株式会社アルト・アルコ代表取締役の安藤裕氏に、「ノンアルコール飲料の値段を決める要因」についてご寄稿いただきました。
店頭でも少しずつ目にする機会が増えてきたノンアルコール飲料。
しかし、ノンアルコール飲料の値段を見たときに、
「なぜノンアルコール飲料はお酒が入っていないのに、これほど値段が高いの?」
と思ったことはないでしょうか?
今回はノンアルコール飲料の値段にまつわる「なぜ?」をご説明させていただきます。
その答えには大きく4つの要因があります。
・小規模生産者によるクラフト生産が主流
・アルコールがないゆえの難しさ
・お酒でなくともかかる酒税
・お店における時間と労力
それぞれについて解説していきたいと思います。
ベンチャーひしめく新興クラフト産業
ノンアルコール飲料の値段が比較的高くついてしまう要因の1つとして、今のノンアルコール市場はベンチャー企業がひしめく新興産業だからという理由があります。
これまでのノンアルコール飲料は大手酒類メーカーが、お酒を作って、そこからアルコールを抜いて作る、いわば「引き算」ともいえる脱アルコール製法でした。しかし、近年は果汁などをベースにハーブやスパイスで組み立てていく、「足し算」ともいえるオルタナティブ製法というものが主流です。
オルタナティブ製法では、お酒作りや大規模な脱アルコール設備を整える必要がない反面、作り手のセンスと技術が問われる、より属人的な小規模生産が主流です。そのため、いわゆる「規模の経済」も機能しづらい状況にあります。
お酒が入ってないから高くなる
実は「お酒が入っていない」ということも1つの原価高騰の要因なのです。
どういうことかというと、お酒つまりアルコールには様々な香りや味わいの成分が溶け込みやすく、さらにアルコールそれ自体に香り、味わい、ボディ(飲んだときの重さ)があります。
しかし、ノンアルコールの場合は、究極的には水に様々な成分を抽出していくことになりますが、アルコールと比べると溶け込みづらいため、その分多くの原材料が必要になります。
意外に思われるかもしれませんが、お酒が入っていないことが今の値段に繋がっているのです。
お酒でなくてもかかる酒税
上記した2つの要因は、どちらかというとオルタナティブ製法に基づくものですが、脱アルコール製法のものにも難しさは存在します。
というのも、なんと日本で脱アルコール製法をベースに作られたノンアルコールドリンクには酒税を負担する必要があります。
一度お酒を作ってからアルコールを抜くという製法特性上、国内で作られる脱アルコール商品には酒税がかかってくるのです。
*発泡性酒類には1リットルあたり155円の酒税が課されます。
しかもアルコールを抜く過程で総量は減るので、なおさら費用面での難しさは増していきます。
作る手間が段違い
最後に飲食の現場に目を向けてみましょう。
お店などでノンアルコールペアリングというものを見かけたことのある人もいらっしゃるかもしれません。
ノンアルコールペアリングとは、一皿一皿の料理にノンアルコールドリンクを合わせながら楽しむというものです。
「意外と良いお値段するのね」そのような気持ちになるのもわかります。
しかし、特にお店のオリジナルドリンクなどを提供されているお店は、定期的に一からドリンクのレシピ作り、仕込みなどをする必要があります。そのため、抜栓してすぐに提供できるワインなどのお酒とは比べものにならない時間と労力が注ぎ込まれています。
高いだけではない、ノンアルコール飲料の付加価値とは
しかしながら、ノンアルコール飲料は値段が高いだけではありません。ノンアルコール飲料ならではの楽しみ方もあります。
属人的なクラフト生産ということは、それだけ作り手の深い思いやコンセプトが込められており、そんなバックストーリーに思いを馳せながらノンアルコール飲料を飲むのは格別です。
また、お酒が入っていなくとも、お酒のような香りを楽しませてくれる原料に思いを巡らしながら、「何が入っているのかな」と嗅ぎ分け探してみるのも一興です。
そして、レストランのノンアルコールペアリングは、お店の色が出やすい部分で、シェフが作ったのか、ソムリエさんが作ったのか、バーテンダーさんが作ったのかにもよっても味わいや方向性は変わってきます。
まさに多くの作り手が出てきている今、ドリンクそのものにとどまらず、ドリンクの向こう側を思いながら飲んでみれば、きっと別の魅力を発見できるに違いないです。
安藤裕
株式会社アルト・アルコ代表取締役
大学在学時に渡仏、以降ワインの業界で経験を積み、2018年同社起業。著書に『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)。
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