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教育現場の学習におけるAI活用の有用性 人間とAI、学習をよりサポートできるのはどちらか、各過程で検証!AI活用で成績向上を実現するためには?

U-NOTE編集部

2023/04/10(最終更新日:2023/04/12)


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学校や塾など、教育機関を中心に記憶定着のための学習プラットフォーム「Monoxer」を提供するモノグサ株式会社(以下、モノグサ)。

教育現場において、児童・生徒の成績向上をより効果的にサポートするためにAIをどのように活用するべきかをテーマに、モノグサCEOの竹内孝太朗さんにご寄稿いただきました。

2019年に開始された文部科学省の『GIGAスクール構想』により、教育現場で日常的にICTツールが活用されています。文部科学省の調査によると、2021年7月時点で全国の公立の小学校等の96.1%、中学校等の96.5%が、「全学年」または「一部の学年」で端末の利活用を開始しているそうです。

モノグサは教育現場で児童・生徒の成績向上に寄与するツールとして、記憶定着のための学習プラットフォーム「Monoxer」を提供しています。

学校でのICTツールの利活用が進む一方、「AI技術をどのように教育に組み込むことが有用か」というテーマは、試行錯誤が行われている状態です。

今回は、人間と機械の得手・不得手を踏まえて、AIをどのように活用すれば生徒の成績向上を効果的にサポートできるのか考えていきます。

思考において人間が得意なこと、機械が得意なこと

学力の大事な要素のひとつ、「思考力」から人とAIの得意・不得意をひも解いてみましょう。

思考のプロセスには、まず前提となる「記憶」、それから「記憶」に基づき判別する「認識」、「記憶」、そして「認識」に基づいてどうするか決める「推論」という3つの段階があります。

今回は「熊らしきもの」と遭遇した場合を例に、「記憶」、「認識」、「推論」のステップでそれぞれを比較します。

目の前に「熊らしきもの」が現れた場合、私たち人間は、まず熊の姿かたちや、熊は雑食であるなど知識の「記憶」によって目の前の「熊らしきもの」の存在が、「熊」であることを「認識」します。そして「雑食の熊は危険だから逃げよう」という「推論」を行います。

一方機械は、「記憶」の分野で熊の見た目や、雑食であることを1度覚えると、人間のように忘れません。記憶することは、人間よりも得意です。

一方「認識」の領域では、今後ディープラーニングにより認識精度を人間よりも高めることが期待されますが、現状では範囲を決める能力が人間よりも極端に弱いです。

そのため、「熊らしきもの」の一部を見て、「何の動物であるか」という問いかけに、茶色い部分など「熊」を示す情報に着目できずに、どの情報を確認したら良いか、範囲が指定されないため認識できません。

突然「熊」に遭遇するような予想だにしていない状況で、最善となる行動を判断する力が求められた場合に、機械は既に決められたこと以外の判断が行えないため、「推論」は人間の方が得意な分野と言えるでしょう。

これらを前提にして、成績向上に向けた学習過程のステップはどのように分解できるか見ていきます。

成績向上の3ステップ-----理解・定着・活用

学習の過程には「理解(分かる)」「定着(できる)」「活用(使える)」の3ステップがあり、これができると「学習内容を習得した」状態です。

たとえば分数の計算では、「理解(分かる)」は「分数の計算手順を説明できる」、「定着(できる)」は「分数の計算を素早く行える」、「活用(使える)」は「初見の問題で分数を使おうと思いつく」状態です。

各ステップには、それぞれポイントがあります。

まず「理解(分かる)」は、ある事柄を理解できるように自分が分かる事柄に置き変えて説明する「たとえ話」が重要です。「定着(できる)」には繰り返し行う「反復」が、「活用(使える)」では簡単に答えが出せないものを考える「試行錯誤」の繰り返しが必要です。

では、それぞれの学習過程においても、機械と人間の得意な分野を検討していきます。

「理解(分かる)」のは人間が得意

「理解(分かる)」の分野で機械が活用されている事例を考えていきます。学習者の理解度を確認するためには「苦手分析」、前提知識の補充には「動画レコメンド」、説明には「映像(アニメ)授業」が活用事例に該当します。

この時、「動画レコメンド」や「映像(アニメ)授業」は、機械が得意とするAI的分野と捉えられるかもしれませんが、実際は機械よりも人間の方が優れている分野です。

もちろん、優れた苦手分析や、動画レコメンドもあるのですが、そもそも学習の一本化はとても難しいことなのです。数学の問題を間違えたのに、国語の学習に戻る必要があるなど、同一科目内だけに定義ができないことも多く、理解の順番にも個人最適が存在します。

既習範囲で、生徒が問題を間違える確率をAIが当てる精度は80~90%程度ですが、これから習う範囲の問題を間違える確率の場合、その精度は10~30%程度に留まるという研究結果があり、確認テストや映像授業で定義できる情報だけでは判断できないことが分かります。

たとえば、生徒が「追いつき算」のような、2次方程式を利用する問題でつまづいた時、基礎となる1次方程式の戻り学習を行っても問題が解けない場合には、出題文章を理解できず国語力に問題がある可能性があります。

このような場合には機械ではなく、人間が「たとえ話」を用いて学習をサポートする方が優れています。

また、学習指導要領の順番を変えることが良い成績を導くのではないかという視点で学習パスの見直しをする研究では、一部の高校数学を除き、定められた順番に学習することが有効であるという結果がでました。

他にも、学習するものと学習しないものを指導要領から選ぶことで、良い成績が取れるようになったという結果もでています。

成績向上において動画レコメンドを活用して学習する順番をカスタマイズすることよりも、人間による学習するべき内容の取捨選択が重要であることがうかがえます。

さらに何かを理解する際に感じる「分かりやすさ」や「面白さ」への共感体験には個人差があるため、これに対応することも人間の方が得意な分野であると言えます。

しかし、機械を利用することが無益なわけではありません。コスト削減の効果が期待できるので、「理解」の分野でも、機械による苦手分析や動画レコメンドの導入を検討する価値は高いはずです。

また、正確な答えを瞬時に回答できる力はChatGPTをはじめ機械が得意な領域であるとも言えます。

機械が得意とする「定着(できる)」

「定着」において重要なことは「記憶」です。「テストのために英単語1000個を覚える」ことが苦しい一方で、「今日の朝ごはんに何を食べたか?」は、苦しまずに殆どの人が思い出せます。

つまり、人間にとって記憶すること自体は難しいことではなく、「何を覚えているか」「何を忘れたか」「どのように覚えるか」など、記憶を管理することが苦手であり、嫌いなのです。

苦手な理由のひとつとして、せっかく覚えたものを忘れてしまうことがあります。これは、正しい記憶の手法を利用できていないことがひとつの要因です。

記憶の長期化には、記憶する対象を読んだ後にテストをすることが有効であるという研究結果が出ていますが、学習者はただ読むことを繰り返す学習法の方が効果実感が高いと感じ、好みます。

このように、学習者が間違った学習方法を選んで、失敗をしてしまうことが、「記憶」を苦手とする一因です。

「定着(できる)」領域で、問題を解くことが記憶定着に効果があるとした場合、学習過程での機械の利用事例として、作問は「誤答生成」、難易度調整は「正誤予測」、採点は「音声認識・手書き文字認識」、反復は「忘却予測」などに該当します。

作問領域は人間の方が得意ですが、コスト削減には有効です。その他領域では機械を利用することで、成績向上の効果を期待できます。

このように「定着(できる)」は、人間よりも機械の方が得意な部分が多く、弊社の「Monoxer」もこの領域にフォーカスをしています。

「活用(使える)」過程では人間が強い

しかし、作問・採点の場面においても、ChatGPTに指示を出すことで人間よりも正確に瞬時に対応ができるようになってきています。

また、「試行錯誤」領域でもChatGPTでは人格形成もできてしまうことから、人間が最短距離で発問できる的確な質問を投げかけることができるようになってきています。

しかし、各個人が試行錯誤できるようなコミュニケーションレベルの調整を行い、悩める場を作り出すことは人間にしかできないことです。

さらに、ICTツールよりも従来の紙と鉛筆を用いた方が、「俯瞰のしやすさ」「試行錯誤のしやすさ」などの点で優れているため、紙・プリント利用を減らしたい場合にもメリットがあります。

人間と機械、それぞれのサポートをバランス良く活用

「理解(分かる)」ためには、人間の優位性が高い現状です。「正しさ」の領域ではAIには勝てませんが、共感体験は個人差があるため「分かりやすさ」「面白さ」の観点では人間に分があります。

時間、費用といったコスト削減をして指導者が対応できていないことに工数を割くための機械の利用が有効です。

一方「定着(できる)」の部分は、宿題に代表されるような、学習者による自学自習で機械の力を借りることで成績向上に寄与できます。たとえば大学受験では、合格に向けて学校での授業時間よりも自習時間が圧倒的に長くなりますので、有効に活用できることでしょう。

また、「活用(使える)」では一部、協働学習ツールを活用してコスト削減をしつつ、試行錯誤の分野では指導者がサポートする余地があります。

目的、段階に合わせて機械に任せる分野を見出し、バランス良くAI技術を活用していただくことが重要です。

著者プロフィール

竹内孝太朗
モノグサ株式会社
代表取締役CEO

名古屋大学経済学部卒。2010年に株式会社リクルートに入社。中古車領域での広告営業に従事し、2011年に中古車領域初および最年少で営業部門の全社表彰を受賞。2013年からは「スタディサプリ」にて高校向け営業組織の立ち上げ、学習到達度測定テストの開発、オンラインコーチングサービスの開発を行う。

高校の同級生である畔柳(くろやなぎ)圭佑とMonoxerを共同創業。

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