成果が重視されている現代において、さまざまな企業が取り入れ始めている「コンピテンシー」。英語の意味は「能力」「技能」ですが、ビジネスにおいては成果を出すことのできる人材の行動特性のことを指す場合に用いられます。
本記事では、そんな「コンピテンシー」について解説。コンピテンシーの具体的な内容や人事評価制度への導入の流れもご紹介しています。自社の評価制度を見直す必要がある場合、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてください。
- 成果を基に評価する制度では、コンピテンシーによる評価項目が有用
- 人事評価だけでなく、採用面接や組織マネジメントを行う際にも役立つ
- 公正な評価に繋がるため、従業員のモチベーション維持にも効果的
コンピテンシーの意味とは
「コンピテンシー」とは、英語で「能力」「技能」などの意味を持つ言葉です。さまざまな意味を有する単語ですが、ビジネスにおいては能力に優れ、高いパフォーマンスを発揮する行動特性や思考性の意味で使われます。
コンピテンシーの概念は元々、1950年代に心理学の分野で用いられていました。その後、Boyatzisによって、コンピテンシーは「ある職務において、効果的あるいは(また同時に)優れた業績という結果を生む人の根源的な特性」と再定義されます。日本には、1990年代にコンピテンシーの概念が輸入されました。
コンピテンシーは具体的な行動ではなく、行動に繋がる性格や価値観、思考パターンなどの特性を重視します。可視化されやすい行動・知識・技能などの能力に比べて、コンピテンシーは特性なので周囲から見えにくいのが特徴です。
コンピテンシーが注目されるようになった背景
従来の終身雇用型の企業では、評価制度として、年功序列型が用いられていました。年功序列型とは、年齢や勤続年数があがるごとに給与や役職があがる制度のことです。長期的に勤めれば誰しもが収入があがり、それなりの役職に就くことができるため、従業員の離職を抑えられるというメリットがあります。
バブル崩壊後、終身雇用・年功序列型は徐々に衰退し、成果主義の制度を取り入れている企業が増えています。勤続年数が短く、年齢が若い従業員でも成果を出すことで正当に評価されるのがメリットです。その評価の軸として用いられているのがコンピテンシーです。
コンピテンシーと関連する言葉との違い
コンピテンシーは才能・能力などの意味を持つ言葉です。同様の意味を有するビジネス用語はいくつかあります。適切なシーンで適切に使えるように、関連するそれらの言葉の違いを理解しておきましょう。
コア・コンピタンス
「コア・コンピタンス」とは、他社には真似できない企業の中核となる強みのことです。例えば、セブン銀行の手数料収入のビジネスモデルは、日本全国にある店舗網を自社の強みとして活かした事例のひとつです。
コア・コンピタンスが組織的な観点であるのに対して、コンピテンシーは個人の観点であるのが違い。また、コア・コンピタンスはコア・コンピテンシーという使い方をされることもあります。
アビリティ
「アビリティ」は英語の「abillity」を語源とする言葉で、能力・才能・技量などの意味を持ちます。コンピテンシーにも同様の意味がありますが、ビジネスシーンにおいては行動特性を指す場合に使われるのが大きな違いです。
また、アビリティは個人の力量や才能そのものを指します。コンピテンシーは評価の基準として用いられる概念なので、その点も違いといえるでしょう。
スキル
「スキル」とは、努力や経験により身につけた能力のことをいいます。アビリティと同じ意味を持ちますが、スキルが後天的な能力を指すのに対して、アビリティは先天的な才能のことを指します。
スキルが能力や才能そのものに使われる一方で、コンピテンシーは能力を発揮するための行動特性を示すのに使われるのが大きな違いです。
ケイパビリティ
「ケイパビリティ」は、英語の「capabilities」が語源です。英語の意味としては「才能」「能力」などを指すものの、ビジネスシーンでは組織的な能力を指す場合に使われるのが一般的です。
コンピテンシーとの違いは、個人に対して使われるのか、組織に対して使われるのかという点。コンピテンシーは個人が持つ成果を出すための行動特性を指し、ケイパビリティは企業が有する組織的な能力を指します。
コンピテンシーモデルの項目一覧
コンピテンシー研究機関「Spencer&Spencer」のコンピテンシーディクショナリーによると、コンピテンシーモデルの項目は以下の6つの大項目と、20の中項目に分類されます。
【達成・行動】
-
達成思考
-
秩序、品質、正確性への関心
-
イニシアチブ(率先力)
-
情報収集
【援助・対人支援】
-
対人理解
-
顧客支援方向
【インパクト・対人影響力】
-
影響力
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組織感覚
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関係の構築
【管理領域】
-
他者の育成
-
指導力
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チームワークと協力
-
チームリーダーシップ
【知的領域】
-
分析的志向
-
概念的志向
-
技術的・専門職的・管理的専門性
【個人の効果制】
-
自己管理
-
自信
-
柔軟性
-
組織コミットメント
コンピテンシーが使われている場面
コンピテンシーは、ハイパフォーマーが何を考え、どんな価値観を有しているのか、その行動特性を指す言葉です。そこには、成果をあげるための行動や思考パターンのヒントが詰まっています。
そのためコンピテンシーは、採用面接や人事評価以外にもさまざまなシーンで活用することが可能です。実際にコンピテンシーが使われている場面をいくつかご紹介します。
採用面接
採用面接では、コンピテンシーは採用基準を定める際の指標のひとつとして使われます。
自社で活躍している社員のコンピテンシーを基に採用基準を明確にすることで、入社後に活躍する人材を具体的にイメージしやすくなり、その基準に近い応募者を見極められるようになります。
採用面接でコンピテンシーを用いる場合、「直近1年でどのような成果をあげることができたか」に続いて、「成果を出すためにどんな工夫をしたか」ということを質問します。成果に結びつけるために何を考え、何を行ったのかを聞くことで、応募者のコンピテンシーを把握することが可能。自社に合う人材かどうかを見極めやすくなります。
人事評価
コンピテンシーがもっとも多く活用されるシーンが人事評価です。安定してハイパフォーマンスを発揮する従業員のコンピテンシーを人事評価に取り入れることで、評価者ごとのブレを減らし、公平性を保つことができます。
コンピテンシーを人事評価に用いる場合、まずは安定して成果を出している従業員に普段の業務で意識していることや工夫していることなどについてヒアリングを行います。その内容を参考に、コンピテンシー評価の軸を決めましょう。
あとはその軸に基づいて、どの程度までコンピテンシー軸に近づけたのかという観点で人事評価を行います。
社員の能力開発・教育
コンピテンシーは、社員の能力開発や教育にも役立ちます。自社のハイパフォーマーの行動特性を示すことで、授業員は自社での成果の出し方や与えられるポジションに対して会社から求められている考え方などを、日々の業務で意識できるようになります。
そうしたコンピテンシーを基に、社員一人ひとりに「どんな行動を起こせるようになりたいか」「どんな考え方を身につけたいか」など、目標を決めてもらいましょう。自分で考え、納得したうえで目標を設定すれば自発的な行動が増え、能力が伸びたり成長に繋がったりします。
組織マネジメント
コンピテンシーは、組織マネジメントにも活用することができます。
一般的に、チーム内や部署内でなかなか成果が上げられない従業員は、人事異動のタイミングで別のチームに配属されたり、別の仕事を振られたりします。異動先の部署で成果を出せれば良いですが、場合によってはさらなる人事異動が必要なこともあります。
あらかじめ従業員一人ひとりのコンピテンシーを把握できれいれば、こうした配置や業務のミスマッチを最小限に止めることが可能。人材を適材適所に配置できるほか、社員の力を最大限に発揮できる仕事も割り振れます。
コンピテンシー評価を活用するメリット
コンピテンシー評価を用いることで、従来の能力評価や評価者ごとの評価のズレなどを解決できます。従業員からの不満が多く、新しく評価基準・項目を定めようと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
- 評価者による評価の違いを統一し公正な評価がしやすい
- 評価されるポイントが明確になり納得感が得やすい
- 採用するべき人材を明確にできる
ここからは、コンピテンシー評価を活用するメリットの詳細をご紹介します。
評価者による評価の違いを統一し公正な評価がしやすい
多くの企業で採用されている能力評価は、評価基準が非常に曖昧です。評価者の主観に左右されやすいため、評価者ごとに評価のズレが起きていました。
一方でコンピテンシー評価は、成果や行動を重視して評価を行います。項目が抽象的ではなくロールモデルを参考とした具体性があるため、評価者も評価が付けやすく、公正な評価がしやすくなるのがメリットです。
評価されるポイントが明確になり納得感が得やすい
従来の能力評価は、評価者による主観的な評価が用いられていました。一方でコンピテンシー評価は、客観的な指標を基に成果や行動が評価されます。評価されるポイントが明確になるため従業員も結果に納得しやすく、不満が生まれにくいのがメリットです。
評価の内容に納得感を得やすくなれば、モチベーションを維持したり向上させたりすることにも繋がります。
採用するべき人材を明確にできる
コンピテンシーは人事評価に用いるだけでなく、採用面接の際に自社が求めている人材を面接担当者全員で共有できるのもメリットです。
また、面接合格者に対して求めている行動や考え方などを共有しやすいのもポイント。入社の具体的な働き方や活躍をイメージしやすいため、早期離職のリスク軽減にも繋がります。
コンピテンシー評価を導入するときの流れ
コンピテンシーは、人事評価の項目の基準として有効活用できます。部署ごとに高い成果を発揮する社員の行動特性を洗い出し評価項目に反映することで、従業員一人ひとりがどんな行動や考え方をすれば成果を出せるのかが明確になるのが特徴。コンピテンシー評価を導入するときの具体的な流れをご紹介します。
- STEP1.ヒアリングを行う
- STEP2.具体的な基準項目(モデル)を定める
- STEP3.コンピテンシー項目を選定し、レベル分けをする
- STEP4.目標、行動目標を設定する
- STEP5.目標の結果を評価し、調節する
STEP1.ヒアリングを行う
まずは、社内のハイパフォーマンスにインタビューやアンケートなどの手法でヒアリングを行います。ヒアリング対象者は、コンピテンシー評価を導入する部署やチームから複数人を選出しましょう。
ヒアリングの目的は、ハイパフォーマーの行動や思考をコンピテンシー評価のモデルとすること。あらかじめコンピテンシー項目を用意し、それに照らし合わせてヒアリングを行うと整理しやすくなるのでおすすめです。
STEP2.具体的な基準項目(モデル)を定める
コンピテンシーを評価項目に取り入れる場合には、目標とするモデルの設定が必要です。参考となるのが「実在型モデル」「理想形モデル」「ハイブリッド型モデル」の3種類。それぞれモデルの定め方や注意したいポイント、難易度などを説明します。
実在型モデル
「実在型モデル」とは、社内に存在するハイパフォーマーの行動特性を用いた基準項目のことです。複数あるコンピテンシーモデルのなかでもよく用いられる型で、実在する社員の行動や思考をベースとするため、導入しやすいのが特徴です。
ポイントは、ほかの従業員も達成しうるコンピテンシーモデルになっているかどうか。実在するモデルのレベルが高い場合、その行動特性をそのまま基準項目に反映させてしまうと達成できない可能性があります。
難易度が高いモデル設定は、従業員のモチベーションアップに繋がるどころか、下げることに繋がりかねません。ハイパフォーマー以外の社員に当てはめた場合に実用性があるかどうか、よく検討してからモデルを設定しましょう。
理想形モデル
「理想形モデル」とは、自社が理想とする人材のコンピテンシーを用いた基準項目のことです。企業理念や事業戦略など企業として目標を達成するために、何を考え、どんな行動ができる人物を求めているのかを言語化します。
社内にロールモデルがいない企業で導入しやすい基準項目です。実在型モデルのようにヒアリングを実施する必要がないので、比較的時間をかけずに定めることができます。
ポイントは、理想を追い求めすぎたモデルになっていないかどうか。理想を追求しすぎて、現実的ではない基準項目になってしまえば、従業員のモチベーション低下を招きかねません。現状の社員のレベルに合わせた理想形モデルを設定しましょう。
ハイブリッド型モデル
「ハイブリッド型モデル」は、実在型モデルと理想形モデルを組み合わせた基準項目です。まずは理想形モデルの手法を活用し、企業理念や事業戦略などから理想とする人材のコンピテンシーを抽出します。
抽出したコンピテンシーから実態に即していない要素を取り除いて整理すれば、ハイブリッド型モデルは作成可能です。従業員にヒアリングを実施せず、また企業の理想の人物像を反映できるため設定難易度が低く、コンピテンシーを初めて評価項目に導入する企業におすすめです。
STEP3.コンピテンシー項目を選定し、レベル分けをする
コンピテンシー項目は5つのレベルを設けましょう。評価に段階を設けることで、従業員も自身がどの程度をクリアできているのか把握しやすく、人事評価後のモチベーション維持や向上に繋がります。
レベル1:受動行動
コンピテンシー項目におけるレベル1は、受動行動です。文字通り何をするにも上司や先輩の指示があってから行動し、主体性がほとんどありません。場当たり的な行動や思考の一貫性などがないタイプです。
レベル2:通常行動
コンピテンシー項目におけるレベル2は、通常行動です。マニュアルや用意された作業手順を参考に、最低限の業務を行います。能力やスキルに関係なく、誰であってもその状況であれば同じ行動をすると想定できるのが特徴。業務を工夫したり展開させたりすることがなく、与えられた仕事をその通りにこなすタイプです。
レベル3:能動行動
コンピテンシー項目におけるレベル3は、能動行動です。目的を持って主体的に動けるタイプ。決められた業務やルールのなかで最適な選択肢を選び、より良い結果を出すことができます。
レベル4:創造行動
コンピテンシー項目におけるレベル4は、創造行動です。解決すべき課題を見つけ、解決・改善のために動けるのが特徴。独自の工夫やアイデアを考えてPDCAを回し、高い成果を出す行動ができるタイプです。
レベル5:パラダイム転換行動
コンピテンシー項目におけるレベル5は、パラダイム転換行動です。5段階のなかでもっとも希少価値の高いタイプで、自ら新しいものを作り出し、成果を出していきます。
既成概念に囚われない発想で、周囲の状況を変えていくのが特徴。突飛なようですが周りの理解や納得を得て、協力を促すような行動をしていくタイプです。
STEP4.目標、行動目標を設定する
コンピテンシー項目の選定とレベル分けが終わったあとは、従業員一人ひとりが個人の目標を設定します。
上司や先輩から求められている成果を目標に反映する企業は多くありますが、自ら設定した目標でないと人はなかなか主体的に動くことができません。
定める目標の方向性は共有しつつ、具体的な内容は社員に一任しましょう。そうすることにより、コンピテンシー評価のメリットを最大限に活かすことができます。
STEP5.目標の結果を評価し、調節する
コンピテンシー項目の設定と従業員の目標決めが終わったら、あとは人事評価のタイミングで目標の結果を評価します。上長と本人のほか、同部署の同僚など多方面からの意見を基にどのレベルで達成できたかを決定しましょう。
目標を達成できていた従業員は、次のレベルの目標設定を行います。未達成に終わってしまった場合は、原因や改善点を洗い出し、それを取り入れた目標設定にしましょう。評価の時期に自身の行動を見直し、次の行動に繋げることを繰り返すことで、コンピテンシーを有効に活用することが可能です。
コンピテンシー評価を活用するときの注意点
コンピテンシー評価を活用する際に注意したい点が2つあります。1つ目は、コンピテンシーの基準項目を定めるまでに時間がかかってしまうこと。特に実在型モデルやハイブリッド型モデルを活用する場合は、従業員に対するヒアリングを行ったあとに内容を整理する必要があるため、より時間を要します。
2つ目は、定期的なメンテナンスが必要なことです。コンピテンシー評価は基準が明確なうえ、部署や役職ごとに定められているため、環境の変化に応じてそのすべてを調整しなくてはなりません。評価基準を丸ごと見直すため、評価者も評価対象者も混乱する可能性があります。
運用まで見据えてコンピテンシー評価を定める必要がある点は留意しておきましょう。
自社のコンピテンシー項目を検討してみよう
- コンピテンシーを明らかにしておくことで、自社従業員に求める行動基準を提示できる
- コンピテンシーは、人事評価・採用面接・能力開発など複数のシーンで役立てられる
- 人事評価に用いる場合は、3種類のモデルから自社にあった基準項目を用いる
働き方の多様化や年功序列制度を疑問視する声が多くなったことから、成果や行動を重視した人事評価制度を新たに定める企業が増えています。何から始めて、何を基準にしたら良いのか手探りの会社は多いはず。本記事を参考に、自社のコンピテンシー項目を検討してみてはいかがでしょうか。
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