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エスノグラフィーとは?意味・メリット・調査方法・事例を解説

U-NOTE編集部

2022/11/21(最終更新日:2022/11/21)


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ユーザーに対して行う調査方法のひとつである「エスノグラフィー」。元々は民俗学や文化人類学のフィールドワークにおいて利用されていた手法ですが、最近ではビジネスでも活用されるようになってきました。

本記事では、そんなエスノグラフィーの意味や調査方法など、基礎的な知識を解説。加えて、メリットや実際にエスノグラフィーを活用している企業の事例もご紹介します。

ユーザーのリアルな情報を得て、既存商品の改善や新規開発に活かしたい企業は、まずエスノグラフィーの基本について理解しましょう。

本記事の内容をざっくり説明
  • エスノグラフィーの意味とビジネスでの活用方法
  • 他の調査方法との違い
  • エスノグラフィー調査のメリット・デメリット

 

エスノグラフィーとは

「エスノグラフィー」とは、民俗学や文化人類学などで使われている研究手法のこと。フィールドワークによって集団や社会を観察して記録することおよび、その記録文書のことを指します。

「エスノグラフィー」は、民族を表す「ethno」と記録を表す「graphy」から来た英語で、一般的には「民族誌」と訳されます。

基本的には文化人類学や社会学の研究が行われる際に使用されている調査方法ですが、最近ではビジネスにおいても注目されており、商品開発やマーケティングの際に活用されています。さらに、人材育成やマネジメントなどの文化で取り入れられることも増えました。

 

エスノグラフィー調査方法

エスノグラフィーは、調査対象の生活や行動を観察し、そこで見た調査対象の様子を文字・写真・動画・絵・音声などを用いて記録します。

民俗学や文化人類学の分野でエスノグラフィーを実施する際は、調査対象である民族コミュニティと交渉をして一時的に生活を共にすることが特徴です。インタビューは行わず、暮らしていくなかで生活様式や行動、風習などさまざまな観点から観察を行い、その内容を記録していきます。

ありのままの様子を記録することで、彼らが気付いておらず言語化もされていない新たなニーズや、行動の背景を理解することができます。

 

エスノグラフィーと他の調査方法の違い

エスノグラフィーを実施する前に、他の調査方法やその違いも知っておきましょう。マーケティング調査を行うには、数ある調査方法を適宜使い分けることが大切です。

それぞれの特徴や、メリット・デメリットを知り、求めているデータを収集しやすいような調査方法を検討してください。

 

グループインタビュー

複数人を同時にインタビューをする「グループインタビュー」は、調査対象者の自由な意見が出やすく、また意見を深堀りできるのが特徴です。

グループインタビューの場合、複数の質問に対して参加者同士の活発な意見交換が行われます。複数人で行うため、対象者は他の人の意見も聞いたうえで意見を述べられ、より様々な角度からの意見を収集しやすいといえるでしょう。

特に、各自の意見や経験などを引き出しやすく、顕在化しているニーズを探ったり、サービス改善のためのリアルな意見を聞き出せたりします。

一方エスノグラフィーは、インタビューを行わず調査対象者のリアルな行動や生活、習慣などを観察し、記録におさめる研究方法。エスノグラフィー実施者は、その記録から顕在化していない無意識の部分を分析します。

 

デプスインタビュー

「デプスインタビュー」は「パーソナルインタビュー」とも呼ばれ、調査対象者と1対1で対話を行いながら、さまざまな情報に対して掘り下げていく調査方法です。定性調査の手法として、さまざまな企業が用いています。

デプスインタビューの特徴は、調査対象の率直な意見や考えを知れること。グループインタビューでは話しにくいようなことも、1対1だからこそ聞き出すことができます。ひとつのテーマに対して、じっくりと調査を行えるのもポイントです。

一方エスノグラフィーは、1人を対象者としている点は同じです。しかし、インタビュー形式ではなく基本的にただ観察を行うだけなので、意見の深堀はできないところに違いがあるといえるでしょう。

 

アンケート調査

「アンケート調査」は、ひとつのテーマに対してある属性を有する人たちの数値的な傾向を知るのに適した調査方法です。「はい」「いいえ」で答えられる質問や、点数をつけてもらったり、自由回答を記載してもらったりと、問題を用意して回答してもらうだけなので、手間がかからず非常に簡単に行えるのが特徴です。

デプスインタビューが定性調査であるのに対して、アンケート調査は定量調査とも呼ばれます。

エスノグラフィーとの違いは、アンケート調査で得られた回答がすべて本音であるとは限らないこと。「はい」「いいえ」で回答するアンケート調査では、回答者が無意識に本音を隠してしまうケースも考えられます。

 

エスノグラフィーがビジネスで活用される例

エスノグラフィーは、ビジネスにおけるマーケティングや商品開発、商品の改善を行う際に活用されるのが一般的です。

例えば、既存商品の改善を行いたい場合、エスノグラフィーによりユーザーがユニークな使い方をしていないか、商品に反映できる使い方をしていないかなどを観察により知れる可能性があります。

商品開発の場合は、ユーザーの日常的な行動や環境などからヒントを得ることができます。ユーザーが自身のニーズを見逃していたり、対応する製品があれば解決するだろうと諦めていたりすることも、エスノグラフィーにより調査を実施することで実は実現できることだとわかるケースもあります。

例えば、WebサイトやWebサービスの場合は、ユーザーが利用している様子を録画しておくことができるサービスがあります。これらのサービスを利用することで、ユーザーがどのような行動をしているのかを見て、サービスやUIを変更するべき点を検証できます。

 

エスノグラフィー調査のメリット

エスノグラフィーは、数ある調査方法のなかでも時間的コストがかかります。集められるデータが定性的であるため、扱いが難しいのも留意点です。

しかし、ユーザーの潜在的なニーズを知るのには非常に効果的。エスノグラフィー調査を行う3つのメリットを解説します。

 

先入観なく調査ができる

エスノグラフィー調査のメリットは、先入観なしで調査ができることです。事前に仮説を立てることなく実施する分、データの偏りや記録不足などがなくなります。

調査対象者の行動を記していく調査方法なので、基本的には先入観や観察者の思い込みや推測の入らない、事実に基づいたデータを得られます。

 

数値や言語化が難しいデータを得られる

数値や言語化が難しいデータを得られるのもエスノグラフィー調査のメリットのひとつです。

調査方法として知られるインタビューやアンケートは、回答者が意識している情報のみが収集されます。しかし、数値や言語化されない無意識的な部分にこそ、ユーザーのインサイトが存在します。

エスノグラフィーは、調査対象の行動や生活様式を記録する調査方法です。発せられる言葉には偽りが混ざっている可能性がありますが、行動は嘘をつけず、また無意識的に行われることも多くあります。

エスノグラフィー調査では、そうしたユーザーの無意識化にあるデータを得ることができます。

 

リアルな情報を把握できる

エスノグラフィー調査は、リアルな情報を把握できるのもメリットです。実際に自社の商品やサービスがどのような形で日常に溶け込み、使われているのかを知ることができます。

社内で想定していたような内容から思いもしなかった内容まで、さまざまな情報を得られる。収集したデータから、ユーザーのニーズに沿った提案や改善をしやすくなるのが大きなメリットです。

 

エスノグラフィー調査のデメリット

エスノグラフィーのデメリットは、調査に時間と手間がかかることです。調査対象を観察し、その行動を細かに記録しなくてはならないため、1日〜数日間は集中して調査を行わなければなりません。

そのための人員確保も必要なうえ、記録に必要な媒体も用意しなくてはなりません。文書にするのか、写真や動画、絵で記録するのかなど事前に方法を決めておく必要があります。

そのほか、エスノグラフィー調査の結果を的確に分析できる人材の確保も重要です。エスノグラフィーで得られるデータは定性的なので人によって解釈が異なり、仮説や考察にばらつきが出てしまいます。

エスノグラフィーで得た情報をうまく活用するには、「デブリーフィング」と呼ばれる観察後の会議を行うことが必須。各自が気になった点を付箋に記載し、事実の繋がりから気付きを得ます。こうした調査後の活用方法まで検討しておかないと、人的・時間的コストの面が大きくなってしまいます。

 

エスノグラフィーの事例

ビジネスにおいて、各企業はどのようにエスノグラフィを活用しているのでしょうか。実施を検討している企業が参考にできる、エスノグラフィーの事例をご紹介します。

 

富士通

「富士通」は、社会科学におけるフィールドワークの調査方法であるエスノグラフィーを応用し、プロジェクトメンバーの共有ビジョンを形成する新手法を開発し、各企業への支援を行っています。

企業におけるプロジェクトの課題は、メンバーで集まり会議を実施した際に権力を持つ従業員や、会議に積極的な従業員の意見が中心になりやすいことでした。本来であればメンバー全員の意見が大切ですが、消極的な従業員の意見が隠れてしまいがちです。

富士通はそうした課題を解決するため、エスノグラフィーをベースにプロジェクトメンバーの意見を引き出す技法と、聞き出した思いを可視化する技法を開発しました。各従業員がプロジェクトについて理解している部分を明確にすることで、共有ビジョンのすり合わせを行うことに成功しました。

参考:富士通「プロジェクトメンバーの共有ビジョンの形成を支援する新手法を開発

 

エスノグラフィーの基礎知識を理解しよう

本記事のまとめ
  • エスノグラフィーは、調査対象の行動や生活様式などを観察して記録する調査方法
  • 他の調査方法とは違い、リアルな情報を得られるのが一番のメリット
  • データを活用するには、調査実施後のデブリーフィングが大切


エスノグラフィーは元々、社会学や文化人類学、民俗学において利用されてきた調査方法です。そのためビジネスにおいて馴染みがない方は多いかもしれませんが、アンケートやインタビューでは得られないリアルな情報を知れるのが大きなメリット。ユーザーに対してだけではなく人材を育成する面でも活用できます。

事業に活かせるデータにするには、他の調査方法と組み合わせるのもおすすめです。

本記事を参考に、まずはエスノグラフィーの基礎知識を理解することから始めてみてはいかがでしょうか。
 


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