HOMEインタビュー インド女性のための下着ブランドRANGORIE。トライ&エラーで日印を往復したディレクターに訊くコロナ禍と社内起業のメリットとは?【インタビュー・後編】

インド女性のための下着ブランドRANGORIE。トライ&エラーで日印を往復したディレクターに訊くコロナ禍と社内起業のメリットとは?【インタビュー・後編】

服部真由子

2023/06/30(最終更新日:2023/06/30)


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右から2人目が江副さん、一番左が綿石さん

インドの農村で出会った女性たちから起業・新規事業のタネを受け取った江副亮子さんと、北米勤務を経て自らの殻を破り「自分がこうありたい姿」を目指せるようになったという綿石早希さんによる「インド女性が作る、インド女性のための下着」株式会社リコーのアパレル事業「RANGORIE」。共同代表をつとめるおふたりに加えて、社内・外を対象にした新規事業創出プロジェクト「TRIBUS」事務局メンバーであり、RANGORIEでは縫製を担当する内海知子さんにも同席していただきました。

このインタビューは前後編に分けてお伝えします。(本記事は前後編の後編です。前編はこちらから)

女性の可能性を最大限に発揮したい!

ーー(前編で)インド女性たちの下着をとりまく状況をうかがって感じたのですが、下着は彼女たちを閉じ込める「檻」なのかもしれませんね。一方で、付け心地がよく美しくデザインされたお気に入りの下着は、自分が女性であることに喜びを感じさせるブースター・起爆剤であることもまた、事実ですよね?

綿石:その通り!RANGORIEのミッションについて考えた時に、女性一人ひとりの可能性を最大限に発揮できるようにしたいね、身につけたら気分が上がってパフォーマンスもアップしちゃう、応援するようなウェアを作りたいね、と話し合いました。それが「TRIBUS」(リコーが実施する社内外を対象にした新規事業創出のプロジェクト)の締め切りの、2週間前くらいでしたよね?

江副:そう、本当にすごい勢いでの駆け足でした(笑)。

綿石:すごい量の書類や事業計画書を書きました(笑)。2人の想いがばーーっと駆け抜けるように、どんどん進んでいって、応募したんです。

プロフェッショナルたちが社内にいる心強さ

ーー社内起業をしたメリットやデメリットは感じられますか?

綿石:金銭面はもちろんですが、リコーのリソース、それぞれの領域のプロフェッショナルたちが社内にいる心強さを感じます。例えば法律の相談がしたいとなったら、本当は弁護士を探すところからですが、法務部に契約などの相談に乗ってもらえるし、必要ならばお付き合いのある弁護士さんにも相談できます。ハウスデザイナーにRANGORIEのロゴ作成をお願いしたのですが、業務委託や受発注をするような仰々しいプロセスはなく「助けてもらえますか?」とお願いできることはとてもありがたいし、社内起業して良かったと感じます。

ーーこのプロジェクトならば社会的意義も高く、インドで女性のための売店をオープンした実績もあり資金調達をはじめ支援者を見つけられたはずです。社外で起業をするアイディアはなかったのでしょうか?

綿石:トライする私たちを心から応援して、協力してくれる方々が何よりもありがたいので、社内起業ができて良かったと思っています。事業化が決まる過程で、内海のように合流してくれる人もいますし、退職はいつでも出来ることですから。

コロナ禍の渡航制限でインドで下着を作れない!?

工房で行われる技術指導の様子

ーーチャレンジを推奨し、支援することが企業風土として備わって社員の方に浸透しているからこその「退職はいつでも出来る」という言葉ですね。2020年2月に事業化が決定するやいなや、COVID-19での行動・渡航規制が3月頃から始まりました。インドは感染者・死者数も多く、厳しいロックダウンが実施されましたが、影響はありましたか?

綿石:メンバーに「ニュースだと大変なことになっているけれども大丈夫?」と聞くとみんな気を付けてはいるけれども「デリーの方は大変みたいだねえ」なんて答えが返ってくるようなムードで、工房がある農村部ではそこまで厳しいロックダウンは行われていませんでした。

内海:でもロックダウンで病院にいけなくて持病が原因でメンバーの家族が亡くなったり、物流が止まって、商品の仕入れが出来ないお店があったり(農村部でも)影響が全くなかったわけでもないですね。

綿石:私たちにとっては、インドで下着を作ったら「売れる」のかについて検証を行って、事業化できると採択されたのが20年の2月、コロナで海外渡航が制限される直前のことでした。その時点では、インドで下着を「作れるのか」ということは検証できていない状況でした。

江副:事業化が決定する前の市場調査ではインドらしい色や柄をデザインした「エスニック柄のランジェリー」というアイディアを聞いた多くのインド女性が目を輝かせて「欲しい!」と言ってくれましたが、そもそも工房に下着を縫うために必要なミシン(伸縮性を持たせたジグザグ縫いができるミシン)すら現地にはなかったんです。下着は1㎜狂うだけで着心地が変わるので、縫製クオリティを高める必要がある。さらに衛生的な環境で生産することも命題でした。

綿石:事業化が決まったからこそ、わたしたち自身が技術や、品質を向上するために現地で指導する必要がありましたが、あの時、ロックダウンが行われているインドへ「渡航する」という判断はリーダーとしてできませんでした。

ロックダウン後にインドを訪れた内海さん(右から3人目)、江副さん(右から2人目)

ーーそこで日本で生産することにシフトされた。

綿石:この決断はとても怖かった。工房はまだ完全に稼働できる状況ではなく、手刺繍や小物を製作してもらってはいましたが、製品を手にしたお客様に「インドの女性たちが作るんじゃなかったの?コンセプト違いませんか?」「嘘つき」と言われる覚悟でした。ビジネスとして渡航しても大丈夫だと判断できた21年の秋ごろから出張の準備を進め、22年1月にやっとインドへ行けました。実際に行ったら、Drishteeの指導でコロナ禍の間に、工房の縫製技術がかなり向上していました。

江副:Drishteeは現地の女性たちを対象にした縫製学校を運営しています。その学校を卒業した女性たちは繕い物を請け負ったりするような内職グループを作っています。「日本の企業と一緒に工房を立ち上げませんか?」という呼びかけに応えてくれた13のグループからモチベーションや技術の高いAmayra(アマイラ)を選んでいたので、コロナ禍でも継続して縫製指導が行われていました。

最新コレクションでついにインド生産品がラインアップ

Amayraメンバーと内海さん

ーーAmayraをパートナーに選んだ理由は技術力ですか?

綿石:技術だけでなく、どのエリアを拠点にしているグループなのかも大事でした。女性たちが働きやすいことや、作業をするために広いスペースが取れるか……

内海:あとほこりが少ないこと!

綿石:そう、衛生的な環境をキープできるかも重要でした。女性たちのスキルも大事だったけど、最後は人柄だったかもしれません(笑)。私たちがずっと一緒にいられるわけではないから、Drishteeとの関係も重視しました。Amayraはリコーの工房ではありません。私たちは対等なパートナーとして、彼女たちに仕事を発注するということがとても大切だと考えています。工房の立ち上げ費用の一部はリコーが支援しますが、それ以外はマイクロファイナンス(※)として彼女たちがDrishteeに返済をする取り決めにしています。貸し付けを行うDrishteeが信頼できるグループであることも大切な条件でした。

※貧困層や低所得者層の貧困緩和を目的とした、小規模の貸し付け・貯蓄・保険・送金などの金融サービス

ーー返済があるからこそ、仕事を頑張ってもらえる。女性たちが経済力を身につけるために大切な仕組みですね。そして、ついに6月からインド生産アイテムが発売できたんですね。

綿石:品質向上のための訓練とテストを繰り返してきたインドの工房が、ついに品質基準に達した成果です。最新の‟VARANASI(バラナシ)”コレクションでは、半数をインド製商品で揃えられました。

ーーインド製・日本製のアイテムを香港で行われた展示会「ファッション・インスタイル」で紹介して、反響はありましたか?

綿石:ファッション・インスタイルは、香港貿易発展局と「PLUG IN(※)」の支援ブランドとして無償出典枠をいただき参加しました。中国からのバイヤーの方が全ラインアップを購入してくださるなど、多くの方に関心を持っていただいたというより、私たちの製品に‟ハマる”方々と出会えました。特にアメリカではサイズ展開を拡げる必要があるので、グローバル展開は体格が近いアジアを最初のステップにすると考えています。引き合いをくださったのも、主に韓国や香港、中国のバイヤーからでした。

※ファッションビジネス専門紙の繊研新聞社とクリエイティブエージェンシーのCREDITSが共催する展示会

ーーさきほどインド製のブラトップを試着させていただいて、とても柔らかいコットンのやさしい肌触りに驚きました。もし見えてしまっても恥ずかしくないし、付け心地が良くて、みなさんの想いが本当に形になっていることに感動しました。ガンジス川の朝と夕の希望の光を表現したというガンガー(画像)はとても美しい色・柄で、印象に残りますね。

綿石:テキスタイル・デザインはデザイナーの種井小百合さんにお願いしています。まずは私たちがイメージをムードボードにして、種井さんと共有し一緒にアイディアやビジョンをふくらませたものをテキスタイルに落とし込む過程を経て、テキスタイルプリントを起こしています。

インド女性のための中価格帯アイテムや吸水ショーツに着手

リコーフューチャーハウス1F TRIBUSスタジオのRANGORIE店舗

ーーブランドとしては少し年齢層を高めに設定されているのでしょうか?

綿石:日本でのユーザーは、世界を旅して出会ったエスニック・ファッションが大好きな女性。年齢を重ねて、生地感や肌触りなどの品質も気になる方をイメージしています。香港での展示会では、気に入ったけれども価格帯がマッチしないというバイヤーさんもいらっしゃいました。

ーーフェアな業務委託をしていたら価格帯は高めになりますよね。

綿石:サイズ展開をせずアジア圏をステップにしようということは衣料廃棄のことも念頭においています。今、水面下ではインドマーケットで販売する中価格帯の下着を企画しています。「インド女性が作る、インド女性のための下着」という本来のコンセプトを完全に満たすものに着手しています。それから吸水ショーツもインドでのテストを進めていきます。

ーーどちらも楽しみです。将来的にインドの女性たちが女性であることを喜べるような下着になればいいですね。国内ではどう展開されていきますか?

店舗併設のヨガスペース

綿石:6月にオープンしたこの実店舗(神奈川県海老名市)と併設のヨガスペースを通じて実際に商品を手に取っていただいて、ヨガやフィットネスウェアとして日本で浸透させていきたいです。ヨガクラスはドロップイン(スタジオで1回ずつ利用料を支払う都度払い)なので、不定期で通いたい方も参加しやすいから、ぜひ気軽に足を運んでいただきたいです。それから、7月21日から西銀座デパートでPOPUP SHOPを開催します。RANGORIEアンバサダーが特別レッスンを行い、参加者には無料でウェアをお貸しして、RANGORIEの良さを体験していただけるスペシャルイベントです。わたしたちもたくさんのお客様の笑顔に会えることをとても楽しみにしています。

スペシャルレッスン詳細:https://rangorie.ricoh/collections/speciallesson

RANGORIE リコーフューチャーハウス店
住所:神奈川県海老名市扇町5-7 RICOH Future House 1階
営業日時:月曜日から金曜日 11:00~19:00
相鉄線・海老名駅/小田急線・海老名駅西口から徒歩7分
JR相模線・海老名駅から徒歩4分

RANGORIEオンラインストア:https://rangorie.ricoh/
RANGORIE公式Note : https://note.com/rangorie
RANGORIE公式Facebook : https://www.facebook.com/rangoriejapan
RANGORIE公式Instagram:https://www.instagram.com/rangoriejapan/

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