われています。
クロスセルと関連用語との違い
営業活動を行う際、客単価向上の目的で活用されているクロスセル。同じ営業手法として「アップセル」「ダウンセル」という関連用語があります。それぞれどのような効果が期待できて、どのような目的で使われるのか違いを解説します。
アップセル
「アップセル」は、顧客が購入を検討している製品よりも上位の価格帯に位置する製品を提案する営業手法です。クロスセルと同様に客単価を向上させられるのがメリットです。
例えば、10万円のノートパソコンの購入を検討している顧客に対して、高機能を備えた15万円のノートパソコンの購入を促すことはアップセルと言えます。
クロスセルは複数の製品の購入を促して客単価アップを狙いますが、アップセルはより高単価の商品を購入してもらい、客単価向上を狙います。
ダウンセル
「ダウンセル」はアップセルとは逆で、購入を検討している製品の下位モデルにあたるものを提案する営業手法です。
予算に合っていなかったり希望価格に見合っていなかったりなどの理由で購入を見送ろうとしている顧客に対して、離脱を防ぐ目的で活用されています。
クロスセルは客単価を向上するための手法。一方、ダウンセルは顧客の離脱を避けるための手法であり、目的が異なるのが2つの違いです。
クロスセル施策を実施するメリット
クロスセルは顧客単価を上げるための施策として認知されていることが多い手法ですが、ほかにもさまざまなメリットが得られます。効果を最大化するためにも、どんなメリットがあるのかを理解しておきましょう。
- メリット1.顧客単価が向上する
- メリット2.単品では売りにくい商品やサービスを販売できる
- メリット3.リピートにつながる
- メリット4.顧客満足度やブランド認知度が向上する
メリット1.顧客単価が向上する
クロスセル施策を実施する1つ目のメリットは、顧客単価が向上することです。すでに紹介したように、クロルセルは、購入を検討している顧客に対して追加で商品を提案し、複数のものの購入を促す営業手法です。
新規顧客を獲得したり、販促活動をしたりすることなく顧客単価を向上させられるのは大きなメリット。効率的に利益向上を目指せます。
メリット2.単品では売りにくい商品やサービスを販売できる
クロスセル施策を実施する2つ目のメリットは、単品では売りにくい商品やサービスを販売できることです。
クロスセル施策は、単品では購買に繋がらない商品やサービスを販売するのにも効果的。セット品として販売し、セット購入時には通常価格より数%値引きする条件を付けることで、顧客単価を向上しつつ、売りにくい商品の販売実績もアップさせられます。
メリット3.リピートにつながる
クロスセル施策を実施する3つ目のメリットは、リピートにつながることです。クロスセルは顧客のニーズを汲み取り、適切な関連商品をレコメンドすることができればブランドへの信頼関係構築にも繋がります。
例えば、過去に購入したものや購入時に話していた内容を営業担当者が覚えていて、顧客の課題解決に繋がるようなクロスセルの提案を的確に行うことができれば、顧客満足度が向上します。そこからリピートに繋がる可能性も考えられるでしょう。
メリット4.顧客満足度やブランド認知度が向上する
クロスセル施策を実施する4つ目のメリットは、顧客満足度やブランド認知度が向上することです。
クロスセル施策を実施する際、自社のメリットを大きくすることだけを考えるのではなく、顧客にもメリットを感じてもらえるような提案が大切になります。
面倒な手間を減らせたり、課題を解決できたり、金銭面で得をしたりと、さまざまなメリットが考えられます。クロスセルによりそうしたメリットを顧客が得られれば顧客満足度の向上が期待できます。口コミやSNSなどに投稿してくれる顧客がいれば、認知度向上にも繋がるでしょう。
クロスセル施策を検討するときに役立つLWP分析とは
クロスセル施策を検討するときには、「LWP分析」とよばれるフレームワークが役に立ちます。クロスセル施策の効果が期待できる顧客に優先順位を付け、効率的にアプローチするのに役立ちます。誰でも容易に扱えるフレームワークの内容を解説します。
List:顧客リスト
LWP分析のLは「List」から頭文字を取っており、顧客リストのことを意味します。クロスセルを活用した営業活動を行う顧客をリストアップします。
最終的に顧客はランク付けをし、2軸でマッピングするため、とりあえず既存顧客を漏れがないように洗い出しましょう。
What:内容
LWP分析のWは「What」の単語から頭文字を取っており、行動内容や内容を意味します。リスト化した既存顧客のこれまでの行動内容を整理し、フラグを付けておきます。
例えば、アプローチした際の反応や直近の行動などがあげられます。クロスセル施策を行った場合に効果があるかどうか、既存顧客のポテンシャルを示す項目です。ポテンシャルの高低がわかるように2種類のフラグを付けましょう。
Pace:頻度
LWP分析のPは「Pace」です。行動頻度を意味し、既存顧客との接点や接点の頻度についてを示す項目です。行動内容と同様に、頻度の高い・低い顧客が明確にわかるようにフラグは2種類付けましょう。
フラグを付け終わった後は、「実績」と「拡大余地」の2軸のポジショニングマップを作り、既存顧客に付けたフラグを元にマッピングします。これによりクロスセルを実施する企業の優先度がA〜Dで表せるので、効率的にアプローチを行えます。
クロスセル施策の事例
クロスセル施策を取り入れる際、大きく3つの方法があります。自社製品やサービスの特徴にあわせて、施策の方向性を定めましょう。クロスセル施策の参考となる3つの事例をご紹介します。
事例1:関連商品や、人気商品のレコメンド
クロスセル施策の1つ目の事例は、大手ECサイトの関連商品や人気商品のレコメンド機能です。
顧客の過去の閲覧履歴や購入履歴などから、興味・関心を持ちそうな商品をレコメンドすることがこれにあたります。例えば、ECサイトで書籍を購入した顧客に対して、同じ著者のほかの書籍を提案します。同系列の商品ほど追加で購入される可能性が上がります。
事例2:補助・補完商品やサービスのレコメンド
クロスセル施策の2つ目の事例は、補助・補完商品やサービスのレコメンドです。
補助・補完商品やサービスのレコメンドは、購入することで得られるメリットを提示できるかどうかが成功を左右します。
例えば、スマホ契約時にスマホの保証サービスを提案することがこれにあたります。万が一、故障した際の修理費と保証サービスに加入している際の修理費に大きな差があれば、顧客はレコメンド商品の購入を前向きに検討するでしょう。
事例3:セット購入でのボリュームディスカウントやメリット・特典の提示
クロスセル施策の3つ目の事例は、セット購入でのボリュームディスカウントやメリット・特典の提示です。
わかりやすい例で言うと、ファーストフード店のセットメニューがあげられます。単品の価格とセットで購入した際の価格を顧客が容易に計算できるため、お得であることを理解してもらいやすいのが特徴です。
クロスセル戦略を成功させるための7つのポイント
クロスセル戦略は実施前に押さえておきたい点がいくつかあります。成功を左右するポイントなので、一つひとつ理解したうえで施策を行いましょう。クロスセル戦略を成功に導く、7つのポイントを解説します。
- ポイント1.顧客情報を収集・分析する
- ポイント2.購入までのシナリオを作成し、提案タイミングを見極める
- ポイント3.押し売りにならないように注意する
- ポイント4.効果検証を継続的に行う
- ポイント5.アクセス解析やCRMツールを活用する
- ポイント6.顧客満足度・ロイヤルティ向上施策を並行して行う
- ポイント7.アフターフォローやナーチャリングの実施
ポイント1.顧客情報を収集・分析する
クロスセル戦略を成功させるための1つ目のポイントは、顧客情報を収集・分析することです。クロスセルを実施する際に必ずやっておきたいステップのひとつで、LWP分析を活用します。
LWP分析により作成した顧客リストを元に、顧客の属性や過去の購入履歴、問い合わせ内容、直近のアクセス状況などの情報を収集します。その後、情報から顧客に優先順位づけを行い、実績が多く拡大余地も高い企業からアプローチをしていきましょう。
ポイント2.購入までのシナリオを作成し、提案タイミングを見極める
クロスセル戦略を成功させるための2つ目のポイントは、購入までのシナリオを作成し、提案のタイミングを見極めることです。
購入までのシナリオとは、販促プランのことです。例えば、A商品を購入する方はB商品もセットで購入している確率が高いというデータが出ているのであれば、今後A商品を購入する顧客にはB商品を提案するというプランが立てられます。
実施するタイミングも重要です。クロスセルは成功率が高くなるタイミングがあるといわれており、それは顧客の購買意欲が高まっているときです。一般的には、顧客が購入を決めた直後と顧客満足度が高まったときが購買意欲が高くなるといわれているので、その機会を逃さないようにしましょう。
ポイント3.押し売りにならないように注意する
クロスセル戦略を成功させるための3つ目のポイントは、押し売りにならないように注意することです。
クロスセルは成功すれば顧客単価が上がり、全体の売上向上に繋がります。一方で、利益を上げることを目的にしすぎてしまい、相手が求めていない製品をしつこく提案すると顧客離れが発生してしまいます。
相手が何を求めているのかを見極めて、その手法としてクロスセルが適当であるならば積極的に行動しても良いですが、押し売りになりそうな場合は避けましょう。
ポイント4.効果検証を継続的に行う
クロスセル戦略を成功させるための4つ目のポイントは、効果検証を継続的に行うことです。
どんな施策にもいえることですが、効果検証を継続的に行うことは大切です。効果検証により、クロスセルに適した製品やサービスが多く見つかったり、逆にクロスセルで成果が上がりにくい製品を洗い出せたりします。
期間を決めて実施と効果検証のPDCAサイクルを回しましょう。
ポイント5.アクセス解析やCRMツールを活用する
クロスセル戦略を成功させるための5つ目のポイントは、アクセス解析やCRMツールを活用することです。
クロスセルの成功率を高めるのであれば、顧客データの収集や解析にはツールを使うのがおすすめです。情報の収集には自社サイトのアクセス解析機能が、そうした情報の一元化にはCRMツールが適しています。
客観的なデータを元に施策を考えることで、効果的なアプローチができるほか、効果検証もしやすくなります。
ポイント6.顧客満足度・ロイヤルティ向上施策を並行して行う
クロスセル戦略を成功させるための6つ目のポイントは、顧客満足度・ロイヤルティ向上施策を並行して行うことです。
クロスセルは顧客満足度やロイヤルティが高いほど成功する可能性が上がります。クロスセル施策と顧客満足度向上施策を同時並行することで、相乗効果を期待できるでしょう。
顧客満足度向上施策としては、サービスの質とタイミングの安定性を確保することが上げられます。提案する関連商品の質を高めたり、提案するタイミングに一貫性があると顧客にとってメリットが高いため、顧客満足度が向上しやすくなります。
自社製品やサービスに合わせた顧客満足度・ロイヤリティ向上施策を行いましょう。
ポイント7.アフターフォローやナーチャリングの実施
クロスセル戦略を成功させるための7つ目のポイントは、アフターフォローやナーチャリングの実施です。
クロスセルが成功した後のアフターフォローも大切です。製品やサービスについての質問に対して迅速かつ丁寧に対応したり、不具合がないかヒアリングしたりしましょう。
同時にナーチャリングの実施も検討してみてください。ナーチャリングとは、見込み顧客を購入する状態まで育成したり、既存顧客をリピーターとして育成したりする顧客育成のことです。
商品の説明会やウェビナーを定期的に開催する方法が考えられます。自社製品をより理解してもらうためにできることを行いましょう。
自社の顧客を分析し、クロスセル戦略を検討しよう
- 既存顧客の単価を上げるにはクロスセル戦略が効果的
- 押し売りにならないようにタイミングと顧客のニーズを把握したうえで実施しよう
- 顧客満足度向上施策も行うと相乗効果でクロルセルが成功しやすくなる
クロスセルは顧客単価を上げる目的でよく使われていますが、闇雲に実施しても効果は上がりません。施策を実施する前には必ず自社顧客を分析し、販促計画を立てましょう。新規顧客の開拓と同時並行で既存顧客の顧客単価の向上を狙っているのであれば、本記事を参考にクロスセル戦略をぜひ検討してみてください。
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