AIが人間の知能を上回り、人間の社会に変化が起こるという概念が「シンギュラリティ」です。シンギュラリティが起こると予測されている2045年が迫るにつれて、シンギュラリティの実現に注目が集まっています。
そんなシンギュラリティについて解説。「2045年問題」と呼ばれる内容と、それに備えて企業が準備しておきたいことをそれぞれ解説します。シンギュラリティについて気になっている方は、ぜひ一読してみてください。
- シンギュラリティとプレ・シンギュラリティについて解説
- シンギュラリティ否定派の意見もご紹介
- シンギュラリティが起きる前に企業が準備しておきたい3つのポイント
シンギュラリティとは
「シンギュラリティ」とは、人工知能(AI)が人間の知能を上回る時点や、それによって人間の社会や生活に変化が起こるという概念のことです。日本語では「技術的特異点」と訳されます。
シンギュラリティを世に広めたのは、世界的な発明家・思想家・未来科学者のひとりであるレイ・カーツワイル博士です。2005年に発売した『The Singularity Is Near: When Humans Transcend』にてシンギュラリティの到達を予測したことから、その概念が注目されるようになりました。
レイ・カーツワイル博士によれば、シンギュラリティはAIと人間の争いのことではありません。テクノロジーが人間を超えた知性を持ち、人間を支えることで世界はより良い場所になるのではないかと話しています。AIは人間の限界をサポートしてくれるものであり、その限界を超えるタイミングがシンギュラリティです。
参考:「シンギュラリティ」のカーツワイル博士が来日、2045年に人類はどうなる?
プレ・シンギュラリティとは
「プレ・シンギュラリティ(前特異点)」とは、シンギュラリティが起こる前の社会的なシステムの変化が起こるということを指す概念のことです。シンギュラリティが技術的な特異点であるのに対して、プレ・シンギュラリティは社会的な特異点を指します。
『プレ・シンギュラリティ―人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る』という本を書いた、スーパーコンピュータ開発者・次世代の汎用人工知能である齊藤元章氏によれば、プレ・シンギュラリティは2030年に起こると予測されています。
プレ・シンギュラリティでは、さまざまな変化が起こるといわれています。なかでも、最初に実現するのが「エネルギーフリー」です。その次に「食料問題の解決」「衣食住に関わるさまざまな問題の解決」と続きます。
<プレ・シンギュラリティで起こるとされていること>
- エネルギー問題が解決され無料になる
- 貨幣がなくなり、生活に必要なものは無償で手に入る
- 衣食住に必要なものが無償で提供される
- 戦争・紛争などの問題が解決し、起こらないようになる
- 生活のための労働が不要になる
- 不老が実現する
こうした歴史的な変革は、次世代の高性能なスーパーコンピューターによるものです。
世界最高水準であったスーパーコンピューター「京」の100倍もの性能を持つスーパーコンピューターがあれば、現代のさまざまな複雑な問題を解決することが可能。ここにAIが加わることで画期的な技術革新が起こり、プレ・シンギュラリティそしてシンギュラリティが実現すると齊藤元章氏は意見しています。
参考:エネルギー、衣食住も無料化!? シンギュラリティの真相とは
参考:プレ・シンギュラリティ―人工知能とスパコンによる社会的特異点が迫る 『エクサスケールの衝撃』抜粋版
シンギュラリティが起きる時期(2045年)
シンギュラリティは、その概念を提唱したレイ・カーツワイル博士によれば2045年に起きるといわれています。ただし、2030年説もあり、研究者によって意見が分かれているところです。各研究者の主張と、シンギュラリティ予測に関係する法則について解説します。
レイ・カーツワイルの主張
2045年頃にシンギュラリティが起こるというのが、レイ・カーツワイル博士の主張です。レイ・カーツワイル博士は「収穫加速の法則」という経験則に基づき、2045年の技術的特異点の到達を予測しています。
「収穫加速の法則」とは、科学技術の発展は直線グラフ的ではなく、指数関数的に進歩するという経験則のこと。直線的であれば一段階ずつ成長しますが、指数関数的であれば1、2、4というように前の数字の2倍の早さで成長します。
新たな技術革新は、次の技術革新が起こるまでの期間を短縮し、結果としてイノベーションの速度が加速していくという法則です。同氏はこの経験則を用いて技術の発展推移を予測し、シンギュラリティが2045年に実現すると導き出しました。
ヴァーナー・ヴィンジの主張
シンギュラリティの概念を最初に広めた人物といわれている、アメリカの作家であり数学者でもあるヴァーナー・ヴィンジ氏は、遅くとも2030年にはシンギュラリティが実現するとしています。
ムーアの法則
「ムーアの法則」は、レイ・カーツワイル博士がシンギュラリティの到達予測をするうえで用いた「収穫加速の法則」の拡張元となる、半導体技術の進歩についての経験則です。米国インテル社の共同創業者であるゴードン・ムーア氏が発表した法則で「半導体回路の集積密度は1年半〜2年で2倍となる」というのが法則の内容です。
より複雑かつ高性能な半導体チップが生み出されるという状態のことを指しますが、最近では半導体技術の進化の難易度があがり、高い開発コストがかかってしまうことから「ムーアの法則」が成り立たなくなってきています。
収穫加速の法則
「収穫加速の法則」は、終焉を迎えつつある「ムーアの法則」に代わる経験則として発表されました。この法則を見つけたのがシンギュラリティの概念を提唱したレイ・カーツワイル博士です。
「収穫加速の法則」は、今まで技術の進歩で得られる収穫物が人間の予想を超える加速度的な速さで誕生しましたが、その成長率が指数関数的になっているという経験則です。レイ・カーツワイル博士はこの法則を元に、シンギュラリティ実現は2045年であると予測しました。
シンギュラリティが起きないとの意見もある
シンギュラリティの実現は「2045年問題」といわれ、レイ・カーツワイル博士が予測した時点からさまざまな議論がなされてきました。研究者のなかには、2045年にシンギュラリティは起きないと結論づけている方もいます。
理由のひとつは、AIには汎用性がないことです。現在のAIは特化型で、ひとつのことに対しては人間を凌駕する力を発揮します。
例えば、囲碁のトップ棋士である李世ドル氏に人工知能「アルファ碁」が勝利したニュースが報道された際は、関係者に衝撃が走りました。2015年の段階でコンピューターが囲碁の対戦で人間に勝てるようになるには、あと10年はかかるといわれていたからです。
しかし、AIは2016年にそれを現実のものとしました。これは、AIが特化型であるからであり、汎用性を示す出来事ではありません。
AI技術が進化していくことで起こるとされているのは「ヒューマンオーグメンテーション」です。ヒューマンオーグメンテーションとは、人間拡張のこと。わかりやすくいえば身体能力の増強・補綴ですが、このヒューマンオーグメンテーションがAI側で起こり、AIが人間の見方としてサポートしてくれる未来が実現するのではないかといわれています。
例えば、英語を読めなくても翻訳機を使えば意味がわかるようになる。これもヒューマンオーグメンテーションの一例で、つまり人間はAIを人の力の一部として拡張しています。
シンギュラリティによる人々の最悪のイメージは、AIが人間を凌駕する知性を持ち、人間の脅威となることですが、そうした意味でのシンギュラリティはほとんど起きないというのが多くの研究者の意見のようです。
参考:「シンギュラリティの理論は崩れている」三宅陽一郎が語るAIの社会実装
シンギュラリティが起きたときの影響
シンギュラリティが起きることによる社会への影響は、どのようなものが考えられるのでしょうか。よくいわれているのは「雇用の減少」と「ベーシックインカムの導入」です。それぞれどのような影響があるのか、詳しく解説します。
雇用が減少する
シンギュラリティが起きたときの影響として考えられるのが「雇用の減少」です。特化型人工知能は、ひとつの作業に対するフィードバックを蓄積していき、作業を効率化したり高速化したりすることが非常に得意です。
そのため、労働集約型の雇用は減少すると考えられています。例えば、コールセンター業務はAIチャットボットの高精度化により、人間による対応が不要となってきており、推測で9割はAI、緊急や不測の事態などに対応する人間が1割といわれています。
このように一定のパターンがある業務に関する雇用は、減少する可能性が高いでしょう。
だからといって、人間がする業務がなくなるわけではなく、人間だからこそ対応できる新たな業務が生まれるとも言われています。
ベーシックインカムの導入が進む
シンギュラリティにより雇用が減少すると、必然的に雇用を失う方が増えます。そうした新たな労働問題は、社会の格差をも生み出していきます。この格差を社会的に緩和するための措置として、「ベーシックインカム」の導入が進むことが考えられます。
ベーシックインカムとは、政府が全国民に対して一定の額を定期的に支給する制度のことです。支給額はベーシックインカムを導入した、それぞれの国で決められます。
ただし、ベーシックインカムによる支給はデメリットも多いことで知られています。例えば、一律給付により労働意欲が減退し、労働不足が加速する可能性があること。そのため、ベーシックインカムでは、最低限の暮らしを支えるための金額が設定されることが見込まれています。
ほかにも、莫大な財源の確保や既存の社会保障制度の扱いも不明瞭な点です。いずれにせよ、シンギュラリティが起きることで雇用の減少が現実となれば、ベーシックインカムの導入も進むことが考えられます。
参考:毎月7万円の一律支給は現実的? 「ベーシックインカム」入門
シンギュラリティに備えて企業が準備しておきたいこと
シンギュラリティが起こった後の社会の変化は、多くの方が知っています。それでは、企業はそれに備えて何を準備すれば良いのでしょうか。3つのポイントを解説します。
機械とデータを経営資源として扱う
シンギュラリティに備えて、機械とデータを経営資源として扱うことを検討しましょう。
シンギュラリティが起こった後の世界では、ヒト・モノ・カネではなく、ヒト・データ・機械が経営資源となります。企業は、どこまでを機械に任せるのか、ヒトをどのように活かすことが利益をもたらすのかを考えなければなりません。
シンギュラリティが実現する前からAIと人間の業務の棲み分けをイメージし、新たな経営資源となるデータ・機械の活用方法を検討しておくことがおすすめです。
特にデータの管理はインターネット上で行うようになることが一般的です。データを電子保存をしたり、セキュリティ対策をしたりすることはまだすべての企業で一般的であるとはいえません。まずはできる範囲で、データを経営資源だとして扱うことから始めてみてはいかがでしょうか。
エンジニアの採用・育成する
シンギュラリティに備えて、エンジニアの採用や育成にも力をいれる必要があります。
シンギュラリティは、AIが人間の業務や生活をサポートする世界を実現します。今後は人間のマネジメントに加えて、AIのマネジメントとAIを既存の業務にどのようにして活用していくかが、企業の発展において重要となってきます。
そうした社会および企業では、AIエンジニアの採用や育成が必要不可欠。シンギュラリティの実現を見越して、AIスペシャリストを採用し、現場のスキルも高めておいて損はありません。
優れたエンジニアを採用するためには、採用担当者自身も開発の知識がある程度必要とされるだけではなく、市場価値が高いためコストもかかります。エンジニアの重要性を理解し、採用に投資をしていくことが求められるでしょう。
AI技術を取り入れる
シンギュラリティに備えて、事業にAI技術を取り入れることも検討してみてください。
進化したAI技術と人間の知能を取り入れた企業と、人間の力のみで実務を行っている企業とでは、今後生産性や業務効率などに大きな差が出てきます。
AI技術を取り入れることにより、一部の仕事は人間ではなくAIが担当することになりますが、それは損失ではなく人間が本来やるべき業務の洗い出しに繋がります。
シンギュラリティは、人間でなくては対応できないことを人間がやり、それ以外のことをAIに任せるという共存・協同の世界の実現です。AIが人間を凌駕し、敵となるという最悪のシナリオは、現時点で進化している特化型においては訪れないという意見が多数派です。
そうしたイメージでAI技術を取り入れないことこそが、企業の利益損失に繋がってしまいます。シンギュラリティが起こりうる未来に備えて、AI技術の導入は早めに検討しておきましょう。
AI技術というと、難しいものを想像するかもしれませんが、例えばチャットボットの導入もAI技術のひとつです。機械に置き換えることができるものがないのか検討して、できる範囲から始めてみてはいかがでしょうか。
シンギュラリティについて理解し、できることに備えておこう
- シンギュラリティは2045年に起きるという意見が多数派
- シンギュラリティの前には、社会的システムの変化「プレ・シンギュラリティ」が起きる
- シンギュラリティ=AIが人間の敵となることではない
シンギュラリティに関するもっとも大きな誤解は、人間を超えた知性を持つAIが人間の脅威になるということです。これは誤りで、シンギュラリティは高い知性を持つ人間と、同じ高い知性を持つAIが共存・協同して、社会を発展させていくという世界の実現です。
そうした世界が訪れる前に、企業は何をすべきなのか、また個人が技術・スキルとして取得しておくべきことは多々あります。本記事でシンギュラリティについての理解を深め、できることから始め、これからの時代に備えておきましょう。
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