「デジタルデバイド」は日本語で「情報格差」と訳されます。現代の日本においてデジタルデバイドは拡大傾向にあり、国としてさまざまな悪影響が考えられるため、現在までに数々の取り組みが実施されてきました。
そんなデジタルデバイドについて、知らない方に向けて解説。解消のために企業ができる具体的な取り組みや対策もあわせてご紹介します。すでに実施している企業事例も取り上げていますので、ぜひ参考にしてみてください。
- デジタルデバイド(情報格差)とは
- デジタルデバイド(情報格差)が起きる原因
- デジタルデバイド(情報格差)を解消する対策方法
デジタルデバイド(情報格差)とは
「デジタルデバイド」とは、パソコンやインターネットを使いこなせる人と使いこなせない人との間に生まれる情報格差のことです。デジタルデバイドは、国内・地域間や国際間などに分けることができます。それぞれデジタルでバイトが生まれやすくなっている要因や現状などについて解説します。
国内・地域間デバイド
国内・地域間デバイドとは、国内の都市部と地方部の間に生じる情報格差のことです。総務省は特にこの国内・地域間デバイドの対応に努めており、平成22年度末には「ブロードバンド・ゼロ地域」はほとんど解消されています。
しかし、インターネット環境を整えていても、現状は都市部と地方部間の情報格差は存在しています。都市区分別にインターネット利用率を見ると、都市規模が小さい地域ほどインターネットの利用率が低くなっています。
参考:平成23年度 情報通信白書「デジタル・ディバイドの解消」
国際間デバイド
国際間デバイドとは、世界の国や地域の間で生じる情報格差のことです。具体的には、先進国と発展途上国における情報アクセスの地域間格差を指します。
一般的なデジタルデバイドが発生してしまう要因には、アクセス・知識・社会インフラに加えて、利用者の動機があげられます。
国際間デバイドにおいては、国ごとの経済的・教育的・社会的レベルが情報通信基盤に影響を与え、それにより情報格差が生まれると考えられています。国際間デバイドは、政治・労働・教育・観光などの面で遅れが生じる要因となりうるため、豊かな国際社会を構築するには問題の解消が非常に重要です。
参考:平成23年版 情報通信白書「第2部 特集 共生型ネット社会の実現に向けて」
ビジネスデバイド(企業規模格差)
ビジネスデバイドとは、企業規模が違うことによって生じる情報格差のことです。社内のIT化を進める際に、デジタルツールを有効に使える方と、有効に使うことができない方がいれば、そうではない企業と比べて業務効率や生産性に大きな差が生まれてしまいます。
また、大企業が豊富な資金力や人材によりITインフラの整備や優秀なIT人材の採用がしやすい一方で、中小企業はIT分野に注力するリソースが不足しがちです。
ITを活用して業務効率や生産性の向上に取り組むことができないと、デジタル化が進んだ企業とそうではない企業で、ビジネスとしての競争力にも差が生じる可能性があります。
ソーシャルデバイド(身体的・社会的デバイド)
ソーシャルデバイドとは、身体的・社会的などの違いにより個人や集団の間で生じる情報格差のことです。
身体的な違いでいえば、健常者と障害を持つ方では情報に触れる頻度が異なります。健常者は一人でも好きなタイミングでインターネットを利用できますが、障害を持っている方の場合は違います。なかには、自分一人でインターネットを使えない方もいます。そうした身体的な違いがソーシャルデバイドと呼ばれています。
また、社会的デバイドは社会的条件の違いにより発生するのが特徴。社会的条件の違いとは、収入や年齢、家庭環境などの違いのことです。ソーシャルデバイドは、低収入や高年齢、片親などの条件を満たしている方ほど影響を受けやすくなります。
日本のデジタルデバイドが起きる原因
日本では、個々の環境や所得、情報リテラシーなどが原因で情報格差が生まれてしまっています。例えば、都市部と地方など住環境の違いも関係しています。なぜ情報格差が生まれてしまうのか、日本においてデジタルデバイドが起きる原因を解説します。
所得・アクセス環境の違い
日本のデジタルデバイドが起きる原因のひとつが、所得やアクセス環境の違いです。
インターネット利用率は年収に大きく関係しています。所属世帯別年収のデータを見ると、世帯年収2000万円以上の方が90.6%なのに対して、年収200万円未満の方は63.1%と、インターネット利用率に約27%ほどの差があることがわかります。
収入が低いとスマホやパソコンなどの機器を購入することができず、それがさらなるインターネット利用率の低下につながっていると考えられています。
また、アクセス環境の違いによるデジタルデバイドも知っておきたいポイントです。都市区分別のデータを見ると、都市部に比べて町や村はインターネット利用率が低いことがわかります。
インターネット利用率が低い理由のひとつに、人口の違いがあります。都市部は人口が多い分インターネット環境が整備されており、整備することに対する予算も多めに取られています。一方、町や村は人口が少なく費用対効果が小さくなるため、インフラ整備があまり行われていません。
通信速度が遅かったり、使える場所が限られてしまったりすることで、よりデジタルデバイドが生じやすくなっているのです。
参考:平成23年度 情報通信白書「デジタル・ディバイドの解消」
情報リテラシーの格差
情報リテラシーの格差も、デジタルデバイドが起きる原因のひとつです。
情報リテラシーとは、情報を適切に判断・活用する能力のこと。インターネットを利用することに慣れている層はこの情報リテラシーが高いため、虚偽の情報や誤った情報に翻弄されることなく、正しく有益な情報のみを受け取ることができます。特に、都市部のIT系企業に勤める方は、情報リテラシーが高い傾向にあります。
一方、情報リテラシーが低い層は、何が適切で有益な情報なのかを判断することができません。誤った情報を選び取ってしまい、トラブルに陥るケースも少なくないのが特徴です。そうした問題が起きてしまうと、よりインターネットへの抵抗感が強くなり、それがデジタルデバイド発生に繋がります。
こうした情報リテラシーが低い層は、町や村の地域住民に多く見られ、なかでもスマホやパソコンをほとんど扱ったことのない高齢者が該当します。
身体機能の違い
身体機能の違いによっても、デジタルデバイドが生じます。身体機能の違いとは、主に障害を持つ方と健常者との違いのことを指します。
健常者が自身の意思でデジタル端末を操作してインターネットを利用するのに対して、障害を持つ方は例えば耳が聞こえなかったり、目が見えなかったりするため、健常者ほどスムーズにインターネットを利用することが難しい傾向にあります。アクセシビリティの向上が進んでいるものの、身体機能による差はまだまだ大きいといえます。
利用頻度が低い分、新たな情報やスキルが身に付く機会が少なく、それがひいてはデジタルデバイドの発生に繋がります。
デジタルデバイドが引き起こすリスク・危険性
デジタルデバイドは、さまざまな社会的問題とセットで考える必要があります。情報格差が広がることにより、具体的にどんなリスクがあるのでしょうか。デジタルデバイドが引き起こす危険性について説明します。
孤立化を引き起こす
デジタルデバイドは孤立化を引き起こすリスクがあるといわれています。日本全体の社会的課題でもありますが、それがデジタルデバイドにより助長される可能性があるのです。
インターネットは生活インフラであると同時に、人と人とが繋がるツールでもあります。かつての日本では、家族や地域社会、企業がその役目を担っていましたが、現代においてそのシステムはもう機能していません。
そうした社会的な変化のなかでデジタルデバイドは、老若男女問わず孤立化を加速させる危険性があるのです。
経済・教育格差が広がる
デジタルデバイドによる経済・教育格差の拡大も無視できない問題です。
情報を適切かつ定期的に更新できる場合、より収入がよい職業に就いたり、家計をラクにするためのツールを活用できたりする可能性があがります。なかには無料で受けられる講座を見つけて、収入アップのためにスキルを向上させる方もいるでしょう。
情報格差がある社会では、一部の方だけがそうした有益な情報を得て、豊かな暮らしを実現していきます。そうして、情報をうまくキャッチアップできない方との経済格差・教育格差がより開いていく危険性があるのです。
DXの推進・グローバル化が遅れる
デジタルデバイドが広がると、DXの推進やグローバル化が遅れてしまうリスクがあります。
DX推進には、より高度な専門知識と技術が必要です。デジタル技術が欠如していたり不十分だったりすると、DX推進は思うようにいきません。DXへの対応ができている企業が少なければ日本社会が停滞し、グローバル化も遅れてしまうでしょう。
セキュリティリスクが高まる
デジタルデバイドが起きると、比例してセキュリティリスクが高まる危険性があります。
デジタルに関する知識とは、仕事に活かせるようなスキルのみを指しているわけではありません。ネットリテラシーも十分なデジタル知識です。
デジタルデバイドによりリテラシーが欠如していると、詐欺メールやフェイクニュースなどに引っかかりやすくなります。個人情報が容易に流出し、悪用されてしまう可能性が上がるので、セキュリティリスクも高まるのです。
デジタルデバイドを解消する具体的な取り組み・対策
デジタルデバイドは、すべての企業が取り組むべき課題です。地域間・個人間・国際間・企業間などに関係なく、情報格差はさまざまな影響を及ぼすからです。何か取り組めないかと考えている企業に向けて、デジタルデバイドを解消する具体的な取り組みや対策について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
ICTの活用支援・教育
デジタルデバイドを解消する具体的な取り組みとして、ICTの活用支援・教育があげられます。
ICTは「Information and Communication Technology」の略称で、日本語では「情報通信技術」と訳されます。スマホやタブレット、ショッピングサイトなど、ICTはさまざまなものに活用されているのが特徴です。
ICTの活用支援や教育では、例えば若い人が少ない町や村でのスマホ講座・PC講座などが考えられます。また、スマホの購入助成や無料貸し出しなども、デジタルデバイド解消に繋がる取り組みです。
アクセス環境を標準化する
アクセス環境を標準化することも、デジタルデバイド解消に繋がる対策のひとつです。
特に国内・地域間デバイドに見られる特徴ですが、都市部に比べて地方都市は人口が少ないためインフラの整備が不十分なことがよくあります。環境に不備があると、都市部で利用できていたサービスが地方都市では使えないなどの格差が生まれてしまいます。
デジタル端末の利用の促進とアクセス環境を標準化する取り組みは、同時に行うことを検討してみましょう。
IT・システムに詳しい人材の採用
企業間デバイドを解消するには、IT・システムに詳しい人材の採用も対策のひとつとして考えられます。
今後の日本において企業が自社の競争力を弱めずに経営を続けていくには、最新のデジタル技術やサービスの進化に対応できる人材が必要不可欠。IT人材はすでに不足しており、今後ますます人材不足が加速すると考えられています。
そのため、企業間デジタルデバイドを解消するには、なるべく早く優秀なIT人材を確保したり、育成したりする必要があります。
アクセシビリティの向上
身体的デバイドの解消を目指す場合は、ウェブアクセシビリティの向上が必要です。ウェブアクセシビリティとは、体に障害を持つ方や高齢者など身体的・年齢的条件にかかわらず、誰もがWeb上のサービスに自由にアクセスできる状態のことを指します。
ICTを活用したサービスが充実するほど、このウェブアクセシビリティの格差は広がっているとされています。そうしたデジタルデバイドを解消するには、アクセシビリティの向上を図るのが大切。
ページの読み上げ機能や画像に代替テキストを設定するなどの方法が考えられます。多様な利用者を想定し、彼らが利用しやすいようアクセシビリティの確保を意識しましょう。
デジタルデバイドに取り組む企業事例
デジタルデバイドを解消するために、企業はどんな取り組みができるでしょうか。デジタルデバイドによる影響は企業経営にも及ぶため、各企業には自社で何らかの取り組みを行うことが求められています。参考になる、デジタルデバイドに取り組む企業の事例をご紹介します。
ソフトバンク株式会社
携帯端末の販売や移動通信サービスを展開しているソフトバンク株式会社は、デジタルバイドへの対応として数々の取り組みを実施しています。
例えば、障害を持つ子供の学習支援としてタブレットや人型ロボット「Pepper」を無償で貸し出し。他者と円滑なコミュニケーションができるようサポートしています。
ほかにも、スマホ初心者を対象とした各種セミナーを実施。Zoomを活用した「オンラインスマホ教室」も開催しています。さまざまな年代の方がスムーズにスマホを活用できるように体制を整えています。
株式会社わかるとできる
パソコン教室を運営する株式会社わかるとできるは、デジタルデバイドへの対応のひとつとして、高齢者へのスマホ教育の実施を行っています。
その取り組みの第一弾として、介護・高齢者福祉施設への提供を開始。今後は地域密着型のデイサービスを中心に、スマホ教室の実施拡大を目指すとしています。
参考:新たに介護・高齢者福祉施設への提供開始。スマホ教室運営支援サービス「Smable(スマブル)」が都内デイサービスにて初採用
LINE株式会社
無料メッセージアプリ「LINE」を提供するLINE株式会社は、地域間デバイドを解消や自治体の行政DX推進をサポートするために、域住民向けのスマホ・SNS活用講座の教材を開発。無償で公開しています。
この教材は、山口県山口市と共同開発されたもの。今後は山口県内だけでなく、自治体のスマートシティ化を推進する「LINEスマートシティ推進パートナープログラム」を通じて、他自治体にも展開する予定としています。
参考:デジタルデバイド解消に向けた「地域で考えるスマートフォン・SNS活用講座」を山口市と共同で開発
デジタルデバイドへ対応しよう
- デジタルデバイドには、地域間・国際間・ビジネスデバイドなどさまざまな情報格差が存在する
- 日本では、環境・情報リテラシー・身体的な違いによりデジタルデバイドが発生している
- デジタルデバイド解消に取り組まないとグローバル化が遅れる可能性がある
情報格差と聞くと個人間の問題のように錯覚してしまいますが、デジタルデバイドは日本社会、もっといえば国際社会にも関係のある国際的な課題です。一人ひとりが意識するだけでなく、地域や国、企業がそれぞれ解消に向けて取り組まなくてはなりません。特に日本においては孤立化が進む原因にもなり得ます。各企業はデジタルデバイドへの対応を考える必要があるでしょう。
本記事を参考に、自社が取り組める対策方法について検討してみてはいかがでしょうか。
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