ソフトウェアやアプリのテストを自動化するツールが広がりつつある近年。しかし、エンジニアの中には「コードをタイプするほうが早い」「ノーコードツールをマウスでポチポチ操作するのは面倒だ」と思う人が少なくないようです。
そんな中、ノーコードでソフトウェアテストの自動化を実現させる、AIテスト自動化プラットフォーム「MagicPod」を運営する株式会社MagicPodは、MagicPodを「人によって好きな形式で書けるようなプラットフォーム」へと変えるといいます。
MagicPodのメンバーが、3回にわたって「ソフトウェアテスト自動化の今とこれから」について解説する本連載。
第3回目となる今回は、MagicPodのCEOである伊藤望氏に、テスト自動化のこれからや、MagicPodの理想・今後の展望についてご寄稿いただきました。一緒にテスト自動化の未来について考えていきましょう。
テスト自動化ツールの導入を阻んできた3つの問題
2017年にリリースしたMagicPodは、今年の7月に5周年を迎えることができました。「ここまで来れてよかった」という思いもありつつ、「まだまだ5周年。これからだな」という思いのほうが強くあります。
昔はテストを自動化する人のほうがマイノリティな時代でしたが、今では「自動化しないほうがマイノリティになりつつあるかもしれない」と思えるほど自動化の流れに勢いがあります。
実際、MagicPodの導入に関するお問い合わせは増えており、「こんなにいろいろな会社でテスト自動化を検討しているんだな」と感じているところです。
もちろん自動化ツールを導入していない会社もまだまだあります。その理由は主に3つあると考えています。
①ツールの問題
1つ目は、何かしら取り組んでみたもののメンテナンスができなかったり、思うように費用対効果を得られなかったりして実質導入できていないケース。
しかし、この場合は自動化が本質的にダメというより、ツールの機能がイマイチだからそうなのではないかと思っています。
だからこそ私は、そうでないことを証明するために機能が優れたツールを作っています。
②予算の問題
2つ目は予算の問題です。MagicPodはスタートアップでも導入していただける価格から提供していますが、契約すればそれだけで自動化が完了するわけではありません。
ツールを使うための準備や仕組み作りなどの工数も含め、最初にかかるコストに二の足を踏んでいる会社は少なくありません。
③開発手法の問題
そして3つ目は、開発手法の問題です。最近の主流であるアジャイル開発(ソフトウェアを素早く提供することを重視した開発手法)はリリース頻度が高く、テストの回数が多くなっています。
対して、従来のウォーターフォール開発はリリース頻度が少なく、テストをたまにしか行わないため「それなら時間がかかっても手作業で十分」と考えてしまいがちです。
日本はウォーターフォール開発(開発プロセスを複数の工程に分けて、順番に進めていくシステム開発手法)がまだまだ多く、それがテスト自動化の普及を妨げる一因になっていると言えます。
MagicPodが重視するのは「幅広いテストのカバー」
しかし、海外を見てみるとシステム開発企業の約8割がアジャイル開発を行っています。毎月、毎週のようにバージョンアップを続けて改善していくので、ビジネスの速度は日本よりも速くなります。
もちろん頻繁にシステムを変えるべきではない軍事や原子力発電、銀行などの基幹システムもあるので「すべてをアジャイル開発にすればいい」ということではありません。ただ、ウォーターフォール開発でなければいけないシステムはそう多くないとも思っています。
MagicPodとしては「アジャイル開発が増えることでMagicPodのユーザーも増える」という考え方ではなく「より幅広いテストをカバーして自動化のメリットを今まで以上に感じてもらうことで、アジャイル開発への取り組みを支援し、移行を加速させていきたい」と考えています。
ちなみに、アジャイル開発のほうがユーザーと向き合ってどんどん改善していく楽しみ、やりがいを感じやすいという面もあります。
一方、ウォーターフォール開発では設計書通りに作ることが目標になりがちです。そこでなかなか改善ができないとなると、開発に関わる人のモチベーションが上がりにくくなります。
システム開発に関わるすべての人にエンジニアリングの楽しさ、クリエイティブな仕事を味わってもらえるような環境を作り上げることで、社会貢献できたらいいなと我々は考えています。
自動テストツールの理想形を創る
MagicPodは会社として1年前の4、5人規模から20人を超えるぐらいになりました。私自身、昔より人に任されることが増えて、未来のことを考える余力も少しずつ出てきた気がします。
ただ、自分でコードを書く機会は減りました。この間、社内で「伊藤さんってコード書くんですね。初めて見ました」と言われてしまいまして。人生でそんなことを言われる日が来るとは思ってもいませんでした(笑)。
メンバーが増えて開発が加速したことで、MagicPodはより直感的にテストが作れるようになったと思いますし、安定性やセキュリティも改善しました。何かが劇的に変わったということではないかもしれませんが、求められている機能を1つずつ着実に増やしています。
そのような状況から、最近は「こんな機能があったらワクワクするよね」といった、ずっと「できたらいいな」と思っていた遠い夢みたいな機能にも取り組めるようになってきています。
その1つとして次の半年に向けて準備しているのが「コードでも書ける機能」です。
「ノーコード×コードあり」の柔軟なプラットフォームへ
これまでMagicPopdは「プログラムを書けない人もノーコードでテストを自動化できるツール」でしたが、これからは「プログラマーとノンプログラマーが協調できるプラットフォーム」に変わります。
具体的には、「ノーコードでテストを自動化するところのよさはそのままに、コードでも書けるようになる」というものです。それはあくまでテストの「作り方の選択肢」が増えるということで、“コードが書ける機能”が増えるといったものではありません。
どういうことかと言うと、エンジニアの中には「タイプするほうが早い。ノーコードツールをマウスでポチポチ操作するのは面倒だ」と思う人がたくさんいるのです。
人によって好きな形式で書けるようにすればMagicPodが「自分好みのやり方でコードを作成しながら共同作業できるツール」として進化し、より多くの人に重宝してもらえるでしょう。
実は海外にはすでにコードでもノーコードでも書けるツールがあります。ただ、そのツールではエンジニアが書くとプログラムとして管理されてしまうため、ノンプログラマーが触れません。協調作業ができないため、実態としては別々のツールと言えます。
私としては「自動テストツールはプログラマーとノンプログラマーが協調できるべきだ」と考えています。それが、昔から私が考えていた自動テストツールの理想の形です。
QAと開発の協調作業を常識にする
MagicPodは「ソフトウェア開発の常識を一変させる」というミッションを掲げています。
具体的には「ソフトウェア開発全般を、これまでのやり方ではなく全く違うやり方で変えていきたい」「新しい常識、スタンダードを創っていきたい」と考えています。
そのため、MagicPodは単にテストを自動化するツールであり続けるのではなく、品質管理を総合的にサポートできるツールになるのが最終的な目標です。
品質保証はインテリジェントなAIの力によって今後かなりのことが自動化できると考えています。
これまでテストには「手を動かして頭数で何とかする」という側面がありましたが、これからはそういった要素は減り、「システムのことをしっかり考えてテストを設計し、AIなどのツールを使いこなして自動化する、高度なスキルが必要な仕事」になっていくと思います。
実際、QA(Quality Assurance:品質保証)担当者の給与水準は上がっていますし、求人情報の募集要項にスキルセットの1つとしてMagicPodの名前を見る機会も増えてきました。そういった形でMagicPodが世の中の標準になりつつあることを知れるのは、すごく嬉しいです。
今後の理想は「QAと開発がすごく近い距離感で存在すること」です。
例えば、開発と連携していれば、昨日起きたエラーの内容を見て「もしかして最近やってたあれが原因かな?」と当たりが付けられます。開発側からも、テストしやすい環境作りに協力するようになってくれるでしょう。
現在もまだ、開発担当者がコードを書いてユニットテストをして、QA担当者はノーコードツールでE2Eテストをするなど、お互い別々にやっているような組織もあります。
そうではなくて、やはりお互い助け合うような形が理想です。また、連携することでテスト自動化や開発の効率が上がり、より多くのメリットが得られるようになります。
そういった協調作業を実現するためには、やはり今開発している「コードでもノーコードでも書ける機能」がすごく重要なんだと思えます。
その実現は、私の中でずっとある自動テストツールの1つの完成系です。こうした中でMagicPodは、ソフトウェア開発のあり方を変えていくような会社でありたいと考えています。
伊藤望
株式会社MagicPod CEO
京都大学大学院情報学研究科を修了後、株式会社ワークスアプリケーションズ入社、自動テストツール開発で社長賞を受賞するなど活躍。その後独立しTRIDENT(現・MagicPod)を設立。「日本Seleniumユーザーコミュニティ」設立、「Selenium実践入門」執筆、国際カンファレンス講演、「SeleniumConf」日本初開催など、テスト自動化の普及に努める。最近はMagicPodの開発に注力中。誠実謙虚な愛されるリーダーで、社員からは「偉そうにしているところ、怒ったところを見たことがない」と言われている。面倒なことや非効率なことが苦手で、趣味は自動化・仕組化。
「MagicPod」は、モバイルアプリテスト、ブラウザ(Webアプリ)テストの両方に対応したAIテスト自動化プラットフォームです。プログラミングなどの特別なスキルがなくても直感的に使うことのできるデザイン、クラウドでのサービス提供によるメンテナンス性の高さ、AI技術を活用した自動修正によるテストプログラム修正の手間削減などによりリリースサイクルの高速化を支援します。IT業界のリーディングカンパニーを中心にすでに500社以上の企業が導入しています。
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