商談や記者会見などの場で、リアルタイムに外国語を日本語訳して伝える逐次・同時通訳(※1)のお仕事。
※1 逐次通訳は、話し手の話を合間合間で止めながら訳す仕事。同時通訳は、話し手の話と同時進行で訳す仕事。
橋本美穂さんは、これまでに英語の通訳として6000件以上の案件を担当。ふなっしーやピコ太郎が外国特派員向けに行った記者会見で通訳も務めました。
通訳の仕事に就くまでの大変さや仕事の魅力、AIによる翻訳技術が進歩する中で今後の通訳業界に対してどう考えているのかといった点などについて、U-NOTE編集部の菓子が業界のプロである橋本さんにインタビューしました(全3回中第2回)。
第1回「「無理だという感覚に何度も襲われた」 帰国子女でも難しい通訳業界、なるにはどうする?:通訳者・橋本美穂さんインタビュー(1)【Professional Report】」
―――ふなっしーの通訳を務めることになった経緯はどういったものだったんですか?
チャンスは突然訪れるもので、準備ができていなくても来るんですね。通訳者になってからは、「今日はA社、次の日はB社」と色んな企業のオフィスに出入りする日々を過ごしていて楽しかったんです。ビジネス通訳ばかりやっていたんですけども、ある時、お声がかかって「ふなっしーの通訳ってできる?」と聞かれました。
当時、ふなっしーがニューヨークに行ってセレブリティーに仲間入りしたんですが、日本に帰ってきて、その報告をするために記者会見を開いたという経緯でした。どうしたらふなっしーの魅力を外国人に伝えられるだろうかと考え、ドキドキしながら仕事を受けました。
―――ビジネス通訳とふなっしーの通訳では、かなりテイストが違うかなと思いましたが。
全く異なるアプローチが必要でした。ひたすら正確に効率よく伝えるビジネス通訳とは違って、多少場を盛り上げることも必要だし、何よりふなっしーの存在価値や魅力を余すことなく伝えることがミッションだと認識しました。
海外から見て、「日本って何でこんなにマスコットが好きなの?」とか「ゆるキャラって何?」という前提から理解できないと、なぜ梨の妖精がこんなに人気があるのか理解できないじゃないですか。そこに共感が生まれなければ良い記事は書いてもらえないと思いました。
なので、「まず記者の皆さんに楽しんでもらうことが一番大事なんじゃないかな」と。ビジネス通訳の現場では一歩引いて黒子のように訳していますが、この時はちょっと前に出て、ふなっしーと一緒にトークを進めていくスタイルに変えました。
―――ふなっしーの通訳もすごく上手くできる方だから、ピコ太郎さんの会見もお願いしようという形になったんでしょうか。
もしかしたらそうかもしれません。(ふなっしーと)同じようにピコ太郎さんの魅力を存分にお伝えしたいと思って臨んだんですけど、(会見での)“驚きももの木20世紀”や“ありが玉置浩二”などの発言に、ものすごく汗をかいた記憶があります。
―――難しかったですか?
そうですね。全体的には、それまでの実力で適切に訳せたと思うんです。でも、“驚きももの木20世紀”を、その場でどう訳したらいいかは瞬時に思いつきませんでした。芸人さんなので勢いで話されるところも当然あり、準備なしには対応しきれなかったです。あとで、もっと良い表現方法があったんじゃないかと何時間も反省しました。
―――今回、その経験も踏まえた「英語にないなら作っちゃえ! これで伝わる。直訳できない日本語」という本が発売されました。どんな本でしょうか。
「英語にできない日本語」を53個収録しています。私も日常業務の中で思わず通訳が止まってしまう瞬間がいまだにあるんですが、そういった反省を含めて、編集部の方と一緒に毎月ひとつずつお題を選びました。例えば、“鬼に金棒”という表現がありますが、“鬼”と言われても海外の人はパッとイメージがわかないんですね。日本人が“サタン”って聞いても、ピンとこない感覚と同じです。強いものがますます強くなるという意味がどう転んでも伝わらない。つまり直訳では無理なので、どう言えば伝わるのか考えて「飛訳」という奥の手を出したんです。
本の中には、会話文も入れています。作っちゃった英語を会話の中でどう使っていくのか例示し、アプリを使って音声をお楽しみいただけます。息子を叱るお母さんや面食いのお兄さんの話も、登場人物になりきって私が吹き込みました。
―――お話を聞いていて、日本語の表現を英語で100%伝えるのはやはり難しいと思いました。どう割り切ることが大事なんでしょうか。
通訳で1番大事なのは「正確性」です。次に「スピード」で、3つ目に「表現力」なんですが、正確に訳しても伝わらない場合は、意味の本質をズバッと言っちゃった方が早い場合もあるんですよね。正確じゃないと言われるかもしれない。でも、正確に訳したところで伝わらない。相手が分かりやすい文脈・文化・言葉で伝えた方が早いんじゃないかという発想ですね。
通訳の面白さとは何か、AIによる自動翻訳技術が進歩する中で通訳業界の今後をどう見ているか、20代前半を生きる人たちに伝えたいことは? 5月29日18時掲載(予定)のインタビュー(3)に続く
橋本さん初の著書『英語にないなら作っちゃえ! これで伝わる。直訳できない日本語』の購入はこちらから
参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000141.000038445.html
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