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ディーセントワークとは?意味や戦略をわかりやすく解説

U-NOTE編集部

2022/11/28(最終更新日:2022/11/28)


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働く価値のある仕事を意味する「ディーセントワーク」。労働者の権利が保護され、生活するための十分な収入を得ることができ、さらに適切な社会保護が受けられる生産的な仕事のことを指します。

本記事では、そんな「ディーセントワーク」の意味を解説。今後、少子高齢化が進み労働人口が減少する日本社会において企業が成長を続けるために、ディーセントワークは重要なポイントとなります。

あわせて、ディーセント推進の中心を担う国際労働機関、通称ILOが掲げる4つの戦略もご紹介。ディーセントワークについて理解を深めたい方は、ぜひ一読してみてください。

本記事の内容をざっくり説明
  • ディーセントワークが重視されている背景をチェック
  • 日本の労働環境が抱える課題とは
  • 日本においてディーセントワークを判断する7つの評価軸をご紹介

 

ディーセントワークとは

「ディーセントワーク」とは、「働きがいのある人間らしい仕事」を指す概念のことです。1999年に開催された第87回ILO総会で提出された事務局長報告において用いられ、ILOの主要な目標として位置付けられました。

ディーセントワークを具体的にいえば、「権利が保護され、十分な収入を生み、適切な社会保護が供与された生産的仕事」を意味します。より短くいうなれば「働く価値のある仕事」がディーセントワークだといえるでしょう。

一部の人のみが負担や搾取を強いられるのではなく、すべての人が公正に安全で健康的な職場で働けるようになることが目的です。

参考:厚生労働省「第87回ILO総会事務局長報告:ディーセント・ワーク」(1999年6月)

 

ディーセントワークが重視されている背景

ディーセントワークが重視されている背景には、労働や雇用、収入に関することが再度政治的問題になりつつあることが関係しています。

例えば、労働における基本的原則や労働について。あらゆる形態の強制的労働や世界でみられる児童労働、雇用や職業における差別などは世界的な問題であると認識されているものの、なかなか解決にまで結びついていません。

雇用や収入に関するさまざまな問題も、今まで取り組み自体はされてきたものの、改善には程遠い状況にあります。1999年時点におけるILOの世界推計によると、1億5千人以上が完全な失業状態にあり、さらにその多くは不完全雇用による不定期的な収入で、かろうじて生計を立てるような状況を余儀なくされています。

雇用は一部の国では増加していますが、その他多数の国では高い失業率が維持されており、それを改善するためにも、ディーセントワークが改めて重視されています。

また、ディーセントワークが2015年に国連にて採択された「持続可能な開発目標」通称SDGsにおいて「目標8.労働」に含まれていることも、ディーセントワークが重視されている理由のひとつです。

出典:Edu Town SDGs「働きがいも 経済成長も


「目標8.労働」では、「包括的かつ持続可能な経済成長及び生産的な完全雇用とディーセント・ワークをすべての人に推進する」ことを目標としています。

SDGsが掲げている「目標とターゲットがすべての国、すべての人々、及びすべての部分で満たされるよう、誰一人取り残さない」という原則の実現には、ディーセントワークの実現が不可欠です。

参考:厚生労働省「第87回ILO総会事務局長報告:ディーセント・ワーク」(1999年6月)P25

参考:ILO「SDGs達成のカギ、 ディーセント・ワーク。


日本の労働環境の課題

SDGs17の目標のうち「8.労働」では、誰もが人間らしく生産的な仕事ができる社会の実現を目指しています。それには労働に関するさまざまな課題を解決する必要がありますが、日本の労働環境は複数の課題を抱えたままの状況です。

例えば、日本人の総労働時間は令和元年で1669時間。平成24年から緩やかに減少してはいるものの、このデータにはパートタイム労働者も含まれています。一般労働者の総労働時間は2000時間前後と高止まりしており、平成初期の頃から大きな改善は見られません。

このデータを受け厚生労働省は「働き方改革関連法」を施行しています。労働時間法制を見直したり、雇用形態にかかわらず公正な待遇を確保するために規定の整備を行ったりしています。

2019年4月1日に実施されたばかりなのでまだ大きな変化は訪れていませんが、今後ディーセントワークの実現やSDGsの目標達成には、こうした各国での労働環境の課題を解決するための施策が重要となってきます。

参考:厚生労働省「労働時間の状況

参考:厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて

 

ディーセントワークを実現させるためのILOの4つの戦略

ILOはディーセントワークを実現させるために、4つの戦略を公開しています。この4つの戦略に沿って、技術協力や調査研究を行っています。

ディーセントワークを実現させるためのILOの4つの戦略

  • 雇用の促進
  • 社会的保護の方策の展開および強化
  • 社会対話の促進
  • 労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現

各戦略がどのような目的と内容で実施されているのかを解説します。

 

雇用の促進

ディーセントワークを実現させるための1つ目の戦略は「雇用の促進」です。

世界の完全失業率は増加傾向にあります。特に若年層の失業率は高く、成人に比べて約2〜3倍ほどの失業者が存在します。

また、高齢者や障害者の雇用対策を強化することも、ディーセントワークを実現するための大きな課題です。例えば、現時点では「障害者雇用促進法」により、企業は雇用する労働者の2.3%に相当する障害者を雇用することが義務付けられています。

障害や学歴の有無に加え、年齢に関係なく、誰もが地域で自立した生活を送れるようになるためには、こうした若年層・高齢者・障害者の雇用促進および、雇用の質を追求することが必要です。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!

参考:厚生労働省「障害者雇用対策

 

社会的保護の方策の展開および強化

ディーセントワークを実現させるための2つ目の戦略は「社会的保護の方策の展開および強化」です。

労働者が安全かつ安心に働くためには、全世代を支援する社会保障制度や社会保障改革の推進が必要です。

「全世代型社会保障改革」とは、人生100年時代の到来を見据えてお年寄り・子供・子育て世代・現役世代と全世代を広く支えるための社会保障制度の構築のこと。政府は令和元年に「全世代型社会保障検討会議」を設置し、持続可能な改革について検討してきました。方針は決まっているものの、いまだ「全世代型社会保障」は構築されていません。

ILOはディーセントワーク実現のため、こうした社会保護の方策の推進や強化を進めるべく取り組みを行っています。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!

参考:厚生労働省「全世代型社会保障改革


社会対話の促進

ディーセントワークを実現させるための3つ目の戦略は「社会対話の促進」です。

社会対話とは「政府・使用者・労働者の代表が、経済・社会政策に関わる共通の関心事項に関して行うあらゆる種類の交渉・協議・あるいは単なる情報交換」を指す概念のこと。わかりやすくいえば、企業と労働者が対等な関係を築き、意見を交わしたり情報を交換しあったりできるような状態のことを指します。

ILOは社会対話が促進されれば、経済や社会面などの重要な問題を解決できたり、社会や産業の平和と安定を増進したり、経済発展を推進したりなどが期待できるとしています。

社会対話は、ディーセントワーク実現とILOの目標達成における重要なポイント。そのためILOは、社会対話に関する国際労働基準の推進や全体的なディーセント・ワーク指標の一部としての社会対話指標の開発などを行っています。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」P5

参考:ILO「社会対話に関する新たなツールを発表

 

労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現

ディーセントワークを実現させるための4つ目の戦略は、「労働における基本的原則および権利の尊重、促進および実現」です。

ILOが掲げる労働における基本的原則および権利とは、結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認や強制労働の廃止、児童労働の撤廃、雇用および職業における差別の排除などのことです。ILO加盟国は、こうした基本的原則や権利の尊重・推進・実現に向けた義務を負っています。

具体的な取り組みとしては、労働者を保護するためのルールの堅持や強化、労働者の健康を確保するための労働時間の見直し、男女平等と女性活躍の推進などがあげられます。また、ライフ・ワーク・バランス社会の実現もILOが目指すべき目標のひとつです。

参考:日本労働組合総連合会「ディーセント・ワークを復習しよう!」P5

参考:国際労働機関「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言


日本におけるディーセントワークの7つの評価軸

各企業においてどの程度ディーセントワークに関する取り組みが実行されているのかは、厚生労働省が整理した7つの評価軸と照らし合わせると判断がしやすくなります。

日本におけるディーセントワークの7つの評価軸
  • 1.WLB軸
  • 2.公正平等軸
  • 3.自己鍛錬軸
  • 4.収入軸
  • 5.労働者の権利軸
  • 6.安全衛生軸
  • 7.セーフティネット軸

7つの評価軸が何を示す項目なのか、その内容と企業が注意するべきポイントを解説します。


1.WLB軸

日本におけるディーセントワークの1つ目の評価軸は「WLB軸」です。

WLBは「ワーク・ライフ・バランスの頭文字をとった略語。「WLB軸」は、ワーク(仕事)とライフ(生活)をバランスさせながら、年齢を重ねても働き続けられる職場かどうかを評価する項目です。

日本では長時間労働による働きすぎがたびたび問題となっています。今後、労働人口が減少していくなかで一人ひとりの労働負担を減らすには、働き方を見直すことが非常に大切です。

残業時間の上限の規制が守られているかや、1人1年あたり5日の年次有給休暇がきちんと実行されているかどうかなど、企業はその点を意識する必要があります。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて」(P3)


2.公正平等軸

日本におけるディーセントワークの2つ目の評価軸は「公正平等軸」です。性別や雇用形態に関係なく、すべての労働者が公正かつ平等に活躍できる職場かどうかを評価する項目です。

日本では2020年4月に「同一労働同一賃金」が施行されました。これは正社員と非正規雇用労働者で、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練など不合理な格差の解消を目指すためのものです。

「公平平等軸」を満たすためには、こうした不合理な待遇の解消と共に、非正規雇用労働者の能力を評価する人事評価軸の見直しも、企業各社が個別に行う必要があります。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン

 

3.自己鍛錬軸

日本におけるディーセントワークの3つ目の評価軸は「自己鍛錬軸」です。これは労働者の能力開発機会が確保されており、自己鍛錬が可能な場所かどうかを評価する項目です。

新入社員が入社してきた場合の研修だけでなく、中途社員やスキルアップを目指すすべての従業員に対して、企業は必要な教育訓練制度を用意しておく必要があります。

内部での実施が難しい場合は外部研修やe-larningなどを用意しておくこと、書籍や資格の取得についての費用を支給することなども検討してみてください。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)


4.収入軸

日本におけるディーセントワークの4つ目の評価軸は「収入軸」です。人間としての生活を営めるだけの収入を継続的に得られる職場かどうかを評価する項目です。

正規・非正規と雇用形態にかかわらず、誰もが人間らしく生活するには安定した収入が必要です。日本では最低賃金の引き上げが段階的に行われていますが、最低でも必要といわれている1500円にはまだどの地域も実現にいたっていません。

国としての取り組みとは別に、企業ごとに収入の見直しを行うことも必要です。1日8時間の労働で普通に暮らしていける賃金になっているか、改めて確認しましょう。

関連記事:同一労働同一賃金とは?労使それぞれのメリット・デメリット、対応の手順を解説

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:日本自治体労働組合総連合「全国一律最賃制度 時給1500円 待ったなし

 

5.労働者の権利軸

日本におけるディーセントワークの5つ目の評価軸は「労働者の権利軸」です。労働者の労働三権が確保されており、かつ労働者の発言が受け入れられやすい職場かどうかを評価する項目です。

労働三権は「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」の3つ。これらは労働者の権利として日本国憲法で認められており、必要に応じて行使することができます。

労働条件の交渉や改善を求めることは、法律で認められた労働者の権利です。企業の経営者は、自社の従業員が意見を言いやすい職場環境を作れているかどうか、定期的に見直すことが大切です。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:日本労働組合総連合会「働く人の権利とは?

 

6.安全衛生軸

日本におけるディーセントワークの6つ目の評価軸は「安全衛生軸」です。働くうえで安全な環境が整備されている職場かどうかを評価する項目です。企業は身体的安全だけでなく、精神的な安全も確保する必要があります。

令和3年時点の日本において、労働災害の死亡者数や死傷者数は前年に比べて増加傾向にあります。労働環境における安全確保が不十分だった昭和に比べると半数以下の数字に減少していますが、平成29年度以降は増加に転じています。

労働災害が起きる産業は、建設業・林業・製造業などに集中。企業側はより安全な労働環境の整備に取り組む必要があります。

また、企業にはメンタルヘルス対策を行うことも求められます。令和2年11月1日から1年の間にメンタルヘルスの不調で休業、もしくは退職した労働者数は10.1%となっており、前年の9.2%を超える数字が出ています。

テレワークが一般化したことにより、従業員はコミュニケーションストレスを感じやすくなり、メンタルヘルスに不調が出やすくなっているのです。現代の多様な働き方を考慮した、適切なメンタルヘルス対策を行うことも、ディーセントワークの実現に繋がります。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:厚生労働省「令和3年 労働災害発生状況

参考:厚生労働省「令和 3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」P3

 

7.セーフティネット軸

日本におけるディーセントワークの7つ目の評価軸は「セーフネット軸」です。最低限以上の公的な雇用保険や医療・年金制度に加入している職場かどうかを評価する項目です。

日本では徐々に多様な働き方が可能になりつつあります。例えば、副業・兼業が解禁され、複数の企業にて活躍する方も増えてきました。労災保険・雇用保険・厚生年金保険・健康保険などは、副業・兼業としての働き方を受け入れている企業は加入手続きを行う必要があります。

労働者が安心して働き、個々の能力を発揮するためには、厚生労働省が提示している「雇用のルール」のうち、労働保険や社会保険を満たすことは必須です。

参考:ディーセントワークと企業経営に 関する調査研究事業 報告書(P2)

参考:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」P19

参考:厚生労働省「雇用のルール

 

企業がディーセントワークの実現に取り組むメリット

ディーセントワークは、労働者の幸福や安定した暮らしを実現するための仕事を指します。労働者にとってはさまざまなメリットがありますが、それをサポートする企業側にとってはどうでしょうか。企業がディーセントワークの実現に取り組む3つのメリットをご紹介します。

企業がディーセントワークの実現に取り組むメリット

  • 1.企業イメージが向上する
  • 2.人手不足が解消する
  • 3.生産性が向上する

企業イメージが向上する

ディーセントワーク実現に取り組むことで、企業はブランドイメージの向上が期待できます。

なぜなら、ディーセントワークの実現に必要なプロセスである労働者の社会保障制度の導入や、安定かつ十分な収入の設定は、多くの労働者が求めている最低上限であるからです。それでいて、こうした部分を確実に満たせている企業はそう多くありません。

ディーセントワーク実現のため、積極的な改革を行う場合は社外に向けたアピールも同時に行いましょう。プレスリリースの配信や、HPでのニュースリリースを配信することも効果的です。事業の成長だけでなく従業員を大切にしているという好印象を与えられ、企業イメージの向上に繋がります。

 

人手不足が解消する

ディーセントワーク実現に取り組むことは、人手不足の解消にも繋がります。

完全失業者が多いにもかかわらず、多くの企業は人手不足に陥っています。このような状況になっている原因は、7つの評価軸を十分に満たせていないからと考えられます。

例えば、自己鍛錬軸やWLB軸などを改善するだけでも、自社の求人が求職者の目に止まりやすくなります。これからの時代は、労働者は働きやすい環境でかつ収入も安定しており、自己も成長できるような環境をさらに求めていきます。

ディーセントワークを実現することで、そうした労働者の要望を満たせるのが特徴。そのため、複数の条件で就職先を探している方からの応募が増え、人手不足の解消に繋がります。

 

生産性が向上する

ディーセントワーク実現に取り組めば、業務の生産性向上も期待できます。

ディーセントワークは、暮らすための収入源としての仕事ではなく、働く価値のある仕事のことを指します。また、労働者は自身の安全や生活の安定が確保されてはじめて、業務に対して集中でき、会社に貢献しようと積極的に行動することができます。

ディーセントワークはそうした好循環を生むため、従業員一人ひとりの生産性が向上しやすいのです。


ディーセントワークを実現させよう

本記事のまとめ
  • 雇用や収入格差などの問題を解決するためディーセントワークが注目されている
  • 企業は7つの評価軸を満たしているかどうかを意識する
  • ディーセントワークの実現により、人手不足の解消や生産性の向上などが期待できる

日本では今後ますます高齢化と少子化が進み、それに伴い現役世代の数は少なくなっていきます。そうした社会において企業が成長しつつ、かつ個人の安定した生活や豊かな暮らしを両立させるには、今ある仕事のあり方を変化させなければなりません。

ディーセントワークの実現は、企業にとっても必要なステップだといえるでしょう。本記事の内容を参考に、自社でのディーセントワーク実現を目指しましょう。


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