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マーケター人材不足をどう解決する?マーケティング組織立ち上げの心得

U-NOTE編集部

2023/05/30(最終更新日:2023/05/31)


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「サービスサイトがGoogleアルゴリズムのアップデートで3/1のセッション数に。」 ここから私は、BtoBマーケティング未経験ながら、ひとりマーケターとしてマーケティング組織を立ち上げ、2年ほどで月300件のリードを獲得できるようになりました---。

そう語るのは、法人向けデジタルマーケティング支援事業をてがけるナイル株式会社デジタルマーケティング事業部 マーケティングユニット・大澤心咲氏。

この成果を機に、マーケティング予算は当時の4倍になり、今では正社員3名、業務委託2名で外注先4社と共に売上増加に取り組むマーケティングチームを形成することに成功しています。

そして書籍を発売してからは、“マーケティング組織の立ち上げ方法を聞きたい”といった問い合わせも増えているといいます。

今回は、そんなナイル株式会社・大澤氏より、マーケター採用の状況、孤軍奮闘するひとりマーケターがチームをつくるまでにやるべきことについて、ご寄稿をいただきました。

マーケター求人の状況

Webマーケターの求人数の伸び率は2017年から2年間で241%(※)と需要が高まっています。

2020年以降はコロナ禍をきっかけに対面営業、飛び込み営業、展示会などが難しい状況が約2年間続き、さらに“オフィスに電話をしても人がいない”というケースも多かったため、対面営業がメインだった中小企業などもWebマーケティングの強化をせざるを得ない状況となりました。

※出典:日経クロストレンド「2017年4~6月から19年4~6月までの求人数の伸び」

マーケター求人が増え続ける理由

マーケターの求人が増加傾向にある理由はいくつか考えられます。マーケター業務の中でも販売促進に的を絞り、求人増加の背景を解説します。

まず1つ目は、業務の細分化が進んでいることです。これはB2CとB2Bのどちらにも共通していると感じます。細分化の背景にはデジタルマーケティングの普及が挙げられます。

また、B2Bの分野では、THE MODEL(ザ・モデル)という考え方が徐々に普及しており、インサイドセールスという形で、営業とは異なるアプローチが取られています。

例えば、電話でお客様とコミュニケーションをとり、関係を築くといった対応です。インサイドセールスをマーケティングに含めるかどうかは組織によって異なりますが、マーケティング組織の一貫として位置づける企業もあります。

さらに、マーケティングオートメーションツールやCRM、SFAなどのさまざまなツールが存在しており、それぞれのツールを効果的に活用する業務だけでも、ツールごとに業務の細分化が進んでいる状況にあると考えられます。

2つ目の要素は、細分化された業務を統合し、適切な戦略を考えることができる人材が求められるようになったことです。例えば、認知を高めるためにはメディア掲載やイベント企画、話題性のあるSNS投稿など、多様な方法があります。

同様に、問い合わせを増やす方法もセミナーを行うのか、テレアポを行うのか、DMを送付するのか、などさまざまです。

これらの手法を統合し、マーケティング戦略の方向性を描ける人材が必要とされています。しかし、そのようなスキルを持つ人材は意外と少ない現状もあります。全体の戦略を見据え、施策を立案できる人材が求められています。

3つ目の要素は、デジタルマーケティングが普及することで、さまざまなデータを分析できるようになったことです。

デジタルマーケティングを実践している方々は納得されると思いますが、最初からすべてのデータを完璧に把握できる組織はほとんど存在しないでしょう。

データを活用できる組織の構築や設定、データ計測ができるようにするためのオペレーション変更など、これらのタスクも時間がかかり、人材が必要になります。

4つ目の要素は、データを活用できる体制が整ったら、次にそのデータを分析し、何かを導き出す能力が求められることです。データ分析には非常に時間がかかることが多く、膨大なデータを扱う場合、データの確認だけで数日を費やすこともあります。

定量データだけでなく、定性データも分析する必要がありますが、定性データはExcelなどで関数を使って変化の分析を行うのが難しいため、時間がかかることが多いです。

このようなデータ分析のスキルも、人材に求められる要素の1つとなっています。特にデータ分析は商品開発や商品の改善、集客に繋がるアイデアが生まれる可能性を秘めているため、非常に重要な役割を担います。

5つ目は個別化の重要性です。 顧客のニーズに合わせた個別化されたマーケティング戦略が重要視されるようになっており、その実現に向けたマーケターの求人数が増えています。

個別化について衝撃的だったのはモノタロウさんです。 モノタロウさんはTwitterで話題になっていたため、私で裏どりができているわけではないですが、チラシがお客様ごとに最適化されているのではないか、という話があります。

ある方が「 この届いたチラシが自分が検索したことのある商品ばかりのような気がする」「自分自身に最適化された商品のチラシが届いているんじゃないか」とツイートしました。

そのツイートに対して何人かの方がリプライをしていて、 「確かに自分が買ったことある商品の部品がチラシに載っている」「 自分が検索したことがある商品の情報がチラシにまとまっている」といったことを発言しておられました。

ツイッター上で複数の方が自分に届いたチラシはこんなものでした、と投稿しているのを見ていると、ひとりひとりにカスタマイズしたチラシが送付されている可能性があると考えられます。

このようなことはB2Bの場合でも行われています。 B2Bの場合、企業規模に応じてインサイドセールスのトーク内容を変更したり、過去にお客様がダウンロードしていたカタログの商材に合わせてDMの送付内容を変えたりすることも以前から行われています。

また、一度でも商談したことがある企業の担当者に電話をする場合は、当然ながら過去の商談の記録をさかのぼり、1社1社異なるトークで電話対応することになります。

6つ目の要素はユーザーがインターネットで情報収集をしてから購買行動する商材が増えていることです。例えばB2B商材であっても購買担当者はインターネットで情報収集をしている傾向が分かり始めています。

インターネットで情報収集できるため、B2Bであっても57%の購買の意思決定が営業商談前に決まっているというデータもあります。

出典:The Digital evolution in B2B Marketing、https://www.thinkwithgoogle.com/_qs/documents/677/the-digital-evolution-in-b2b-marketing_research-studies.pdf

このような状況を考慮すると、マーケターにできることが非常に増えているため、求人数の増加が発生していることが分かります。

マーケティング組織の立ち上げ、採用は諦めるべきか?

マーケター採用の難しさや背景について述べたところで、採用を諦めるか、内製にこだわるか、外注するかという点について解説します。

私はまず内製化を目指して挑戦することをおすすめしたいです。すべて内製するのは難しいので、せめてホワイトペーパーの作成や、ブログ運営、データ計測の仕組みづくり…など可能な範囲から取り組み始めましょう。

内製化に挑戦した方がいい理由は下記の通りです。

特に3点目の「個別最適化が進みすぎてしまう」は、企業の戦略にまで影響が及ぶ話になります。記事制作はA社、DM発送はB社、ホワイトペーパー作成はC社など施策ごとに個別に外注をすると、個別最適化が進み、戦略が欠如し、大きな成果が得られないことがあります。

ではマーケティング組織を立ち上げるには、どのような人を選定すればよいでしょうか。

常時マーケティング関連の求人がある弊社でも、マーケターの採用は想像以上の難易度です。弊社でも1,000名応募があってようやく1名内定するレベルです。

上述の通り求人数が増え、自社を選んでもらう難易度も上がっている可能性を考慮すると、マーケティングチームの立ち上げは採用より、異動を推奨します。

ここからは少し厳しい話になってしまうのですが、中小企業のマーケター採用状況をお伝えするために書かせていただければと思います。

私自身もベンチャー企業で自チームのマーケター採用に関わりながら、採用の難しさを強く感じていることです。それは、当然ひとり目の採用は想像以上に難航するということです。

まず経験面として、マーケティング未経験の会社がどのようにして有能なマーケターを見極めるのでしょうか。世の中に面接のサンプルや、見極めの質問集などはありますが、それでも採用ミスは発生するものです。

会社にマーケティング組織がない場合、候補者の中から自社を成長させるマーケターを見極めることは至難の技になることが予想されます。

また腕利きのマーケターがいたとしても、自社に応募してくれるのかどうかは疑問です。

腕利きのマーケターは、予算を最適に扱って売り上げを伸ばすことを経験している人が多いので、 マーケティング投資できる費用も少なく、リソースもなく、マーケティングに対する社内理解も少ない状態の企業にわざわざ飛び込んでくれるのか、という疑問があります。

採用が上手くいった企業にも出会ったことがありますが、上記のような採用難易度や、マーケター入社後にミスマッチだった場合のリスクの高さを考えると、いきなり採用を始める前にまずは社内異動の検討を推奨したいと思います。

異動なら採用とは違って金銭面の大きな痛手もなく、ミスマッチのリスクも低くなります。適任者は次のような特徴がある人です。

①職種やキャリアプランへのこだわりが少なく、経験の希少性に重きを置く人

例えば、絶対に営業職がいい、何歳までに絶対マネージャーになりたい、などのこだわりがあまりない人が適任です。どちらかといえば会社の中でどんな経験ができるのか、という経験の希少性にこだわりを持つ人の方が合うと思います。

立ち上げポジションは前例がないため、キャリアプランなどは会社も上司も用意できません。そのため明確なキャリアプランを既に持っている人は予定通りキャリアが進まないことに対して、モチベーションが続かない可能性があります。

②目的意識が強い人

マーケティングの手法は多様にあります。 先ほど述べた通りSNS、広告、SEO、ホワイトペーパー、ウェビナー、 展示会出展など、手段が多様にあるからこそ、 どの手段を目的達成のために用いるのが適切なのかを考えられる人の方が合うでしょう。

やりたい施策だけをやっているようでは結果は出ないので、目的意識がある人の方が合うポジションです。

マーケティング組織の立ち上げ時にやること

まずは、現在のマーケティング予算を確認してみましょう。過去の請求書などを調べてみると、マーケティングにカウントできるような予算が意外と見つかるものです。

例えば弊社では、Webサイトのサーバー代、メルマガ配信ツール代が数年間請求として発生しており、これが最も古い最初のマーケティング予算でした。そこから必要性の交渉を重ねて、少しずつ少しずつ予算を増やしていきました。

年間の人件費を除いたマーケティング予算は、マーケティング部門の決裁権のみで取り扱いができる金額から始めるのがおすすめです。

企業によってその金額は異なりますが、私の場合はサービスの年間売上の1%前後程度から始めていました。最初から高額な予算の取り扱いは、費用の使用について社内合意を形成するだけで時間がすぎてしまい、成果が出ないまま終わってしまう可能性があります。

例えば、とあるチャネルに100万円の投資を年間で行い、いくらの売上を何か月で回収するのか、という計画は新任マーケターにはとても難しい作業です。新しい取り組みなので、周囲も任せていいのか不安になります。

そのため、まずはマーケターやマーケターの上司のみの決裁で施策を始めることができる金額から開始するのがおすすめです。

少しずつ実績を出しながら、投資額の交渉を行っていきます。いきなり高額な予算で、大きな施策を打とうとしないことが、施策の成功においても社内交渉を前に進める上でも大切です。

続いては評価についてです。マーケターの評価については、成果はもちろん大事ですが、マーケティングの成果が現れるには時間がかかるため、適切なプロセス評価が重要です。管理職が部下の行動内容を観察し、3か月後や1年後にどれくらいの成果が期待できるかを逆算して評価しましょう。

管理職経験のある方なら、職種が異なっても今の行動量や行動の質なら半年後、1年後にどのような結果になるのかは、おおよその予想をつけることができるはずです。

3か月間の活動で数字成果がすぐに出なくても、その3か月間の行動量や質が期待に沿ったもので、この行動を半年~1年と続ければ成果が出ると確信できるなら、目立った数字が出ていないからと極端に低い評価をつける必要はありません。

ただし計画ばかりで、資料作成、架電、広告運用など実際にお客様の目に触れるようなものをつくっていない場合は、厳しい評価になるでしょう。計画を立てるだけでは半年後、1年後も数字は生まれません。

以上がマーケティング組織立ち上げにおける考え方です。

私は、マーケティング支援会社に勤めていますが、お客様にはマーケティングはまずは内製で取り組む姿勢をおすすめしています。それでも困ってしまう場合は、経験豊富なコンサルタントがマーケティング組織の立ち上げ、Webマーケティングの取り組み支援などのお力になれたらと思います。

またB2B企業のマーケティング組織の立ち上げについては拙著「ひとりマーケター 成果を出す仕事術」もご参考にしていただけますと幸いです。

著者プロフィール

大澤心咲
ナイル株式会社
デジタルマーケティング事業部 マーケティング マネージャー
「ひとりマーケター 成果を出す仕事術」著者

新卒でアクセンチュア株式会社に入社後、2018年ナイル株式会社に入社。
Webコンサルタントとして顧客Webサイトの成長を支援。2020年4月からはデジタルマーケティング事業部の新規顧客獲得の専任担当となり、マーケティングチームの立ち上げを担当。

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