学生や転職活動中の社会人が採用が決まった場合にもらう「内定」。内定書類のやり取りがされた時点で、企業との雇用契約が結ばれたと解釈されるため、内定取り消しは妥当な理由がない限り認められないのが基本です。
そんな中、企業から内定取り消しの連絡を受け取った場合、どうしたらいいのでしょうか。
本記事では、「内定取り消し」の基礎知識について解説。内定取り消しの何が違法とされているのかを説明しつつ、適法とされるシーンや対処法もご紹介します。慌てず冷静に対応するため、就活中の方は自分を守る知識として知っておきましょう。
- 内定取り消しは違法なのか
- 内定取り消しが適法と判断されるケースとは
- 内定取り消しを撤回してもらうための対処法
内定取り消しとは
内定取消しとは、文字通り採用内定を取り消すことです。
日本労働組合総連合会によれば、採用内定には「入社予定日を就労の始期とし、内定取り消し事由が生じた場合には解約できる、「始期付き・解約権留保付きの労働契約」が成立したこと」という意味があります。
つまり、採用内定が出た時点で雇用側と労働者の間で雇用関係が結ばれたことになります。内定取消しはその雇用関係を取り消すため、事実上の解雇に該当します。
参考:日本労働組合総連合会「労働相談Q&A」
内定とは
内定とは、就職活動をしている方に対して企業側が従業員として採用すると決定している状態のこと。雇用契約を締結していると解釈されるのが一般的です。内定には内定と内々定の2パターンがあり、それぞれ少しずつ言葉の意味が異なります。正しく理解しておきましょう。
内定は労働基準法で明確に定められているわけではない
内定は、労働基準法で明確に定められているわけではありません。内定の法的性質にはさまざまな考え方がありますが、一般的に「始期付き・解約権留保付労働契約」と考えられています。
「始期付き・解約権留保付労働契約」とは、解約権を留保した労働契約のこと。始期とは、実際の労働が始まる時期が正式な入社後であることを意味しています。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「(8)試用期間」
内定と内々定との違い
内定は雇用側と労働者側で書面でのやり取りが交わされ、労働契約が結ばれた状態のことです。受け取った書類を労働者側が承諾という形で提出することで、両者が合意したとみなされます。
一方、内々定は書面でのやり取りではなく口約束によるものです。具体的には、この時期に内定通知書を出すと伝えているケースが一般的です。
内定取り消しは違法?
内定は労働契約が結ばれた状態であるため、簡単には取り消すことができません。
労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と明記されています。
つまり、正当な理由がない限り内定の取り消しはできず、無効になります。
参考:労働契約法
内定取り消しが適法と判断される場合
内定は書面での契約を交わしている限り、通常の労働契約と同じ状態にあります。そのため、安易に内定を取り消すことはできません。ただし、なかには内定取り消しが適法とされるケースもあります。明確に決まっているわけではありませんが、判断の目安になるので知っておきましょう。
提出した書類に虚偽の内容を記載した場合
内定者が提出した書類に虚偽の内容が含まれていた場合、内定取り消しが認められる可能性があります。内定の取り消しが適法とされるには、客観的かつ合理的と判断される理由が必要です。
内定者の虚偽は採用の過程で企業が知ることができない事実です。その虚偽の内容なしでは採用に至っていなかったと言える場合には、内定を取り消しても違法にはなり得ません。
ただし、虚偽が判明した時点で即座に内定を取り消されるケースは少ないといえるでしょう。内容の重大さを考慮して、従業員として不適格であると認められる場合のみ、内定取り消しが認められる可能性があります。
病気や怪我で働けないと認識された場合
内定者が病気や怪我で働けない場合も、内定取消しが適法と判断できる可能性があります。
ただし、状況によっては内定取消しが無効となるケースも。特に、治療が長期に及ぶ病気や怪我ではなく、一時的なものである場合は注意が必要です。健康を著しく害しているケースをのぞき、回復が見込まれる場合には内定を保留するという方法も検討されるでしょう。
留年した場合
採用内定をもらっていた学生が留年してしまった場合や、その他の理由で始期までに卒業できなかった場合、内定が取り消される可能性があります。このような場合は内定取り消しは適法とされるケースがほとんどです。
理由としては、企業は学生が特定の時期に卒業することを前提に採用内定を出しているからです。ただし、留年してしまった事情によっては違法と判断されることもあります。
犯罪歴やSNSなどでふさわしくない行動をした場合
内定者が従業員としてふさわしくない行動をした場合にも、内定を取り消すことが認められる可能性があります。例えば、逮捕歴があったり重大な犯罪に関与していたりなどのケースが考えられます。
近年、企業は学生のSNSも内定を出すかどうか判断材料のひとつにしていると言われています。従業員として不適切な文章や画像が投稿されていた場合、内定の取り消しも認められる可能性があるので覚えておきましょう。
内定取り消しと言われた場合の対処法
内定取り消しは正当な理由がないと違法行為に該当するため、受け取ったあとはすぐに返事をし、然るべき対応を取ることが大切です。万が一、内定を取り消されたあとも冷静に行動するため、対処法を知っておくと安心です。
採用内定があったことを証明する書面やメールを保存する
内定先から内定取り消しの連絡があった場合、書面やメールをまず保存しましょう。企業側の一方的な都合で判断された可能性もあり得るため、書面やメールに書かれた理由の精査が必要です。
労働基準監督署の相談窓口に相談する
内定取り消しの連絡があった場合、労働基準監督署の相談窓口に相談することも検討しましょう。労働基準監督署は各都道府県の労働基準監督署内など、全379ヵ所に設置されています。内定先から取り消し連絡があった後の行動や対応内容を案内してくれます。
参考:厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
内定取り消しに関する裁判の実例
内定取り消しに関する裁判の実例としては、昭和54年にあった「大日本印刷事件」が有名です。
企業側が送った採用内定の通知を学生側が承諾し労働契約が結ばれたものの、その後一方的に企業側が学生に対して内定取り消しの連絡をしたことが事の発端とされています。学生は大学を通じて企業との交渉を行ったものの、内定取り消しを取り下げる承諾は得られませんでした。
企業側の内定取り消しの理由が、学生の印象が陰気だったという面談時に得られたはずの情報であったため、解約権の濫用として学生側が勝訴しました。
このモデルケースにより、企業側が採用内定を取り消す際には、解約権留保の趣旨目的に照らして客観的かつ合理的であることに加えて、社会通念上相当と認められる場合のみという認識が強まりました。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「(6)【採用】採用内定取消」
内定取り消しを撤回してもらうためには?
内定取り消しの連絡は、もらったらすぐに理由を確認しておきましょう。返信をせずにそのまま時間が経過してしまうと、黙認したと受け取られかねません。メールではなく書面で理由を通知するように連絡します。
労働基準法の第22条「退職時等の証明」において、労働者から理由証明を要求された際、企業はこれに応じなくてはなりません。
その後、理由証明を用いて内定取り消しの撤回を求めます。話し合いで解決できない場合は、労働審判を申し立てます。労働審判とは、労働者と雇い主間の労働トラブルを適正に解決するものです。訴訟とは異なります。
労働審判でも解決に至らない場合は、最終的に裁判で争うほかありません。労働審判の結果に対して2週間以内に異議申し立てすることで、自動的に訴訟に切り替わります。
参考:労働基準法
参考:最高裁判所「労働審判手続き」
内定取り消しと言われたら、まずは冷静に判断しよう
- 内定取り消しは客観的かつ合理的な理由がないと違法になりやすい
- 内定が適法となるケースもある
- 内定取り消し通知を受け取ったら、まずは企業に撤回を求める交渉をしよう
内定取り消しの連絡があっても慌ててはいけません。メールや書面は大切に保管し、感情的にならず理由証明の発行を求めるのが最初のステップです。次に、訴訟を起こさずに内定取り消しの撤回が可能かどうか、企業側と交渉します。冷静に判断しつつ、適切に行動することで大ごとにせず解決することを目指しましょう。
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