HOMEビジネス 【第2回】病院が救急隊の要請を断る理由はコロナだけではない? 看護師が語る、医療崩壊の背景

【第2回】病院が救急隊の要請を断る理由はコロナだけではない? 看護師が語る、医療崩壊の背景

U-NOTE編集部

2022/11/08(最終更新日:2022/11/08)


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新型コロナの第7波の時期は「救急車の受け入れができない」という病院が多かったといいます。なぜ、病院は緊急要請に対応できなかったのでしょうか。

民間病院で救急外来の看護師を務めるくまさんR.N.氏に、病院が救急隊の要請を断る理由や、医療崩壊の背景についてご寄稿いただきました。

※本記事の内容は筆者の私見であり、所属する医療機関の方針等を代表するものではありません。
※本記事にはいくつかの患者情報が含まれていますが、多数の患者情報を統合した上で個人が特定できないように症例を再構築したものであり、特定の患者を指し示してはいません。

救急車の受け入れ先が見つからないと発生する問題

救急外来の業務は救急隊からのホットラインを受けることから始まります。新型コロナ(以下、COVID−19)の第7波では以下のような内容の連絡は珍しくありませんでした。

「東京都内の病院20件以上に断られ、現場の滞在時間が数時間経過しているのでどうか受けてくれないか」
「東京都内で12時間以上探し続けたけれど受け入れ先が見つからない、助けてほしい」

私は神奈川県で勤務していますが、2時間かけて東京都内から救急車が来ることは日常茶飯事でした。

他院の事例では、千葉県全域で探しても見つからなかったために東京湾アクアラインを通って神奈川県に搬送した事例もあったそうです。

救急車の受け入れ先が見つからないという現象は、みなさんが想像する以上にさまざまな問題を生じさせます。

具体的に例を挙げると「傷病者が治療を受けられない」「救急隊がほかの救急要請に対応できない」「不搬送となるケースがある」などです。

①傷病者が治療を受けられない

搬送困難症例の半数以上は「COVID−19疑いではない」傷病者(例えば脳卒中・心筋梗塞・交通外傷)です。

第一に、救急車が現場に到着しても受け入れ先が見つからない場合、その傷病者は治療を受けることができません。

救急隊ができる医療処置はメディカルコントロール(救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間に救急隊員が行う応急措置等の質を保証すること)によって厳格に規定されており、また物資も限られているため、できることがそもそも限られます。

結果として、現場滞在中に状態が悪化してしまうことも容易に想定されます。

②救急隊がほかの救急要請に対応できない

次に、現場滞在時間が長時間になる場合や、長時間かけて遠方に搬送することになった場合、その救急隊と救急車はほかの傷病者が発生したときに出動できなくなります。

そうなると、COVID−19とはまったく関係ない病気で辛い思いをしている人が救急要請をしたとしても救急車が来てくれないということになります。

③不搬送となるケースがある

最後に、救急要請をされたとしても受け入れ先を見つけることができず、最終的に救急搬送ができずに「不搬送」となるケースが生じてしまうこともあります。

救急隊は行政機関であるため、救急要請をされたときはいかなる場合でも搬送先を見つけて医療機関へ搬送するのが業務です。

しかし、あらゆる手段を尽くしても搬送先が見つからない場合、傷病者の同意の下で不搬送を選択せざるを得ないケースがあります。

私が関与した範囲でも、脳卒中疑いで1度は救急要請したが搬送先が見つからなかったため不搬送となり、その後も麻痺のために家の中で動けず数日間床で倒れた状態で過ごした後に再び救急要請となったという事例があります。

脳卒中に加えて重度の脱水となり、極めて重篤な状態になった後の搬送でした。

病院が救急隊からの要請を断る理由

さて、そもそも病院が救急隊からの要請を断るのはなぜなのでしょうか?答えは単純で「医療供給体制がひっ迫していたから」に尽きます。

一般の人からは「コロナを受け入れているから大変なんでしょう?」と言われることがありますが、それは水の中に沈んだ氷山の一角を見ているに過ぎません。

確かにCOVID−19患者を受け入れることによる業務負担増大はありますが、それは現実をあまりに単純化させた議論です。

①医療従事者がコロナに感染

第7波では小児が重症化しやすく、学校や保育園で感染が拡大したのは記憶に新しいですね。医療機関で勤務している職員の半数以上は女性であり、子育てをしている人がたくさんいます。

自分の子どもがCOVID−19に罹患してしまい、自分自身も感染してしまった(濃厚接触者になってしまった)という事例が多数発生し、医療機関から多数の医療従事者がいなくなりました。

私が勤務している救急外来では、COVID−19に罹患した職員の大半は家庭内感染であり、患者からの伝播はほぼありませんでした。

これ以外にも、病棟等でCOVID−19クラスターが発生した際には職員への伝播を防ぐことができず、結果として職員の病欠によって労働力が確保できなくなります。職員がいなければ病院機能を維持できなくなるので、医療機関は診療の縮小・停止を余儀なくされます。

②隔離のため病床を制限している

COVID−19クラスターが発生した場合は、隔離を行うために病床をある程度制限することが必要です。

また、感染対策を実施しながら診療を行うためには、通常よりも多くの人員を必要とすることから、人員が減少している中でクラスター対応をするために病床を制限せざるを得なくなります。

「COVID−19はただの風邪だ」と捉える人も少なくない印象ですが、病床機能をこれほどまでに弱体化させる疾患が「ただの風邪」とは言えないのが現状です。多数の予定手術・入院が延期となり、多数の患者に悪影響を与えたのは言うまでもありません。

③救急外来の対応に追われている

第7波では発熱外来も予約が困難なほど多数の発熱患者が発生しました。発熱外来では医療従事者に対する暴言・暴力・脅迫なども珍しくなかったため、職員の安全を守るために発熱外来機能を縮小した医療機関も珍しくありません。

行き場を失った発熱患者が行き着く場所が、救急外来です。発熱患者のコンビニ受診は救急外来の業務をかなり圧迫していました。

「明日は月曜日だから、仕事に行く前にCOVID−19の検査をしてほしい」
「COVID−19の検査キットで陽性と出たので診察してほしい(軽症COVID−19)」
「解熱薬が欲しいから受診したい」
「心配だから入院させてほしい(軽症COVID−19)」

救急外来では診断書は即日発行できないため、検査をしても職場へ持って行く診断書は提出できず、症状が軽いCOVID−19であれば確立した治療法があるわけではないので自宅での経過観察をお願いする形に留まります。

カロナール(アセトアミノフェン)の処方制限があったため、解熱薬は3回分を渡すのがやっとでした。もちろん、COVID−19患者を全員入院させていたたら全国の病院を全てコロナ病院にしても足りないくらいです。

患者の希望に必ずしも応じられるとは限らないと伝えると、医療者への暴言・脅迫は凄まじいものであり、中には業務に支障が出るほどに酷いものもありました。人員が減少して業務がひっ迫している中で、暴言を浴びせられて脅迫される日々は今でも忘れられません。

このような患者への対応に、1名ないし2名の医療従事者が必要となります。そのときに心肺停止・脳卒中・急性心筋梗塞などの患者が来院したらどうでしょうか?

それぞれ、1人の患者に対して多数の医療従事者が必要となる重症な疾患です。心肺停止は1分単位で予後が変わりますし、脳卒中と急性心筋梗塞では救急隊が患者に接触してから治療開始までのプロトコールを分刻みで作成しています。

人員が普段より少ない環境の中で、さらに感染症の隔離エリアに人員が割かれてしまうということは、このような重症な患者に対応する人員が少なくなってしまうことにほかなりません。

逆に、COVID−19陽性患者でこのような重症な患者が来た場合、多数の医療従事者が隔離エリアにかかりきりになってしまうため、通常救急が運営不可能になります。通常エリアと隔離エリアの間を行き来するためには5分程度かかるため、それほど流動的に人員を調整できません。

これが「医療崩壊」です。これを引き起こしたのは誰(何)か、次の項で議論していきたいと思います。

第3回はこちら
第1回はこちら

著者プロフィール

くまさんR.N.
アメリカ心臓協会BLS/ACLSインストラクター
アメリカ心臓協会ACLS-EP/PEARS/PALSプロバイダー
ELNEC-Jコアカリキュラム/クリティカルケアカリキュラム修了

上智大学総合人間科学部看護学科卒業(看護学学士)。2019年に看護師免許を取得。大学病院勤務を経て神奈川県の民間病院で勤務する。COVID−19病棟の立ち上げメンバーとして勤務した後に心臓血管外科集中治療部へ異動し、その後救急外来でCOVID−19対応に従事する。2023年4月から大学院へ進学予定(クリティカルケア看護学)。

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