商談や記者会見などの場で、リアルタイムに外国語を日本語訳して伝える逐次・同時通訳(※1)のお仕事。
※1 逐次通訳は、話し手の話を合間合間で止めながら訳す仕事。同時通訳は、話し手の話と同時進行で訳す仕事。
橋本美穂さんは、これまでに英語の通訳者として6000件以上の案件を担当。ふなっしーやピコ太郎が外国特派員向けに行った記者会見で通訳も務めました。
通訳者になるまでの大変さや仕事の魅力、AIによる翻訳技術が進歩する中で今後の通訳業界に対してどう考えているのかといった点などについて、U-NOTE編集部の菓子が業界のプロである橋本さんにインタビューしました(全3回第3回)。
第1回「「無理だという感覚に何度も襲われた」 帰国子女でも難しい通訳業界、なるにはどうする?:通訳者・橋本美穂さんインタビュー(1)」
第2回「「ふなっしーの通訳、できる?」 突然舞い降りたチャンス、日本語特有の表現を英語で伝えるには?:通訳者・橋本美穂さんインタビュー(2)」
通訳者に向いている人は?
―――通訳の面白さは何ですか?
やっぱり一言で言うと“伝える楽しさ”ですよね。聞いた人の考えがどう変わって、どうアクションしたのかといったところまで、責任を感じますし、興味があるところです。
ちょっと言い方を間違えただけで違うニュアンスになっちゃったり、伝える順番を間違えると分かりにくくなったりするので、テクニックも駆使しながら、どう表現したらいいのかを考えるのが醍醐味だと思います。
しかも、同時通訳の場合は(話を)聞きながら訳していくので瞬時に判断しなきゃいけない。私はそれをプレッシャーではなくスリルだと感じます。適切な言葉が口を突いて出たときは「よっしゃ!」って思いますね。
―――通訳の仕事を続けられるのはどういう人ですか?
毎日違う場所に行くため、タイムマネジメントが重要です。時間や場所、移動時間の計算に加えて、負荷の調整などを全て自分1人でしなければいけません。これを毎日続けていくと、ずっと気が休まらないライフスタイルになっていきます。
また、誠実な人であることも重要です。それが伝わらないと相手も安心して自分の発言を通訳者に預けてくれません。つまり言いたいことがちゃんと伝わるという安心感をお客様は求めているんですが、お互い初対面のケースも多いです。出会った瞬間から信頼していただくために、見た目も含めて人間性を磨くことがすごく大事だと思います。
どんなプロの世界でも言えることですが、技術は磨いて当たり前。結局「この人と仕事がしたい、この人に訳してもらいたい」といった“人間対人間”の部分は永久に残っていくと思います。
AI時代、通訳者は
―――AIを駆使した翻訳機能もどんどんアップデートしていくと見られますが、今後の通訳業界をどう見られていますか?
(翻訳機能は)自分にとっては良きライバルでもあり、仕事の能率を上げてくれる相棒でもあります。どんどん性能は良くなっていきますし、そうあってほしいと思います。その究極の姿として人間通訳が不要になる世の中になるのであれば、それは良いことだと思います。いまは「人間が通訳をすることの価値って何なのかな」とものすごく考えさせられていますね。
―――先ほどおっしゃっていた人間性にも関係してくる話かと思いました。
そうですね、やはり人間対人間のコミュニケーションです。なので、そこにポッと機械が入って場が円滑になるのかという疑問もありますし。(AIが)そのうちできるようになるかもしれないですけど、人間って第6感とか働くじゃないですか。お客様が緊張されてうまく話せていない部分があったときに、「きっとこういうことがおっしゃりたいんだろうな」っていう行間を埋めるようなことができるのは、まだ人間だけなのかなと思います。
言葉が抜けても推測できるか、伝えるときに機械の声と人間の通訳はどちらの方が説得力を持つのかってところが問われていると思いますね。
20代前半を生きる若者へのメッセージ
―――U-NOTEは、20代前半を主な対象としているメディアです。その世代の人達にアドバイスがあればお聞かせください。
(私はかつて)まさか通訳者になると思っていませんでした。人に言われてなったようなものなので(過去記事参照)。なのに今、とてもやりがいを感じています。(皆さんには)“人生は計画通りにはいかない”ということを楽しめる心持ちでいてほしいです。
自分の才能や能力だって、全部把握できていないのが実情じゃないかなと思うんです。自分の良さを他人が気づかせてくれるようなこともよくありますよね。私もまさにそうです。
通訳者に向いているって言われて、そうなのかどうかもわからないのに飛び込んでみました。人生におけるアクシデントみたいなものも楽しむ感覚でキャリアを開発していけると広がりが出るのかなと思います。
ただ、そうは言っても進路は自分で決めなければいけないので、その際にはプレッシャーや不安を感じると思うんですよね。そのとき私がいつもアドバイスしているのが、“夢中になれる方を選んだ方がいい”ってこと。「努力」は当然しますが、もっとパワフルなエンジンって「夢中」になることだと思うんです。
私のイメージだと努力という言葉は、時にはやりたくないことや辛いことに耐えながらやっていくという感覚ですが、夢中ほど無敵なものはないですからね。だから、迷ったときには自分の心が動く方を選ぶと良いかなと思います。「誰かに言われたから」とか「こっちの方が稼ぎが安定しているから」だけじゃなくて、「でもやってみたい」って思える方に突き進んでみるのも良いんじゃないでしょうか。(了)
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