HOMEインタビュー 日本とはまるで違う…… 塩野義製薬社員がアフリカの貧困地域で見た保健・医療の現実とは【インタビュー前編】

日本とはまるで違う…… 塩野義製薬社員がアフリカの貧困地域で見た保健・医療の現実とは【インタビュー前編】

菓子翔太

2023/08/16(最終更新日:2023/08/23)


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塩野義製薬が、アフリカに住む母と子どもの健康改善に向けた取り組みを推進するプロジェクト「Mother to Mother SHIONOGI Project」。このプロジェクトに尽力する2人の女性が現地で目にしたものは、日本とはまるで違う医療・保健体制と苦しむ人々の姿でした。U-NOTE編集部は、同プロジェクトを担当する松岡瑛梨子さん(リーダー)と谷由香利さんに現地の状況と同社の取り組みを伺いました。

アフリカの現状

アフリカ地域のなかでも、サハラ砂漠より南側にある「サブサハラ・アフリカ」。国際通貨基金(IMF)が発表している経済成長率は2022年が3.4%、2023年が3.6%と高く、欧米諸国と比べて人口が増加し続けているものの、経済格差は大きいままです。きちんとした治療を受けられない人々も多く、妊産婦や5歳未満児の死亡率は世界平均を大幅に下回っています(妊産婦死亡率は出生10万人あたり533人、5歳未満児死亡率は出生1000件中76件 ※世界子供白書2021~子どもたちのメンタルヘルスより)。

上に掲載した2枚は、ケニアの首都ナイロビ。上の写真はアフリカ最大ともいわれるスラム「キベラスラム」で、下はナイロビのビル群(筆者撮影)

安全に出産できない環境

塩野義製薬が国際NGOワールド・ビジョン・ジャパンと協力し、事業の第1期(2015年10月~2021年7月)、第2期(2020年4月~)を展開してきたのは、遊牧民であるマサイ族が多く暮らすケニア・ナロク県と、乾燥地域で作物が育ちにくいキリフィ県。国内でも特に貧困率が高く、水道や電気といった社会インフラ整っておらず、医療施設や人員、機材が不足している地域です。

(谷さん)「そもそも診療所がない、あったとしても安全に出産できる産科棟が整備されていなかったり、電気が通っていなかったりするため、必要な治療や検査ができません。現地の課題を体感するために、お母さんたちと一緒に家から診療所まで炎天下の中20分ほど歩いたとき、たったの20分でしたが、それでも体力は消耗しました。お母さんたちは身重な体で、何時間も歩いて診療所までいかなくてはいけないことを考えると、かなり過酷な環境にあります」

谷由香利さん

(松岡さん)「日本ですと、出産する場合は病院に行かれることが通常だと思いますが、ここでは伝統的産婆さんがいて、家で取り上げることも多いそうです。ただ、牛の糞を混ぜた壁、土の床なので、きれいではないところです。感染症にもかかる可能性がありますし、そうした環境が妊産婦や子どもの死亡率が高い原因としてあります」

医療環境が整っていなかったのは、23年6月から始まった第3期において、ケニア・ナクル県に加えて新たに活動を始めたガーナのイースタン州アッパー・マニャ・クロボUMK群(新たに国際NGOジョイセフと協力)でも同様でした。

(谷さん)「近くに出産介助できる医療施設がないんです。ガーナでは、ある妊婦さんは歩いて3時間ほどかかる隣郡の保健センターへ移動していましたが、途中、ブッシュ(茂み)で出産。妊婦さんは保健センターで一命をとりとめたものの、赤ちゃんは多量出血のため亡くなりました。出産環境の未整備がいかに日常的に身近な課題であるかを痛感しました」

松岡瑛梨子さん

水を求めて数十キロ

母親たちが苦労してようやくたどりつく数少ない診療所。谷さんは、ケニアで診療所を訪れたときにも衝撃を受けました。設置されていた雨水タンクに鍵がかけられていたんだそうです。地域の住民がタンクの水を使うと医療に必要な水がなくなってしまうため、(鍵をかけて)管理していると聞きました。

(松岡さん)「水がある場所まで汲みにいかなくてはいけないのですが、その場所は(コミュニティの)数十キロ先にあって。お母さんたちは何十リットルも入るタンクを頭に乗せて、子どもを抱えながら、水を汲んでまた帰るということを毎日繰り返しているんですね。(医療の)教育を受ける時間もないし、子どもたちが学ぶ時間もない。家事もしなきゃいけないなかで、水汲みが生活に大きな負担を及ぼしているんです。日本のように水が入手できる環境は、本当に恵まれていると思いました」

 

 

母子の健康に悪影響を与えているのは、上記で述べた生活インフラの問題だけではありません。現地では、伝統的な価値観や社会的習慣、迷信により、病に対する正確な知識がつけられないほか、外出制限などで医療サービスが受けにくい環境にもなっているそうです。

「2、3年後どうなっていたいですか?」の問いに母親たちは

谷さんが現地に住む母親たちに話を聞いたときにも、驚いたことがありました。

(谷さん)「『2、3年後、あなたはどうなっていたいですか?』と聞くと、質問そのものの意味を理解されていなかったんです。現地スタッフから聞いた話では、『この地域の人たちは、今を生きることに精一杯で、将来を考えることはしない』そうです。それを聞いて、時間軸の長さがまったく違うことを学びました」

「Mother to Mother SHIONOGI Project」

こういった状況を改善すべく立ち上がったのが「Mother to Mother SHIONOGI Project」です。

「最終的に地域の人々が自立し、自分たちで保健活動を回していけるコミュニティの形成をゴールとしています」

プロジェクトが目指すものについて、こう松岡さんは語ります。「Mother to Mother SHIONOGI Project」が現地の状況を少しでも改善するために何をしているのか、そして始まったきっかけとは。後編はこちらから。

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