HOMEビジネス 感情労働とは?肉体・頭脳労働との違いや課題、労使それぞれができる対応策

感情労働とは?肉体・頭脳労働との違いや課題、労使それぞれができる対応策

U-NOTE編集部

2022/11/18(最終更新日:2022/11/18)


このエントリーをはてなブックマークに追加

近年注目を浴びている「感情労働」とは、常に笑顔で明るく振る舞ったり、相手の気持ちに深く寄り添ったり、自分の感情をコントロールすることが求められる働き方を指します。

ストレスがかかりやすい働き方であり、企業として、従業員を適切にケアしていくことが求められます。

本記事では感情労働とは何か、種類や課題、肉体労働と知的労働との違いを解説します。従業員を守るために企業としてすべきことも紹介するので、できそうなことから取り組んでみましょう。

本記事の内容をざっくり説明
  • 感情労働の概要と具体例、注目される理由
  • 感情労働の課題と、従業員を守るための対処法
  • 感情労働に求められる能力とスキル

 

感情労働とは

感情労働とは、顧客に対して心理的にポジティブな接し方をするために、自らの感情をコントロールしなければならない労働です。「お客さまには笑顔で接しましょう」「お客さまがお怒りのときは親身になって話を聴きましょう」といったことが求められる働き方が、感情労働です。

1970年代にアメリカの社会学者、アーリー・ラッセル・ホックシールド氏が提唱した考え方で、肉体労働と知的労働に加わる第三の労働形態として注目されています。

参考:ホックシールド『管理される心─感情が商品になるとき

 

感情労働の具体例

どんな仕事が感情労働にあたるのかは、考え方や捉え方によって異なるでしょう。感情労働の具体例を、わかりやすい狭義的なものと、わかりにくい広義的なものに分けて紹介します。


<わかりやすい狭義的な感情労働の例>

  • 接客
  • 営業
  • 販売員
  • 受付、フロント
  • コールセンター など

接客業をはじめ、お客様と直接関わりがある業務は、感情をコントロールすることが求められます。これらの職業は感情労働だとイメージしやすいのではないでしょうか。


<わかりにくい広義的な感情労働の例>

  • 子どもたちにとって常に規範となるべき「教師」「保育士」
  • クライアントの心理に直接働きかける「カウンセラー」「ケアワーカー」
  • 利用者や患者と接する時間が長く距離も近い「介護士」「看護師」
  • クライアントから深刻な相談をされることも多い「弁護士」
  • クライアントの感情に配慮しながら成果を出さなければならない「コンサルタント」 など

専門性が高い職業であっても、人と接する仕事やクライアントを相手にしている場合は、専門的な技術やスキルだけではなく、ソフト面の対応も求められます。

これらの例からわかるように、人と接する仕事には多少の差はあれど、感情労働の要素があります。

 

注目される理由

「ストレス社会」という言葉が登場して久しい現代では、感情労働への注目も高まっています。先述の例のように、ほとんどの仕事には感情労働の要素があります。働くうえで、感情をコントロールしなければならない場面は増え続けているのです。

感情労働は肉体労働・頭脳労働と比べてもストレスのかかる仕事です。ストレスが溜まると心身の疲れや不調も起こりやすくなりますし、気持ちも顔に出やすくなるでしょう。

感情労働に従事する人々は、自社の顧客と最も近い位置で接している、いわば「会社の顔」です。誰もが生きやすい社会をつくるためにも、企業イメージの向上のためにも、感情労働とそれに対するケアに注目が集まっています。

 

感情労働とほかの労働の違い

感情労働は比較的新しい概念であり、肉体労働と頭脳労働に加わる第三の労働形態です。肉体労働と頭脳労働と、感情労働はどう違うのか、ポイントを押さえておきましょう。

 

肉体労働との違い

建設業や製造業をはじめとする肉体労働は、その名の通り、身体を動かすことが主となる働き方です。青い作業着で働く人が多かったことから、「ブルーカラー」とも呼ばれます。

重い物を持ったり、屋外や炎天下で働いたりすることも多い肉体労働は、一見ストレスの多い仕事です。一方、身体を動かすことにはストレス解消の効果もあり、働くことで身体をある程度鍛えることにもなります。

「健全な精神は健全な肉体に宿る」というように、身体を動かしたり鍛えたりすることで、精神も強くなるでしょう。

肉体労働で疲労やストレスも溜まるのは事実ですが、見方を変えてみれば、人間らしい健康的な働き方といえる側面もあるといえるでしょう。

 

頭脳労働との違い

士業や研究者、マネージャーや事務員などの頭脳労働は、肉体よりも頭を動かすことが多い働き方です。オフィスワーク主体のこの働き方は、Yシャツの白い襟から「ホワイトカラー」とも呼ばれます。

座って作業することが多いため、肉体的なストレスは少なく見えますが、慢性的な肩こりや腰痛に悩まされる人も多いでしょう。長時間座り続けることには健康的なデメリットも多いです。

身体を動かす機会が少ないことから、肉体的なストレスも意外と溜まりやすく、健康面の不安も大きいでしょう。長時間頭を働かせたり、ひとりで黙々と作業し続けたりすることで、精神的なストレスもかかります。

性格や働く時間と環境にもよりますが、適度に身体を動かしたりコミュニケーションを取ったりしながら働く感情労働は、見方を変えれば健康的な労働形態といえるかもしれません。

 

2種類の感情労働

感情労働は企業や顧客から何を求められているのかにより、「表層演技」と「深層演技」の2種類に分けられています。それぞれの詳細について確認していきましょう。

 

表層演技

表層演技とは、表層的な演技が必要な働き方のことです。自分がどんな感情であっても笑顔で明るく振る舞わなければならないような仕事で、接客業や飲食業などがこれにあたります。

 

深層演技

深層演技とは、表面で見せている感情と心の奥底にある本当の感情を一致させる働き方のことです。コールセンターやカウンセラーなどの仕事がこれにあたります。

たとえば怒った顧客がクレームの電話をかけてきたら、申し訳なさそうな声色を出すだけでなく、心の中でも「申し訳ない」「このお客さまの不満を解消したい」と思わなければなりません。そうすることで親身な対応ができますし、相手の怒りの理由がわかるため、問題も解決しやすくなります。

誠実・真面目な性格の人が選びやすい仕事でもあり、自分の感情を抑えることも多い仕事です。ストレスがかかりやすいうえ、それを溜め込んでしまう人も多いでしょう。

 

感情労働の課題

感情労働はストレスが溜まりやすく、それにより燃え尽き症候群(バーンアウト)や離職・労災が引き起こされることもあります。感情労働の課題について、理解しておきましょう。

 

ストレスが溜まりやすい

顧客や利用者と近い距離で、自分の感情をコントロールしながら接し続けなければならない感情労働では、ストレスが溜まります。

過度なストレスはメンタルヘルスにつながりかねませんし、最終的に肉体的な不調をも引き起こしかねません。

 

燃え尽き症候群(バーンアウト)になりやすい

やる気があり、仕事に熱心に取り組む従業員ほど、燃え尽き症候群(バーンアウト)を起こしやすいです。燃え尽き症候群とは、仕事熱心だった人がある日突然やる気を失ってしまうことで、感情労働では特に起こりやすいといわれています。

 

離職や労災につながることも

ストレスが溜まりメンタルヘルスや燃え尽き症候群が引き起こされることは、従業員の離職や労災にもつながりかねません。特に熱心な従業員や真面目な人ほどストレスを溜めやすく、このような最悪の事態に至りやすい傾向にあります。

感情労働にはこれらのように様座穴課題があるため、企業として、積極的なケアが求められます。

 

感情労働に求められる能力、役立つスキル

感情労働で溜まるストレスに対しては、企業からのケアが欠かせません。特に深層演技が求められるような過酷な職場では、従業員個人の努力だけでは、ストレスに対処しきれないこともあります。

しかし、企業側のケアだけを頼りにしていても、問題は解決しません。感情労働を続けたい、高い成果を出したいと思うなら、次のようなスキルを身につけておきましょう。

  • コミュニケーション力
  • 傾聴力
  • 洞察力
  • 高いレジリエンス
  • 境界を保つ力

これらのスキルの詳細について紹介します。

 

コミュニケーション力

顧客や利用者と最も近い距離で接する感情労働では、コミュニケーション力が欠かせません。高いパフォーマンスを出すためにも、適度な距離感を保ってかかるストレスを減らすためにも、コミュニケーションに関するテクニックを身につけましょう。

コミュニケーションに関するテクニックは、職場の同僚や上司と接するときにも役立ちます。

関連記事:ノンバーバルコミュニケーションとは?非言語コミュニケーションの具体例や、活用するメリットを紹介

 

傾聴力

特に深層演技が求められる職場では、傾聴力が役立ちます。傾聴とは、相手の立場や気持ちになって、話に深く耳を傾けることです。「話をしっかり聞いてもらえている」と感じるだけで、安心したり好感を持ったりする人も多いです。

関連記事:自己PRでも使える強み「傾聴力」とは?身につけるための5つのコツや本などを紹介

 

洞察力

コールセンターやカウンセラーなどの職種では、相手の求めていることや考えていることを察する洞察力も必要です。相手が本当に求めていることがわかれば、それに合った言動ができます。特にクレーム対応の場面で役に立つ力であり、相手の求めていることがわかれば、的確に対処できるようになるでしょう。

 

高いレジリエンス

ストレスの多い感情労働を続けるには、高いレジリエンスが求められます。レジリエンスとは、困難な状況に適応したり、挫折から立ち直ったりする力です。心の回復力のことであり、これが低いとクレームやミスが続いたときに、立ち直れなくなってしまいます。

関連記事:【大人の趣味122選】男性女性別、アウトドアやインドアなどのカテゴリに分けて紹介

 

境界を保つ力

感情労働では、自他の境界線を保つ力も必要です。特に深層演技では、目の前の顧客や利用者の心に寄り添い、同じ気持ちや立場で考えることが大切です。

しかし、相手の感情に引っ張られすぎると冷静な対処ができなくなりますし、そんな状態が続くほど精神的な負荷も大きくなっていきます。

 

感情労働に向いている人

感情労働はストレスはかかりますが、働きがいも大きい仕事です。次のような人には、感情労働が向いているかもしれません。

  • 人の役に立つのが好きな人
  • 人の相談に乗るのが好きな人、得意な人
  • 他人との距離感をつかむのがうまい人 など

特に、人と関わることが好きな人や、社交的な人は感情労働でのストレスを感じにくい傾向にあるといえるでしょう。

 

感情労働に向いていない人

感情労働では相手の気持ちを考え、問題の原因を見つけたり解決したりすることが求められます。「人と接するのが好き」というだけで続けるのは難しいことも多く、次のような人には向いていないかもしれません。

  • 人の気持ちに敏感すぎる人
  • 誰かに依存したり、依存されたりすることが多い人
  • 人の気持ちがわからず、そのせいでよくトラブルが起きていた人 など

特に、内向的な人や、コミュニケーションでトラブルを起こしやすい人、感情が表に出やすくコントロールが難しい人の場合は、感情労働にストレスを感じやすいといえるでしょう。

 

感情労働によるストレスから従業員をケアするために

感情労働の現場では、従業員の能力だけではどうしようもない、理不尽な状況もよく起こります。企業として対処すること、従業員をケアすることが欠かせません。従業員を守り、長く働いてもらうために、次のような取り組みを検討してみましょう。

  • 定期的なストレスチェック
  • ストレスケアに関する研修
  • 相談窓口やカウンセリング部門の設置
  • 相談・カウンセリングの利用ハードルを下げる
  • エスカレーションの基準を明確にする

それぞれの詳細について紹介します。自社でこのような取り組みが積極的に行われていない場合は、上司や先輩に導入を検討してもらえるよう、お願いをするのも一案です。

 

定期的なストレスチェック

感情労働の取り組む従業員はもちろん、そうでない従業員に対しても、定期的なストレスチェックを実施しましょう。自分がストレスを抱えていることに気づかない人もいますし、誰かに助けてもらいたくても声を上げられない人もいます。

このような人たちに気づいてあげることが、ストレスケアの第一歩です。

定期的なストレスチェックをすることで、事前に対応しやすくなるでしょう。

 

ストレスケアに関する研修

ストレスがかかりそうな状況や、蓄積したストレスにどう対処すればいいのか、ストレスケアに関する研修を開きましょう。従業員一人ひとりのストレスへの耐性や対処力を高めることで、ストレスによる離職や労災を減らすことができます。

従業員向けだけではなく、マネジメント層、経営層などそれぞれの立場にあった研修やケアの方法を共有していくことも役に立ちます。

 

相談窓口やカウンセリング部門の設置

ストレスを溜め込んでしまった従業員に対処するために、職場で感じるストレスや悩みについて相談できる窓口や、カウンセリング部門を設置しましょう。

どんな状況でストレスを感じるか、どの程度のストレスに耐えられるかは人により異なります。さまざまな従業員に対応するために、個別ケアは欠かせません。

 

相談・カウンセリングの利用ハードルを下げる

相談窓口やカウンセリング部門を設置するだけでは不十分です。ストレスを抱えて弱っている従業員ほど、「助けて欲しい」という声を上げづらいものです。電話番号やメールアドレスなどの周知を徹底し、相談したことが周りに知られない仕組みをつくることで、利用のハードルを下げましょう。

また、社内の人への相談は「相談内容が上司に漏れてしまわないか」「査定に響いたらどうしよう」など情報漏えいや評価への影響が心配となり、本音を相談しにくいケースがあります。

場合によっては、社外の人へのカウンセリングも検討し、相談者が安心して相談できる体制を作っていきましょう。

 

エスカレーションの基準を明確にする

特にコールセンターのような、クレーム対応の多い職場では、エスカレーションの基準を明確にしましょう。どんなに誠実に、適切な対応をしていても解決できないような、理不尽な状況も起こりえます。

理不尽な要求や従業員に対する執拗な攻撃には、企業として毅然とした態度で対応しなければなりません。

また、エスカレーションをして責任がある立場の人に迅速に課題を解決してもらうことで、お客様の満足度の向上も期待できます。

参考記事:ビジネスにおけるエスカレーションとは?ルールとして決めておくべき5つのこと

 

感情労働の従事者は企業活動の最前線にいる!適切なケアで働きやすい環境づくりを

本記事のまとめ
  • 感情労働は、自分の感情を過度にコントロールすることが求められる働き方
  • 感情労働はストレスが溜まりやすく、セルフケア・企業としてのケアが必要
  • 従業員を適切にケアできないことで、離職や労災が増加することも

感情労働とは、接客業やサービス業のような、自分の感情を抑えて働くことが多い仕事のことです。特にカウンセラーやコールセンターのような、感情を抑えるだけでなく顧客やクライアントに合わせることが求められる職種では、ストレスが溜まりやすい傾向にあります。

従業員がストレスを溜め込みすぎると、突然辞めてしまったり、心身に不調をきたしたりすることもあります。ストレスケアに関する研修を開いたり、気軽に相談できる窓口を設けたり、従業員が安心して働ける環境をつくっていきましょう。


hatenaはてブ