田畑やビニールハウスに設置したIoTセンサーが収集した環境データをAIが分析し、最適と判定した栽培方法を農家にスマートフォンアプリやPCを通して提案するサービス「e-kakashi(イーカカシ)」。
発売以降、国内外で約1,000台導入されています。
農業の課題解決に、AIを活用したe-kakashiはどう貢献できるのか。開発者であり、ソフトバンクで事業責任者を務める戸上崇さんにお話を聞いてきました。
e-kakashiとは?
―――e-kakashiはどんなサービスなんでしょうか。
温度や湿度、日射量、土壌の温度といった環境データに加え、発芽や開花、種まきや収穫の時期といった記録をもとに、植物科学の観点でデータ情報を分析処理して、ユーザーに「温度が高すぎますよ」とか「土壌の水が少なすぎるので水をあげた方がいいですよ」とか「あと何日ぐらいで収穫できますよ」などと栽培の意思決定に役立つ情報を提供できるサービスです。
―――農業のどんな問題を解決できるのでしょうか。
基本的には農業が抱える全ての課題です。データをどう活用するかによって、さまざまな課題を解決できるんですよね。
生産性を高めたいときには、秀品率(収穫量に占める良品の割合)を上げるようにします。そうすると、(良品の)収穫量が増え、売り上げが増え、収益の改善につながりますよね。
ほかには、技術継承の課題解決にも役立てられます。
ベテラン農家が、植物の生育環境がどのようなときに、どのような作業をおこなったを紐づけて“見える化”することで、電子マニュアルを作成し、共有する。またワークショップなどでデータの読み解き方を学ぶことで、ベテランと若手の技術のギャップを埋めたり、技術継承にも役立てることができるんです。
(技術継承と生産性向上に使う)データは一緒なんですよ。農業課題全般の解決のために設計されたのがe-kakashiなんです。
大切なのは、“植物目線”
―――e-kakashiの運用において、“植物目線”を大事にされていると聞きました。
植物と環境との関わりや、病気の発生原因などに関する科学(的な知識)をきちんと頭に入れておかないと、データを取るだけで終わってしまいます。
たとえば、その植物にとって、(土壌や水などの)温度がどういう意味を持ってるのか。
“植物にとって、その環境がどうなのか”といった観点がデータを生かすには必要です。
農業ICTの研究は、日本でも2000年ぐらいから始まったと聞いています。センサーデバイスは色々な企業が販売し、何とか普及させて新しい市場を作っていこうという動きはあるんですけど、なかなか広がっていかないようです。
国内外含めてやはりデータを取るだけで終わってしまっているサービスが、現在でもほとんどではないでしょうか。
それはやはり、(いわゆる)‟IT屋”さんの発想で「データが取れますよ」と言っても、農家さんからすると「そのデータをどう使ったらいいんですか」となってしまうからなんです。
農家さんは栽培の専門家であって、データを使う専門ではありません。誰かがそこの橋渡しをする必要があるんです。
その橋渡しをする際に、ただ単にデータだけ見せて「現在の環境です」ではなくて、生産者の目線で、どのデータを取得するべきか、どんなセンサーが必要なのか。計測精度から計測原理、価格まで全て含めて、「こういうふうにデータの使い方ができますよ」というところまでデザインする必要がある。
そこまでして初めて使えるものになるという考えに基づいて設計しています。
―――e-kakashiの導入事例として、どのようなものがありますか。
e-kakashiを導入した農家さんの10アール当たりの収入が2017年度の実績と比較して、2018年度は平均80万円上がった成果も出ています。
あとは、我々のお客様であるカルビーポテト株式会社さんの実証実験で、ジャガイモの栽培収量が最大1.6倍になるという成果も出ていますね。
―――JICA(国際協力機構)による技術協力でコロンビア共和国にもe-kakashiが導入されました。
東京大学とコロンビア共和国の国際熱帯農業センターが採択を受けたSATREPS(国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)による地球規模の課題解決を目指す国際共同研究)プロジェクトでe-kakashiを数台採用していただきました。
(東大やセンターの)研究者であっても、データを活用した栽培に関しては専門領域ではないので、私と(ソフトバンクでe-kakashiに携わる)もう1人の博士がプロジェクトに加わり、早期に成果が出るように協力させていただています。
「課題解決に貢献することしか考えていない」
―――今後、e-kakashiとしての目標はなんでしょうか?
我々は最初から課題解決に貢献することしか考えていません。端的に言うと、生産性を上げること、ユーザーの収益を上げることです。
ただ、昨今では水資源の最適利用なども課題として挙げられますし、食糧問題が紛争を招くきっかけになるというケースもあります。
我々はe-kakashiというソリューションを通して、生産性向上や環境保全を実現し、課題解決に貢献することが目標ですね。
―――日本の食料自給率は世界的に見ても低下傾向にあります。今後、どうしていけばよいでしょうか。
端的にお答えできる質問ではありませんね。ただ、日本には、“つくる技術”があると思うんです。
種、肥料、農薬は海外(からの輸入)に依存するケースが多いです。しかし、いくら材料があっても、つくり方をちゃんと分かっていないと(良いものは)つくれません。
日本には、これまで切磋琢磨して先人たちが磨き上げてきた‟つくる技術”があります。これまでデジタル化・形式化されていない技術やノウハウの部分について、我々がしっかりサポートできるようにしたいですね。(了)
e-kakashiについて、さらに詳しく知りたい人はこちらから:https://www.e-kakashi.com/
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