「最近メディアでよくノンアルコールの記事を見かけるな...」そう思っている方も多いのではないでしょうか?
今回は株式会社アルト・アルコ代表取締役安藤裕氏に、「ノンアルコール業界の歴史と今後」についてご寄稿いただきました。
実は古いノンアルコールの歴史
「そもそもノンアルコールの歴史なんてたかが知れてる。新しい業界に飛びついているだけでしょ。」
こう思っている方もいることでしょう。半分正解で半分間違いです。
今ノンアルコール業界が活気づいているのは既存のノンアルコールが脱皮をはじめ、見事新しい姿になろうとしているからです。
しかし、ノンアルコール自体の歴史が浅いということは決してありません。
時代をさかのぼると、古代ローマでは、冷蔵庫がない環境で清潔な真水を飲むのにも注意が必要でした。そこで、ハーブなどをつけこんだビネガーと合わせて飲むという現在のモクテルのようなことが行われていました。
また、禁酒法時代のアメリカでは、お酒に変わるカクテルをということで、現在でも有名な多くのノンアルコールカクテルが考案されました。
そして、20世紀初頭にはビールを醸造してからアルコールを抜く脱アルコール技術の特許が出ていたことはご存知でしたか?
ノンアルコールビールが最初に販売されたのは禁酒法時代という説もあります。
このように振り返ると、意外とノンアルコールの歴史は深いものなのです。
既存ノンアルコール産業の問題点
しかし、近年までのノンアルコールはお世辞にも高品質ではありませんでした。なぜなら、技術的な問題と構造的な問題が立ちふさがっていたからです。
ノンアルコールの技術的な問題とは、先ほど説明したお酒からアルコールを抜きとる脱アルコール技術についてです。脱アルコール技術の際に、アルコールだけを完全に取り除くことができればいいのですが、香りや味わいの成分も一緒に抜けてしまいます。
そうすると、味わい的にはどうしてもアルコールの劣化版といったものになってしまいます。
また、アルコール自体がもつ味わいへの影響も忘れてはいけません。アルコールは味わいにコクや飲みごたえを与えてくれ、ほのかな甘みと苦みも与えてくれます。逆に言えば、単純にアルコールを抜いても、どこか物足りない味わいが出来上がってしまいます。
さらに、ノンアルコールの構造的な問題として、脱アルコールには膨大な設備投資が必要であるということも挙げられます。さらに、元となるお酒を製造していないといけない。となると、参入障壁が非常に高く、ビール企業大手など一部の企業のみがプレイヤーとなりました。
しかし、彼らはあくまでお酒を売ることが第一義ですので、当然ノンアルコールへの注力は二の次でした。
ノンアルコール産業のパラダイムシフト
そんな八方塞がりの中、イギリスの新興企業が全く別の方法でノンアルコールへアプローチしました。
その方法とは、水に様々なハーブやスパイスをつけこみ蒸留を行うことで、スピリッツのような味わいのノンアルコールを生み出すことでした。
つまり、これまではまずお酒を醸造しアルコールを抜くという引き算的発想であったのに対して、ノンアルコールをベースにした液体にハーブやスパイスなどの素材をつけこむことで足し算的発想のもとアルコールのような味わい香りに近づけていくという逆転の発想でした。
お酒の強みを豊かな香りと複雑な味わいという2点に置くのであれば、この手法はまさに理にかなっており、使用する素材の種類と量、組み合わせを変えることで、ノンアルコールにも無限の可能性を与えました。
技術的な革新性はないものの、発想を転換させることで新しい市場を生み出すことに成功した好例と言えるのではないでしょうか。
彼らはしばしば自分たちの商品をノンアルコール○○とは呼ばず、「もう1つの選択肢」を意味する「オルタナティブ / alternative」という言葉を使い、新たなオルタナティブアルコール市場を開拓しました。
彼らのもう1つの功績は、お酒から造る必要のない、資本力を創意工夫によって乗り越えるとも言える、この手法によって、新しいノンアルコールビジネスの可能性をベンチャー企業へ開いたことにあります。
つまり、彼らは先ほど挙げた技術的問題と構造的問題の双方を同時に解決する手段を期せずして見出したことになります。
お酒業界からの熱い視線
このオルタナティブアルコールの登場は市場を一変させ、それまでノンアルコールを扱うことのなかった世界的な酒類メーカーがこぞって巨額な投資を始めるようになりました。
この流れに大手ビール企業もノンアルコール飲料の製造に本格的に取り組むようになり、世界的なビール企業が自社の商品ポートフォリオをロー・ノンアルコールに組み替えていくことを宣言したり、有名酒類ブランドが立て続けにノンアルコール商品を投入したといったことが起きました。
日本でのノンアルコール市場の未来
日本でもノンアルコールが騒がれ始めたのは、世界的にノンアルコールが進化を遂げそれが日本にも拡がってきているからだったのかと、読者のみなさまが膝を打ってくださっているとありがたいのですが、もう1つお伝えすべき大事なことがあります。
それは、今見てきたような世界的なノンアルコールのトレンドは、まだ小波程度にしか日本に届いていないということです。
日本にも世界的なノンアルコール飲料の大きな波が届く日が数年内には訪れるでしょう。その時こそ日本のノンアルコール市場ひいては飲料市場全体がパラダイムシフトを起こすことになるはずです。
日本の飲料市場の新時代をぜひお楽しみください。
安藤裕
株式会社アルト・アルコ代表取締役
大学在学時に渡仏、以降ワインの業界で経験を積み、2018年同社起業。著書に『ノンアルコールドリンクの発想と組み立て』(誠文堂新光社)
【関連記事】
【カテゴリー別】まるでお酒みたい。お酒の席でもスマートに楽しめる、おすすめノンアルコール商品3選
飲み会やホームパーティーなどのお酒の席で、ノンアルコール飲料を飲むときに「食事と合わない」「お酒のようにアレンジできない」と悩んだことはありませんか? 今回は、お酒のように楽しめて、食事に...
年明けは、あえて飲まない。お酒との付き合い方を見直す「ドライジャニュアリー」の楽しみ方
クリスマスや忘年会など、何かとイベントが多くついつい暴飲暴食しがちな12月。その翌月の1月に、お酒を断ってお酒との付き合い方を見直す「ドライジャニュアリー」というチャレンジが注目を集めています。...
スタートアップはいつノーコードから自社開発に移行すべき? いつまでもZapier全依存は厳しい
通わないマウスピース矯正「Oh my teeth」を運営する株式会社Oh my teeth(以下、Oh my teeth)。同社では、歯科クリニックがマウスピース矯正のユーザーと共有できるカルテ...
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう