HOMEインタビュー インド女性のための下着ブランドRANGORIE。トライ&エラーで日印を往復した社内起業ディレクターらが見た女性たちの悩み【インタビュー・前編】

インド女性のための下着ブランドRANGORIE。トライ&エラーで日印を往復した社内起業ディレクターらが見た女性たちの悩み【インタビュー・前編】

服部真由子

2023/06/29(最終更新日:2023/06/30)


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 後列左から4人目が縫製担当の内海さん

プロジェクトの一員としてインドに派遣された株式会社リコー社員(当時)の江副亮子さん。そのプロジェクトは、途上国や新興国を対象としたBOP(Base of the Pyramid、貧困層を指す)層が直面する課題の解決と、リコーにとっての新規事業創出を目指すものでした。

インドの農村で出会った女性たちから起業・新規事業のタネを受け取った江副さんと、同社・北米勤務を経て自らの殻を破り「自分がこうありたい姿」を目指せるようになったという綿石早希さんによる「インド女性が作る、アクティブウェア」リコーのアパレル事業「RANGORIE」。共同代表をつとめるおふたりに加えて、社内・外を対象にした新規事業創出プロジェクト「TRIBUS」事務局メンバーであり、RANGORIEでは縫製を担当する内海知子さんにも同席していただき、くわしくお話をうかがいました。

このインタビューは前後編に分けてお伝えします。(本記事は前編、後編はこちらから)

インドの農村部で目にした男女格差

ーー江副さんがインドで出会ったものについて、教えてください。

江副:2011年のプロジェクトでリコーから与えられたミッションは、現地の人と生活をともにして、その気持ちになってその土地で必要とされるサービスや物を見つけてくるというものでした。会社からは自社のリソースや業態は忘れて構わないから「とにかく信頼関係を構築してこい」と言われました。インドのビハール州(※)の農村部で、1か月間の滞在を2度経験して、訪れた村ではとてもはっきり男女が区別されていました。男性は稼いでお金を家にもたらす存在で、優位に扱われている。かたや女性は大切にされていないんです。それまで、いわゆる「女性問題」を意識したことはなかったのですが、目の当たりにした「男女格差」に大きな衝撃を受けました。

※インド北西部に位置するビハール州は、貧困層が多く居住する開発が遅れている地域のひとつ。2012年には外務省のODA(政府開発援助)としてビハール州における村落開発事業が実施された。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/data/zyoukyou/ngo_m/s_asia/india/120312.html

左側の日本人女性が綿石さん、右側が江副さん

ーー経済力がないために女性がないがしろにされていたと考えていいですか?

江副:はい。そして、対話を続けるなかで女性たち自身が格差に違和感を感じていることもわかりました。村の外には出られないけれども「自分たちの価値を示したい」「働きたい」と縫製学校に通ったりしてチャンスを探していましたが、仕事がないんです。

ーーその女性たちを想像するだけで胸が詰まります……。

江副:村には仕立て屋さんがあるのですが、女性たちはなんでも作ってしまうんですよ。生地から服を仕立てたり、美しく刺しゅうをしたりちょっとした手仕事が普通に行われていました。伝統衣装を着ている人が多いんですが、みなさんとてもおしゃれ。それなのに、下着だけはあまり素敵ではないものを身につけているんです。下着のストラップやホックが見えないように工夫したり、合わないサイズのものを身につけていたりとても不自由でした。男女が同席することすらはばかられるのに、下着を販売するのは男性だったことも衝撃で……。試着をしたり、サイズのあうものをお願いするなんて彼女たちにとっては‟ありえない”状態でした。女性たちが下着を作ったらもっと気に入るものや、要望にあうものが作れますよね。女性用品は女性が売って、下着も女性が作ったらいいんじゃない?というのが最初のアイディアです。

女性向けの日用品を女性が販売する売店を現地展開

ーーそこでまずは下着を気軽に買えるお店をインドで展開されたんですね。

江副:女性オーナーが経営する小さなお店です。生理用品や下着など女性向けの日用品を女性が販売するという提案をして、リコーとDrishtee(ドリシティ)が、最初は帳簿の付け方、商品の仕入れ方などからサポートしましたが、現在ではリコーの手を離れて独立しています。

オープンした売店とそのオーナー

ーーDrishteeは、RANGORIEでも協働している社会企業・NGOですね。JICA(独立行政法人国際協力機構)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」に採択された際に「品質を担保した清潔で経済的な経血吸収ショーツとナプキンを提供する」という項目も含まれていますね。(くわしくはこちら

江副:このインドで女性向け下着を作るというアイディアと、この売店のアイディアは同時にあったもので、Drishteeが引き続き協力してくれています。吸水ショーツを選んだ理由は、繰り返し使えるものだから。現地で生理用ナプキンの価格帯も調べたのですが、気軽に使い捨てするにはちょっと高くて、実際に生理用ナプキンを経済的な理由で買うこと、使うことを控える女性がいます。それでも売店では一番生理用ナプキンが売れているそうです。コロナ禍で現地に渡航できずお洗濯などの衛生的に扱えるかを確認するテストが出来なかったので今、吸水ショーツの企画はペンディングにしています。

女性は一歩退くべきという思い込み

ーー綿石さんがこのプロジェクトに共鳴されたきっかけを教えてください。

綿石:わたしは江副とは正反対で、昭和ひと桁生まれの祖父母に育てられ、祖母は祖父のサポート役、という男女の役割のはっきりした家庭で育ちました。コンサルタント職として北米勤務をした際に、ちゃんと話しているつもりなのに「もっと堂々としなさい」とか「控え目になるな」とアドバイスを受けたことが、「男性を立てなくてはいけない」という無意識の思い込み、殻を破るターニングポイントになりました。

ーー男性優位の環境という点で、インドの女性たちとよく似ていますね。

綿石:インドの女の子たちと「同じだー!」って思いました(笑)。わたしは殻を破ることでとても生きやすくなって、女性という性別に与えられた役割をこなすんじゃなくて「自分がこうありたい姿」を目指せるようになりました。日本に帰ってきて「役割や周囲からの期待に応えることで精一杯になっている方がたくさんいるぞ……」とも感じるようになり、「インドで下着を作りたい」という江副の想いを聴いたのは、そういった方を解放して差し上げられるようなビジネスができたらいいと思い始めたタイミングでした。

アパレル未経験でも、思わず参加した

ーー内海さんが参加された経緯も教えていただけますか?

内海:いまでもTRIBUS事務局を担当しているんですが、こんな面白そうなプロジェクトには参加したくなりました。もともとファッションが好きで、ちょっとだけなら洋裁もわかったので、思わず手を挙げました。「私、めちゃくちゃ使えるよ!どう!?」って感じ(笑)。下着の作り方は「今は知らないけど、学校に行かせてくれたらインドで指導します」ってアピールしました。今、日本で作って持って行ったものは、わたしが縫い方や作り方を指導しています。

ーー日本の縫製業者と提携しているのではないんですね。

綿石:内海が通った縫製の学校に師匠がいて、その方はいくつか縫製工場を経営していたり、新しい工場を立ち上げるノウハウを持っていたりする方なので相談することや助けてもらうことはありますが、Drishteeが現地で指導する以外では、内海がメインで行っています。

 

YouTubeで公開されているBollyque/ボリウッド女子とRANGORIEのコラボ動画

アパレル事業を経験したことがない3人の女性が、実際にインドの農村部を訪問し課題一つひとつにぶつかりながら育てていったというRANGORIE。前編ではブランドコンセプトの大切な柱となった江副さんがインドで目の当たりにした女性問題と起業のタネについてお話をうかがいました。後編では社内起業についてのお話や、事業化決定とほぼ同じタイミングに始まったコロナ禍についてうかがいます。

RANGORIE リコーフューチャーハウス店
住所:神奈川県海老名市扇町5-7 RICOH Future House 1階
営業日時:月曜日から金曜日 11:00~19:00
相鉄線・海老名駅/小田急線・海老名駅西口から徒歩7分
JR相模線・海老名駅から徒歩4分

RANGORIEオンラインストア:https://rangorie.ricoh/
RANGORIE公式Note : https://note.com/rangorie
RANGORIE公式Facebook : https://www.facebook.com/rangoriejapan
RANGORIE公式Instagram:https://www.instagram.com/rangoriejapan/

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