SECIモデルは知識の概念化と共有を行うフレームワークです。SECIモデルにより従業員の内面にある知識が共有しやすくなり、共有された知識をもとに新しい知識が生まれていきます。
本記事ではSECIモデルとは何か、どう実践すればいいのか、具体例を交えて解説。知識の共有・活用を活発化させるためのコツと、管理を効率化するためのツールも紹介します。
- SECIモデルにおける2つの知とは?
- SECIモデルを実施する4つのプロセスと場
- SECIモデルを効果的に実施するためのコツ
SECIモデルとは?
SECIモデル(セキモデル)とは、個人の暗黙知を形式知へと換え、組織全体で共有するためのフレームワークのことです。
SECIモデルをナレッジマネジメントに活用することで、優秀な人材の考え方やノウハウをほかの従業員でも真似できるレベルに落とし込んだり、知識と知識を掛け合わせて新しい知見を得たりできます。
SECIモデルは一橋大学の野中郁次郎教授らにより、1990年代に提唱されました。野中氏はナレッジマネジメントの第一人者として知られ、彼の提唱したSECIモデルは日本のさまざまな企業や組織で活用されています。
SECIモデルにおける2つの知
SECIモデルでは知識を「暗黙知」と「形式知」に分けて考えます。個人の内面にある暗黙知を形式知へと変換し、他者と共有し、共有された知識から新しい暗黙知が生まれ…。というサイクルをくり返すことで、知識がブラッシュアップされていきます。
まずは、SECIモデルにおける暗黙知と形式知とは何かを理解しておきましょう。
暗黙知
SECIモデルにおける暗黙知は個人の内面にある、まだ言語化されていない知識のことです。個人の経験や考え方などから生まれる知識で、主観を多分に含むのが暗黙知で、「勘」とも言い換えられます。
具体的には「営業職が長年の勘にもとづき、顧客ごとにアプローチの方法を変える」「何となくトラブルがおきそうな気がするから、あらかじめ対策を練ったり予防策を講じたりしておく」といったものが暗黙知にあたります。
特に優秀な人材はたくさんの暗黙知を持っていますが、これはまだ言語化されていないため他人には活用できません。仮に他人に教えたとしても、形式知にまで落とし込めていない状態ではうまく再現できないでしょう。
暗黙知を暗黙知のままにしておくことは組織にとってリスキーです。従業員の退職によりその暗黙知も失われ、彼らが生むはずだった利益や機会をも失ってしまうからです。
形式知
SECIモデルにおける形式知は、個人の内面にある暗黙知を他者と共有できるよう、言語や図表などの形式で可視化したものです。
いわゆる「長年の勘」を言語化するようなもので、勘の「なぜそうした方がいいと思うのか」という部分を体系化したり、他者が真似できるようにマニュアル化したりします。
SECIモデルの4つのプロセス
SECIモデルではナレッジマネジメントを通して暗黙知を形式知に変換し、形式知を共有することでさらなる暗黙知を生み、その暗黙知をまた形式知に変換し…。というプロセスをくり返します。
これは知識が知識を生みだすプロセスであり、SECIモデルを適切に活用することで、組織力をどんどん高めていけます。SECIモデルによるナレッジマネジメントが浸透すれば業務の属人性が低くなり、優秀者の退職による損失も起こりづらくなるでしょう。
SECIモデルにはそのための4つのプロセスがあり、「SECI」とは各プロセスの頭文字を取ったものです。
SECIモデルの4つのプロセス
-
共同化(Socializaiton)
-
表出化(Externalization)
-
連結化(Combination)
-
内面化(Internalization)
共同化(Socializaiton)
SECIモデルの1つ目のプロセスは「共同化(Socializaiton)」で、これは暗黙知を暗黙知のまま共有することです。
暗黙知は個人の経験に、その人の考え方が加わって生まれます。そのため同じ経験をしても、人それぞれ異なる暗黙知が生まれますし、その経験により暗黙知が生まれない人もいます。
この「暗黙知が生まれる一連のプロセス」に手を入れるためには、経験を共有(共同化)することが必要です。同じ経験を共有し、そこから何が生まれたのかを伝えることで、他人の考え方を知ることができます。
共同化を通して相手の考え方・思考プロセスに入り込むことで、暗黙知やそれが生まれた過程も共有できるのです。
表出化(Externalization)
SECIモデルの2つ目のプロセスは「表出化(Externalization)」で、これは暗黙知を形式知へと変換することです。
暗黙知はまだ可視化されておらず、これを共有するには言語化やモデル化などの工程を経なければなりません。
表出化では個人のアイデアをプレゼンテーションやレポートといった形式で表現し、ほかのメンバーと共有します。このプロセスにより、個人の知識が組織全体で活用できる形をもつのです。
連結化(Combination)
SECIモデルの3つ目のプロセスは「連結化(Combination)」で、複数の形式知を組み合わせて新しい知識体系を生みだすことです。一人ひとりの形式知を組み合わせることで、新たな形式知が生まれたり、より活用しやすい形に並び替えたりできます。
例えば営業担当者にはそれぞれ得意な工程があるでしょう。新規開拓が得意な人、既存顧客へのリテンションやロイヤルカスタマー育成が得意な人、解約抑止が得意な人などさまざまです。同じ新規開拓が得意な人でも、テレアポが得意なのか訪問が得意なのか、どんな相手と相性がいいのかなどさまざまです。
これらを形式知に落とし込み、連結することで、一連の営業プロセスを確立できるでしょう。
「この業種にはこういう人が多いから、このトークスクリプトでテレアポをかけ、商談ではこの資料をこの順番で見せる」「このタイプの顧客にはこのくらいの感覚でアフターフォローを入れると解約率が低くなる」のようなイメージです。
連結化ではデータベースやネットワークを活用することで、複数のデータや情報を分析し、新たな洞察を得るといったプロセスがよく取られます。
内面化(Internalization)
SECIモデルの4つ目のプロセスは「内面化(Internalization)」で、ここでは形式知から暗黙知を生みだします。
先述の通り、同じ経験をしてもそこから得られる暗黙知は人により異なります。経験に個人の考え方が加わり、暗黙知が生まれるからです。つまり同じ形式知を使っても、そこから何を考え、どんな知見を得るかは人それぞれ違います。
形式知を使うことで新しい経験が生まれ、新しい経験からは新しい暗黙知が生まれます。形式知を10人で使えば、新しい暗黙知が10生まれるのです。
この暗黙知はさらに共同化・表出化することで、新しい形式知へと変換されます。「暗黙知→形式知→暗黙知→形式知…」のプロセスをくり返していくことこそが、SECIモデルの真髄といえます。
SECIモデルのプロセスを行う4つの場【身近な具体例付き】
SECIモデルのプロセスを行うためには、知識を創出したり共有したりするための「場」が必要です。このための場は4つあり、SECIモデルの4つのプロセスに対応しています。
SECIモデルの4つの場
- 共同化:創発場
- 表出化:対話場
- 連結化:連結化
- 内面化:実践場
創発場
創発場は共同化に対応した場で、暗黙知を暗黙知のまま共有する場です。一人ひとりがどんな経験をしてどう感じたのか、そこから何が得られたのかなどを共有します。
ここで大切なのは、自分の中にあるものを曖昧なままでもいいので表現することです。形を整えたり「たぶん伝わらないだろうな」と遠慮したりすることなく、とにかく表現してみるのです。そうすることで、暗黙知が少しずつ他者に伝わる言葉になっていきます。
具体的には、チームメンバーで集まりアイデアの共有やブレインストーミングを行う、共有のファイルに思ったことを自由に書き溜めていくなどの方法があります。
対話場
対話場は表出化に対応した場で、対話を通して暗黙知を言語化・概念化します。
ここでも創発場と同じくとにかく表現してみること、積極的にコミュニケーションを取ることが重要です。人に話そうとすることで暗黙知が少しずつ言葉になっていきますし、対話を重ねることで足りなかった要素が埋まっていくこともあるでしょう。
具体的には、会議やディスカッションフォーラムが対話場として機能します。メンバー同士が意見を交換し、相互理解を深めることで、知識の共有と創造が促されるでしょう。
システム場
システム場は連結化に対応した場で、形式知の整理や体系化が行われます。ここでは1つのプラットフォームに知識を集約することが大切です。知識を一箇所に集め、俯瞰することで、整理や体系化がしやすくなります。
ここではデータベースを活用しましょう。たとえば、情報管理システムやウィキシステムなどがシステム場として利用できます。Excelを使うのもいいでしょう。これらのシステムは形式知の蓄積や検索が簡単で、知識の連結化や共有もしやすいです。
実践場
実践場は内面化に対応した場で、体系化された形式知を実際に使ってみて、各個人が新たな暗黙知を創出します。
形式知を使うのは、各個人が業務にあたる「現場」です。そのためここでは会議を開いたり特定のプラットフォームを使ったりというよりは、日常業務の場が、実践場としてそのまま機能します。
具体的には営業職ではテレアポや商談の場が、接客業やサービス業ではお店が、クリエイティブな職業では公私のあらゆる経験が実践場となるでしょう。
SECIモデルの問題点
SECIモデルは優れた知識共有の方法ですが、実践がやや難しい方法でもあります。SECIモデルの実践が難しいのはなぜか、2つの問題点と併せて解説します。
暗黙知を提供するメリットが少ない
SECIモデルは暗黙知を持っている人の協力が欠かせません。具体的には現場で働く従業員がこれにあたり、優秀な従業員ほどたくさんの暗黙知を持っていることが期待されます。
しかし、従業員には暗黙知を提供するメリットがあまりありません。暗黙知の共有や形式化には時間も手間もかかります。何より、優れた暗黙知を持つ人ほど、「自分が苦労して見つけたノウハウを、なぜ他人に教えなくてはいけないのか」と感じてしまうでしょう。
高度な知識は形式化や内面化が難しい
SECIモデルでは暗黙知の形式化と、形式知の内面化が必要ですが、高度な知識ほどこれらのプロセスは難しくなります。
高度な知識は「勘」による部分も多く、これを言語化しようとすると時間がかかるでしょう。言語化できても曖昧だったりたくさんの前提知識が求められたり、他人に伝えづらいものになることも多いです。
形式化された知識の中でも高度なものは、その内容を理解するのはもちろん、そのまま言語化するのも難しいでしょう。「言われた通りにやっているのに、なぜか結果に結びつかない」ということも珍しくありません。
SECIモデルを実践するためにできること
SECIモデルには「知識提供のメリットが少ない」「高度な知識は共有・活用が難しい」というデメリットがありました。これらのデメリットを解決し、SECIモデルを実践するためにできることを2つ紹介します。
社員へのメリットを提示する
SECIモデルの活用において、従業員の協力は欠かせません。知識を提供する側とされる側、双方にとってのメリットを提示し、SECIモデル活用のモチベーションを高めましょう。
知識を提供する側については先述のとおりです。自分が苦労して見つけたノウハウを開示するだけのメリットを提供できなければ、知識の共有は難しいでしょう。
ここでは知識提供のインセンティブを設定するのもいいですが、従業員の承認欲求に訴えかける方法もあります。たくさんの知識を提供した従業員を表彰したり、提供した知識の数を可視化したり、知識がどのように活用されているのか広報したりなどの方法です。
知識を提供される側とは、つまり形式知を内面化し、新たな暗黙知を生みだす人のことです。内面化のプロセスでは、共有された形式知を使う人が多くなるほど、新たな内面知が生まれる可能性も高くなります。たくさんの従業員がSECIモデルを活用するような仕組みが必要です。
ここではその知識を活用することでどんなメリットがあるのか、どんな成果につながるのかをイメージさせるのがいいでしょう。
たとえば営業職なら「成約率が平均30%アップした実績のある方法です」、クリエイティブ職なら「作業時間を20%削減できるノウハウです」というように、ノウハウ活用により業務がどう変わるのかを示すのです。
ツールを活用する
SECIモデルはナレッジマネジメントにおいて活用されます。そのため、ナレッジマネジメントシステムを活用するのが、SECIモデルを正しく実施する近道になります。
ナレッジマネジメントシステムには組織内のさまざまな知識が集約され、1つのプラットフォームで共有・管理できます。検索性も高く整理もしやすいため、連結化や内面化などのプロセスも進めやすいでしょう。
ナレッジマネジメントとは何か、そのためにどんなツールを活用できるのかは、以下の記事で詳しく解説しています。
ナレッジマネジメントとは?管理・共有するおすすめツールや、能動的な知識活用のコツ
ナレッジマネジメントにSECIモデルを活用し、組織力を底上げしよう
- SECIモデルは知識の概念化と共有に役立つフレームワーク
- 従業員の協力を得て、SECIモデルの4つのプロセスをくり返そう
- SECIモデルの実施にはナレッジマネジメントシステムがおすすめ
SECIモデルは個人の内面にある、まだ概念化・言語化されていない知識を他者と共有できるように形式化する方法です。形式化された知識は、それを使った各個人に再び内面化され、新しい知識へと昇華します。
知識の共有と創出をくり返すフレームワークであり、適切に活用することで加速度的にノウハウを蓄積していけるでしょう。
ただ、SECIモデルには従業員の協力が欠かせません。知識を提供する従業員へのメリットを打ち出すこと、知識共有の負担を軽くする工夫をすることが大切です。
本記事を参考に、ナレッジマネジメントシステムを導入し、知識共有のモチベーションが高まるような運用ルールを定めることをおすすめします。
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