マネジメント手法のひとつである「MBO」。日本語では「目標管理制度」と訳され、すでに多くの企業で採用されています。個人が自ら目標を設定するため、社員の自主性が育ち、成長に繋がるのがメリットです。
そんな「MBO」について解説。同じくマネジメント手法である「OKR」との違いに加えて、導入の流れや導入時のポイントなどもご紹介します。成果主義・能力主義の評価にあわせた管理手法の採用を検討している企業は、本記事の内容を参考にしてみてください。
- MBOとは?MBOとOKRの違い
- MBOを導入する際に知っておきたい3つの目標管理方法
- MBOでは成果にあわせてプロセスも評価すると知っておく
MBOとは
「MBO」とは、「Management by Objectives」の頭文字を取った略語で、日本語では「目標管理制度」「目標管理」などと訳されます。個人が設定した目標を自ら管理するマネジメントの手法で、多くの企業で愛用されています。
MBOは、「マネジメントの父」として知られるピーター・ドラッカー氏の著書『現代の経営』のなかで紹介されていることでも有名。定めた目標の達成度合いによって評価を決定します。
MBOの特徴は、経営目標とチーム・個人の目標を連動させることで業績向上を狙えることです。そのため、個人目標は設定した後、上司による適性度や方向性の確認が必須。マネジメント層は、部下一人ひとりの達成に向けたサポートマネジメントを行います。
MBOとOKRの違い
目標管理の手法としてMBOと似たものに「OKR」が存在します。OKRは「Objectives and Key Results」の略で、日本語では「目標と成果指標」と訳されます。日本ではあまり浸透しておらず、有名企業ではGoogleでも用いられているのが特徴です。
OKRは目標管理の手法のひとつですが、MBOとは目標の定め方が異なります。MBOが個人で目標を決めるのに対して、OKRはまず全社目標を決め、チームや個人はそれを考慮した個人目標を設定します。
評価軸も独特で、通常の個人目標は0〜100%の間で評価を行いますが、OKRは達成度60〜70%が理想とされています。100%を目指す目標では個人はモチベーションを失い、逆に簡単に達成できてしまう目標では能力を最大限発揮する意欲が失われてしまいます。従業員が積極的に行動したいと思える、バランスの取れた目標を設定するのがOKRという手法です。
個人のやる気を維持しやすい目標管理の手法がMBOで、会社と一体化した目標による管理手法がOKRと覚えておきましょう。
MBOの導入に向いている企業の特徴
MBOの導入に向いているのは、成果主義制度を採用している企業です。日本には慣習的に多くの会社で用いられてきた年功序列制が存在します。これは成果や結果に関係なく勤続年数に応じて昇級したり年収がアップしたりする仕組みで、現在の日本の企業でも採用されています。
しかし、近年は企業の競争が激しく、また市場や社会が変化するスピードが早いため、企業は従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮して成果を出す成果主義を評価制度に導入する方向にシフトしています。
MBOは社員一人ひとりの目標達成度合いを昇格や賞与などに反映できる手法なので、そうした成果主義・能力主義を採用している企業には適しています。
MBOの目標管理方法の3つの種類
MBOを活用して目標を管理するには、大きく分けて3つの方法があります。自社で重視するポイントを押さえながら目標設定・目標達成が目指せる管理方法を選択しましょう。「組織活性型」「課題達成型」「人事評価型」と、それぞれの特徴を解説します。
組織活性型
「組織活性型」は、3種類のなかでもっともオーソドックスな目標管理方法です。従業員が自ら目標を決めて、主体的かつ強い意思を持って目標の達成を目指します。原則、ボトムアップ形式がされており、組織としてのチームワークが強化されやすいのが特徴です。
一方で、目標を定めることを重視しがちなのはデメリット。目標を達成するために何をするのか、どんなことから取り組むのかなどプロセスや計画が不明瞭になってしまいやすい傾向にあります。評価の部分が曖昧になり、適切に評価しにくい点は留意しておきましょう。
課題達成型
「課題達成型」は、会社としての目標を考慮して個人が目標を設定します。企業目的の達成が重要視されるトップダウン形式を原則としているのが特徴です。
課題達成型のメリットは、個人目標の達成が企業目的の達成に直結すること。前任者が辞職や休職をした場合でも目標は同じ部署の従業員に引き継がれるため、引き続きチームで目標達成を目指せるのもポイントです。
一方で、目標達成が大きくなりやすいのは留意点。メンバーのモチベーション低下を避けるためにも、目標レベルの調整は大切です。
人事評価型
「人事評価型」は、組織活性型と同様ボトムアップ型を原則としています。人事的な評価項目を設けて、役職に関係なく公正に評価できるのが特徴。目標達成度合いと業務への取り組みを評価し、従業員の能力開発に繋げます。年功序列制度の課題点を解決するために導入された管理方法です。
留意したいのは、個人目標の達成が業績アップに繋がりにくいこと。従業員が人事評価のために業務に取り組む可能性があると知っておきましょう。
MBOを導入するメリット
MBOは社員一人ひとりの自発的な行動を促し、能動的な人材に導くのに有効なマネジメント手法といわれています。導入を検討する際は、考えうるすべてのメリットを把握して、より有効活用しましょう。MBOを導入すると得られる、さまざまなメリットを解説します。
- チームで目標を共有し、方向性を明確にできる
- モチベーションが上がる
- 自己管理しやすくなり、自走しやすくなる
- 達成までの施策を検討しやすくなり、能力開発につながる
- 振り返りしやすい
チームで目標を共有し、方向性を明確にできる
MBOはチームで目標を共有し、方向性を明確にできるのがメリットです。
例えば、3つの管理方法のうち「課題達成型」はトップダウン型により企業目的が共有された後、チームおよびチームメンバーとしての目標を設定します。
チームで目標を共有するプロセスを踏むため、大まかにお互いの目標を意識しながら業務に取り組めます。方向性が明確になり、チームとしても個人としても目標を達成しやすくなるのが特徴です。
モチベーションが上がる
MBOの導入はモチベーション向上にも繋がります。MBOにより定めた目標は、経営陣や上司に与えられたものではなく、従業員が自ら達成しようと決めた内容になります。自分の意思が反映されているため、高いモチベーションを維持しやすいのがメリットです。
目標を達成するために自身の仕事を管理しなくてならないため、強い責任感も生まれます。モチベーションと責任感の好循環で、結果を出しやすいのもポイントです。
自己管理しやすくなり、自走しやすくなる
MBOのメリットのひとつとして、自己管理による自走能力の向上が期待できます。
MBOでは経営陣や上司に与えられた仕事だけを行うのではなく、目標を達成するために何が必要なのかを自分で考え行動することが求められます。つまり、自分の仕事を自身で管理し、自走する力が鍛えられます。
達成までの施策を検討しやすくなり、能力開発につながる
MBOを導入することで達成までの施策を検討しやすくなり、能力開発に繋がることもメリットです。
3種類の管理方法のなかで「組織活性型」と「人事評価型」は原則ボトムアップ形式を用いるため、どうしても目標達成前のプロセスが曖昧になりがち。一方「課題達成型」はトップダウン形式なので、現状に基づいた目標設定が行われます。そのため、具体的な施策を検討しやすくなります。
そうした施策は上司ではなく自分で考え、行動することが求められます。受身的な姿勢から能動的な姿勢が身に付くため、結果として能力開発に繋がるのがメリットです。
振り返りしやすい
MBOにより定めた個人目標は、振り返り(リフレクション)がしやすいのもメリット。自分の仕事や能力を客観的に振り返ることで、改善点を具体的に把握できます。
個人的な振り返りだけでなく、チームや部署のリフレクションにも有効活用できます。
MBOの目標設定をする流れとポイント
MBOによる目標管理の手法は、運用方法を誤れば従業員のモチベーション低下を招きかねません。導入時には社員の主体性を尊重し、適切なフィードバックの実施が必要不可欠。その他、運用時の流れとポイントをわかりやすく解説します。
- STEP1.組織目標を共有する
- STEP2.従業員が定量目標と、プランの設立を行う
- STEP3.上司と目標・プランの内容をすり合わせを行う
- STEP4.中間でフィードバックや軌道修正を行う
- STEP5.最終的な評価・フィードバックを行う
- STEP6.MBO制度の導入効果を確認する
STEP1.組織目標を共有する
まずは、組織目標を設定し、それを部署やチームに対して共有します。
組織目標はなるべく具体的で客観的に表現できる内容になっているかどうかを確かめましょう。抽象的だったり曖昧だったりすると、組織目標を落とし込んで個人目標を定める際に難易度が高くなってしまいます。
STEP2.従業員が定量目標と、プランの設立を行う
組織目標を共有したら、次は従業員が定量目標とプランの設定を各自で行います。
個人が目標設定する際によく用いられている法則に「SMARTの法則」があります。「Specific:具体的に」「Measurable:測定可能な」「Achievable:達成可能な」「Related=経営目標に関連した」「Time-bound=時間制約がある」の5つのポイントを押さえつつ、個人目標を定めます。
この「SMARTの法則」を活用すればより具体的な目標を決められ、モチベーションの維持や目標達成率の向上に繋がります。
STEP3.上司と目標・プランの内容をすり合わせを行う
従業員が目標を設定した後は、必ず上司や先輩と目標・プラン内容のすり合わせを行う時間を設けましょう。このとき、目標設定が低すぎるもしくは高すぎてはいないか、企業目標の方向性と一致しているかなどを確認します。
また、具体性や実現可能性のある目標になっているかどうかもあわせてチェックします。必要であればその場で内容を調整し、最終的な目標を確定させます。
STEP4.中間でフィードバックや軌道修正を行う
目標を設定した後の動きや、従業員の主体性に任せましょう。ただし、定期的な進捗確認は必須。フィードバックや軌道修正を行う機会を設けます。
進捗確認は、日報・週報・中間のタイミングなどさまざま。従業員が定めた目標を基に、どのくらいの頻度で実施する必要があるのかを上司が決めましょう。進捗確認とともに、現時点どの振り返りを交えると、新たな課題を目標や行動計画に盛り込むことができます。
STEP5.最終的な評価・フィードバックを行う
期末のタイミングで、最終的な評価やフィードバックを行います。まずは従業員が自身の行動を評価・振り返った後に、上司がその結果や評価を確認し、評価します。
MBOを用いた評価制度では、目標達成度を客観的に評価するのが特徴。もし目標を達成できていないのであれば、「何が原因なのか」「どんな改善点があげられるか」などを従業員自身に考えさせ、次の目標設定で活かせるようフォローを行いましょう。
STEP6.MBO制度の導入効果を確認する
最後に、MBO制度の導入効果の確認も忘れずに行います。例えば、MBO制度が企業目標達成に繋がったのか、部下との面談・進捗確認のタイミングや回数が適切だったのかなどをチェックします。
MBOの目標設定の具体例
MBOでは具体的な目標設定を定めることが大切ではあるものの、評価は定性的・定量的に行われます。そのため、客観的に測定できる目標と、主観的に評価できる目標の両方を定めることが一般的です。
(例)客観的目標
-
外部納品本数を2021年10月時点より10%増加させる。
-
4カ月以内に3名の内定候補者を確保する。
-
今期の平均採用コストを昨年の10%削減する。
(例)主観的目標
-
自社製品やサービスに関する知識を深め、スムーズに説明できるようになる。
-
契約に繋がるリードの件数を増やす。
-
スムーズな業務進行のためチーム内のチャットを活性化させ、交流を促進する。
MBOを導入するときの注意点
マネジメントの手法として広く用いられているMBOですが、必ずしも完璧な手法とはいえません。改善すべき点も数多く指摘されています。導入を検討している方は、MBOを採用するときの注意点を必ず理解しておきましょう。
- 組織目標と個人目標が結びついているか確認する
- MBOの評価と人事評価は異なると共有する
- 目標の達成基準を明確に設定する
- 評価者の負担が増えるため、スケジュールを確保しておく
組織目標と個人目標が結びついているか確認する
MBOを導入するときは、組織目標と個人目標が結びついていることを必ず確認しましょう。意識したいのは3種類の管理手法のうち「課題達成型」です。
課題達成型はトップダウン形式で、経営陣が決めた企業目標が共有された後、各自がその内容を考慮して目標を定めるのが基本。そのため、組織目標と個人目標に明確な繋がりが生まれます。
ほかの「組織活性型」や「人事評価型」は、あくまでも個人の目標になってしまい会社としての業績に繋がりにくい傾向があります。
どの型を活用するのかは企業によりますが、課題達成型のように2つの目標を結びつけることができれば、個人の目標達成が企業の目標達成にも影響を与えるので、業績アップも狙えます。
MBOの評価と人事評価は異なると共有する
MBOは、各自が定めた目標を自分自身で管理することにより組織やチームを管理するマネジメント手法です。そのため、MBOの評価と人事評価はイコールで結びつかないことを従業員にはきちんと共有する必要があります。
MBOの評価が人事評価と異なる理由としては、達成度ばかりを見ていると目標値を低く設定してしまう可能性があるからです。成果を出すために行動することはもちろん大切ですが、そうするとプロセスが軽視されがち。
結果だけでなくプロセスもきちんと評価することを伝え、正しい方法を考え、行動することを促しましょう。目標設定時には達成へのプロセスも考えてもらうようにすると効果的です。
目標の達成基準を明確に設定する
MBOを導入する際は、目標の達成基準が明確に設定されているかを必ず確認しましょう。「ミスを減らすように心掛ける」「スケジュール管理を徹底する」などの目標設定は、抽象的で曖昧です。主観的にしか評価ができないため、評価者によって達成度がばらついてしまいます。
目標の達成基準は「月間のミスの回数を10から5まで減らす」「納期遅れを3日から1日に短縮する」など、客観的に測定できるものに設定します。目標を明確にすると従業員自身も効果的な施策を実施しやすく、評価者も客観的な評価をしやすくなります。
評価者の負担が増えるため、スケジュールを確保しておく
MBOは、従業員が定めた目標が適切かどうかを確認したり、定期的に進捗を管理したりと、評価者にとって負担の大きいマネジメント手法です。MBOのPDCAを回していくには、評価者側もプランを組む必要があります。
そのためには、あらかじめ振り返りのスケジュールを確保しておくことが大切。フィードバックや振り返りのタイミングは、期末まで前もって具体的な日時を決めてしまいましょう。その都度日程を調整する方法だと、時期によっては時間が確保できず、進捗確認が遅れてしまう可能性も出てきます。
MBOを導入して、従業員の自主性を高めよう
- MBOは成果主義・能力主義を導入している企業に適したマネジメント手法
- 従業員の自主性を高められるだけでなく、能力開発に繋がるのもメリット
- MBOを活用した評価制度は、評価者負担を減らす仕組みも一緒に考えることが重要
これからの時代において企業が成長し続け、生き残るには従業員一人ひとりの能動的な姿勢が重要なポイントとなってきます。そうした社員をひとりでも多く増やすには、MBOを活用した評価制度の採用が効果的。本記事を参考に、MBOを導入して、従業員の自主性を高めるきっかけ作りに繋げてみてはいかがでしょうか。
【関連記事】
OODA(ウーダ)ループとは?PDCAサイクルとの違いや、メリットを解説
ビジネスや学校教育の現場で用いられることが増えている「OODA(ウーダ)」。成果を出すためのフレームワークのひとつで、元々は戦時中に戦闘パイロットが活用していた理論です。 本記事では、そん...
コンピテンシーの意味とは?モデルの項目一覧・導入の流れを解説
成果が重視されている現代において、さまざまな企業が取り入れ始めている「コンピテンシー」。英語の意味は「能力」「技能」ですが、ビジネスにおいては成果を出すことのできる人材の行動特性のことを指す場合...
ロールモデルとは?設定するメリットや見つけ方、見つからないときの探し方を解説
ロールモデルとは、目標達成や理想実現のためのお手本のことです。ロールモデルを設定することには、個人の成長速度を高めたり、組織を活性化させたりといったメリットがあります。 本記事では...
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう