HOMECareer Runners 自分のキャリアを組織にあずけるな プロティアンキャリア協会・栗原和也さんが語る“リスキリング”の必要性とは【インタビュー前編】

自分のキャリアを組織にあずけるな プロティアンキャリア協会・栗原和也さんが語る“リスキリング”の必要性とは【インタビュー前編】

菓子翔太

2023/08/03(最終更新日:2023/08/03)


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法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授が設立した「一般社団法人プロティアン・キャリア協会」では、法人・個人向けのサービスとして、一人ひとりが自律したキャリア開発をしながら、組織との関係性をより良くするための支援をしています。

U-NOTEは、同協会でCGO(最高事業成長責任者)を務める栗原和也さんに、キャリア開発とリスキリング(業務上で必要とされる新しい知識やスキルを学ぶこと)について、お話を伺いました。

―――法人名にもある“プロティアン・キャリア”とは何でしょうか?
プロティアン・キャリアは、変幻自在なキャリア、かつ、個人によって主体的に形成されるキャリア理論のことです。もともとは、1976年にダグラス・ホール博士(アメリカ合衆国の心理学者)が提唱されている『プロティアン・キャリア』という理論があるんですが、それをベースにして田中教授が提唱する『現代版プロティアン・キャリア』を協会も推進しています。

―――キャリア開発において、リスキリングという言葉が盛んに言われますけども、本当に必要なんでしょうか?

最終的に決めるのは個人だと思います。ただ、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーンエコノミー、SDGsや脱炭素に関する知見やスキルを時代が要求しており、これは不可逆です。時代が変わるなかで、求められるスキル変わってきている。このまま学ばずにいくと、従業員一人ひとりが失業してしまうリスクが高まっていきます。

なので、今一度個人が世の中に求められているものを学んでいくことで、きちんと自分の雇用を確保しつつ、世の中を円滑に進めていこうという背景があるかと考えています。

―――DXに適応し、環境を守っていく時代に変わってきたということですね。

便利さや探究心を追究した結果、テクノロジーが発達してきています。たとえば、「クラウドストレージが大型になりました」「5Gなど情報伝達のスピードが上がりました」「CPUの性能が上がって処理できる量が増えてきました」など、いままで人間があった方がいいと思っていたものが実現できる時代に入ってきました。

これまで便利さを追求し、化石燃料を使ったり森林伐採を繰り返したりした結果、地球温暖化が進み、人為的な力によって軽減したり抑えたりする新しい仕組みを考えなきゃいけない時代にもなっています。

我々が便利に生きていくこと、今後も地球と共存しながら生き続けていくことを両立するために、持続可能なビジネスを考え、それに合わせたリスキリングをしていくことが必要です。

―――企業・組織単位でのリスキリングは、今どのくらい進んでいるとお考えですか。

リスキリングに興味関心のある人事部門・キャリア支援者・経営陣など約250人に対し、最新のリスキリング実態調査を行ったところ、36%が実施していると答えています。ただ、リスキリングに興味関心がある方々で36%だと、全体で見たら、それ以下だろうと見込んでいます。

―――企業・組織単位でのリスキリングが進んでいない背景にあるものは何でしょうか。

アンケートの回答を確認したところ、1番の理由は組織文化の変革の難しさです。

これまでは会社から要求したものを学んでいく文化でしたが、これからは皆さんが自身に必要なものや市場で要求されるものを自主的に学ばなくてはいけません。キャリア自律の考え方が当たり前になればリスキリングは進むんですが、その変革の難しさに悩んでいることが挙げられると思います。

次にリソース不足が挙げられるんですが、リスキリングやキャリア研修を進める人事部門は、ローテーションで配属された方も少なくないんです。キャリア開発とかリスキリングに関する専門知識を持っているわけではないので、現行踏襲になってしまうんですよ。

また、経営層から伺う声としては、株主に対する売り上げとか利益の説明が最優先にくるので、短期的な目標達成の方が優先度が高くなっています。キャリア開発やリスキリングには中長期的な目線が必要で、人材開発には2~3年は必要ともいわれています。

(以上のことを踏まえると)、リソースのひっ迫や少子高齢化の影響もあって従業員を取り合うなかで、新たな人材開発に投資する体力がないことがうかがえるのではないかと思います。

―――日本では、これまで多くの企業が終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用制度を続けてきました。ただ、最近ではジョブ型雇用制度(※)を導入している企業も出てきています。今後、ジョブ型雇用制度は浸透していくと思いますか。

※ジョブ型雇用制度:仕事内容を決めて、そのスキルや経験を持った人を雇用する制度。欧米諸国では主流。

イエス・ノーで答えるのは難しいですが、さまざまな形が出てくるんじゃないかなと思います。全く今までと同じ雇用形態で、これまで通りうまくいくかというと、ちょっと難しいとはいえますね。

メンバーシップ型も、どういう強みを持っているか分からない方たちが、組織の目的に沿ってスキルを磨いていける、安定した雇用を確保できるという意味では悪いことばかりじゃないんです。

なので、メンバーシップ型の良いところは残しつつも、世の中の変化もあるので「自分の力を生かして働きたい」「のびのびとやりたい」と思う人たちの力は最大化していかないと、組織にとっても個人にとっても、もったいないと思います。

ジョブ型とメンバーシップ型がハイブリッドで組み込まれることもあれば、徐々にシフトしていく。そういったグラデーションを意識した取り組みが今後増えていくことも考えられるんじゃないかなと思います。 

ただ、時代が変化していっても、(個人では)変えられないこともありますよね。自分が入社した会社で、「この会社ジョブ型にするわ」とか言ってもできないんですよ(笑)。

できないけれども、リスキリングに関していうと、たとえばDXやグリーンエネルギーに関して学ぶことが求められてる世の中に変化してきていることは間違いないので、「組織から言われてないけれども、自分は必要だと思うから学ぼう」とか「環境を変える前に自分でできることから始める」というスタンスは非常に重要かなと思います。

―――自ら学んでいく姿勢が大事ですね。

そうですね。幸せに生きていくために極めて重要なんじゃないかなと思っています。

というのは、やっぱり「やらされ仕事が本当に楽しいか」ということなんですよね。せっかく多くの時間を仕事に費やしているので、やらされているよりは納得感を持ってやりませんかと。みなさん、家や車、大事な家具はあまり人にさわらせず自分でメンテナンスするのに、キャリア、すなわち自分自身のこれからの人生を形づくるものに関しては、意識しないまま組織にあずけてしまっているように思います。

きちんと自身のキャリアについてメンテナンスして、自分でちゃんとハンドルを握って、アクセルとブレーキをコントロールする感覚を持つこと。このことが、これからの働き方において大事なんじゃないかなと思います。

インタビュー後編では、具体的にリスキリングを進めるうえでどうすればいいのか、身につけた上でどうやってキャリアアップにつなげていけばいいのかを伺います。

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