法人・個人を対象に、障害のある人が自分の力を発揮して働けるよう支援するサービスを提供している株式会社スタートライン。企業向けのコンサルティングや障害者雇用支援サービスサポート付きサテライトオフィス「INCLU(インクル)」、研修サービスなど業務は多岐にわたります。
U-NOTE編集部は、同社で働く金 貴珍(キム・キジン)さんに、障害者雇用の現状と課題についてお話を伺いました(前後編のうち前編)。
―――スタートラインでは、どういった業務に就かれてらっしゃいますか。
私が所属する部署では、コンサルティングを行っています。企業様が障害者雇用で困っていることなどをヒアリングして得た内容をもとに、採用から就労定着までサービスを提供しています。
具体的なサービス内容としては、組織へのアプローチと個人へのアプローチで大きく分かれます。
組織へのアプローチは、主に障害者雇用の受け入れ体制を整えることを目的としています。たとえば、職域開拓(障害者が担う社内業務を見つける・つくること)サービスや管理職・全社向けの研修などですかね。
続いて個人へのアプローチは、障害者雇用で働いている方が職場へ定着できるようサポートすることが目的です。
アセスメントや定期的な面談を通して、「ご自身の力を発揮しながら安定的に働き続ける為にできること」を一緒に整理したり、スタートラインのスタッフが施策を提案したりしています。
2022年からは、障害者手帳をお持ちではない方向けの支援も始めました。私が担当している案件でいうと、がんを患いながら働いている方と週1回リモートで体調と業務のバランスを振り返る時間として面談も実施しています。
―――企業からは、どういう相談を受けることが多いですか。
本当にさまざまですね。「相談窓口を設置しているものの全然利用されていないが、どうしたらよいか」「これから障害者雇用を始めようと思うが、どこから手をつければいいのか」とか。雇用から定着、評価制度など最初から最後のフェーズまで全てにわたります。
ただ、最近では研修が多いですね。“障害者雇用に向けてどういうマインドセットで進めればいいか”という(趣旨で)全社や障害者を受け入れた部署向けの研修は、去年から増えてきている印象があります。
―――障害者雇用は、法定雇用率の引き上げとともに着実に増加してはいます。現在の状況をどのように捉えていますか。
法定雇用率は2024年で2.5%、2026年に2.7%とスピード感をもって引き上げられます。試行錯誤しながら受け入れ体制を整えている最中である企業が多いと個人的に思っています。
社会全体として、企業側だけじゃなく(一人ひとりが)自分事として捉えられるような風土づくりが必要です。相手のことが分からないと興味もわかないですし、どこか他人事だと思っている人が多いと感じます。
なので、まずは知ることがすごく大事ですし、(現状に)疑問が浮かぶ機会が増えると状況は変わっていくのではないかなと思っています。
発達障害って言葉は、(近年)急速に広まりましたよね。有名人の方が「実は発達障害だ」と告白することで、マスコミが発達障害をより取り上げるようになったりだとか。
大人の発達障害を取り上げる本も増えてきましたし、昔と比べると発達障害に対する理解が進んでいるので、そういったかたちで露出していくと周知が早いと思います。
―――データを見ると、職場の定着率にも課題がありそうです。
精神障害は障害と疾患が併発する特徴もあるため、体調管理についても、よりご自身で把握し、管理することが大事になっていきます。
また、精神障害のある方の症状は個別性を伴うところがありますので、診断名が同じでも得手不得手や症状がさまざまです。
全員がそういうわけではないんですが、よく症状の例にあがるものとしては、ストレスや環境の変化に弱く疲れやすかったり、コミュニケーションを苦手だと感じていたりと症状が目に見えないもののほうが多いです。
そのため、障害のある当事者と周囲の、障害に対する捉え方が異なることや、状況に応じて捉え方の齟齬が起きやすいという難しさがあります。
障害者雇用に限った話ではありませんが、障害者雇用においては特に定期的に組織内でコミュニケーションを図りながら状況を確認し、働くうえで必要な配慮事項を調整することが職場の定着率を上げるキーであると考えています。
―――障害者雇用に興味を持つ企業が増えた印象はありますか?
法定雇用率が上がったことも1つの要因かと思いますが、以前よりは増えてきている印象です。雇用には責任が伴うので、「どういう環境づくりをすればいいか」「定着率を上げるためにどういうことをすればいいのか」といった点に以前よりも関心を示す企業さんも増えてきています。
―――大企業・中小企業問わず意識は浸透していますか?
以前は大手企業の方が多かったですが、最近は中小企業まで広がりつつあるかなと思います。
―――キムさんの今後の目標はなんですか?
障害者だけにフォーカスを当てたくないと考えています。生きていくなかで、みんな得手不得手は当然ありますよね。メンタルが不調なときは誰しもあることだと思っているので、より範囲を広げてメンタルヘルス面でもサポートできるものをつくりたいと思っています。
私が外国人でもあることと障害者雇用の領域の経験があることを生かして、今後は海外出身の方へのメンタルヘルスにもフォーカスをあてて活動していきたいです。
後編では、金さんがソーシャルワーカーや大手企業で勤務するなかで抱いたジレンマやキャリアの悩み、スタートラインに入った理由などを伺いました。
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