IT技術の急速な発展や新型コロナウイルスなどにより先行きが不透明で、将来の予測が難しい時代に突入する中、企業のDX変革と社内でのDX人材育成の必要性が徐々に高まっています。
今回は、新しい時代を生き抜く中小企業のDXと人材育成戦略について、文系DX人材育成サービス「MENTER(メンター)」を提供するWHITE株式会社の横山隆氏にご寄稿いただきました。
日本企業のDX変革と社内でのDX人材育成の必要性が徐々に高まっている
2018年、経済産業省が発表した「DXレポート」で「2025年の崖」について言及され、多くの日本企業に衝撃が走りました。
同レポートでは「日本企業がDXを推進しなければ、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる」とされており、DX変革の必要性を強く意識するきっかけとなりました。
DX変革の必要性が高まっている背景として、人材不足が大きく影響しています。労働人口が年々減少しており、2030年には最大79万人のDX人材が不足するとも言われています。
その中で企業が生産性と競争力を高めて利益を出す選択肢は4つあります。
①外部から優秀なDX人材を採用する
②人手不足をロボットなどで補う
③外国人材を採用する
④社内人材育成を通じて一人当たりの生産性を上げる
1つ目の「外部からの優秀なDX人材を採用する」は獲得競争が激化しており、非常に厳しい状況です。
2つ目の「ロボットの活用」はできることとできないことがあり、業務のすべてをデジタル化することは難しいでしょう。
3つ目の「外国人材の採用」は言語などのハードルもあり、現実的な選択肢として挙げられない状況です。そうなると、社内でDX人材を育成することが最も合理的な選択と言えます。
社内でDX人材を育成するメリットは、採用難易度やコストが高いDX人材を確保するためだけではありません。ITに強い人が多いと、業務の効率化や予算の最小化につながります。
「これであればExcelの拡張機能を活用しよう」「インターネットで方法を調べて解決する」といった柔軟な対応ができます。一方、ITに弱い人が多い場合、システム開発会社に相談して外注することになるでしょう。
もちろん場合によって外注やシステム開発をすることは必要ですが、ITの知識がなければ必要な機能と費用感を見極められません。社内のDX人材育成を通して会社のデジタル化を底上げすることは競争優位性を高める武器となります。
日本企業のDX成功率は約5~10%──DX推進でのよくある失敗
日本企業におけるDX変革の必要性が主張されて約5年、どれくらいの企業がDX推進できているのでしょうか。経済産業省や民間企業が実施しているアンケート調査を見てみましょう。
2020年12月発表の経済産業省「DXレポート2(中間とりまとめ)」では3.1%、同じく2020年12月発表のアビームコンサルティング「日本企業のDX取り組み実態調査」では6.7%、2022年6月発表のpwCコンサルティング合同会社「日本企業のDX推進実態調査2022」では10%と、DXの成功率が約5~10%とわかります。
つまり、ほとんどの日本企業がDX変革の必要性を感じていながらも、DX推進に失敗しているのです。
よくある失敗の最たる例は、新たなツールを導入したのにもかかわらず、活用できる人材がいない状態です。その原因を考えると、DX推進プロジェクトをリードできる人がいないことにたどり着きます。
経営者が中期経営計画にDX推進を掲げているが、現場は何をして良いのかわからずに困惑している状態が多いです。このような企業はDX推進への予算が成立した際、とりあえずツール導入や資格取得へ取り掛かろうと考えます。
しかし、はたしてそれがDX推進で成し遂げたいことなのかということを改めて考える必要があります。
中小企業が社内でDX人材を育成するためのポイント
それでは、どのように社内でDX人材育成を進めれば良いのでしょうか。今回は特に中小企業が社内DX人材を育成するポイントを3つ紹介します。
ポイント①社長や役員を含めた全社員で取り組む
よくある失敗例の1つが、デジタル化を推進したい人が自主的に取り組むプロジェクトにしてしまうことです。
組織や人のトランスフォーメーションを目的とするならば、社長や役員を含めた全社員で取り組むべきでしょう。特に中小企業では社長の影響力が強いので、社長自ら動くことで社内でのDX人材育成が推進されます。
ポイント②仕事として業務時間内に取り組む
目的が社員のエンゲージメントや満足度などの向上であれば任意の学習補助制度にするのも良いと思います。しかし、組織や人のトランスフォーメーションを目的にするならばモチベーションに任せるやり方は避けるべきです。
業務の1つとしてITスキルアップに取り組む方が会社としての本気度が伝わりますし、実際に成功している企業が多いです。また、社員へ自分が業務のデジタル化についてどれほど理解しているか確認できる機会を与えられます。
ポイント③DX推進を教育担当だけに任せきりにしない
社内でDX人材を育成するにあたり、重要なポイントとして教育担当だけに任せないことです。DX推進に成功している中小企業は情報システム部や人事部、事業部などは補い合って制度設計から推進まで遂行しています。
「どんな教育内容を選ぶのか」「それによってどのように業務に活きるのか」といった要件定義を各部署の要望をすり合わせながら遂行することで、会社にとって有意義なDXを実現できます。
中小企業のDX人材育成事例
【事例①代表自ら学び・挑戦してDX推進を進める電陽社】
フランチャイズでBOOKOFFをはじめとしたリユース事業や、フィットネス事業のカーブス、飲食店SUBWAYなどを提供する大正8年創業の電陽社は、社長自らが率先してITスキルを身につけてDXを推進しています。
電陽社は社内のDX推進プロジェクトを行うにあたり、当社が提供するITスキル学習サービス「MENTER」を活用したトレーニングプログラムを導入しています。
社長自らトレーニングプログラムに取り組むことで、「社長がやっているから自分たちもやらなければ」と従業員も意欲的に勉強する効果がありました。またDXが推進された結果、社長と社員の間で「これは自動化できるのではないか?」といったやり取りも増えたそうです。
DX推進のもう一つの変化として、これまでフランチャイズ運営ではシフト・労務管理をすべてアナログでやっていましたが、ITツールを導入しました。また、紙で管理していた伝票もITシステムで管理するように変更。
その結果、購買データが蓄積されるようになり、数値に裏打ちされたマーケティング活動ができるようになりました。
社長自らの学習と現場のトレーニングを一緒に進めたことで、共通理解が生まれた結果、DXが推進された成功事例です。
【事例②創業408年目を迎える老舗企業炭平コーポレーションのDX推進】
炭平コーポレーションは1614年創業の長野県ではひそかに人気の建設資材商社です。長野県初のセメント販売で事業を拡大し、資材の仕入れや販売、施工工事まで行っています。
DX変革をしなければいけないという危機感がある中で、まずは社員のITスキルアップから取り組み、実務でのDX推進の取り組みを始めています。
これまで取引先からのメールをExcelに手作業でまとめて共有していたのを、ネット上にあるマクロを使って自動化することを導入しました。ITリテラシーが底上げされることで、日々の業務で億劫に感じていた作業の効率化や、新たな事業価値の創造を新たなツールの導入せずに実現しています。
DX推進にあたり、社員のスキルアップに取り組み、その後実務のDX変革に取り組むといったステップバイステップで進めている事例です。
【事例③“時間”を生み出すための「学びなおし」 みずほビジネスパートナー】
みずほビジネスパートナーは、「働く人の安心とやりがいを支え、人生100年時代に“ひとと企業の最良の出会い”を実現する」をミッションに掲げ、人材事業を展開する企業です。
社長自らリモートワークやオンライン会議を推進、ITを用いた新たな働き方を主導しており、業務と並行しながら、必要なITの技術や知識などの「学びなおし」をすることを行っています。
社員がITへの「学びなおし」をすることを大切にし、ITインフラの整備と基礎的なITリテラシーやスキルの底上げに取り組んでいます。
IT化を進めていく中で、専門的な仕事の能力は高いけれどITに苦手意識がある社員が多いと考え、シニア世代の社員も全員が負担なく進めることができるITスキル学習サービス「MENTER」を導入しています。
IT関連でわからないことがあればシステム企画に問い合わせるということがしばしばありましたが、今ではインターネット検索で自ら解決できる社員が増えています。
同社はミッション「ひとと企業に最良の出会いを」を実現するために、人と企業、双方との丁寧なコミュニケーションを大切にしています。情緒あるコミュニケーションをするための時間をつくり出すために、デジタルで徹底的に効率化するということに取り組んでいます。
ITスキル向上でより良い日本社会を目指す
弊社は文系DX人材育成を目的とした法人向けオンラインITスキル学習サービス「MENTER(メンター)」を提供しています。
非エンジニアでも必要不可欠なIT基礎知識やGoogle検索で問題解決するチカラ、Excelの関数、RPAやAIの設計方法まで幅広く取り扱っており、ITリテラシーの底上げにより組織のDX推進を実現します。
「DX人材」に対してプログラミングやAI開発など理系スキル育成をイメージされている方が多く見られます。しかし、社内に理系職種はそんなにたくさん必要でしょうか?実は文系向けのITスキル育成こそ最も規模が大きく、実務で役立つため、現場からも必要とされるテーマです。
また、MENTERを開発した背景の1つが、行政サービスの非効率さに対する課題意識があります。自分が住んでいる自治体のホームページではPDFが散乱していてどれを見れば良いのかわからないといった状況でした。
これは予算や政治的な事情もあると思いますが、プロジェクト担当者のITリテラシーに原因があると考えられます。
一方、担当者や組織のITリテラシーが高まれば、ゴミの写真を撮るとAIがゴミ出し日を教えてくれるといった、より生活者にとって価値のあるサービスが提供できます。
するとゴミは適切に処理されエコにつながり、余分な税金も消化されずに済みます。DXとSDGsは強い関連があると考えています。そしてこれは行政だけではなく、企業も同じです。
これからもMENTERを通じて社会全体のITリテラシーを底上げし、より良い日本社会創りに貢献できればと思っています。
横山隆
WHITE株式会社 代表取締役
アパレル販売員からのキャリアスタート。しかし、「アパレル業界はITのチカラでより良くできるのでは?」と考え、IT企業へ就職、ec事業を複数経験。VASILY社(現:ZOZOテクノロジーズ)では、社外へ委託していた手作業の業務をAIを用いて完全自動化するプロジェクトを成功させ、所謂テックカンパニーの働き方を肌で感じる。このテックカンパニーの働き方を他の企業へも輸入することができたならば?IT/デジタルの活用も進み、結果として世の中のサービスをより良いものに進化させることができると感じ、デジタルスキル育成に興味を持つ。WHITE (株) を創業し、デジタルに強い人材を育成するオンライン学習(MENTER/メンター)を開発/提供中。
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