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フリーランス保護新法のポイントと、法律で防ぎきれないトラブルの回避法

U-NOTE編集部

2022/11/11(最終更新日:2022/11/11)


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幅広い職種でフリーランスという働き方が浸透しつつある近年。しかし、市場の広がりと共に知識が不十分なまま契約し、トラブルに巻き込まれる個人や法人を守る必要が生まれてきているといいます。

そんな中、現在、臨時国会ではいわゆる「フリーランス保護新法」が議論されていますが、法律で防ぎきれないトラブルも存在するようです。

そこで今回は、株式会社サーキュレーションの代表取締役社長である久保田雅俊氏に、フリーランス保護新法のポイントと、法律で防ぎきれないトラブルの回避法についてご寄稿いただきました。

日本のフリーランス市場は個人、法人の順で広がりを見せている

フリーランスを取り巻く状況はこの5年ほどで目まぐるしく変化してきました。2018年の働き方改革以降は「個人の自由な働き方」として、2020年のコロナ禍以降は「企業がビジネス環境の変化に対応するための人材活用」として、フリーランスの活躍の場は拡大しています。

直近2020年に発表された内閣官房の調査によると、日本で働くフリーランスはおよそ462万人だと言われています。企業と契約を結んで活躍するフリーランスの人数や職種、契約内容の幅が広がることで、個人と企業が直接ノウハウを取引する新しい働き方が注目されつつあります。

以前は「フリーランス」と言えばライターやデザイナー、芸能人など「一部の業界の働き方」というイメージもあったかもしれません。しかし今や、エンジニア、マーケター、生産管理、人事戦略、新規事業立ち上げなどのかつては正社員が行うのが当たり前とされてきた業務が含まれるようになりました。

CTO(最高技術責任者)をはじめとした経営層など、幅広い職種で自身の経験・知見を活かして独立する「プロ人材」と呼ばれるフリーランス層も現れています。

こうした背景もあり、現在、臨時国会でいわゆる「フリーランス保護新法」が議論されています。この法案自体の内容は、既に多くの企業やフリーランスにとっては守られて当然の基本的な内容です。

一方で、この議論が「今」持ち上がっている理由としては、市場の広がりと共に知識が不十分なまま契約し、トラブルに巻き込まれる個人や法人を守る必要が生まれてきたこともあり、今一度最低限のルールを定めるという意味もあるでしょう。

直接契約の多いフリーランス。報酬支払いのトラブル解決が必要

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が発行した「フリーランス白書2022」によると、フリーランスが自身の仕事に繋がった方法のうち、「エージェント経由」と回答したのは21.5%でした。

これは前年よりは微増しているものの、未だ8割近くが企業と直接契約を締結しているということになります。その中で、フリーランスの契約トラブルも指摘されています。

同協会の「フリーランス白書2020」では、半数近くの45.6%が取引上のトラブルを経験したことがあり、そのうち43.7%は「報酬支払いの遅延」でした。

そのほかのトラブルとしては「契約内容の一方的な変更」「定めていた報酬の減額」「買いたたき」「書面の非公付」など、報酬関連のトラブルが多く見られます。

一般的に、大企業では契約行為にあたって厳しい基準や法務チェックが入るため、報酬支払いや契約内容は基本的に書面で確認されます。

しかし中小企業や個人間の契約などになると、口約束を含む曖昧な契約になるケースや、契約履行条件の合意が不十分になるケースが増えやすくなります。こうしたケースを防ぐため、最低限のルール整備は必要です。

フリーランスとの契約で起こりがちな「よくあるトラブル」をどこまで防げるか

今回の法案が協議する内容は、大きく2つのポイントがあります。どちらもフリーランスとの契約で起こりがちな「よくあるトラブル」への対策となりうるので、重要なポイントです。

1つは、取引内容についてのルール。もう1つは、フリーランスの労働環境についてのルールです。また、時間軸という観点で見るならば、今回のポイントは契約前、契約中、契約終了時それぞれの時点で起きうるトラブルに対してルールを定めようとしている、と理解することもできます。

契約内容を企業とフリーランスが書面で合意することが重要

これまでも下請法によってフリーランスは守られてきましたが、企業の資本金の制限や、対象となる業種が限られており、現在幅広い分野で活動するフリーランスを守るには不十分だった背景があります。

そこで、今回の法案では、契約書に業務委託の内容、報酬額等の記載の義務化が検討されているわけですが、この「業務委託」という部分はもう一歩踏み込む必要があるのではないかと思います。

具体的には、請負契約と準委任契約で、それぞれ果たされるべき義務や対応すべき範囲なども異なるため、何を成果として目指し、どのような業務を行うかについては契約書にも明記されるべきです。

請負契約とは、「委託者が仕事の完成と引き換えに、受託者に報酬の支払いを約束する契約」のこと、準委任契約とは、「委託者が法律行為ではない事務処理を受託者に委託する契約」のことです。法律行為を委託する場合は委任契約となります。

大きな違いとしては、請負契約は成果物を定め、委託者の意に沿うものでなければ仕事の完成と見なされず、報酬の請求が難しい点です。また、瑕疵担保責任が発生します。

準委任契約の場合は多くは成果物は定めず、一定の事務の処理に対して報酬請求権が発生します。責任としては善管注意義務となります。

例えば、事前に請負か準委任かを明記していなかったり、合意していなかった場合、商品開発プロジェクトのアドバイザリー業務を委託され、実際に商品が開発まで至らなかったりしたときに(かつフリーランスの対応にのみ原因があるわけではない場合)、商品の完成を約束していなかったにもかかわらず報酬の一部を事前の合意なく支払わない、補填を要求するといったトラブルが想定されます。

委託する業務が請負契約か準委任契約かという名前をつけても、その業務内容が実態と合っていなければ実質的な請負契約だと見なされる可能性もあります。契約内容を企業とフリーランス双方が予め合意し、それに基づいて契約書が作成されれば、こうしたトラブルは減るでしょう。

「個人」で働くフリーランスをどこまで、誰が守るのか

2つ目の労働環境保護についての観点も今回重要なポイントになります。フリーランスは個人事業主であるため、基本的には労働基準法の適用外となります。労働時間管理や最低賃金などは個人の管理に委ねられてしまうのが現状です。

今回の法案では「フリーランスからの求めがあった場合には、事業者は、契約の終了理由を明らかにしなければならない。」という箇所があります。

不当な要求を防ぐため、この条文は必要なのですが、例えば「介護生活が始まり、フリーランスのパフォーマンスが落ちた」という理由を不当だと感じた場合、どのように解決まで持っていけるかについては法律で規制しきれない個別の協議の問題になる可能性が高いでしょう。

どのようなケースが明らかに不当とされるか、ある程度の共通認識を企業と個人が持っておくことが大切です。そのための情報発信や周知活動などが求められると思います。

法律があっても防げないトラブルは3つのポイントで対処しよう

今回の法案はフリーランスを最低限守る内容になっています。むしろ、法律で全てを規制しすぎれば、企業やフリーランス側の手続きにも負担が生じ、フリーランスの契約獲得を困難にするリスクもあります。

では、こうしたトラブルをどのように防ぎ、起きてしまった際はどう対処すべきなのでしょうか。契約前から契約終了後にアクションできる3つのポイントをご紹介します。

①契約前〜契約中:自分で契約内容や経緯について記録を残しておく

トラブルが起きる原因の多くは「契約書に書いていないことや口約束が守られないこと」です。例えば、最初に話の流れで報酬や条件、仕事内容について聞いたら、「確認メッセージ」を送っておくことが重要です。

自分だけのメモや資料の保存でもないよりはよいですが、できれば相手が確認できる形で送っておくことで、言った言わないで揉めるリスクを減らすことができます。

②契約中:定期的なコミュニケーションでこまめに業務の合意を取る

ビジネスはずっと予想通りというわけにはいきません。どれだけ周到に準備しても、思わぬ原因で契約内容がうまく進められないという事態はつきものです。

ここで不測の事態が起きるまで何もコミュニケーションがない場合、「何をしているか分からないから報酬は払わない」といったトラブルが起きがちです。

不測の事態は大前提として、定期的にコミュニケーションを取り、できる限り常に双方が納得した上で業務を遂行している状態にしておくことが重要です。

当社でもプロジェクト中はカスタマーサクセス部門が必ず毎月の状況を確認し、プロジェクトの進め方について確認を行う取り組みを2019年から開始し、全社の解約率が半減したという経験があります。

③契約前〜契約終了後:信頼できる第三者を介して契約する

今回の法案で検討されている内容は、フリーランスと企業の間に入って契約を締結するような業者を介する場合、最初から契約書に記載されているような基本的なことがほとんどです。

彼らにとっては企業とフリーランスの契約を継続してもらうことが自社の売上に繋がるため、トラブル防止のノウハウや仕組みが既にあります。

契約や働き方に不安がある場合や、慣れないうちは、こうした第三者に契約をサポートしてもらい、契約書にどんな内容が書かれているかを参考にしながら、徐々に直接、企業と契約できる知識を身につけるのもよいのではないでしょうか。

さらに、第三者となる業者を介するメリットとしては、自身の実績がデータとしてその会社に蓄積され、個人で仕事を探すよりも自分の強みとマッチする案件と出会いやすくなるという点もあります。

また、自身の案件ポートフォリオとして、直接契約と業者を介しての契約を組み合わせるという手もあります。直接やり取りがしやすいお得意先と、自分の味方になって案件を探してくれる業者の両方を増やしていくことが、契約内容のトラブル回避や安定的な働き方にも繋がりやすくなります。

自身が安心して働き続けられるバランスはどこにあるか、この機会にぜひ一度考えてみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール

久保田雅俊
株式会社サーキュレーション 代表取締役社長

学生時代に、進学塾を経営していた父が倒れたことから、21歳で会社の清算を経験。地方中小企業の脆弱さ、経営における「経験・知見」の重要性を痛感し、のちのサーキュレーション創業へと繋がる。大学卒業後、大手総合人材サービス企業に入社。父の介護を続けながら、IT業界の採用コンサルタントとして活躍。最年少部長に抜擢され、リーマンショック後の金融業界を管掌しV字回復を果たす。その後、社内ベンチャーを立ち上げ、同社初のイントレプレナーとしてカンパニー社長に就任。

2014年に独立し、プロシェアリング事業を行う株式会社サーキュレーションを設立し、2021年より東証グロースに上場。オープンイノベーションコンサルタントのプロとして、メディア掲載実績・講演実績多数。経済産業省の人材力強化研究会にも有識者として登壇。

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