同一労働同一賃金とは、同じ企業で同じ仕事をしている労働者に対しては、雇用形態にかかわらずおなじ賃金を支払うべきという考え方です。政府主導の働き方改革の一環であり、厚生労働省がガイドラインを公表しています。
本記事では同一労働同一賃金について、概要や目的、メリット・デメリットなどを解説します。企業が取り組むべきことや、対応しなかった場合のリスクも紹介するので、自社の待遇や制度について見直してみましょう。
- 同一労働同一賃金の概要や目的、関連法
- 同一労働同一賃金の考え方やメリット・デメリット
- 同一労働同一賃金に対応するためにすべきことと、対応しなかった場合のリスク
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、仕事内容が同じなら、雇用形態によらず同じ賃金を支払うべきという考え方です。働き方改革の一環として、厚生労働省は次のように定めています。
同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。
出典:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ 」
同一労働同一賃金の目的
同一労働同一賃金の目的は、多様な働き方を自由に選べる社会をつくることです。これまでの社会では、同じ企業内で働いているにもかかわらず、雇用形態により賃金が異なるのは当たり前のことでした。
しかし、これでは「介護や育児などの事情で長時間働けない」「子育て中で、子どもが中学校に上がるまでは土日は休みたい」といった人たちは、融通の利くアルバイトや契約社員でしか働けません。このような雇用形態は正社員と同じ仕事をしていても、正社員よりも低い賃金しかもらえないケースも多く存在していました。
このような「正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不道理な待遇差の解消の取組」により、誰もが働きやすい社会をつくっていくのが、同一労働同一賃金の目的です。これにより働ける人が増えることは、少子高齢化による人手不足の解消にもつながるでしょう。
関連法:パートタイム・有期雇用労働法
同一労働同一賃金の関連法に、「パートタイム・有期雇用労働法」があります。2020年4月から施行(中小企業には2021年4月から適用)されたこの法律は、同一労働同一賃金への取り組み強化と内容の整備をするものです。
パートタイム・有期雇用労働法の主なポイントは、次の3つです。
- 雇用形態により不合理な待遇差をしてはいけない
- 事業主は労働者の求めにより、待遇差の内容や理由などを説明しなければならない
- 行政機関による事業主への助言や指導、裁判を用いない紛争解決手続きの整備
参考:厚生労働省「パートタイム労働者、有期雇用労働者の雇用管理の改善のために」
同一労働同一賃金の考え方
同一労働同一賃金の基本的な考え方として、「同一賃金の比較範囲は企業内」「同じ仕事をしていても、同じ賃金になるとは限らない」といったものがあります。詳細を解説していきます。
比較範囲は企業内
同一賃金の比較範囲は企業内です。同じ企業内で同じ仕事をしている者同士なら、雇用形態が違っても同じ賃金を支払うべきというのが、同一労働同一賃金の考え方です。
別の企業で、同じ仕事をしている人たちの賃金まで同じにしようという考え方ではないので注意が必要です。
同じ仕事をしていても、同じ賃金になるとは限らない
同じ企業内で同じ仕事をしていても、必ずしも同じ賃金になるわけではないことにも注意が必要です。たとえば居酒屋で働いているアルバイトのAさんと、その店の店長がいたとしましょう。アルバイトはやる気も能力もあり、店長と同じ時間、同じ内容の仕事をしているとします。
しかし、この2人に同じ賃金を支払う必要はありません。今はほかのスタッフも育っていて、繁忙期でもないため、Aさんと店長の仕事内容は同じです。しかし繁忙期になったり大規模なスタッフの入れ替わりがあったりすれば、店長は新人の教育やミスのフォロー、休日出勤などに追われることになります。
この2人の仕事内容は一見同じですが、負っている責任の範囲が違います。仕事内容や企業への貢献度、責任の範囲などを総合的に判断して賃金を決めるのは、同一労働同一賃金でも変わりません。
同一労働同一賃金のメリット
同一労働同一賃金は企業側にも労働者側にもメリットのある考え方です。それぞれにとってのメリットを紹介します。
企業側のメリット
企業にとって、同一労働同一賃金には次のようなメリットがあります。
- 非正規労働者のモチベーションアップ
- 非正規労働者の離職防止
- 正規・非正規間のチーム意識の向上
- 公平な待遇による企業のイメージアップ
同じ業務をしている者が同じ賃金を得ていることは、非正規労働者のモチベーションやエンゲージメントも向上しやすくなります。
労働者側のメリット
労働者にとって、同一労働同一賃金には次のようなメリットがあります。
- 待遇向上の可能性がある
- 個人や家庭の事情に合った働き方がしやすくなる
- 企業による教育の機会が増え、スキルアップしやすくなる
労働者にとっても、雇用体系によらず労働内容によって同等の賃金を得られることは、公平な待遇だと納得感もあり、雇用体系を変えてでも継続的に働きやすくなるでしょう。
同一労働同一賃金のデメリット
同一労働同一賃金には、企業・労働者ともにデメリットもあります。それぞれにとってのデメリットも把握し、適切な対応を取れるようにしておきましょう。
企業側のデメリット
企業にとって、同一労働同一賃金には次のようなデメリットがあります。
- 格差解消のための制度を整えるのに労力がかかる
- 非正規労働者の待遇向上により人件費が上がることも
制度を整えるコストは一時的ですが、待遇向上により人件費が向上するのは企業にとってダメージを与えることも考えられます。場合によっては人員の調整が必要になるかもしれません。同一労働同一賃金になった場合、給与支給額はどの程度変わるのか、計算しておきましょう。
労働者側のデメリット
労働者にとって、同一労働同一賃金には次のようなデメリットがあります。
- 格差解消のために正規労働者の待遇が下がる可能性がある
- 企業の人件費向上により、非正規での雇用が減る可能性がある(同じ賃金を払うなら正社員がいいと考える企業が増えるかもしれない)
同一労働同一賃金は、現在企業に勤める非正規雇用者にとってはメリットが大きいですが、正規雇用者にとっては待遇が下がるように思われる可能性もあります。企業にとって正規雇用と非正規雇用者の違いを改めて検討するのがよいでしょう。
同一労働同一賃金に対応するために
同一労働同一賃金に対応するために、企業は次のような取り組みをしなければなりません。自社の待遇や制度の見直しにはかなりの労力がかかるため、すべきことを事前に確認し、スムーズに取り組めるようにしましょう。
- 正規雇用と非正規雇用の待遇差を確認する
- 正規雇用と非正規雇用の職務内容をハッキリさせる
- 待遇差を合理的に説明できるか確認する
- 人件費と人員のバランスを取る
正規雇用と非正規雇用の待遇差を確認する
同一労働同一賃金に対応するために、まずは正規雇用と非正規雇用の待遇差を確認しましょう。正規・非正規間に格差はあるのか、あったとしてそれはどの程度の差なのかを確認します。
格差解消のための取り組みの対象になるのがどの従業員なのか、どのくらいいるのかも押さえておきましょう。
正規雇用と非正規雇用の職務内容を明確にする
正規・非正規間にどの程度の格差があるのか、その実態をつかむために、それぞれの職務内容を明確にさせましょう。同一労働同一賃金は同じ仕事をしている労働者の賃金を同じ額にするという考え方ですから、職務内容が本当に同じなのかを確かめなければなりません。
待遇差を合理的に説明できるか確認する
職務内容が同じ正規・非正規の労働者がいて、彼らの賃金が違っていたら、その理由を確認します。待遇差を合理的に説明できないのであれば、彼らの賃金は同じ額にしなければなりません。
たとえば「賃金が低いのはアルバイトだから」「正社員は将来的な期待値も高いから」といった理由なら、賃金は同じでなければなりません。
しかし、先述の「居酒屋の店長とアルバイト」のように責任の範囲が違っていること、そのときだけ職務内容が同じになることもあります。このような場合は、待遇差を合理的に説明できることが必要です。
質問されたときに説明できる、というのではなく、予め社員に開示しておくことで納得してもらいやすくなります。
人件費と人員のバランスを取る
同一労働同一賃金により非正規雇用の賃金を底上げすることになると、人件費が増えるかもしれません。正規・非正規の割合や職務内容ごとの人員数などを見直し、人件費と人員のバランスを取りましょう。
同一賃金同一労働に対応しないとどうなるのか?
同一労働同一賃金はあくまでもガイドラインであり、守らなかった企業に対する罰則は設けられていません。
しかし、同一労働同一賃金はより公平で働きやすい社会をつくるためのガイドラインであり、政府主導の取り組みです。ガイドラインの内容からも、これに反することは企業としてのイメージダウンにつながります。
また、同一労働同一賃金のガイドラインを守らない企業には都道府県労働局長からの助言や指導が入りますし、それでも改善されなければ企業名が公表されることもあります。従業員からの相談で労働基準署からの指導が入ったり、訴訟されたりする可能性も否定できません。
罰則がないからといって、対応しなくていいわけではありません。働きやすい環境をつくり従業員により良い仕事をしてもらうためにも、待遇の格差を解消に努めていきましょう。
同一労働同一賃金にうまく対応し、企業のイメージと生産性を高めよう
- 同一労働同一賃金は雇用形態による待遇格差を解消するための考え方
- 同一労働同一賃金の比較範囲は企業内
- 職務内容や責任の範囲を踏まえ、公平な待遇を実現しよう
同一労働同一賃金は正規・非正規間の格差解消を目的とした、政府主導の取り組みです。同じ職務内容の従業員に対しては、雇用形態にかかわらず、同じ賃金を支払わなければなりません。
同一労働同一賃金に対応しなくても罰則はありませんが、企業名が公表されたり従業員から訴訟されたりする可能性はあります。誰もが納得して働ける環境をつくることで、従業員のモチベーションが高まれば、組織としての生産性も上がるでしょう。
これを気に、同一労働同一賃金の取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
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