第一印象だけで判断されずに「自分のことをわかって欲しい」……就職活動での面接やビジネスでの商談・プレゼンテーションだけでなく、プライベートな場面でもそう願う人は数多く、筆者もそのひとりです。
「経験と想いを熱く語る」ことで、25歳のときにアナウンサー職に選ばれたという松下公子さん。その当時は、新卒で入社した企業を退職してアナウンサーになることを志すフリーターだったそうです。
現在は「日本語が話せたら、アナウンサーになれる」をポリシーに、アナウンサー志望者の内定獲得をサポートするSTORYアナウンススクールの代表として、さらにはスピーチコンサルタントとしても活躍しています。
そんな松下さんに、面接で‟選ばれる”ための秘訣をうかがいました。
(本記事は前編、後編は9月21日(木)18時00分に公開予定)
アナウンサー志望者のMVVとは?
ーー転職面接をテーマにした松下さんの新刊『転職は話し方が9割』(スタンダーズ株式会社/税込価格:1,650円)では、熱意や人柄を伝えることがいかに大切かということを伝えていらっしゃいました。
また、就職・転職活動を続けていると「最適解」を持つ人が選ばれていると思い込んでしまいがちですが、それは誤解だということがわかる1冊でした。
松下:最適解を求めている、そういう方は多いですね。スクールでも「AとBならどちらが正解ですか?」「なにを話せば内定がもらえますか」というような質問を受けますが……そんなの、わかるわけない(笑)。
ーー面接官も「正解」はわからないかもしれないですね(笑)。
松下:どちらを話せば正解かという質問に答えるなら、おそらくA・B、どちらでも正解です(笑)。
その言葉に気持ちがこもっているのか、ウソや偽りがないのか。「あなたがどう思っているのか」、そこを伝えましょう。
やっぱり「人に好かれたい」「内定がほしい」そんな雑念は誰にでも浮かびますよね。でも、最適解や近道はありません。その雑念を取り払って、何がやりたいのか、どうありたいのかという点を伝えることが何よりも大切です。
実は、この十数年間を振り返って、スクールで学生やアナウンサー志望の方たちの「ミッション・ビジョン・バリュー(以下、MVV※)」を一緒に作っていることに気がついたんです。その結果、実際に1社目で内定が出る方を含めて、内定獲得の確率を高めることができました。
ミッション・ビジョン・バリューとは
経済学者ピーター・ドラッカーがその著書で提唱した理念です。ミッションは企業が社会になすべきこと(使命)、ビジョンは企業が目標とするあるべき姿(理念)、バリューは企業・組織を構成する人がやるべきこと(行動指針)を表します。
ーーMVVは企業の価値観や経営方針、目指す姿、指針を明確にするために定めるものですよね?
松下:そうです。たとえば、ミッションは「どうしてアナウンサーになりたいのか、転職したいのか」、ビジョンが「アナウンサーやその職業に就いたあとに何をしたいのか」、バリューはちょっと言い替えて「あなたが選ばれるための理由、価値はなんですか?」と、それぞれの答えに置き換えられます。
この3つのポイントをご自身の軸「共感ストーリー」として、面接で伝える。そのお手伝いをしてきました。
テクニックに振り回されず、まっすぐに想いを伝える
ーー就職・転職活動で企業のMVVを研究して挑むことは一般的ですが、自己分析にしてみる人は少ないかもしれません。盲点ですね。本を読みながら「共感ストーリー」を試してみました。私の場合、コンパクトにまとめることがとても難しかった!
松下:まとめることは難しいですよね。でも、きちんとまとまったストーリーは、その人の魅力をストレートに、自然に経験と想いを伝える大きな武器になります。
なんらかの出来事があったという「事実」と、それをきっかけにどんな「想い」が浮かんだか。この「想い」は混沌としている場合が多いです。そこをしっかり言葉にして、事実とワンセットで伝えると、そのときに湧きあがった情熱やエネルギーも同時に届けられます。
ーーそれが、共感ストーリーのコンセプトですね。よく言われる好印象を与えるためのテクニックは効果がないのでしょうか?
松下:そうですね……。人に好かれるためのテクニックを実践すれば、好印象を与えるかもしれない。でも、ずっとそのテクニックを意識する必要がありますね。
いつも口角をあげていよう、相手と同じ動作や言葉をつかって親近感を持ってもらおう……テクニックを使う方へと意識が向いてしまいます。その労力は相手に話せること、伝えるべきことに使う方が良いかもしれません。
ーー「きちんと私を見てほしい」と考えたら、その通りですね。
松下:印象付けようとして意識的におこなう身振りと、無意識に想いが動かす身振りでは伝わる情報量が違います。
テクニックばかりを意識して、枠に囚われてしまうことは、どうしても不自然な印象となります。これは、もったいない。自分を見てほしいと願っているのに、相手を「見ていない」ことにもなってしまいます。採用する側は「仲間になる人」を探しているんですよ。
面接官は「仲間」を探している
ーー著作でも、「信頼できる、期待できる人」を採用側は求めているとありました。
松下:この本で紹介した採用する人たちの考えが‟とても響いた”という感想を多くいただきました。模擬面接などで企業のコンサルティングもしていますので、採用する人たちの気持ちも耳にします。
「(面接官は)あなたのいいところを探そうとしてるよ」と伝えることで、面接に挑む人の不安を解消してさしあげたくて。不安を解消して、ベストの状態でチャンスに挑んでいただきたいという想いからです。
(インタビュー前編・了)
共感ストーリーとは、松下さんがそのご経験から見出した想いを伝えるためのメソッド(手法)です。どのようにしてそのメソッドが生まれたのか、さらには「良い/悪い話し方」についてお話をうかがったインタビュー後編は、9月21日(木)18時に公開します。
松下公子さん プロフィール
松下公子 (まつした・きみこ)
STORYアナウンススクール代表/株式会社STORY 代表取締役
1973年茨城県鹿嶋市生まれ。
アナウンサーを目指したのは、大学3年時に彼氏に振られたことがきっかけ。みんなに愛される女子アナになって見返したいと思った。しかし、第一印象が怖い、近づきづらいという見た目コンプレックス、さらに、コネなし、2流女子大出身、茨城なまりと4重苦に苦しむ。パッと見の印象ではなく、自分のことをわかって欲しいという思いから、アナウンサー受験では自分の経験と思いを熱く語る。その結果、25歳フリーターでアナウンサーに内定。テレビラジオ4局のステップアップを果たす。
その後、共感で選ばれるプレゼン手法「共感ストーリー」としてメソッド化。代表であるSTORYアナウンススクールでは、認定講師とともに個別指導で共感ストーリーメソッドを使った志望動機、自己PRを一緒に作成。面接における伝え方の指導も行い、NHKキャスターや地方民放局アナウンサーの内定に導いている。現在は一般企業の転職など選ばれる人になるサポートや講演活動を行っている。
著書に『「たった1人」に選ばれる話し方』『転職は話し方が9割』(ともにstandards)がある。
共感ストーリーは株式会社STORYの登録商標です。
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