平成後期から令和にかけてよく耳にするようになった「ダイバーシティ」。日本では「多様化」という言葉の方が使用される頻度は高いかもしれません。
そんな「ダイバーシティ」の意味を解説。インクルージョンとの違いやダイバーシティの歴史、ダイバーシティの種類についてもご紹介します。自社のダイバーシティ推進を検討している方は、ご紹介している事例も参考にしてみてください。
- 表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティの違い
- ダイバーシティを取り入れる際のポイント
- ダイバーシティ導入時の課題
ダイバーシティの意味とは
「ダイバーシティ」は、日本語で「多様性」の意味を持つ言葉です。近年、ビジネスの現場だけでなく日本社会全体で多様性という言葉が使われています。
ビジネスにおいては、ダイバーシティは組織マネジメントや人事分野で使われることが多いようです。国籍・性別・年齢・価値観・宗教などに関係なく多様な人々を受容し、それらの人々が個々の能力を最大限発揮できるような環境を構築するダイバーシティマネジメントの意味合いで使われます。
ダイバーシティマネジメントとは
「ダイバーシティマネジメント」とは、さまざまな背景やアイデンティティを持つ人々を採用し、その多様性を活かして組織を強化する企業体制のことです。
「2025年問題」や「2025年の崖」など、今後の日本企業はさまざまな問題を乗り越える必要が出てきます。そのひとつが深刻な人材不足です。高齢化が進み、全人口の約3割以上が高齢者となる日本では、中心となって働くことのできる労働力人口が減少します。
高齢化社会では、偏った属性や背景・価値観・経験を持つ人材のみの採用では企業運営が危ぶまれます。多様性を持つ人材を取り入れる体制を整え、彼らが最大限力を発揮できる環境を整備することは、そうした人材不足を解消するひとつの手段です。
多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍すれば、そこから新たな価値やサービスが生まれることも期待できます。日本の企業が国際社会で競争していくためにも、ダイバーシティマネジメントが推進されなければならないのです。
ダイバーシティ&インクルージョンとは
「ダイバーシティ&インクルージョン」とは、多様な人材を取り入れ、彼らの能力が発揮できるようにする取り組みのことです。直訳するとダイバーシティは「多様性」、インクルージョンは「受容・包括」です。
ダイバーシティ&インクルージョンは、いわゆる多様化から一歩進んだ状態。多様性を取り入れるだけでなく、受け止めて活かすことまでを行っている状態です。
例えば、NTTグループでは積極的にダイバーシティ&インクルージョンが行われています。女性の躍進から障害者の活躍、LGBTやグローバルな取り組みなど多様な人材を取り入れつつ、一人ひとりに合った働き方ができるように制度や各種休暇も整備されています。これらの取り組みは外部からも評価されています。
ダイバーシティの歴史
ダイバーシティはアメリカを発端とする考え方です。属性による差別を解消する運動と共にその歴史が刻まれてきました。現在の「ダイバーシティ2.0」に至るまでのダイバーシティに関係する出来事と時代の変遷について簡単に説明します。
STEP1.リスクマネジメント
現在における企業のリスクマネジメントの形は、1960年代・1970年代のアメリカの危機管理型が採用されています。
南部のアフリカ系アメリカ人学生を中心に公民権運動が起こり、1964年には公民権法が成立。これはアメリカの黒人の基本的人権を要求する運動で、この運動と公民権法の成立を機にダイバーシティの考え方が誕生したと言われています。
参考:アメリカンセンターJAPAN「米国の公民権運動」
STEP2.雇用機会均等法
公民権法の成立後、日本では西暦1985年5月に「男女雇用機会均等法」が成立しました。それまでは、男性は仕事をし女性は家庭を守るものという考えが一般的でした。それが「男女雇用機会均等法」により、女性と男性を均等に扱う「努力義務」や女性に対する差別的な扱いの禁止が施行され、現在に至るまで改正が行われ続けています。
参考:厚生労働省「男女雇用機会均等法の変遷」
STEP3.戦略的ダイバーシティ
人種による差別を廃止したり、男女による扱いの差を少なくしたりと、ダイバーシティの歴史は各属性が受けていた不当な扱いを解消するための歴史と言っても過言ではありません。
その後は「戦略的ダイバーシティ」が展開されていきます。1990年代後半にかけて行われ、競争優位性を確保するための手段としてダイバーシティが用いられていたと言われています。
STEP4.ダイバーシティ2.0
そして今後は、政府も提唱する「ダイバーシティ2.0」の時代です。政府から要望され形式的にダイバーシティを導入していた「ダイバーシティ1.0」の時代とは違い、企業がダイバーシティにコミットし、多様な属性の人材を活かし企業の付加価値を高めていく姿勢がみられます。
表層的な取り組みではなく深層的な取り組みにシフトしており、中長期的・継続的に実施されているのも特徴です。
参考:経済産業省「ダイバーシティ2.0 一歩先の競争戦略へ」
ダイバーシティの2つの種類
ダイバーシティには、表層的ダイバーシティと深層的ダイバーシティの2種類があります。自社のダイバーシティ化を進めるにあたって、どちらも取り組むことが考えられます。2つの違いと期待できる影響を理解して、効果的に取り入れましょう。
表層的ダイバーシティ
「表層的ダイバーシティ」とは、性別・国籍・年齢・言語などの属性のことです。表層的と聞くとあまり良い印象を受けないかもしれませんが、ダイバーシティはまず表層的な部分から注力するのが一般的です。
表層的ダイバーシティでは、例えば女性管理職の数を増やす、外国籍の人材も採用するなど人材の多様化が行われます。障害者雇用やシニア雇用の表層的ダイバーシティのひとつです。
深層的ダイバーシティ
「深層的ダイバーシティ」とは、職歴やスキル、パーソナリティ、価値観、文化的背景など内面からは判断するのが難しい内面的特性のことです。個性やアイデンティティの多様化とも言い換えられます。本来、企業が目指すダイバーシティは深層的ダイバーシティのことを指します。
表層的ダイバーシティによる人材の多様化では、業績に大きな影響を与えられないと言われています。一方、深層的ダイバーシティでは、知識・経験・思想が異なる多様な人々がお互いに協力することができれば、業務の効率化やイノベーションが起こり、ビジネスの成果に結びつきます。
企業がダイバーシティを取り入れるためのポイント
企業がダイバーシティを取り入れる際は、従来の制度の見直すことが必ず求められます。3つのポイントに絞って検討すべきことをご紹介します。
ポイント1.フレックス制を取り入れる
企業がダイバーシティを取り入れる際の1つ目のポイントは、フレックス制を取り入れることです。フレックス制とは、一定の時間について総労働時間の範囲内で従業員が始業時刻・終業時刻・労働時間を決められる制度のことです。
フレックス制のメリットは、コアタイム以外の時間の使い方を従業員が自由に決められる点。例えば、資格取得の勉強のため月曜日は早めに出勤し、早めに退勤するという使い方ができます。もちろん総労働時間を満たすように月内で時間調整をする必要はあります。
仕事と生活の調和が取りやすく効率的に働けるので、従業員が定着しやすいのもメリットです。
参考:厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説 & 導入の手引き」
ポイント2.リモートワークを取り入れる
企業がダイバーシティを取り入れる際の2つ目のポイントは、リモートワークを取り入れることです。テレワーク・在宅勤務などとも言われています。コロナ以前、日本で取り入れている企業は多くありませんでしたが、コロナ以降は多くの企業でリモートワークが導入されています。
リモートワークのメリットは、通勤の負荷がなくなること。出退勤による移動時間がないので、その時間を勉強したり家族と過ごしたりとプライベートを充実させるために使えます。
中には、サテライトオフィスを用意している企業もあります。モバイル勤務という従業員が自由に働く場所を決める形態でのリモートワーク導入も可能です。厚生労働省が発行している「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」を参考に、導入を検討してみてください。
参考:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
福利厚生を充実させる
企業がダイバーシティを取り入れる際の3つ目のポイントは、福利厚生を充実させることです。多様な人材の受け入れに対応して、福利厚生を充実させることも重要なポイントです。
福利厚生には、慶弔休暇や家賃補助の支給、特別夏季休暇の付与、出産・育児制度などが含まれます。中には、同性パートナーがいる従業員に対する制度の適用拡大をしている企業もあります。海外勤務者には別制度を設ける必要もあるでしょう。
参考:NTT「制度・仕組み」
ダイバーシティ 2.0 行動ガイドラインによるダイバーシティマネジメントの進め方
経済産業省はダイバーシティ導入を検討している企業に向けて「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」を公開しています。実践のために何をしたら良いのかがわかりやすくまとめられているので、経営者や企業の人事担当者は目を通してみてください。
「ダイバーシティ 2.0 行動ガイドライン」によれば、ダイバーシティを実践するには4つのポイントを押さえる必要があるとしています。
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中長期的・継続的な実施と、経営陣によるコミットメント
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組織経営上の様々な取組と連動した「全社的」な実行と「体制」の整備
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企業の経営改革を促す外部ステークホルダーとの関わり(対話・開示等)
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女性活躍の推進とともに、国籍・年齢・キャリア等の様々な多様性の確保
この4点を意識しながら自社のダイバーシティ推進に取り組みましょう。
ダイバーシティを取り入れる際の課題
ダイバーシティは、全従業員が理解して受け入れるには時間がかかります。そのため、導入直後にはさまざまな問題が生じる可能性があります。ダイバーシティを取り入れる際にどんな課題が生じやすいのでしょうか。
コミュニケーションに問題が生じる
ダイバーシティを取り入れる際、コミュニケーションに問題が生じる可能性があります。扱う言語が異なる他、これまでの経験が異なることがあるためビジネス的なコミュニケーションの難易度が高くなってしまいます。
コミュニケーションの手段を工夫したり、外国語話者を適宜配置したり、言語教育を受けられるような仕組みを作ったりしてコミュニケーションの問題が起こらないように配慮しましょう。
自分と同じ属性の人間を優遇してしまう
ダイバーシティを取り入れる際、人は自分と同じ属性の人間を優遇してしまいやすい傾向があることも理解しておきましょう。
例えば、男性であれば男性を優遇したり、日本人と外国籍の人がいた場合に無意識に日本人を優遇したりなどが考えられます。このような場合にはお互いの理解が進んでいないので、意識の改革が求められます。
社内でダイバーシティへの理解や、相互理解を深められるような取り組みを行うことが効果的です。
価値観の違いや文化の違いによる衝突する
ダイバーシティの推進にあたって、価値観や文化の違いにより衝突する機会が増えます。例えば、日本で働いていた方と、海外で働いていた方とでは仕事に対する考え方や進め方ひとつとっても大きく異なる部分が出てきます。
日本は働く時間を重視しますが、中には結果を重視する国もあります。そうした違いによる衝突は、お互いの理解により少しずつ解消できます。
意見の整理に時間がかかる
ダイバーシティを取り入れると、意見の多様性が生まれます。一人ひとり異なる背景や経験を持つため、意見交換が活発になりやすいのです。
従来の日本のような均質的な組織では、個々の意見はあまり尊重されず協調性が重視されます。ダイバーシティ経営は、アイデンティティが確立している従業員同士が協力することによるイノベーションを期待して行われるものです。そのため、多様な意見が出た場合でも、それぞれの意見を尊重しつつ整理する時間がかかりやすいのです。
ダイバーシティに取り組んでいる企業の事例
ダイバーシティに取り組んでいる企業は複数あります。どれひとつとして同様の内容にはなっておらず、元々の企業の特色をベースにダイバーシティを導入しているので参考にしてみてください。
例えば、伊藤忠商事では多様な働き方制度として「朝型勤務制度」を導入しています。これは20時以降の勤務を原則禁止とし、逆に5〜8時までの早朝勤務に関して割増賃金を適用させるというものです。
伊藤忠商事は今まで全社一律でフレックスタイム制度を導入していましたが、多くの社員が9時以降に出勤し、夜も遅くまで働くことが常態化してしまっていました。多残業体質の改善や労働生産性の向上を目指すため、2013年に「朝型勤務制度」を導入。メリハリのある働き方がしたい従業員に向けたダイバーシティな取り組みのひとつです。
参考:朝型勤務制度
ダイバーシティの意味を正確に把握しよう
- ダイバーシティは表層的・深層的の2種類があり補完し合う関係にある
- ダイバーシティ2.0を実践するため、経済産業省が行動のガイドラインを発行している
- ダイバーシティを導入した直後に生じるさまざまな問題に対処する必要がある
ダイバーシティは言葉としての意味は「多様性」ですが、企業でダイバーシティを推進する場合には意味合いが変わってきます。多様な人材を受け入れ、お互いに理解し協力しあって個々の力を発揮すること。その意味を正確に把握しておけば、自社のダイバーシティも迷うことなく進められるでしょう。
本記事を自社の多様性を進める参考にして、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
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