ソバーキュリアスという言葉をご存知の人はまだそんなに多くはないでしょう。
「しらふ」を意味する“sober”と「興味をそそる」という言葉“curious”の造語で、あえて日本語に訳すとすれば「しらふに興味津々」というところでしょうか。
今では「あえて飲まない」という意味合いのコンセプトワードとなりつつあるソバーキュリアスとは一体何なのか、そしてどうして「あえて飲まない」人が増えてきているのか、そこのところを解説していきます。
もともとは本のタイトル、ソバーキュリアス
ソバーキュリアスというのは、もともとはニューヨークを中心に活動するルビー・ウェリントンによって執筆された書籍のタイトルです。
これまでの節酒や断酒をすすめる書籍というと、アルコール依存症に悩む人向けに書かれた重たいイメージがありました。
しかし、ソバーキュリアスは依存症で苦しむような人に向けてではなく、日常的にお酒を楽しむライトな人に向けて書かれおり、お薬的な内容ではなく、お酒との付き合い方を考え直すきっかけとしてのカジュアルな内容であることが特徴です。
ともあれ、この書籍は多くの人に読まれ、お酒は飲めるけどしらふな生活に興味を持った「あえてお酒は飲まない」という人たちのコンセプトワードとなっていきました。
「あえて飲まない」の時代背景
日本を考えても「あえて飲まない人」は非常に多そうです。
身体的にお酒を全く受け付けない人は、日本人の4~5%ほどと言われていますが、実際にお酒を飲む習慣のない成人は55%ほどいます。
つまり、単純計算で成人の半数は「あえて飲まない」という選択をしているようです。
では、定量的にどのように酒類消費量が減少してきたかを見ていきたいと思います。
平成元年からの成人一人当たり酒類消費量推移を見ていきますと、対前年比で3%程度の減少率を記録している年は1997年、2003年、2008年、2014年、2020年の5つの年です。
それぞれの年で酒類消費に関係していると思われる出来事は、
このように見ていくと、酒類消費量の減少の背景には、家計に厳しい経済要因、直接/間接的な健康要因、お酒に対する風当たりなどの社会要因が存在することがわかります。
さらに忘れてはならないもう一つの要因としては、嗜好の変化が挙げられます。平成元年、1989年時点では酒類消費構成比の70%を超えていたビールは、2021年時点では26.1%まで落ち込んでいます。
これはわたしが実生活を通じて肌で感じることではありますが、お酒の価値を「酔い」に求めるこれまでの価値観から、お酒の味わいなどの品質に価値を見出す価値観へと変容してきていることが嗜好変化、ひいては酒類消費量現象の背景の一因ではないかと考えております。
近年の新しい価値観
さらに昨今になって「タイパ」という新しい価値観が登場したことにより、お酒離れのトレンドは加速してきているように感じられます。
タイパとは“Time Performance”、つまり時間あたりの満足度を意味する造語ですが、現在若年層を中心に重視されています。
時間を有効に使いたいというタイパという視点でお酒を考えると、気が付いたら時間が経っている、下手すると翌日まで引きずるなど、決してタイパがいいとは言えないのはたしかです。
さらに言えば、お酒のような嗜好品は、ある程度楽しめるようになるために、学習という助走期間が必要です。若い人がお酒を飲まなくなってきている背景には、そんな新しい価値基準も影響しているのかもしれません。
安藤裕
株式会社アルト・アルコ代表取締役
大学在学時に渡仏、以降ワインの業界で経験を積み、2018年同社起業。著書に『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)。
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