多くの自治体がコロナ禍で、感染防止策をはじめ、各自治体が民間企業にアイデアや意見を求め、独自事業を実施するといった緊急対応を続けてきました。
今後は、自治体の民間事業者のソリューションを導入する際に求める水準が変わる可能性が高いといいます。自治体に選ばれる企業とは、一体どんな企業なのでしょうか。
一般社団法人官民共創未来コンソーシアムの代表理事である小田理恵子氏に、コロナ禍を経て変化した自治体の動き、民間ソリューション採用から実施までの速度と要求水準の変化についてご寄稿いただきました。
コロナ禍で自治体が変化した
コロナ禍を経て、自治体の動きが変わりました。どこの自治体でもオンライン会議が可能となり、離れた場所にいてもミーティングができるようになりました。今ではどんな小さな自治体でも「オンライン会議に対応していません」といわれることはありません。
デジタルツールの活用も進み、チャットツールなどで時間の制約なしに意見交換ができるようにもなりました。今では、こうしたデジタルツールを活用し自治体職員との政策に関する情報交換やディスカッションを行うことが日常となっています。
自治体がここまで急速にオンライン化・デジタル化するとは、コロナ前には予想できなかったことです。奇しくもコロナ禍が自治体のデジタル化を加速させたかたちです。
同時に変わったのが自治体の意思決定から実施までのスピードです。2020年以降、各自治体では様々な感染拡大防止策や経済対策を講じてきました。刻々と変わる情勢をにらみながら、大規模かつ人と予算を莫大に要する事業へ即時対応を迫られてきました。
最初の対応は、一斉休校でしょうか。政府から、全国の小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について一斉休校の要請があったのが2020年の2月27日。3月には全国で多くの学校が臨時休校となりました。要請から休校まで1ヶ月もない中での実施でした。
それから翌年2021年からはワクチン接種が開始。3月に医療従事者から接種が開始され、高齢者、市民と順次接種対象が拡大されました。こちらも前年10月~12月ごろに準備を開始して半年足らずでの実施でした。
全市民を対象とした事業のため、各自治体の計画~体制確保~実施までに相当なマンパワーを要します。各自治体では全庁から職員をかき集め、臨時のワクチン接種対策チームを設立して対応に臨みました。
市役所のオフィススペースに空きなどがないため、市役所1階のホールを臨時の接種準備室として利用する自治体もあり、まるで野戦病院の様相でした。今でもコロナ対応で市役所内のホールや大会議室などを利用し続けている自治体は多くあります。
空調が利かない部屋で激務に携わる職員の皆さんの姿を見ると頭が下がります。「あれでは体調崩してしまうから、もっと環境の良い場所確保できないのか?」と問うたこともありますが、人口減少と共に自治体の資源が縮小または枯渇する中で、ない袖は振れない状態でもあります。
経済対策の目まぐるしい動き
こうした感染防止策に加えて実施されてきたのが経済対策です。生活困窮者や事業者への現金給付や、全国旅行支援などの消費喚起事業が次々と打ち出されました。
中でも国の地方創生臨時交付金を財源とした経済対策は、令和2年度第1次補正予算で1兆円、第2次補正予算で2兆円、第3次補正予算で1.5兆円、令和3年度補正予算で6.8兆円、令和4年度補正予算で7500億円、予備費で計5.1兆円、合計17.1兆円という莫大な予算が自治体へと投入されました。
参考:https://www.chisou.go.jp/tiiki/rinjikoufukin/index.html
交付対象となる事業は「新型コロナウイルスの感染拡大の防止及び感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活の支援等を通じた地方創生に資する事業」で、
①感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発
②雇用の維持と事業の継続
③次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復
④強靭な経済構造の構築(令和2年4月7日閣議決定分)
上記のいずれかに該当するものとなっており、この条件に当てはまれば、各自治体が創意工夫の上、独自事業を実施することが可能でした。
その際に自治体がアイデアや意見を求めたのが、民間事業者でした。普段から付き合いのあるコンサルティング会社やソリューションベンダーに「良いアイデアはないか?」「ソリューションを提案してほしい」という相談が相次ぎました。
この交付金事業も徐々に実施までの期間が短くなっていきました。閣議決定され各自治体が国から通知を受け取り、事業を計画して議会での予算承認を受けるまでに数ヶ月しかないケースが続きます。
春に閣議決定された交付金を財源とした事業の補正予算を6月議会で承認するといったスケジュールです。これが年1回とか数年に1回ではなく、この3年間に何度も発生したのです。自治体職員は常に事業の計画と実施に明け暮れ、この速度に慣れていきました。
この3年で職員の戦略的事業の企画~実施の練度が上がってきたことを感じます。さながらブートキャンプに参加して逞しくなって帰ってきた戦士といったところでしょうか。
企業に求めるスピードと品質が変わる
さて、自治体向けのサービスやソリューションを展開している事業者は、自治体の次年度の当初予算に合わせて年単位で活動することが多いことでしょう。
自治体ビジネスに新規参入した事業者が「最低1年もかかるのか」とその歩みの遅さに驚く、あの自治体の年間スケジュールです。
しかし今後は、自治体の民間事業者のソリューションを導入する際のスピード感と求める水準が変わる可能性が高いでしょう。
コロナ禍で緊急対応を続けてきた経験を経て、自治体職員は柔軟性と即応性を身に着けました。時代変化が激しい中で計画に1年かけていたら外部環境が変わってしまうことにも気づいています。
自治体間の競争も激化している中で、戦略的な事業に関しては、従来と異なるアプローチをとり始めている自治体も増えてきました。自治体側での伴走支援を行う中で、単なる発注先ではなく課題解決のパートナーを探す自治体が増えてきたことを感じます。
そうした自治体から出される公募プロポーザルは、今までよりも精度の高い状態で組みあがっており、その要求水準を満たすには公募が出されてから対処するのは至難の業です。
常に自治体職員から相談を受けるような関係を築き、そこでも情報提供も自社の製品やサービスをただ紹介するのではなく、その自治体が解決したい問題に同じ目線で取り組む企業が選ばれるようになるでしょう。
それは公募に色を付けられるということではなく、その自治体と地域に対する理解と分析を時間をかけて進めてきた素地が活きてくるからです。
未曽有の感染症の広がりは地域の至る所に傷あとを残し、今もなお痛みは続いています。しかし、自治体のデジタル化促進と事業推進における意識変容という副産物も生み出しました。
自治体向けのビジネスを展開している企業は、自治体に選ばれる企業であり続けるために、こうした変化を機敏に捉え企業側も変化していかねばならないと感じます。
小田理恵子
一般社団法人官民共創未来コンソーシアム
代表理事
大手SI企業にてシステム戦略、業務プロセス改革に従事。電力会社、総合商社、ハウスメーカーなど幅広い業界を支援。 自治体の行政改革プロジェクトを契機に、地方自治体の抱える根深い課題を知ったことをきっかけに地方議員となることを決意し、2011年より川崎市議会議員を2期8年務める。民間時代の経験を活かし、行財政制度改革分野での改革に注力。
地域のコミュニティと協働しての新制度実現や、他都市の地方議員と連携した自治体を超えた行政のオープンデータ化、オープンイノベーションを推進し国への政策提言、制度改正へ繋げるなど、共創による社会課題解決を得意とする。
現在は官と民両方の人材育成や事業開発(政策実現)の伴走支援・アドバイザーとして活躍。
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