HOMEビジネス まずは「個人レベル」から。組織アンラーニング成功への極意とは

まずは「個人レベル」から。組織アンラーニング成功への極意とは

U-NOTE編集部

2023/01/30(最終更新日:2023/01/30)


このエントリーをはてなブックマークに追加

近年、注目を高めている「アンラーニング」という言葉をご存知でしょうか。

頻繁かつ流動的に役割が変わり続けるこの現代に、さまざまな方向へのキャリア開発の選択肢がある中で、キャリア開発を長期的に有意義にするためにはアンラーニング(学びほぐし)の能力が不可欠だといわれています。

「最近よく耳にするアンラーニングとはどういうものなのか」「変化が激しい時代、従来の仕事の方法だけでは通用しないことは分かるが、アンラーニングにはどのようなメリットがあるのか」など、疑問が湧くかと思います。

今回は、その「アンラーニング」がどんな意味を持つのか、人材の成長や組織の強化に向けてどのようなメリットがあるのか、「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの代表取締役・黒澤伶氏に、「組織アンラーニングはいかにして進められるのか」についての考察をご寄稿いただきました。

アンラーニングと「組織アンラーニング」

「アンラーニング」とは、「learning」に否定の「un」が付いており、一般的な訳は「学習棄却」ですが、「学びほぐし」と訳されることも多いです。

これまでの学習を通じて培ってきた価値観や習慣を認識した上で、必要なものを取捨選択し、新しいものを取り入れながら学びを修正するスキルのことです。

アンラーニングとは「これまでに学習してきたことを『捨て去る』ことではなく、既存の価値観に『気づき』、今の古い習慣やスキルを軌道修正・アップデートしていくこと」です。

よく、アンラーニングのことを「学び直し」と捉える人も多いですが、注意したいのは「既存の学びを全て捨て去ることではない」ということを意識しましょう。

アンラーニングは「自ら当たり前になってしまっている古い既存の価値観に気づくこと」「価値観を取捨選択すること」にフォーカスすることが多い点で、学び直しとは異なります。

人間誰しも、過去の成功体験に無意識的にしがみつき、安全で慣れ親しんだものを選択しがちです。だからこそ、慣れ親しんだものを手放し、新しい未知のものにアップデートすることが大事になります。

リクルート社が提唱している「Will Can Must」という考え方がありますが、社会人経験が豊富なハイクラス のビジネスマンこそ、Canばかりに目が行きがちで、いまの自分をつくり上げたスキルや行動が、実は目指す自分になること(Will)を阻んでいる可能性も大いにあります。

リンクトイン創業者のリード・ホフマンは、「投資先の創業者を評価する際には、『無限の学習曲線』を持つ人を探す」とも述べています。

「アンラーニング」の定義をより正しく理解するためには、以下3つのポイントを改めて押さえておくと良いかと思います。

①アンラーニングするのは『知識・スキル』だけではない

知識やスキルのみではなく、知識スキル獲得の基盤となる、これまでに培ってきた『信念・バイアス』を対象に含みます。過去に囚われていないかと内省・認知することに意義があります。

②『学習棄却』という言葉に囚われ過ぎない

単に今までの価値観や知識・スキルを何でも手放すことが「アンラーニング」ではありません。自身のキャリアの目的やこれから進みたい方向に合わせて、自ら取捨選択することが重要です。

③結果が出るまでは時間がかかるものである

昨今バズワードにもなっている、「リスキリング」と違い、「新たに◯◯ができるようになった」という結果がすぐに出るものではなく、キャリア開発に長期的な利益をもたらすものであるため、結果が出るのも相応の時間がかかるものです。

このアンラーニングを個人レベルに留まらず、組織レベルで考えるのが、「組織アンラーニング」になります。

これは、以前から経営学の研究の中で、組織における「時代遅れ」となった知識やプロセス、さらには組織に根深く存在する規範などを意識的に捨て去ることが重要であると述べられてきました。

例えば、昨今は「理念経営」が当たり前になってきましたが、以前は「理念」か「利益」かの二項対立で経営を進められた経営者が多かったとも聞きます。

それが時代の変化、社会の変化などで、理念経営を実践することが経済合理性という側面でも理にかなっているというように、時代にそぐわない経営手法を捨てる組織アンラーニングが組織学習には欠かせなくなりました。

組織アンラーニングの3つの階層とレベル

ここで、大事なのが、組織アンラーニングを推進するためには、逆説的ですが、一人ひとりの「個人のアンラーニング」が出発点になります。

特に、経営幹部などのトップ層がアンラーニングしなければ、組織はアンラーニングできません。

スタートアップは特に、経営幹部層が華やかなキャリア経歴を持つことが多いですが、前職での経験やスキルに環境もカルチャーも違うにもかかわらず依存しすぎてしまうことも少なくないのが現状です。

このように、組織アンラーニングは個人のアンラーニングがきっかけとなることが多く、また環境に適応しなければならないのは個人も組織も同じです。

近年はさらに、新型コロナ感染拡大による環境変化がきっかけとなって、リスキリングなどとともに「個人のアンラーニング」に注目が集まるようになりました。

さて、ではどのようにして個人のアンラーニングを進めていけば良いのでしょうか。

その鍵を握るのは、個人レベルにおける「マインド」になります。

その説明に入る前に、組織アンラーニング3つの階層についてお話します。

①組織表層的なアンラーニング

これは公式的、かつ、表向きに行っている組織の行動ルーティン、つまりは仕組みや手続き、システムなどのことを指します。例えば、無駄な業務遂行を効率的な業務遂行にする仕組みや属人化された情報管理構造をオープンな情報管理構造にする仕組み、などが当てはまります。

②組織深層的なアンラーニング

これは長年、組織に埋め込まれ、引継ぎ、染み付いたカルチャーそのものの源である「組織信念」のことを指します。組織も人の集合体であるため、無意識レベルで組織が持つ「場の力」があります。「組織マインド」とも表現できます。

③個人のマインド的アンラーニング

これは各個人のマインドモデルのことです。一人ひとりの個人が持つ信念や価値観のことを指します。組織アンラーニングを推進するために、ラーニングの成否を握るには実は③の個人のマインド的アンラーニングになります。

氷山モデルに置き換えると、①が氷山の一角としてすでに目に見える顕在化された事象をアンラーニングするのは比較的容易ではありますが、②③と深層部分に潜在された事象が多く存在し、深層部分ほど実際の組織行動にも多大な影響を与えるといえます。

組織アンラーニングは個人アンラーニングが必須

では、具体的にどのような個人のマインド的アンラーニングが行われると組織全体がアンラーニング可能になるのでしょうか。

結論から申し上げると、「自分の行動や自分の成長で、組織も変わることができる」と一人ひとりの個人が心の底から思うことが大事になります。

新入社員だろうが、ミドルマネージャーだろうが、経営幹部だろうが、場合によってパート社員だろうが、

「たった一人の社員の声や提案が、今後の組織を大きく変えることがある」と個人レベルで確信がある場合、組織のアンラーニングのポテンシャルは非常に大きいものになります。

この状態になれたとき、一人ひとりの個人が「まず自分が変わることから始めよう」と自然に思うことができます。この土壌を創ることが組織アンラーニングの一丁目一番地になります。

個人アンラーニングを進めるための組織の条件とは

その土壌を創るために、組織にはどんな要素が必要なのでしょうか。私は大きく3つあると考えます。

①支配型組織から自律型意識に

全てはトップが決め、社員はそれに従うようなトップダウンの戦略。さらには給料というアメと罰則というムチを使いながら社員を管理するのではなく、トップは社員の自主性や個性を尊重しながら、「ボトムアップから生まれる意志」によって駆動することが大事になります。

そのため、社長は絶対的な存在ではなく、社員の成長を後押しする存在になることが必要になります。

②ポテンシャルコントロール型からポテンシャル解放型に

人材を統制・管理しようと思っても、それは「アンラーニング」とは真逆の展開となることが多いです。なぜなら、人とは本来、「自分の思う通りに動きたいもの」だからです。

その人材のポテンシャルをコントロールすることは、その瞬間から、人としての本質的活性化(この場合だと、個人アンラーニング)することを手放すことになります。コントロールすべきなのは、人材ではなく、「成果」です。

大事なのは、「社員の潜在能力には限界がない」という前提のもと、ポテンシャルを解放させるためのマネジメントが必要になります。人の本質的本能的欲求の中心には「進化欲求」があります。

そうであるからこそ、「人をどう管理する?」と考えるよりも「その人の本来をいかに発揮するか?」と考えることが大切であり、もともと中心にある「進化欲求」をいかに掘り起こすか?を大事にしたマネジメントが大事になります。

③自律性が高い人材を採用する

個人のアンラーニングが進まないのは、全て組織側が悪いということではありません。個人の問題もあります。それが、個人の「自律性」になります。

先に述べた、「まず自分が変わることから始めよう」と真逆なのが、「悪いのは自分ではなく、組織側だ」というマインドになります。こういった他責は依存を生みます。

自分の考え・価値で生きる ⇒ 自律
他人の考え・価値で生きる ⇒ 依存 やがて 寄生

自分以外の考え・価値に頼ると、人は文句が多くなるようにできているものです。

そのため、自律性が高い人材の採用を徹底することも大事な要素になります。

著者プロフィール

黒澤伶
株式会社ITSUDATSU
代表取締役

早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。

【関連記事】


hatenaはてブ


この記事の関連キーワード