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「従来のマネジメントのやり方が効かない」Z世代のマネジメントの成功の秘訣(前編)

U-NOTE編集部

2023/01/24(最終更新日:2023/01/24)


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「モチベーションアップのために、どのようなアプローチが効果的なのかがわからない」
「我々の世代の考え方と異なり、従来のマネジメントのやり方が効かなくなってきたように感じる」

これは、管理職やリーダーの方々が頭を悩ませる問題です。

1990年代後半以降に生まれた「Z世代」が、新入社員として職場環境で働く時代になりました。Z世代とVUCA、さらにはコロナ禍。世代と環境の両方のダイナミックな変化を受けて、企業の新人・若手育成はより一層難しくなっています。

今回は、「人間の本質(Human Nature)」をビジネスに活かす組織戦略家集団である株式会社ITSUDATSUの代表取締役・黒澤伶氏に、「Z世代のマネジメントの成功の秘訣とは(前編)」についての考察をご寄稿いただきました。

※後編はこちら

Z世代を取り巻く時代の急速な変化

まずはZ世代を取り囲む環境の変化を知るところから始めていきましょう。

VUCAワールド(Volatility/不安定・Uncertainty/不確実・Complexity/複雑・Ambiguity/曖昧性)という言葉が象徴するように、現代は目まぐるしく、かつ、急速に変化する環境の真っ只中にいます。

さらに、リモートワークの普及、副業の解禁、人生100年時代による就労期間の長期化等を要因とし、人々の価値観や仕事観も大きく変化しています。そうした組織と個人の変化の中で、人と組織の関係や結びつき方も、これまでとは違う大きな変化が見えつつあります。

これまでは、「雇う側-雇われる側」という関係性が当たり前でした。したがって、従業員に労働力の提供を求め、その代償として賃金を支払う側の経営者と経済的な報酬の見返りとして労働力を提供する従業員側での利害が生まれていました。

だからこそ、そもそも働く個人の仕事に対する動機付けの問題には関心がほとんどなく、むしろ性悪説的な考えのもと、いかに人を管理、コントロールして縛らねば人は怠けてしまうのではという考えが主流でした。

そうであるがゆえに、さまざまな制度や規則といった外的な報酬や強制力によって「いかにして人を動かすか」、という考えの経営者も多いでしょう。

さらにキャリア開発という側面では、日本企業では終身雇用を前提とした長期的な展望に基づき、組織がポストやキャリア・パスをつくり、従業員は一律的な昇進・昇格を目指していく「組織内計画的キャリア開発」が進められてきました。

そうした環境においては、個人は組織内の昇進・昇格といった外的基準を軸に、長期的に能力やスキルを積み上げていくことで、安定的に立場を上がっていくことができます。

しかしながら、未来のビジネス環境を見通すことができない今日において、組織で働く誰もが、終身雇用を前提にしたり、昇進・昇格・昇給といった上方向へ長期的展望をもったりすることは難しいです。

さらに、昨今のリスキリングなどの学びなおしの重要性が主張されているように、デジタル化やテクノロジーの進化、目まぐるしいビジネス環境の変化によって、これまで必要とされてきた知識や専門性、スキルの価値が失われることも頻発し、個人が長期的に計画を立て、直線的に能力やスキルを積み上げていくことも難しくなりました。

上方向への長期的な計画に基づくキャリア開発が難しい現在、キャリア開発はより方針の変更やニーズの変化などに機敏に対応するものへとなります。

常に組織内に限られた、昇進・昇格などの上の一方向を目指すのではなく、それぞれの多様なキャリアゴールに向けて、臨機応変に組織内外の上下横を移動して、柔軟に経験を積んでいくことが大切になります。

従来のように組織内でより高い責任をもつ役職へ昇格したいときもあれば、現在の仕事の中で新たなチャレンジに取り組むことや、自身の視野とネットワークを広げるために別の部署やプロジェクトに横移動してみることが、自分自身の成長機会になることもあります。

むしろ、一般的には降格とみなされるシフトが、自身のキャリアにとっては豊かな経験につながる場合もあるでしょう。

​​このように、「組織中心軸の世界」から「個人中心軸の世界」に変化していき、現在はその大転換の真っ最中です。

ここで注目したいのが、Z世代は、生まれたときからこの「新パラダイム」で育った初めての世代ということです。Z世代は、これまで企業の当たり前だった「組織中心軸の世界」には馴染まない傾向をもち、これから企業が変換しようとする「個人中心軸の世界」に最も適応します。

このZ世代の新たな労働価値観に即した育て方・活かし方を考えることは、単に新人育成という枠を超えて、マネジメントのあり方をアップデートする機会にもなると考えます。

Z世代の新しい価値観

このような時代の変化とマネジメントも変化していく過程の中で、Z世代はどんな労働価値観があるのか深掘りしていきます。

リクルートマネジメントソリューションズの「理想の職場・上司像」に関する調査の2011年と2021年のアンケートを比較した結果、この10年間で明らかな変化がありました。

上司世代にとっては理想的だったと思われる要素(1つの目標の共有・鍛え合い・活気・厳しい指導・引っ張るリーダーシップ・情熱)の選択率が下がり、代わりに「個性の尊重・助け合い・1人ひとりへの丁寧な指導・ほめること・傾聴」を職場や上司に求めるZ世代が急増しました。

さらに、同社による新入社員たちに「仕事をするうえで重視すること」を聞いたアンケートの結果によると、外発的動機(権力・金銭・競争)の選択率が低く、内発的動機(貢献・成長・やりがい・仲間)の選択率が高いことがわかりました。

この結果は、「SNS」、「パーソナライズ」されたメディアや教育による影響が非常に大きいと考えます。

Z世代の多くがSNSネイティブです。SNSでの「いいね数」が多ければ他人に認められたことになり、さらなる「いいね」の数を求めることが彼らのモチベーションになります。

また、文部科学省が提唱する、GIGAスクール構想では、1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備することで、多様な子供たち1人ひとりに個別最適化され、資質・能力が一層確実に育成できる教育体系が実現されつつあります。

そのため、これからの子供たちは幼少期から他人との比較ではなく、過去の自分との比較に重きをおいた価値基準をもつとも言えます。

だからこそ、さまざまな価値観から自分に合ったものを選ぶ傾向があり、他の世代に比べて「自分らしさ」を強く追求することも大きな特徴です。他者の多様性と自身の個性の両方を尊重し、さまざまな価値観を受け入れる姿勢がうかがえます。

このように、旧世代の「会社のために」という価値観ではなく、Z世代のキャリアの考え方では「自分自身のために」働く価値観が主軸となりつつあります。

まさに、この流れこそが、キャリア自律に繋がります。

キャリア自律とは、「目まぐるしく変化する環境の中で、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、 生涯にわたるコミットメント」と定義されていますが、この姿勢こそZ世代に多くが最初からもち合わせている価値観そのものでもあります。

Z世代のキャリアを尊重してあげられるような人事施策が「Z世代に選ばれる企業」の必要不可欠な条件となるでしょう。

Z世代を活かす9象限の人材ポートフォリオとは

では、Z世代をより企業内で活かすためには、どのような人事施策が必要なのでしょうか。

あくまでも私の観点になりますが、Z世代に限らず全ての人材を9象限のブロックという視点で企業のサポートをしていますが、こちらをご紹介いたします。

まず、縦軸に「自律性」という側面で、「社会的自律」「組織内自律」「依存」の3つの段階を設定します。これは、精神面での成長の度合いとも捉えることができます。

依存:人のせい、会社のせい、社会のせいなど今を存在否定している人。

組織内自律:組織内で与えられた環境において自律できる人。そして、与えられた環境内における自分の役割を探究・向上させ続けます。

社会的自律:たとえ組織内にいても、組織という枠を超えて、社会的視野から自分の立ち位置や在り方を探究・向上させ続けるられる人。

次に、横軸に、「自立性」という側面を、「守」「破」「離」の3つの段階に設定します。これは能力面での成長度合いとも捉えることができます。

守:教わった型を守り、本質を理解する段階。多くの新人がまずは守の段階を経て成長します。

破:本質を理解した上で、自分のやり方を模索する段階。

離:型から離れ、新たな型を生む段階。

マネジメントでは、上記の自律性×自立性の9つの視点を意識し、人材のレベルに合わせた接し方・育て方が大事になります。

マネジメントの多くのミスの正体はこの段階とマネジメントの接し方が噛み合っていないことが多いと言えます。

例えば、
・社会との関わりの中で、自分の生き方やキャリアの伸ばし方をしっかりと考え、さらに能力面でも自分なりの成果の出し方を模索している、「社会的自律」×「破」の社員に、ティーチング的マネジメントをしてしまうこと。
・会社に文句ばかりを言っており、能力面でもまだOJTの枠を脱することができない、「依存」×「守」の社員に、コーチング的マネジメントをしてしまうこと。

ここで、大事な視点が、今のZ世代にこそ「社会的自律状態にある人材が増えている」という点です。ここ数年社会的変化のうねりと共に、自分の人生に覚悟をもち、人生設計をすでにもっているZ世代が急増してきた実感があります。彼らは、自分と会社の関わり以上に、自分と社会との関わりをより大事にします。

だからこそ、「社会的自律」×「守」の新人にも、上司からの一方的な指示や命令は効果的な人材育成に繋がりません。なぜなら、自分の生き方への強い願いや想いが尊重されていないと感じ、上司への不信へと直結するからです。

当然、社会に出てまだ間もないため、能力面・スキル面では未熟なことが多いです。しかし、上司からの一方的な指示や命令によって自分の社会的ミッションを大事にされていないと感じるからこそ、この会社を辞めるというのが今のZ世代の行動の特徴だと言えます。

彼らは、「この会社にいることがつまらない」「この会社にいることに意味を感じない」と口々に言います。

オーダーメイド型人材育成を

では、どのような関わり方や研修がZ世代の成長をより加速するのでしょうか。結論から申し上げると、1人ひとりの個性に合わせた「オーダーメイド型育成」です。

今までの日本企業では、マス教育などで画一的・横並び的に平等性を意識しながら育成しようとしていました。そこでは、全員に対して組織のやり方や考え方に従わせるような教育を施し、効率的に社員をマネジメントしようとしてきました。要するに「組織に社員を適合させる」発想です。

しかしながら、Z世代は幼少期からそのような環境で育っていません。1人ひとりの個性を重視し、多様性が尊重される環境で育ってきた世代です。

彼らに合ったマネジメントの仕方は、今までのような「個性を押し殺すマネジメント」ではなく、1人ひとりの個性を伸ばしたり自律性を発揮させる「個性発揮型マネジメント」が必要になります。

ここでは、個性発揮型マネジメントの具体的なやり方についてご紹介します。従来の個性を押し殺すマネジメントと対比しながらご説明します。

例:お客様へのクレーム処理対応のシチュエーションにおいて

〈個性を押し殺すマネジメント〉

上司「クレーム処理はこのようにしなさい」
部下「私なりにもっと〇〇のように対応したいと思うのですが・・・」
上司「いや、良いから私の言うことを大人しく聞きなさい」
部下「上司の言うようにやってみたけど、案の定うまくいかなかった・・・。」
「良いアドバイスもしてくれないし、もうこの人の言うことは話半分に聞いておこう」

〈個性発揮型マネジメント〉

上司「クレーム処理にあたって、何を大切にしたい?」
部下「我々側の落ち度も認めつつも、これまで下請け的な対応をされてきたので、今回を機に、対等なパートナーな立場になれたら良いなと思います」
上司「了解。そのような関係になれるために、どう動けば良いと思う?」
部下「我々の口からはっきりと、パートナーになるために、いくつかの改善提案もしようと思います」
上司「了解。では、上司として私の方からしっかりと謝罪はしておく。その後、担当者として、〇〇さんもしっかりと謝罪しよう。その後に、これまでフロントに関わってきた〇〇の想いをタイミングをみて伝えようか。何かあったら私もサポートするので」
部下「かしこまりました!ありがとうございます」

といった具合に、一方的に命令・指示を出すのではなく、

・何を大切にしたい?
・そのために、何をする?
・(上記の部下の価値観を尊重した上で)最低限のアドバイス

その人の価値観と行動を結ぶ問いかけをするのが効果的です。

ここで興味深いのは、「何を大切にしたい?」と問いかけて、一生懸命答える人と、わかりませんと答える人が明確に別れます。一生懸命答える人が「社会的自律」「組織内自律」の状態にある社員になり、わかりませんと答える人は「依存」状態のことが多いです。

当然、依存状態にある人に関しては、問いかけをしても難しいことが多いので、1つひとつ指示を出す必要があります。

このように、マネジメントに関しては、1人ひとりの能力や成長度合いに応じて、オーダーメイドの育成プランが求められるでしょう。それは上司や人事部の負担を増加させますが、Z世代以降の人材には、このようなマネジメント方法でなければ通用しなくなるはずです。

自分なりの意思や想いを大事にしながら行動を実践し、結果に繋がる体験を続けると、その人ならではの「素質」が垣間見えてきます。 この素質を活かすマネジメントこそ、オーダーメイド型教育の最大のゴールになります。

この素質には4つのパターンがありますので、後編にてご紹介します。

著者プロフィール

黒澤伶
株式会社ITSUDATSU
代表取締役

早稲田大学人間科学部卒。デル株式会社(現:デル・テクノロジーズ株式会社)、株式会社ビズリーチ(現:ビジョナル株式会社)、コーチングファーム取締役を経て、株式会社ITSUDATSUを創業。「ITSUDATSU(非直線的な現象)を再現性の高い世の中にする」という大義の下、要人材を起点とした独自の組織活性方法で累計300以上のプロジェクトを推進。現在、複数社の取締役CHRO(非常勤)を歴任。

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