Z世代のマネジメントを成功させるためには、「オーダーメイド型育成」が必要だといいます。オーダーメイド型育成とは、個々人の価値観を尊重し続ける姿勢と同義だといいます。
自分なりの意思や想いを大事にしながら行動を実践し、結果に繋がる体験を続けると、その人ならではの「素質」が垣間見えてきます。この素質を活かすマネジメントこそ、オーダーメイド型教育の最大のゴールになります。
今回は、その「素質」にはどんな種類があり、素質を活かすマネジメントとは具体的にどんなものなのでしょうか。
「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの代表取締役の黒澤伶氏に「Z世代のマネジメントの成功の秘訣とは」についての考察をご寄稿いただく本連載(前編はこちら)。
後編となる今回は、オーダーメイド型育成と部下の素質の活かし方について解説していただきます。
「素養」と「素質」
前回の記事にて、Z世代にこそ「オーダーメイド型育成」の関わりかたが最重要であると解説してきました。このオーダーメイド型育成を実現するためには、部下の「素質」を見抜く(見極める)ことが非常に重要になります。
そこで、「素質」をご理解いただくために、「素養」と対比し説明します。
素養:努力して身に付けた能力
素養の素という漢字は「もとからの、普段の」という意味を持ちます。そのため素養とは、普段から育て上げてきた知識や能力を意味する言葉になります。
素質:先天的に持つ、素の性質や力
素質の質という漢字は「生まれつき」という意味を持ちます。そのため素質とは、もとから生まれつき持っている性質を意味する言葉になります。
また、よく人材開発論にて取り上げられる「強み」とは、一般的には、現在表出されているその人の得意とする特定の活動を指すことが多いです。しかし、我々は「その人の最も伸びやすい素質を活かしたもの」と定義しています。
この部下の「素質」を見極められることこそ、新時代のマネジメントのスタンダードになります。
この素質を見極めるためにも、具体的にどんな種類があるのかを説明します。
「素質」の4つの種類とそのリーダーシップ性
素質の発見をすることで、その人の真個性(本来の個性)を掘り起こせます。真個性を掘り起こすことによりその人は、その人本来の輝きと魅力を増し、人生そのもののエネルギーを高めることできます。
さらに、そういった本来の個性を発揮する人達を組織内で、的確に組み合わせることで本来の個性同士がシナジーを起こすチームを創ることができます。
ここでは素質の4つの種類をご紹介します。
①目的に向かい道を開拓するフロントランナー(先導者)
この素養を持つ人は、道なきところに道を創る個性を持ちます。いわゆる典型的なリーダータイプとも言えます。
自ら先頭を走ったり、自分の想いで自由に振る舞ったりなどが得意であり、それ自体を喜びとし、その進む姿に周りの皆が感銘します。また、未開拓の地を開拓するパワーを持つので、創造性も豊かで、0から1を生み出す力があるのが特徴です。
〈おすすめのリーダーシップの取り方〉
・自ら目指すものを発信する
・意図的に先頭に立って進む
・一人ひとりの声を聴き、受け入れるべきを受け入れる
②物事の本質を探究し進化させるデベロッパー(開発者)
この素養を持つ人は、物事の本質を大切にしながら進歩(進化)を追求する個性を持ちます。あるがままの現実を捉え、自分の解釈に捕われず、真理を探究・実践しようとします。
本当は何が大切か?本当に必要なことは何か?本当は何が足りないか?本当は何を手放すべきか? など、最も重要な部分を特定しようとします。また、本質から様々なカタチを展開しようとするため、組織においては1から100を展開する力があるのが特徴です。
〈おすすめのリーダーシップの取り方〉
・何を探究するチームかを決める
・探究し合う場を創る
・一つ決め、一つを実行することを重ねる
③場が明るく楽しく元気になるムードメイカー(調和者)
この素養を持つ人は、場全体を活性化し、調和をもたらす個性を持ちます。調和とは単なる仲良しこよしではなく、各々が本来の個性を出し合い、活かし合い、相乗作用を起こし、その結果、進化・進歩・創造に繋がる。調和=進化であり、そういった意味での「調和した場」を創り出します。
その場は根底に安心感があり、それがあるが故に皆がオープンマインドになれ、オープンコミュニケーションが取れます。一人ひとりの個性は際立ち、各々がより自由になり、チームワークが圧倒的に高まるのが特徴です。
〈おすすめのリーダーシップの取り方〉
・自由発想できる場を創る
・全体を俯瞰し、後押しをする
・索引役を決めて、実行をサポートする
④人の可能性を引き出し後押しをするサポーター(尊重者)
この素養を持つ人は、人の心そのものを活性化し、その人の本来の生き方・進み方を後押しする個性を持ちます。自分の価値観や解釈にとらわれることなく、自然と目の前のその人にのみ意識を集中することができるので、その人が先天的に持っている魅力や能力を、掘り起こすことができます。
人との距離の取り方(距離感)にも長けていて、一人ひとりそれぞれ個別に最も調和する距離感で関わり合えます。そのようにして、人の心の支えとなり、勇気・挑戦心・成長意欲などを喚起するのが特徴です。
〈おすすめのリーダーシップの取り方〉
・個別サポートしながら進む
・想いを紡ぎ、目的を定める
・一人ひとりの想いを聴く
「素質」見極め方3つのステップ
この4つのタイプのどれかを、比較的簡単に見極められる方法があります。ぜひ、管理職やリーダーの方は参考にしてみてください。
①「先導者・開発者」か「調和者・尊重者」の2つに大別する
「自分を主にするタイプ」か「他者を主にするタイプ」かをまずは見極めます。先導者・開発者は自分を主にする発想の方が、よりパフォーマンスを発揮し、調和者・尊重者は他者を主にする発想の方が、よりパフォーマンスを発揮します。
2つに分けるための具体的なやり方は、
前編でご紹介した、自律性を伸ばす基本コミュニケーション(指示→何を大切にしたい?→どう行動する?→アドバイス)を行います。
そして、その人の答えの傾向が、「自分を主にしているか」「相手の立場に立っているか」を見ます。前者の多い人であれば「先導者・開発者」、後者の多い人であれば「調和者・尊重者」となります。
②(自分を主にするタイプであれば)次に、先導者か開発者かを見分ける
もしその人の普段の発想や行動が、
・未来に向かうもの
・目標達成に向かうもの
・「こうなりたい!」という想いに向かうもの
上記3つの傾向が高い場合は、その人は先導者の可能性が非常に高いです。
もしその人の普段の行動が、
・自分の興味あることに熱中する
・実験とかを好む
・研究熱心
上記3つの傾向が高い場合は、その人は開発者の可能性が非常に高いです。
③(他者を主にするタイプであれば)最後に、調和者か尊重者かを見分ける
もしその人の普段の行動を観察し、
・複数人集まっている場の方が穏やかな雰囲気を出すか
・1on1で向き合っている時の方が穏やかな雰囲気を出すか
で、区別します。
前者であれば調和者、後者であれば尊重者の可能性が高いです。
個を尊重し、真の人的資本経営へ
昨今、日本の教育も自律を重視する方向に大きく変わりつつあります。
近い将来には、「個の自律」が当たり前だと考えるZ世代の次の世代たちも社会に出てくるでしょう。個を尊重せず、自律も求めない会社には、若手社員が定着しなくなる可能性があり、個の尊重は避けられない時代の流れになるでしょう。
従来の合理的・効率的が最優先の組織論では、Z世代のマネジメントには不向きと言えます。ムダ・ムラの排除は、個としてのポテンシャルを無視しているのと同義です。
しかし、Z世代のマネジメントこそが、人間という個性そのものを表も裏も、清らかさも不純なものも、ポジティブもネガティブもあるがままに存在承認し、資本に活かす「人的資本経営」の第一歩であると考えています。
黒澤伶
株式会社ITSUDATSU
代表取締役
早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。
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