HOMEビジネス ビットバンクCEOが語る日本のWeb3への4つの参入障壁、「信頼できるカストディが存在しない」

ビットバンクCEOが語る日本のWeb3への4つの参入障壁、「信頼できるカストディが存在しない」

U-NOTE編集部

2023/01/17(最終更新日:2023/01/17)


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2020年以降、主に北米において、ビットコインが本格的なアセットクラスとして認知され始めたことで、機関投資家のデジタルアセット市場への参入が相次ぎました。

また、事業会社の参入も加速し、暗号資産・NFTを活用したゲームやメタバース領域の発展によって、デジタルアセットのユースケースが拡大しました。

国内においても2021年は個人投資家の暗号資産市場への資金流入が増加しましたが、その一方で、Web3の発展には欠かせない事業会社や機関投資家の参入において課題が浮き彫りになりました。

そうした中で、2022年6月に自民党が発表した「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」には、Web3の事業環境を整備していく前向きな文言が盛り込まれ、国内の大手企業も続々とWeb3領域への参入を表明するなど期待が高まっています。

今回は日本におけるWeb3の参入障壁と今後の展望についてビットバンク株式会社の廣末紀之氏にご寄稿いただきました。

デジタルアセットが注目されている理由

そもそもWeb3には未だ明確な定義はありません。Web3の概念を初めて提唱したのは、イーサリアム(Ethereum)の創設メンバーであるギャビン・ウッド氏であると言われています。彼のブログを参考にすると、Web3は一言でいうと、非中央集権型のインターネットサービスであると考えられます。

また、インターネット発展の歴史においては、GAFAなどの一部の巨大IT企業がインターネットビジネスを支配してきた実態があります。そのため、インターネットサービスの提供者はそれらの企業に依存せざるを得ない状況が続いています。

これは中央集権型のインターネットサービスの典型的な例です。一方、この支配的な構造から脱却を目指そうとしているのが、その対局にある非中央集権型のインターネットサービス、Web3であると私は捉えています。

そして、非中央集権型のインターネットサービスであるWeb3を可能とするアーキテクチャこそ誰でも参加できる公開されたブロックチェーンであるパブリックブロックチェーンとそれに紐づく暗号資産やトークン、NFTなどのデジタルアセットであると考えています。

したがって、Web3を推進することは、パブリックブロックチェーン上のデジタルアセットの活用を推進していくことと同義であり、その文脈においてデジタルアセットに注目が集まることは必然と言えます。

4つの参入障壁

事業会社がWeb3に参入するには、主に4つの障壁があると考えています。

1)デジタルアセットの取り扱いは難しい
2)エンジニア不足
3)噛み合わない日本の制度
4)信頼に足るカストディ会社が存在しない

この4つの要因について、以下で具体的に解説していきます。

1)デジタルアセットの取り扱いは難しい

デジタルアセットを保存し、管理するためには、常に流出事故のリスクが伴います。流出事故の要因は大きく分けて外部要因と内部要因があり、その両面において対策が必要です。

まず、外部からの盗難を防ぐには、秘密鍵の管理を厳密に行わなければなりません。前提として、パブリックブロックチェーンのベースとなっている要素技術には公開鍵暗号方式があり、これは公開鍵と秘密鍵を組み合わせて使用する暗号方式です。

公開鍵暗号方式を銀行口座で例えるならば、公開鍵は口座番号にあたり、秘密鍵は暗証番号にあたります。銀行口座は暗証番号を知っていれば資金を動かせるように、暗号資産も秘密鍵をもっている人がデータの移動権限をもっています。

つまり、秘密鍵が流出するとデジタルアセットも流出します。また、デジタルアセットは従来の金融システムと違って管理主体が存在せず、資産が流出したら基本的に取り戻すことはできません。

したがって、秘密鍵をどのようにして厳密に管理するかという点が外部からの事故を防ぐ重要なポイントであり、パブリックブロックチェーンの管理は秘密鍵の管理そのものです。

こうした外部要因に対しては、そもそも外部をネットワークから遮断してアクセスできないようにすることが最も強度の高い対策であると言われています。

日本において暗号資産交換業者はインターネットと完全に切り離された状態でウォレットを保管するコールドウォレットによる管理が義務付けられています。

一方で内部要因として、従業員からの盗難リスクもあります。誰が秘密鍵にアクセスできるのかといった統制面においても強固な体制を構築する必要があります。デジタルアセットは、外部犯だけではなく、内部犯への対策も含め秘密鍵を保存し管理する難易度が高いです。

2)エンジニア不足

Web3関連の技術に精通したエンジニアは不足しています。前述したデジタルアセットの管理の難しさに加え、パブリックブロックチェーンに関連する技術は最先端の領域であり、高度な専門性が必要となります。

新たな技術の台頭やアップデートも頻繁にあるため、現状としてはそれら全てに対応できるエンジニアの母集団はかなり限られます。

3)噛み合わない日本の制度

制度面の問題として、大きく分けて「税制」と「会計基準」があります。

まず「税制」についてですが、日本では法人が保有する暗号資産は決算時に時価基準で評価されます。評価益(含み益)課税の対象となり、仮に期末時点で含み益があれば利益として確定し、法人税を納める必要があります。

暗号資産交換業者を例にとると、投資目的ではなく、顧客の入出金に対応するために暗号資産を法人で保有している場合においても、期末の含み益課税の対象になります。

さらに法人税を日本円で納めるとなると、事業運営のために保有するデジタルアセットを売却するなどして日本円を工面しなければいけません。

この状態が続けば税制が重荷となり、日本のWeb3ビジネスは世界から取り残される可能性があります。そのような中で2023年度の税制改正大綱において、企業が自社で発行した暗号資産に関しては期末時価評価課税の対象から除外するルールが盛り込まれることになりました。

現時点ではまだ改正が確定しているわけではありませんが、暗号資産業界にとっては大きな一歩でしょう。日本のWeb3スタートアップ企業の海外流出を防ぐような動きにつながっていくと考えます。

そして「会計基準」に関しては、前提として基準が明確ではなく、また、現状は市場が活発でないことを理由にデジタルアセットが監査できないと監査法人に判断されてしまうケースもあります。

その場合はデジタルアセットを貸借対照表(バランスシート)に載せられず、企業の社会的信用が損なわれることも考えられます。また、仮に自社でデジタルアセットを発行することができたとしても、監査ができないという事態により堂々巡りになってしまうことも考えられます。

産業育成をするということは、ヒト・モノ・カネを集めることに他なりません。Web3では、「カネ」の主要な出し手であるベンチャーキャピタルがプロジェクトに出資した際に、代わりにプロジェクトが発行するトークンを受け取るケースが多いです。

ベンチャーキャピタルは短期トレーディングによる利益獲得が目的ではなく、長期視点でプロジェクトに出資するわけですが、仮に1億円投資した代わりにトークンを受け取っても、そのトークンが期末評価課税の対象にしまうことを踏まえると、Web3において「カネ」が日本に集まるイメージはもてません。

Web3では日本国内における投資事業が難しく、日本の税制や会計基準がフィットしないため、お金の出し手やプロジェクトが仕方なく海外に拠点を移す流れが今起きています。

4)信頼に足るカストディ会社が存在しない

日本のデジタルアセット市場においては、海外と比較して機関投資家や事業会社の本格的な参入は顕著ではありません。その要因として、国内には信頼に足るデジタルアセットのカストディ会社(信託会社)が存在していないことが挙げられます。

日本の法令においては、他者の暗号資産を預かる事業者は暗号資産交換業者と信託銀行、信託会社に限定されていますが、実際に多額の顧客暗号資産を預かった経験があるのは、暗号資産交換業者のみです。

しかし、これまでの暗号資産業界ではハッキングなどの流出事故が起こったこともあり、信用面ではネガティブな印象を与えているのが現状です。

しかし、デジタルアセットの取り扱いにはノウハウや経験が不可欠であることから、日本においてデジタルアセットカストディを実現するのは暗号資産交換業者しかいないと考えています。

そこで、我々ビットバンク株式会社はデジタルアセットに特化したカストディサービスの提供を目指し、三井住友トラスト・ホールディングス社と共同で「日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)」を設立しました。

デジタルアセットの保管・管理技術に強みをもつビットバンクと、カストディ事業において国内随一のノウハウやネットワークを有する三井住友トラスト・ホールディングス社が協業することで、信頼性と透明性の高いカストディサービスを実現することができると考えています。

今後さまざまなデジタルアセットが登場し流通することが予想される中、JADATがデジタルアセットを安全に保管し管理する機能を果たすことで、デジタルアセットを活用したい事業会社や機関投資家の参入をサポートし、日本において安全にWeb3ビジネスに取り組むことができる環境づくりを後押ししていきます。

Web3が実現する未来

Web3事業に取り組む上で障壁となっている要因について整理してきましたが、最後にWeb3はどのような未来を実現するかという点について意見を述べさせていただきます。

中央集権型サービスの構造は、サービスを作る側・利用する側の2つに分かれていますが、Web3が実現する未来においては、誰もがサービスを作る側・利用する側・運営する側の3つに分かれるでしょう。したがって、すべての利害関係者が平等な立場でサービスに関わり合うことになると考えています。

また、突き詰めて考えると、国籍のあり方や働き方においても同じことが言えると考えています。何かに縛られることなく仕事も国籍も選べ、自分が貢献したいプロジェクトに入り、貢献することができれば報酬を得られる、そのような世界観こそがWeb3が実現する未来になると思います。

Web3が実現する未来が自分の意思で属するものを決めることであるならば、インターネットが情報において「個のエンパワーメント」をもたらしたように、パブリックブロックチェーンの技術によって、マネーや組織の在り方においても「個のエンパワーメント」が加速すると考えています。そうすると、個人が主導する主体的な社会が訪れるでしょう。

デジタルアセット市場においては課題も山積みですが、これまで述べてきたような課題を1つずつ解決し、事業会社や機関投資家がWeb3関連事業へ参入しやすい環境整備を推進していきます。

著者プロフィール

廣末紀之
ビットバンク株式会社 / 日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社
代表取締役社長 執行役員CEO

野村證券株式会社を経て、GMOインターネット株式会社常務取締役、ガーラ代表取締役社長、コミューカ代表取締役社長など数多くのIT企業の設立、経営に従事。2012年ビットコインに出会い、2014年にはビットバンク株式会社を設立、代表取締役CEOに就任。日本暗号資産取引業協会(JVCEA)理事、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)会長を務める。また、デジタルアセットに係る新しい資産管理サービスの提供を目指す日本デジタルアセットトラスト設立準備株式会社(JADAT)でも代表を務めている。

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