HOMECareer Runners クリエイティブとビジネス、どう両立させる?キル フェ ボンの商品企画・開発リーダーに聞くセンスの磨き方 農業や地方活性化への思いも【後編】

クリエイティブとビジネス、どう両立させる?キル フェ ボンの商品企画・開発リーダーに聞くセンスの磨き方 農業や地方活性化への思いも【後編】

足立照三

2023/12/05(最終更新日:2023/12/05)


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アート作品のようなタルトやケーキを世の中に発信し続けている「キル フェ ボン」で、商品の企画・開発で中心的な役割を果たす営業企画管理本部副本部長の柿畑江里さん。

後編では、組織の中でクリエイティブを発揮し続けるために個人で取り組んでいることや、クリエイティブとのバランスをとりながらビジネスとして顧客の支持を集めていくためのポイントをインタビュー。

また、タルトやケーキで使用する希少な農産品の活用を通じた農業や地方の活性化への思いについても聞きました。

前編の「『キル フェ ボン』がアートのようなタルトやケーキを生み出し続けられる訳 商品の企画・開発のリーダーに聞いた舞台裏とキャリアの歩み方【前編】」はこちら

日常からさまざまな価値に触れる

―――商品の企画・開発をリードする立場から、クリエイティブな視点を維持するために普段、どのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。

日常からジャンルを問わず、さまざまな価値に触れるように心がけています。例えば、絵画を鑑賞しに行ったり、アンティークの宝石やクラシックカーなど、古き良きものを見に行ったり。そのほか建築や料理なども。世の中にある素敵なものにどんどん出会っていこうと意識しています。

そして、例えば、そのクラシックカーで車体のここのラインがきれいだなと思ったら、タルトに落とし込むとどうなるんだろうということを四六時中、考えていますね。

アイデアが浮かんだら、忘れないうちに書き留めたりもしています。

―――日常のインプットの連続がタルトやケーキづくりに生かされているのですね。

自然の風景から着想を得ることも多いです。休暇で海に訪れた際、海水が跳ねた時の白波のイメージをタルトに生かせないかと考え、生クリームで表現したこともあります。

クリームを塗る時に使うパレットナイフを動かして試行錯誤するうち、波のように見えるカタチができたことがありますが、リアルにかつ、おいしそうに仕上げるのは簡単ではありませんね。

クリエイティブとビジネスの間で

―――ビジネスにおいては、収益性やコスト、オペレーションの効率なども重視されると思いますが、クリエイティブとビジネスとの両立はどのように考えていますか。

キル フェ ボンは、マーケティング的に「この価格で売りたいからこうしよう」ということよりも、お客さまが「このタルトをぜひ買いたい」と思ってもらえるかどうかを最も大事にしています。

「いいものは売れる」という信念の中で、出来上がったものに価格がつくということが比較的多いです。

ただ、コストは無視できません。いいものだからと言って、価格がいくらでもいいということでもなく、お客さまが買いやすい値段も考えなければなりません。

また、多くの方に届ける上で製造効率も考える必要があります。

そうすると、タルトのこの部分はこういう構造の方がいいよねとか、こんな風に仕上げた方がいいよねという工夫に最大限、知恵を絞ります。そうしたことも、クリエイティブの一環と捉えています。

―――キル フェ ボンは世の中でまだ知られていないフルーツや食材なども積極的に採用していくことでも知られていますが、どのような狙いがあるのでしょうか。

1つは、感動や驚きをお届けしたいという思いがあります。どこでも手に入るものではないものを提案することで、「ぜひ味わってみたい」とお客さまにワクワクするような気持ちになってもらいたいという考えです。

そのため、公式サイトなどを活用し、生産者の皆さまに向けて契約栽培や直接取引きの募集を行っています。新鮮な素材をあらかじめ確保する上でも重要となっています。

農家と連携し、新たな産品で商品開発

―――生産者との連携は、品質が高いゆえに量産ができなかったり、販路が確立できていなかったりする小規模農家の方にとっても心強い取り組みなのではないでしょうか。

今の時代、SNSでさまざまなことが調べられますので、生産者のSNSを拝見して、我々から相談させていただくこともあります。サンプルをお送りいただき、おいしいということが分かれば、数量限定などのかたちでタルトやケーキで商品化します。

生産者が丹精を込めた新しい産品が広まっていくことに協力できることは光栄ですし、何よりお客さまにも喜んでもらえるので、良い形で取り組めているように感じています。

―――タルト作りで生産者と連携した中で印象深いエピソードを教えてください。

2021年の取り組みですが、三重県伊賀市の生産農家の方の「伊賀満点星(どうだん)いちご」というイチゴを使った「三重県伊賀市産 “伊賀満天星いちご”のタルト」というタルトをつくりました。

山間の自然豊かな地で育ち、甘みや酸味、香りなどを兼ね揃えた濃厚な味わいのイチゴです。見た目の発色も濃く、タルトにした時のビジュアルでは光るものがありました。ご縁があって、希少なものだったのですが、使用させていただきました。

発売後の反響も大きかったです。生産者の方からは「周りから多くの声をかけていただくことになりました」と喜んでいただけました。タルトを購入いただいたお客さまにも喜んでもらえて、本当に嬉しく感じました。

三重県伊賀市産 “満天星いちご”のタルト

「仕事を通じどうなりたいか」

―――生産者との積極的な取り組みやコラボレーションが、農業や地方の活性化の一助にもつながっているように思います。

そうですね。その点は我々も意識しています。地域の魅力ある産品を使うことで、お客さまに我が町の食材が「こんなタルトになるんだ」と喜んでもらえますし、生産者の方も口コミで取り組みを広めてくださる。

そうやってファンが増えていくことで、キル フェ ボンのタルトやケーキも広がっていきます。農業や全国の地域も盛り上げたいという思いは常に持っていて、そうした役割を今後も果たしていきたいと考えています。

―――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。

仕事を通じてどうなりたいのかということを持つことが大事だと思います。私は自分が一番好きだったお菓子作りを職業にしようとアルバイトからスタートしました。

そして、自分でやると決めた時には行動も必要です。私にとっては、東京初進出となった青山店の店長に立候補したことが転機となりました。

自分がやると決めたことを小さなことでもいいのでもやり遂げていくことも必要です。会社員として組織の一員である中では、それらを1つひとつ乗り越えていった先に見えてくるキャリアがあると思います。私のタルトやケーキ作りも、これからも続いていきます。

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