法人・個人を対象に、障害のある人が自分の力を発揮して働けるよう支援するサービスを提供している株式会社スタートライン。
同社で働く金 貴珍(キム・キジン)さんは、日本への留学・就職、転職とさまざまな道をたどり、いまに至ります。金さんが、道を決める・転職するうえで大切にしてきたこと、今の若者に伝えたいメッセージを聞きました。
前編「「障害者を他人事にしない社会づくりを」 法定雇用率も上がるなかで現状と課題とは:株式会社スタートライン・金 貴珍さんインタビュー【前編】」はこちらから
―――韓国のご出身ですが、社会福祉に興味を持って日本に来られたのはどうしてですか。
社会福祉を専攻した理由としては、何かきっかけがあったというより、人の話を聞くことや人の役に立つことに興味があったことからですかね。
最初は心理学を専攻したかったのですが、受験に失敗し、心理学に近しい社会福祉を専攻しました。
個人だけではなく社会資源にもフォーカスをあてながら連携をとるプロセスが非常に面白く、自分がやりたいことに紐づいていたので、社会福祉を専攻したことは結果的にとても良かったと思っています。
あと、高校時代から海外にいきたい、留学したいという漠然とした思いがありました。大学一年の時に日本人の友達ができて、日本語の勉強を始めたんです。
せっかく日本語の勉強をしているし、日本への留学もいいなと思っていた時期に機会に恵まれ、姉妹大学に編入という形で岡山の大学へ留学しました。
具体的な目標があったわけではなく、単純に行ってみたいという思い付きで行動した結果です(笑)。
―――でも、興味を持って踏み込んでみるって大事ですよね。
そのとき興味を持ったものに、とりあえず全力を傾けてみるのは大事だと思います。
もともと、やりたいことは周りの人に言う方で、留学のために特別な準備をしていたわけではないんですけど、両親に「元々海外に住んでみたかったし、日本語も勉強しているから、日本に留学したい」と話したことがありました。
そうしたら、いつの間にか両親の中で私は留学することになっていて、ある日「留学の準備は進んでる?」と言われて「あ、私いくんだ」という流れで、やりたいことがやるべきことに変わっていき、留学が決まりました(笑)。
言葉の力はすごいなと思ったエピソードですね。
―――大学院まで行かれたのは?
(純粋に)大学院に行きたかったというのが一番の理由です。小さい頃から学校が好きだったこともありますが、興味がある分野の専門家が集まる大学院は自分にとって魅力的な場所でした。
大学院では家族療法をベースに精神障害がある方への家族支援について研究しました。大学院一年の終わりに家族療法にこだわっていた理由を振り返った際に実は自分の事とも関連していたことが分かりました。
私にとって家族はとても大事で大好きな存在ですが、大人になるにつれ親子の適切な距離感や関係性の中で感じていた疑問を、何かしらの形で消化したい・より明確に自分の中で落とし込みたかったんだなと。
単純に興味があるからと思っていたのですが、人が興味を持つことって何かしら自分と関係があることが多いなと、その時実感しましたね。
―――卒業後は、日本でソーシャルワーカーとして8年間働かれたんですよね。
同学年の中でそのまま大学院に上がっていったのは私だけだったんですが、先に社会人になった人たちから現場の話を聞いていると、「せっかくなら自分も現場を経験してから帰りたいな」と思い、日本で就職しました。
―――そこから自分の強みを整理されて大企業の人事職に就かれたとうかがいました。
スタートラインで今後やりたいこととも紐付くんですが(インタビュー前編参照)、ソーシャルワーカーとして8年間働くなかでいろいろと経験させてもらって自分の価値観が変わったし、「もっと自分ができることの幅を広げたいな」と思いました。
あと、“自分の強みを活かす”といった点でみると、ソーシャルワーカー時代に培った相談援助(※)のスキルはあるなと。
※悩みや問題を抱えている人から相談を受け、解決するための支援を行う職種
外国人として日本社会で生きていくうえで、私はかなり周りに恵まれていました。何か困り事があったときもすぐに相談できる相手がいたんですけど、社会人になってから来日して働いている人は、なかなかそうはいきません。
そこで自分が外国人である強みと今まで学んできた知識や経験を活かすことができれば、社会への貢献につながると思いました。
ただ、企業で働いた経験がなかったので自分の視野を広げる為に(働く)フィールドを地域から企業へと変えました。
―――大企業ならではのジレンマを抱えたとうかがいましたが、何があったんでしょうか。
人事として、障害者雇用の部門で働いていたんですけど、日々の業務に追われて雇用のフォローアップがあまりできなかったんですよ。
ずっと採用の面接対応などをするものの、実際に働いてる人に向けたアプローチやキャリアアップを支援することには、なかなか時間が取れなかったんです。
大企業ですので、やることは細分化され体系的に動きが取れるメリットはありますが、組織が大きいからこそ、課題に気づいてから改善までに時間がかかるという実情がありました。
実際、私が関わる社員が不調を理由にお辞めになる場面に何度か直面し、もう少し組織や個人としてできることはなかっただろうか。果たして自分の強みを活かしながら働けているだろうかと、徐々に疑問を持つようになりました。
そこで、自分は障害者雇用で働く方の定着やチームマネジメントにより比重を置いた会社で働きたいと思うようになり、(今の会社へ)転職しました。
―――スタートラインさんのどこに惹かれて入られたんですか?
スタートラインは、採用の面接を重ねていくうちに、とても興味が湧きました。
そこで働く人にすごく魅力を感じていたので、「仲間になりたいな」と思いましたね。「自分の良さが活かせそう」と感じたところもあります。
「金さんが入社することになったら、こういったお仕事をメインに担当してもらおうと思っているんです」って話も面接とは別に時間を設けて具体的にしてくれました。(そうやって)人に時間をかけるところもすごく魅力を感じたポイントです。
―――転職するにあたって軸はありましたか?
“本当に自分らしくいられているのかどうか”が一番のポイントです。
ライフステージによって割合は変わると思いますが、自分にとって働くことって人生の6~7割ぐらいを占めています。ですので、働く上で「自分らしくいる」ことを実感できる状態で居続けることが一番大事だと思っています。
そこは社会人になってからずっと大事にしているところですね。
―――転職しようかどうか悩んでいる人にアドバイスをいただけないでしょうか。
今の時代、転職ってそんなめずらしいことではないと思っています。
いまが嫌だったら辞めてもいいと思うんです。ただ、「辞めて次」って思考だとまた繰り返すので、自分はそのお仕事において何を一番優先にしているのか。給料なのか場所なのか、業務内容なのか人なのか。
人それぞれ違うと思うんですけど、その優先順位がちゃんと整理できていれば良いと思います。
それと、自分がやりたいこととできることって違うと思うんですよ。なので、まず自分を振り返ることはぜひやっていただきたいです。わたしにとって、その振り返りはとても整理に役立ちました。
―――U-NOTEの読者層である20代前半に向けて、メッセージをお願いします。
偉そうになっちゃうんですけど…20代前半は、失敗を失敗じゃなく経験として捉えていただきたいなと思います。
それに、そのときはそれが全てだと思っていても、時間が経つと「そんなことなかった」ってことも、よくあるんですよね。
「経験することに無駄なことはない」と、いまの自分が20代の自分に何か伝えるとしたら、そう言ってあげたいです。とにかく経験すること。あとは、やりたいことは何でもいいから行動してみることです。
今は結果が出なくても、目標をもってやり続けることで思わぬ形で自身が求めていた結果に近づける時がくると思います。
先が見えないからこそ、勇気はいりますが、自分を信じてあげることが大事で、経験は自分を守ってあげる強い武器になると思います。(了)
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