日本だけでなく、世界的に注目されている概念のひとつが「ソーシャルキャピタル」です。国によっては政策論への展開も見越して研究を進めているところもあり、今後経済の発展や国として成長するためには、ソーシャルキャピタルの醸成が必要不可欠です。
そんなソーシャルキャピタルについてご紹介。認知が拡大するまでの歴史や世界的に重視されている理由も解説します。企業がソーシャルキャピタルを活用する際に知っておくべき3要素も説明しているので、理解を深めるきっかけにしてみてください。
- ソーシャルキャピタルは、ここ100年ほどで急速に広まった概念
- 社会的・経済的な成長を目指すうえで、ソーシャルキャピタルの実現は大きな鍵となる
- ソーシャルキャピタル醸成には、3つの構成要素を知っておく必要がある
ソーシャルキャピタルとは
「ソーシャルキャピタル」とは、社会や地域コミュニティにおける人々の結びつきや信頼関係、そしてそれらを支える規範の重要性を説く概念のことです。
ソーシャルキャピタルと市民は相互の関係であるとされています。ソーシャルキャピタルが豊かであるなら市民活動への参加が活発化し、市民活動への参加が活発であるならソーシャルキャピタルが培養されます。
ソーシャルキャピタルは、欧州・英国などにおいては経済・社会にとって非常に重要な概念と認識されています。ソーシャルキャピタルが蓄積されることにより、経済の成長が促されたり、社会的なイノベーションが起こりやすい状況を作れる可能性があるからです。
ソーシャルキャピタルの歴史
ソーシャルキャピタルの歴史は比較的浅く、この概念が提唱されたのは1916年。アメリカの教育学者であるハニファン(L.J.Hanifan)が、善意や仲間意識、相手への共感や社会的な交流をソーシャルキャピタルとし、コミュニティへの関与が重要であると説明しました。
1916年に登場後、1990年前後まではソーシャルキャピタルの研究初期とされています。その後、1993年にアメリカの政治学者であるパットナム(Robert D.Putnam)が自身の著書『Making Democracy Work』にて、ソーシャルキャピタルの概念を用い、現在のソーシャルキャピタルの概念についてまとめました。
2000年に入り、パットナム(Robert D.Putnam)はもう一冊の著書『Bowling Alone』を刊行。包括的な州ベースのデータを元に、アメリカにおいてソーシャルキャピタルが減衰傾向にあることを示しました。この本をきっかけに、ソーシャルキャピタルの概念は世界的な認知度を獲得したといわれています。
2000年後以降、さまざまな国でソーシャルキャピタルの研究が活発化しています。イギリス・オーストラリア・ニュージーランドでは、政策論への展開を前提に、政府レベルで研究に取り組んでいます。
一方、日本では政治学・社会学・経済学など学術レベルでの研究が盛んに行われています。このようにソーシャルキャピタルは、その概念が登場した当初はあまり注目されていなかったものの、2000年前後から重要視され始め、現在まで各国でさまざまな研究が積極的に行われています。
ソーシャルキャピタルが重視されている理由やメリット
現代においてソーシャルキャピタルが重視されているのには、いくつかの理由やメリットがあります。企業、経済・社会におけるメリットをそれぞれご紹介。なぜソーシャルキャピタルに取り組まなければならないのか、理解を深める参考にしてみてください。
企業におけるメリット
企業においてソーシャルキャピタルを蓄積することは、業務の円滑化や効率化を目指すうえでメリットがあります。
ソーシャルキャピタルは、信頼・規範・ネットワークを構成要素としています。従業員同士が信頼し合って良好な関係を構築し、相互に利益がある規範が築けていれば、自発的に相互に助け合う行動が生まれ、業務の停滞を少なくすることが可能です。
働き方の多様化により、コミュニケーションを取る機会が減少し、自社内におけるソーシャルキャピタルが減衰状況にあることも、ソーシャルキャピタルが重要視されている理由のひとつです。組織における横の繋がりがなくなると成果が出しにくくなったり、個人への責任追及が強まったりしてしまいます。
そういった面でも、企業ではソーシャルキャピタルを生み出せる環境づくりは今後自社をより発展させるために重要視すべきポイントです。
経済や社会におけるメリット
経済や社会におけるソーシャルキャピタルを蓄積するメリットは、経済の活性化があげられます。
ソーシャルキャピタルは個人単位ではなく、企業や地域コミュニティ単位で捉えることもできます。同じ地域に存在する企業が相互の信頼関係を築くことができれば、さまざまな取引が安定して行われるようになり、ひいては各企業の成長、そして地域の活性化に繋がっていきます。
犯罪率の低下を期待できるのもひとつのメリットです。地域住民の間で信頼関係ができていると情報共有が活発になり、不審者による犯罪を抑制できます。
また、万が一災害が発生した際も、ソーシャルキャピタルが醸成できている地域では自発的に行動する人が増えるため、早期復旧が見込めます。特に近年は自然災害による被害が日本各地で起きており経済的・社会的な影響も大きいので、ソーシャルキャピタルの醸成および蓄積に早急に取り組む必要があるでしょう。
ソーシャルキャピタルを構成する3つの要素
ソーシャルキャピタルを醸成するには、3つの構成要素を把握しておく必要があります。それが「信頼」「規範」「ネットワーク」です。各要素がソーシャルキャピタルにおいてどんな役割を果たし、どんな効果が期待できるのかを解説します。
信頼
ソーシャルキャピタルを構成する1つ目の要素は「信頼」です。信頼は、さまざまな取引を行ううえで重要で、社会の効率性と関係があります。
例えば、取引先を信頼していれば納期が遅れたり、品質が悪かったりする心配をせずに済みます。何か不都合なことが生じた場合でも、何かしらの保障があるだろうと安心することも可能です。このように「信頼」は取引コストを下げることに繋がります。
また、「信頼」があれば自発的な行動が促され、また自発的な行動がさらなる「信頼」を生み出すという好循環が生まれるのも特徴です。
規範
ソーシャルキャピタルを構成する2つ目の要素は「規範」です。ソーシャルキャピタルにおける「規範」とは、互酬性のある「規範」のことを指します。互酬性とは、同等価値のモノを同時に交換するような、いわゆるwin-winの関係性のことです。
この「規範」が短期間であれば相手の利益を第一に考えた行動が促され、長期間であれば当事者全員の満足度を高めると考えられています。このように連帯感と調和を生み出すのが「規範」です。
ネットワーク
ソーシャルキャピタルを構成する3つ目の要素は「ネットワーク」です。ネットワークには、上司・部下との関係のような垂直的なネットワークと、同僚・同期との関係のような水平的なネットワークとがあります。
ソーシャルキャピタルにおいて重要なのは、水平的なネットワークです。垂直的なネットワークはどれだけ強固になっても信頼に繋がりませんが、水平的なネットワークは関係が密になるほど相互扶助が生まれると考えられています。
もっとも強い繋がりは家族ですが、それよりも弱い地域や所属する団体において水平的なネットワークをつくることが重要とされています。
参考:内閣府NPO「II ソーシャル・キャピタルという新しい概念」
企業がソーシャルキャピタルを活用する方法
ソーシャルキャピタルの重要性を理解したあとは、実際に自社でソーシャルキャピタルの醸成を目指しましょう。企業がソーシャルキャピタルを醸成する方法をご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
企業がソーシャルキャピタルを活用する方法
- メンター制度
- ジョブローテーション
- オフィスレイアウト
- 社内レクリエーション
- 社員総会
- 社内報
メンター制度
企業がソーシャルキャピタルを活用する方法のひとつとして「メンター制度」があげられます。メンター制度では、新人に対してひとりの上司・先輩がメンターとして、新人の成長やキャリアを考える手助けを行います。
ソーシャルキャピタルでは、顔を合わせる他者とネットワークを築くことが重要だとしています。メンター制度では垂直的なネットワークにはなってしまうものの、毎日業務を通して会話をしたり、お互いの考えをやりとりしたりすることは、信頼の構築に繋がるため効果的です。
メンターがコミュニケーションハブとなり、他の社内メンバーへの顔合わせや紹介を行うことで、水平的なネットワークの形成も期待できます。
ジョブローテーション
ソーシャルキャピタルの活用を考えている企業は「ジョブローテーション」の採用も検討してみてください。ジョブローテーションとは、従業員の能力を開発するために行う戦略的人事異動のことで、これにより従業員はさまざまな部署で経験を積むことができます。
ソーシャルキャピタルにジョブローテーションを取り入れることで、信頼関係の構築およびネットワークをつくりやすくなるのがポイント。自身が所属する部署内だけでなく、他部署にも人脈をつくることができるので、業務の効率化や業務コストの削減を期待できます。
オフィスレイアウト
「オフィスレイアウト」を検討することも、ソーシャルキャピタルの醸成に効果的です。
オフィスレイアウトを変更する際に意識したいのは、従業員同士が顔を合わせやすい環境になっているかどうかです。フリースペースを設けたり、お互いの顔が見えるようにデスクを配置したり、フリーアドレス制度を導入したりと、さまざまなオフィスレイアウトが考えられます。
これにより、従業員同士が顔を合わせて話す機会を増やせるのがポイント。ソーシャルキャピタルにおいては顔を合わせるコミュニケーションが信頼を築くうえで大切とされているので、3つの構成要素を満たすならぜひ導入することを検討してみてください。
社内レクリエーション
ソーシャルキャピタルを活用する方法として「社内レクリエーション」の実施もおすすめです。
社内レクリエーションでは、部署や事業部を横断して従業員同士が関わる機会をつくれるのがポイント。ソーシャルキャピタルを蓄積するうえで重要な、相互理解や信頼関係の構築につなげることができます。
ただし、社内リクリエーションはほかの方法に比べて負担が大きく、継続して行うのが難しいというデメリットがあります。実施前には短期的・中長期的な目標を立て、継続を迷った際には当初の目的に立ち戻り、目標までのステップを都度確認しましょう。
社内レクリエーションによる効果が見えない場合は、ほかの方法に切り替えることも検討してみてください。
社員総会
半期に1回もしくは1年に1回、会社の業務を振り返り、業績優秀者が表彰されるイベントである「社員総会」。会社に関わる人が一同に集まり、各チームでどのようなことを行っていたのか知ることができるのは、ソーシャルキャピタルを蓄積することにも効果的です。
自分たちが行っている業務で、社会に、そして企業にどのような影響を与えているのかを知ることは、個人の自信に繋がるだけではなく、メンバーたちへの信頼にも繋がるでしょう。
また、リーダーたちからの想いや、見据えている未来を直接共有されることで、信頼感とネットワークを築けます。
関連記事:社員総会とは何をするの?目的・時期・内容と、広報が関わる5つの仕事
社内報
社員の人数が多い場合や、拠点が全国・全世界に点在しており物理的に顔を合わせるのが難しい場合は、社内報を活用してネットワークを形成するのも一案です。
活躍している人たちを取り上げることで、信頼やネットワークの形成に役立ちます。
関連記事:意味のある社内報とは?効果的な社内報を作成する7つのステップ・コツ
ソーシャルキャピタルの3要素を意識して概念を活用しよう
- ソーシャルキャピタルにより横の繋がりを強化することは、業務の円滑化や効率化に効果的
- 3つの構成要素を満たすことがソーシャルキャピタル醸成の条件
- 人事分野でのソーシャルキャピタルの活用を検討しよう
社内で業務が滞りがちになっていたり、従業員同士の積極的なやりとりが減っていたりする場合には、ソーシャルキャピタルが減衰している可能性があります。
「信頼・規範・ネットワーク」の3要素のうち、どれが欠けているのかを見極め、それに対応した人事施策を実施することが大切です。ソーシャルキャピタルの概念をうまく活用し、業務効率化および企業としての成長や発展を目指しましょう。
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